幕間1 桂花√
拠点:桂花 題名「それは思わぬ間に突然やってきた」
一刀SIDE
前にも言ったと思う。
洛陽から来たこの皇帝。董卓と離れてしばらくは大人しくしていたらしいが、実はすごい調子者で口達者な人間だった。自分の立場を尊重してやろうとする連中が居る中だとそれを容赦なく使ってくるのはまるで五歳児だ。
だが、俺だっていつもそれに構ってやれるわけではない。
「駄目だ」
「何故だ!余は皇帝だぞ!ここまで来て洛陽で十常侍どもにされていたように軟禁生活を送るのは嫌だ」
皇帝は自分が自由に陳留の街を出歩けるようにしろと言ってきた。もちろんそんなこと簡単に良しにすることは出来るわけがない。こいつが幾ら一人では何の力も持たない名ばかりの皇帝だとしてもその名が大きな影響を及ぼすのだ。主に面倒が方向に。
「別に十常侍じゃなくても護衛もなしで皇帝がぶらぶら出回られたら困る。下手してお前の身に何かでもあったらそれを口実に袁術や馬騰やそこら辺の諸侯がまだ準備できていない華琳の領に攻めてくるかもしれない」
「そうなったら汝がまたなんとかするのであろう?」
投げやる気か。いつからお前が事故起こして俺が収拾つける、そんな関係で定着した?
「そうなる前になんとかしようとしているのが今俺がすることだ」
「余が知ってる中で一番自由奔放な生き方をした汝に何故こんな風に言われなくちゃいけないんだ。何も何十人の護衛を付けてくれって言ってるわけじゃないだろ。余だってそういうのは嫌だ。文遠ぐらい連れて行けば良いから自由に出回らせてくれ」
「張文遠が幾ら猛将でもいざお前をなんとかしようとする連中が現れたら一人ではどうにもならない。もしお前が自分の身を守れる術を持っていたら話は別だが、お前の体に傷ひとつでも付いたらそれだけで華琳の立ち位置が危ない。俺はそんな不良債権を彼女に持たせるためにお前を助けたのではない」
「不良債権とな!余のことを不良というのか!文遠、聞いたか!北郷一刀が余のことを不良債権って言ったのだぞ!」
「…陛下って不良債権でなんか判るん?」
「分からん!でも不良という語呂が気に入らない!」
「……はあ」
何で俺は特に用事もないのに別宮に来てこんな面倒なことに巻き込まれないといけない。
「まあ、一刀も陛下の言い分も判るやろ」
「…別宮に篭って退屈なのは判らなくもない」
「そうだろ!そうなのだ!」
「だがそれとこれとは話が別だ。今は戦争が終わった直後だ。治安もあまり良いとはいえない。少なくも三ヶ月は待て」
「余に死ねというのか!?だから文遠だけで構わないと…」
「あれはこの前でも一人で勝手に出回ってては街で騒ぎ起こした奴だ!寧ろ危険性増すだろうが」
「あれはウチが悪いんちゃうで。あのアホども自分よりよわっちいからって人を散々カモにしようとしとるのに見てられへんちゅう…」
「皇帝の護衛中でもそんなこと言えるのか!」
「うっ……」
義侠心の深い張文遠だった。いざとなった時それがか過ぎて本当に大事な所を忘れかねない。こっちも冷静な智将タイプじゃないのだ。…せめて妙才が付くと言ったら信用が行くがこいつは…。
「なら北郷一刀、汝が文遠と共に見張りをすれば良いことだ」
「俺がお前なんかの護衛につくほど暇そうに見えるか」
「用もないのに余の所まで来るほどは暇であろう?」
「……」
…暇で悪いか畜生が。
「これは汝にも良い提案ではないか。余も汝も暇を持て余しているのだ。少しぐらいいいであろう?行こうぞ?行こう」
挙句の果てに皇帝は俺の裾を引っ張りながら強請り始めた。
「…判った」
「ほんとか!」
「ただし条件がある」
百歩譲って暇を持て余しているとしても、ただで保母にはならん。
<pf>
桂花SIDE
忙しい。
忙しいわ。
反董卓連合軍に行く前の倍は忙しい。
予想はしていたけれど私が陳留に居ない間積もってきた仕事に、反乱で粛清された高位管理に回るべき仕事をこっちに回すと仕事の量が半端じゃない。
こんな忙しいのにアイツはどこでなにしてるのよ。自分が帰ってきたせいで軍にこんな出血出てるのだから手伝いなさいよ。血吐いて死ぬぐらい。
「……」
黙々と仕事をしながら私は考えた。このまま一人で仕事を続けるのと私が今からアイツをとっ捕まえて来て仕事手伝わせるの、どっちがより効率的なのか。
いや、そういうこと以前に、私はこんな忙しいのにアイツだけどっかで油売ってるだろうと思うと先ずそこから腹が立つ。
「うん、そうしましょう。それが良いわ。いつもアイツだけいい思いさせない」
私は筆をそっと置いて扉を開けた。
「暇か?」
そうすると扉の前にいい笑顔で激務に追われている人間に暇かと聞く奴が居た。
「穴掘って落として爪全部剥がれるまで自分の手で這い上がらせるわよ」
思わずそう答えてしまった。
「ほう、余の爪を全部剥がすとな…」
「…はっ!」
良く見たら皇帝陛下だった!
「あ、いえ、そうではなく…」
「知っておるか。荀文若。汝は今余の目の前で余の拷問計画を口にしたのだぞ」
「ち、違います。今のは皇帝陛下だと知らなくて言っただけで…」
「それは余が目の前に居ても皇帝と思えぬぐらい威厳がないということだな?」
「そ、そういう話ではなく…」
寧ろ皇帝陛下ともあろう方がこんな所にまで一人来られる時点で威厳も何もありませんが…!
「余に今言った暴言、丞相に言いつけてあげようか」
「そ、それはちょっと困ります」
「そうだろう。余もそうだろうと思う。幾ら荀軍師が曹操軍の誇る腹黒ネコミミ策略家と云えど皇帝に向かってそんな言い草では重罰を逸れないからの」
私は悟った。どうして華琳さまは勿論のこと、アイツまでもこの方のことを劇的に避けるのか。
「余が今から何と言うか判るな?」
「……条件は何ですか?」
この方すごく厄介だった。
・・・
・・
・
で、いざ付いて来てみれば…
「どうしてあんたもここに居るわけ?」
「…暇だったから」
「私が忙しかったわよ!クソ忙しいのにあんたのせいで捕まってきたわよ!」
「知るか」
「知れよ!!」
殺す!絶対ぶち殺す!
「ともあれ、なんて奴を連れてきた」
「余もそれほど必死なのだと判って欲しい」
「どこまでも人に迷惑かけなきゃ手も足も使えぬ皇帝だ」
「皇帝というのは元々下の者たちを手足のように使えればそれは十分なのだ。寧ろ余自ら連れに行ったのだから涙を汲んで感謝すべきだろう?」
ええ、涙も流しますわよ。それはもう全部流して死ねるぐらいの血の涙をね!
「で、結局私は何で呼ばれたの?できればさっさと済ませて帰りたいんだけど。あんたを縛りつけて」
「…何なん?桂花ってそういう趣味もあるん?」
「あいつは自分の体に亀甲縛りができるぐらいだからな。性癖の幅が広いのも厄介なものだ」
「そういう話じゃないわよ!これ終わったらあんたも仕事手伝ってももらうからね!そうしないと殺すわよ!仕事が!私を!」
「……なんか、悪い」
アイツに悲しげな目で素直に謝られたわよこの砂糖人間が!
「陛下!何かは存じませぬがちゃっちゃとやりましょう!そして私はアイツを亀甲縛りに縛って帰らせていただきます」
「その意気やよし。なら早速始めるとしよう」
ドーン!
と、私たちの前には3つの碁盤があった。
「…なんですか、これは?」
「…何だ?まさか文若は囲碁盤を知らぬのか。それはちょっと困ってしまうのだが」
「いえ、それは判りますが…」
「なら良い!早速始めよう。でないと今日が終わってしまう」
小さな円卓三つを弧形に並べて卓ごと一つずつ囲碁盤と石が置いてあった。外側に椅子が三つ、内側に一つ。私塾に居る頃よくこういう形状の卓の置き方を見てきた。
そう。これは…
「多面打ち」
「如何にも。これより我々が打倒北郷一刀を唱えて総攻撃をかけるのだ」
だから何?私に今からアイツと碁を打てって?それも三対一で?
「帰らせていただきます」
「こら待たぬか、文若。このまま余を見捨てる気か?」
「陛下、私、今、すごく忙しいんです。暢気に囲碁なんか打てる暇なんてありません。しかも多面打ち、それも私が多の方に行ってる碁に付き合えなどと酷い侮辱です。帰らせていただきます」
「汝ほどの強者が居ないと余が勝てぬではないか。一人でも勝てたら余の勝ちにするって約束なのだ」
「知りませんよ、そんなの」
「くっ、荀文若ともあろうもの敵前にして逃亡する気か?」
「私の敵でもなければそんな戦争に付き合いたくもありません」
「そうと言わずに手伝ってくれよー」
この裾を引っ張りながら帰ろうとする私に引きずられてる人が本当にこの国の皇帝なのか。それは滅びもするわね。
「どうでも良いが、そろそろ暇すぎて眠たくなってきたら早くしてくれないか」
あっちはあっちであまりヤル気なさそうにしてるし。
そもそも何よ。こんなの私が勝っても多面打ちだからあまり意味ないし負けたら負けたでまた恥をかくだけじゃないの。
「放してください」
「嫌だ。お願いだ、文若。北郷一刀に勝ってくれ。そしたらもう汝を面倒くさくしないから」
「陛下…幾らなんでも情けなさすぎやろ…」
別に力があって私を引き止めてるわけではないし、もはや五歳児の駄々と化した陛下の姿に呆れるものの…
「はぁ…判りました。諦めます」
弱音握られてるし、なによりもこの皇帝陛下が必死に私のことを引き留めようとしてる手の力が弱すぎて逆に可哀想になってきたから良いわ。
「ほんとか!やった!やったぞ、文遠!これで勝ったも同然だ!」
「いや、それでも判らへんて。何せ一刀やからな…」
そう。相手は北郷一刀だった。
卓は三つだから、打つのは私に陛下と霞。二人の実力はどれぐらいか知らないけど当てにしない方がいいでしょう。となると…。
「二人はとにかくアイツに考える時間を与えないように打ってください。ちょっとデタラメになっても良いから休まず打って相手の考えを分散させるんです。後、打ってる間なんでも話とか持ちかけて集中をきってください」
「おお、なんか軍師っぽい策やな」
「軍師よ」
「流石は我が子房よ」
「陛下のではありません」
そして私はあまりヤル気のないままこれまたあまりヤル気のない相手と一年ぶりの勝負を再開するようになった。
<pf>
こいつが消える前、戦時でない時はほぼ毎日囲碁や象棋を打った。こいつに勝てたことは一番初めて象棋を打った以来ない。あれもこいつが負けてやったようなものだったから、実際の所実力の差は明らかにあった。
だけど一年間続けるにつきどんどん差が縮まってくる感はあった。碁も先に置く石の数が減ってきて、消える寸前では置き石がなくなっていた。でもその後こいつが居なくなって打つ相手がなくなった後私の部屋にはもうすっかり埃が積もった囲碁盤、象棋盤がおいてあった。
こいつが帰ってきた後、期を見て勝負を再開するつもりはあった。でも流石に戦後処理とかが忙しいだろうから(実際死ぬほど忙しくなってきたし)そういうのは仕事が片付いてからするつもりだった。それが思ったより早く、それも多面打ちというやや勝負の続きと言うには不公平な形で再開してしまったことに少し不満があるけど、どんな形であれ、こいつの相手をするのであれば一応最善を尽くすつもりで挑まなければいけない。
「むむむ…」
「…お前弱いな」
「失敬だな。余は今まで囲碁で誰にも負けたことがない。母と姉以外にはな」
「…他に誰と打ってみた?」
「……」
「…打ったこと、ないよな」
「……」
黙々と頭を頷くのを見て少し憐れみに思いたい気持ちもなくはありませんがいくら頼りにならないだろうと判っていても精神的な部分まで当てにならなくはならないでくださいませんか。こいつのこっちへの思考時間が増えてきちゃいますから。
「一刀、ウチってどれぐらいなん?」
「お前は…軍師枠とやったら負けるだろうが武将側だとそこそこいい勝負になるだろう。元譲は碁は打てぬがな」
「一刀って劉備軍に居たんやろ?関羽と打ってみたことないん?」
「ない」
そういえば、こいつは劉備軍の軍師たちとも碁を打ってたのかしら。
「んじゃあ、他の奴らとはやったん?ちっこい軍師たちとは」
「……打ったことはあるが」
…!
「一回きりだった。小さい軍でも忙しいからな。そう打つ機会なんてない。
「おお、で、どうなん、勝てたん?」
って、私があっちの話聞いてどうするのよ、集中切れちゃうじゃない。
「孔明には勝ったが、鳳士元には負けたな」
…鳳士元には負けたな……
………鳳士元には負けたな…
それを聞いた瞬間、なんか頭の中でブチッてした。
「…霞、陛下、少し試合切ってください」
「ん?」
「は?」
私はそう言って一端立ち上がって霞と陛下の囲碁盤の方に行った。
そして碁盤をひっくり返した。
「ちょ、お前なにやっとんねん!」
「うるさい!」
「!!」
腹が立つ…。
こいつが私の以外の奴に敗れたって話を聞くと腹が立って仕方がない。
私もまだ勝ったことないのに…他の奴なんかに…!
「あんた、真剣に打ちなさいよ。適当にやったら承知しないから」
勝つ。絶対に勝つ。
今日、この場で勝ってやる。今日勝てなかったらもう二度とこんな奴と碁なんて打たない。碁なんてものを二度と打たない。
そんな訳のわからない怒りが私を支配していた。
「…判った」
彼は頷いて、私の卓の方に椅子を置き直した。ここからは他のことはどうでもよく、こいつと二人だけの勝負だった。
・・・
・・
・
そしてその結果。
「……」
先手を取った私が石を置いた時、アイツは当たり前に受けるべき部分に手を動かさなかった。悟っていたのだ。整地までまだ結構残っていたものの、この勝負、
私が僅差で勝っていた。
「……」
アイツは静かに自分の石を捨て石を置く場に置いた。投了の表しであった。
「おお」
「…まだやれんちゃう?」
「…いや、コミ入れて俺の負けだ」
「コミ?」
本来中国にはコミはないけど、アイツ曰く、碁で黒は先手を取る分有利だからそれを解消するためにコミというのがあるらしい。彼が黒だったので、盤上では少し負けていたものの、コミで私の勝ちだった。謂わば本来の規則なら私の負けである。しかも序盤は多面打ちの状態だったから、どこに行って勝ったとも言えない。
そうこれで勝ったとはいえない…はずだけど…。
「勝った…」
勝った…勝った!
「あははははは!!!勝った!ついに、ついにあんたに勝った!」
そこには吹っ切れて指差しながら笑ってる私が居た。自分で言うのもなんだけど大人気ないのもほどがあった。
「どうよ!ついにそのいつも自慢げに人をけなしながら囲碁打ってたあんたの鼻をへし折ってやったわ!」
「やったな、文若!おめでとう!そして余も万歳だ」
外野がうるさかったけどそんなことよりこのどうしようもない喜びを満喫したかった。取り敢えず高らかに笑ってみた。一瞬袁紹みたいな笑いになりそうだったけどそれだと流石に下品すぎるので謹んだ気がする。
「…腕をあげたな。まあ、序盤まで多面打ちだったが」
「は!負け惜しみ?勝ちは勝ちなのよ!あんたも勝てる自信あるから多面打ちなんか持ち込んだのでしょうに!でも残念だったわね!私は成長してるのよ!一年間子供の保母役割してた奴とはやった努力の分が違うわ!」
「そのようだ。久しぶりにいい碁が打てた。感謝しよう、桂花」
「ええ、もっと奉りなさい!私を崇め!跪け!そして……へ?」
今…なんて?
「それじゃ、俺は負けたので約束通りちょっと出回ってくる。仕事頑張れよ、桂花。手伝わないが」
「おお、今からか?丁度昼時だな。いい飯店があるなら連れてってくれ。料は汝持ちでな。文遠、行くぞ。」
「酒もある所に頼むで」
「お前はしっかり護衛やれ」
え、待って…待ちなさい!
「なあに勝手に人の真名呼んでんのよ!」
「…許されたのはとうの昔のはずだが」
「そうだけど!そうだけど!何いきなり勝手に呼んでんのよ!勝ったの私でしょうが!どうして私が罰則受けてるのよ」
「真名を呼ばれる罰則か……お、それなら余は個人戦では負けたから汝に真名を授け…」
「いや、なんでやねん。しかもアカンちゅうねん」
いつも思うことは、こいつはいつも私に何をしても平然な顔でやってのけるのにこいつが何かすれば私はいつもムキになったり悔しかったり…ちょっと舞い上がったりする、それが気に入らないというものだった。
今真名を呼ぶという行為さえアイツにとっては何の重みもないように言っている。それが腹立つ。
でも、
「…判った。じゃあお前が勝ったのだ。お前が不愉快と言うのなら呼ばないことにしよう」
「………」
確かに気持ち悪い奴だし何よりも男で生理的に受け付けないけど…
「んぐぐ……」
「……」
「うあああ!わかったわよ!勝手にすればいいでしょう!」
アイツに真名で呼ばれたことが嫌いだとは言えない。
ただ良いとも言えない。そこは譲れなかった。
「なんとでも好きなように呼べば良いわ!まったく勝ったのに何でこんな気持ち悪い奴に気持ち悪い声で真名なんか呼ばれないといけないのよ」
「嫌なら…」
「うっさい!黙れ!ついてくんな!」
私はそう言って逃げるように別宮を去っていった。今日はきっと夜更かしすることになる。
<pf>
その翌朝、
案の定、結局時間が足りなくて執務室で寝てしまった私が朝になって目を開けると
「げ」
「……いつからおはようを縮めたら『げ』になったんだ」
アイツが居た。
「朝から酷いものを見たわ」
「人を汚物みたいに言うな」
まだ残ってる書類に目を通しているアイツを見た途端私が口の中に虫でも噛んだかのような顔をしたのは言うまでもなかった。
何人の執務室に入り込んでるのよ。
「いつから居たのよ」
「あまり経っていない。ほぼ終わってるようだな。これぐらいなら二人でやれば朝食は定時に食べれるだろう」
「誰もあんたに手伝ってなんか言ってないわ」
「俺もお前のこと手伝いたくてきたわけじゃない。華琳に頼まれたから来ただけだ。俺が分類しておくから顔でも洗って来い。酷いのはお前の顔の方だ」
「うっ!」
ハッと驚いて顔を撫でるとヨダレを垂らした跡とか残ってるみたいだった。なんたる屈辱!いっそこいつを殺して証拠隠滅を…。
「はよ動け」
「うるさいわね。朝弱いのよ。あと起きて目の前にあんたが居なければもう仕事再開してるわよ」
「…どうだろうか」
……ああ、もうこいつと喧嘩してるだけ気力の無駄遣いよ。さっさと仕事終わらせてまともに寝たいのよ。
「じゃあ、洗ってくるから全部片付けて置きなさいよね」
「ゆっくりやれ」
アイツはこっちには目も向かずに言った。私もそれ以上何も言わずに執務室を出た。
そんなものだった。