三話
桂花SIDE
「この糖分変態野郎!!!」
私は朝から官庁中に響かん勢いで叫びあげなければならなかった。
「一体何をどう考えたら帰ってきて一ヶ月でどこに行くとも言わずに消えるわけ?部屋の門鉄窓にして足首に鎖つけるわよ!」
「どこに行くかは言ったつもりだが…」
私が投げた竹簡は紙一重で彼の傾けた頭を避けて行った。
「言う!?あれを行った所教えたって言う?!死ねよ!氏ねじゃなくて死ね!マジで死ね!あんたを探しだすというどうでもいい件のために私がどれだけ時間を無駄にしたか判ってるの?」
「…まぁ、三日だと少し望んだよりは遅れたな」
プチッ
「砂糖水に頭突っ込んで溺れて死ねえ!!!!」
・・・
・・
・
「ふぅ…取り乱したわ」
「睡眠時間を削って仕事するからそんな沸騰点が低くなるのだ」
「何度も言えるわ。十割アンタのせいよ」
帰ってきたアイツに向けて机にある竹簡やら筆やら投げてたら少し気が晴れた。欲を言えば、当たって欲しかった。当たって死ななくても良いからあたって欲しかった。
「はぁ…で、収穫は?」
「七日ぐらい後に俺が行ってた城に行って太守の二人を連れてきてくれ」
「実力はどうよ」
「…一人は及第点だが、もう一人は怪しい」
「まあ丁度良いわ。華琳さまの命令があって内政に必要な文官を大量に確保するために任官試験を開くことになったから、あの二人もそれで実力確認するわよ」
「…科挙か。悪くない」
「正直そうでもしないとならないだけ切実なのよ」
今曹操軍は相当な人力不足に陥っていた。単に戦後処理に悩まされているというわけではなかった。中間、下位管理職でもかなりの者たちが抜けていった。だからその抜けた所を埋めるために科挙を導入して各地から人材をかき集めることになった。
本来の華琳さまのやり方を考えると、単に文面で実力を見る試験というのはあまり好ましい人材の集め方ではなかったけど、そんなこと言ってられないほど状況が悪かった。
そもそも何故そんなに武、文官たちが抜けていったのかというと、
「これ、アンタのせいなの判ってるよね?」
「……必要経費だったと思えば良い」
「高すぎるわよ」
「…この投げた竹簡たちは大丈夫なのか?」
何話題変えてんのよ。
「大丈夫よ。投げたついでに全部燃やしてしまいたいぐらい大丈夫だわ」
「………老化した水路の改築がか?」
「……」
「おい、目逸らすな」
「ああもう、うるさい!だったらあんたがやればいいじゃない!私があんたのせいでどんだけ仕事遅れたかいちいち説明しないと判らないわけ?」
「はぁ……」
アイツは拾い上げた竹簡を見ながらため息をついた。
「一度華琳の所に声かけてくるから、それまで整理しておけ。帰ってきたら溜まった分は処理するの手伝ってやる」
「だ、誰もアンタに手伝って欲しいなんて一言も言ってないわ。単に仕事増やさないで頂戴と言ってるだけで…」
「半刻で来るぞ」
「ちょっと!人の話聞きなさいよ!」
が、聞くはずもなくアイツは執務室を出て行った。
「…はぁぁ」
私がこれじゃ駄目なのにね。
アイツの言う通り心の余裕なくなってきたわ。
<pf>
華琳SIDE
コンコンとのっくの音がして「俺だ」という彼の声が聞こえた。
「入っていいわよ」
と答えると、扉を開けた一刀の姿を私は一瞬で頭から足までざっと目を通した。頬にに綿を貼ってあるけど恐らく凪の仕業ね。それは帰ってきて早々また消えたりしたら一発殴りたくもなりでしょうよ。それ以外には特に問題はなさそう。
「それじゃあ、軽く指一本ぐらい頂こうかしら」
「おい」
何?不満があるとでも?
言っておくけど私は行っていいとは一言も言ってなくてよ?
「軍師枠が必要と嘆いていたのはお前だ」
「今は全部桂花に押し付けているからね。彼女にこれ以上苦労をかけれないわ。でもそれはあなたが手伝ってやれば済む話しでしょう?それに軍師にまで使う者なら探すことをあなたには任せてられないわ」
直接言ったことはないけど彼には予めこの世界の重用な人物の名前が判ってるらしかった。だから今回行った所も、その知識を元に人を探したに過ぎない。実際に彼/彼女らの実力がどれほどか判ることはできないということだった。しかもその知識を使って人を探すとまたいつものように彼の体に負担が行く。
だから私は行っても良いと許可しなかった。
「行くなとも言わなかっただろ」
「言ったら行かないの?」
「自分の意思を相手にはっきりすることは大事だと言っているだけだ」
「人の意見を溝に捨てることを息を吸うようにすると評判のあなたに意思を表すことの重要さを論じられたくないわ」
本当に人の気持ち考えない人なんだから。
「試験を見て文官を登用するらしいじゃないか。丁度良い。あの二人もその試験を受けさせれば、文面上での実力は見ることが出来るだろう」
「……そうね」
しかし、他の中間管理職と違って軍師枠は別だった。知識では一等地を抜くと言ってもその実力を実際の戦場や内政で発揮できるかは全く違う話だった。
「じゃあ、こうしましょう。あの二人には他の文官たちが見る試験問題の他にも私が直接会って話を聞くわ」
「…同じく試験を見た者の中でその二人だけお前が直接会うとなると試験の真実性が疑われることになるぞ」
「あなたが選んだ人たちならそんな試験なんて優秀な成績で通るはずよ。試験で上位の者を別に集めて面接をすると言えば済む話でしょう?
「…それもそうだな」
彼が軽く微笑みながら同意の意見を出してくれた。またにそういう前はしなかった良い顔するのやめてくれないかしら。ちょっと惚れてしまいそうになるから。
「用事はそれだけかしら」
「そうだな…桃香は冀州は手に入れたようだが、残党の掃討に戸惑っている。河北を全て牛耳るまでは時間がかかるだろう」
劉備には多くの人材がいるものの、河北の覇権を握るにはそれ以上の数の人の力が必要になる。
天の時は地の利に敵わず、地の利は人の和に敵わずと言った。
元々劉備の最も大きな力は人を集める魅力にあるのだから、まず河北の人材らを手に入れなければ河北を制覇することは出来ても黄河を渡ってくることなんて到底できないだろう。
「ま、人材不足に苦しんでいる私たちが言う言葉ではないわね」
「………」
彼は言葉を返さない。さっきの微笑みも消え去り顔の表情は再び固くなっている。
そもそも何故この曹孟徳は人材不足に陥ったのか。桂花並の人材が欲しいことは昔からだった。幾らあっても足りないと思っていた。けれど、一刀が帰ったことによって私の軍の人材事情が大きく変わった。
「後悔するか?」
「しないわ」
それは即答できる。
「最初から俺たちが出会っていなければその信頼を失われなかっただろう」
「私が覇王になっていなければ春蘭、秋蘭といい友達に育ってどっかの軍で活躍していたはずよ。そんな話をしていればキリがないわ。この世に生まれて来なければと言っているのと一緒よ」
「……」
彼のせいで秋蘭を失った、なんて風には思ったことがない。そもそも人材を好む私にとって、その人材たち同士の啀み合いを防ぐ責任は私にあった。
『英雄、色好む』と言ってもそれは後ろから刺されなかった場合にその資格があるわけであって、女の間の嫉妬で傷ついては英雄という名が廃るもの。
下手すると私もそのうちそういう英雄の目録に名を上げるかもしれない。
「…昼を食べる時間はあるか?」
「また流琉の所?」
「この街にあそこより良い店があるなら教えてもらいたいな」
「ふっ、妹自慢も程々にした方が良いわよ」
「事実を言ったまでだ」
「良いわ。あなたの下手な気遣いに付き合ってあげる。だけど忘れちゃ駄目よ」
私は彼が私に預けた指輪がハマった左手を見せながら言った。
「あなたは私のものよ。次変な心配させたら、その時は本当に承知しないわよ」
「……」
彼は何も言わずジンズに突っ込んでいた右手を出して私に差し伸ばした。
私は彼の右手を取った。
そして誰が後に引かれるということもなく同時に扉を出て街へ向かった。
<pf>
北郷一刀が郭嘉たちを会って十日後、
<pf>
流琉SIDE
『以下の者を3月の減俸に処す
楽進文謙
以上』
という懲罰の内容が書かれた竹簡を握った凪さんは食卓に頭を伏せ小刻みに震えていました。
「凪ちゃん、元気出すの」
「なんちゅうか…隊長もああいうの人前で言わずにこうして後ろから突くのやめて欲しいよなー。なー?」
両側で沙和さんと真桜さんが落ち込んでいる凪さんを慰めていますが、凪さん、結構精神的にキていたようです。聞く話には原因は兄様を殴ったせいだとか……順当な判決というか、軽い方だと思いますけど。何なら今からでも凪さんにだけ料理のお代を倍で請求することもできますけど……それだと流石に踏んだり蹴ったりなので勘弁しますけどね。
あ、紹介が遅れました。
典韋といいます。
料理店を経営しています。
と言っても、開いてまだ一ヶ月ほどですけど。
その前は曹操軍で親衛隊の隊長などをやっていました。
「はーい、ご注文の激辛麻婆豆腐に炒飯、回鍋肉、シュウマイ3人分ですよ」
「ありがとうなの」
「ほーら、凪、お前の大好きな麻婆やで。食べて元気だしーな」
「くぅ……ん」
ちょっと泣いていた凪ちゃんは一度蓮華を握るとガツガツと麻婆豆腐を自棄食いしはじめました。
作った側としてはもう少し吟味して食べて欲しいですね。
「ごめんね、流琉ちゃん。お店に迷惑だよね」
「いえ、大丈夫です。これよりも酷いお客さんも沢山相手してますから」
「迷惑じゃないとは言わんのな」
お店の主な客は警備隊の皆さんになっています。
別に一般の客を受け入れないわけではないのですが、軍に居たこともあって警備隊の常連さんが多いです。
まだ一ヶ月しか経ってないので一般の客もこれから増えてくると思います。
「それにしても大丈夫なんですか?そろそろ兄様がいらっしゃる時間なのに。ここで会ったらギクシャクするんじゃ…」
「ああ、それは大丈夫やで。今日隊長桂花と一緒に仕事してるから多分食事も執務室済ませるとかゆってた」
「あ…そうなんですか」
それはちょっと残念です。
「隊長!定食3つお願いします」
「あ、はいー、あと隊長って呼ばないでください!値上げしますよ!」
護衛隊の人たちがやってきました。
お昼時間は忙しいので、悠長に会話なんてしてる暇がありません。そろそろ外は誰かにまかせて、調理場から出ないようにした方がいいかもしれません。
<pf>
桂花SIDE
基本的に、コイツの仕事の速度は早い。理由は主に二つ。
一つはただ絶対的に速度が早いこと。
もしこれからコイツに政務を全部任せるとすれば、一ヶ月経たずで下の管理人たちが頭から熱上げて次々と倒れて挙句には内政崩壊する恐れがある。でもそれは私もその気になれば出来なくはない。しないだけ……というか何のためにそんなことするのかという話だけど。あといつもやってる私にそんな『これが私の全力だ!』みたいなこと出来ない。それで私が倒れたら更に惨状になりかねないから。
彼の仕事の処理が早いのは主に2つ目の理由だった。
つまり
『却下』
「……」
の2文字付けて案件を引き返すその厚かましさにあった。
基本内政には調整というものが必要になる。民と民の間の紛争に関してもそうだし、また部署の間の紛争、民と官の間でもそれは同じ。
1つ目は先ず私の所まで上がってくることはほぼない。それこそ軍を動かす規模でなければね。上がってくる主な調整内容は2番目。でもこれは彼には明らかに向いてないので私の仕事。仮に彼に任せたら両部署とも焦土化させるだろう。それとも彼が調整に入ると知って第3の敵を止めるために劇的に和解した後焦土化するか。
問題は2番目。これが厄介で、民と言っても軍に要請してくるほどだとかなり強力の豪族だったり商団だったり、とにかく無視できない団体だったりする。そういう場合、きっぱり断るべき所でも、儒生な私の性質上アレこれ説明しながら合理的に説明して断るに対し、彼の場合『却下』の2文字で済む。
例えば『自分たちの家門の長のお花見に軍の護衛が欲しい』とかいう本当に頭おかしいんじゃないのかと思うぐらいふざけた要請がここまで上がってくることがある。こんなことは大体下では家門の名を恐れて拒否できなかったり、賄賂食ったりしてるからそうなることが多い。
「…おい、桂花」
「何?」
「例の豪族、アレと同じ奴だがまた絹に付く税を下げろと要請してきたが」
ちなみにその豪族は代々に絹の商売で成り立った所だった。
「駄目に決まってるでしょう?戦後でこっちも財政きついのよ。だからと言って一般の民の税を上げるわけにも行かないし」
「そろそろあそこの豪族捌いて有り金むしり取ってもいいと思うが」
「……」
彼の言ってることは『隠してた罪掘りあげて財産没収してこちらの財政を潤わせよう』ということで、さすがにそこまではやりすぎたと思った私は、
「あそこの長ってさ、いつも脂っぽいし豚みたいで気持ちわるいのよね。何よりも男な所が気に入らない」
「…手配しておこう」
取り敢えず豪族長を締め上げる線で落ち着いた。
我ながらいい線で協商できてると思うわ。
「そういえば、アンタがこの前言ってた二人、来るの今日だったよね」
「予定通りならそうなるな。科挙に合わせて少し時期を遅らせたが」
こんな雑談をしてるうちにも二人の手は素早く動いている。
「いくらあなたのお墨付きでも、即採用なんてことはないからね」
「そこは華琳に任せることにした。そもそも彼女の軍師であって、俺とは何の関係もない」
何故職務放棄してあそこまで行って来たのかって小一日問い詰めたいわ。
時間さえあれば…。
「試験の準備もなんとか終わったし、アンタが釣ってきた連中以外にも良いのが入って来ればいいけど…」
「お前みたいな目立ちたがりなければ普通にいい連中が釣れるだろう」
「アンタに言われたくはないわ」
「まあ、見どころのある連中を釣るには徐州や荊州に行った方が手っ取り早いだろう」
コイツが言ってるあの二つの地域は人材の潤いに比べて君主の器がいまいちだったり身内喧嘩寸前だったりするせいでそんな政界に呆れて在野に残っている人材がまだあったりする。
一番確実な方法はその人たちの居場所を把握して一々勧誘しに行くことだけれど、それが出来るような状態ではない今は向こう側から来てもらう他ない。公開的に官吏を雇う試験を見るというのもその一環なわけだけど…。
もっと効率的な方法が必要になってくるかもしれないわね。
<pf>
稟SIDE
私たちを陳留に連れて行くための使者が来て三日後、私たちは陳留城を間近にしていました。
これでやっと、あの曹操さまの前に立つことが出来ます。
「稟ちゃん、稟ちゃん、もう出てますよ。ダバダバといってますよ」
「はっ!」
何のやましいことはまだ考えていないのに、曹操さまのことを考えただけでも鼻血が…!
実際にこれが原因で今まで来るのを渋っていたところもありますけどね。
「稟ちゃんは実力が認められてもその鼻血のせいで重用されない可能性もなくはありませんからね」
「不吉なことを言わないでください、風。私にとって曹操さまの側で仕えることは一生の夢なのですよ」
「<ああ、判ったからその鼻血をなんとかしろよ。護衛してる兵士たちがドン引きしてるじゃねーか>」
風は良い友達ですけど、人形を通って話す時は本当に容赦なく辛辣に言ってくるのが苦手なところです。
「これホウケイ、事実と言っても人の恥部をそう晒すものではありません。はい、稟ちゃん、トントンしましょうね」
「前言撤回します。表でもあなたは十分に辛辣です」
「…ぐぅ」
そして逃れようとする仕草も厚かましい。
「止まれ、何者だ」
「曹丞相さまの命により、郭嘉さま、程立さまのお二人を連れてきました。こちらがその命令書です」
「兵士のお兄さん、風の名前はこの前から程立じゃなく程昱に変えましたので、そこはあしからずなのです」
「し、失礼しました。郭嘉さまと程昱さまであります」
官庁に入る前に調査を受けている間、ふと入り口から庁内を覗くとこの前出会った男、北郷一刀殿の姿が見えました。
「あ、あなたは…」
「…来たか」
「何?誰なの?」
「例の軍師候補たちだ」
彼の隣には猫のような帽子をかぶった女性が居ました。
言わずも判る曹操軍の大軍師、荀彧文若です。
「あの二人がね…」
「丁度良い。あの二人にはこの場で今後のことを説明しよう」
「……もしかして言ってないわけ?」
「当時は計画してなかったのでな」
「どうしよう。今無性にアンタを殴りたいわちょっと避けないでくれる?」
「断る」
荀彧殿が一刀殿が答える前に脚をおもいっきり蹴ろうとしたものの、一刀殿は予想していたかのように軽くそれを避けたので荀彧殿は空を蹴ってそのまま尻もちを付きました。
「きゃっ!何避けてんのよ!死ね!」
「…新人の前でお前はそんなに阿呆丸出しにしたいのか」
「誰に阿呆って言ってるのよ、この興味馬鹿が!」
何やら騒がしいですね…。仲がいいのでしょうか。
妙ですね。曹操軍の荀彧殿といえば男性を嫌うことで有名ですが。
「よし、通って良いぞ」
「あ、ありがとうございます」
「ありがとうございまーす」
風は警備から通って良いとの許可が出た直後一刀殿の前に走って行きました。
「お兄さん、お久しぶりなのです」
「そうだな。桂花、こちらが程昱中徳だ」
「…!」
いつも飴で口を隠すようにしている風が飴を口から離してポカンと開いていました。
「どうして風が改名したことを知っているのですか」
「そういうの情報には耳が早い。程昱、こちらは曹孟徳の頭脳ごと荀彧だ」
「うぅぅ…荀文若よ。…手伸ばしてるんじゃないわよ。取って妊娠なんてすればどう責任するつもりよ。キモい」
一刀殿が尻餅をついていた荀彧殿に手を伸ばすも、荀彧殿はその手を取らずに一人で立ち上がって埃を払うために尻を叩きました。
すると、風がこんなことを口にしました。
「おかしいですね。風は荀彧さんのことを病的に男嫌いな人だと耳にしていたのですがこんな風にお兄さんと一緒に歩いているとは…さてはお兄さんがち○こがついてないのですか?」
「ちょっ!?」
「風!女の子がなんてことが口にしているのです!」
「<やれやれこれぐらいで取り乱すなんてこれだから処女は…>」
「あなたも同じでしょうに!」
というか私たちは男の人を前にしてなんて恥ずかしいことを言っているのです!
「……まあ、どうでも良い。それよりお前らはこれから他の奴らと文官試験を受けてもらう」
「試験?」
そんなことは聞いていなかったのですが。
「面接のついでだと思うと良い。そもそもこれぐらいの試験に通過できないだろう人物ならあの遠くから連れてきていない」
「それだったら尚更試験など受けずに特採にすべきでは?」
「まあ、まあ、良いではないですか、稟ちゃん」
風がよいではないかーよいではないかーと言わんばかりの暢気な顔で飴を舐めながら言います。
「特採のなんだの言った所で、私たちがまだまともに実力を発揮出来る場を設けることが出来なかったのもまた事実。そういう相手には最小限の実力を試すための試験というのはつきものなのです」
「それはそうですが…」
「曹操さまとしても、他の中下の文官たちも見る試験に軍師目当ての者が通らないというのならそういう者を傘下に入れたくはないでしょう」
「まあ、そういうことだ。上位の者には華琳が直々に面接を行い、華琳が自ら官職を与えるという話だから後はお前たち次第だろう」
「曹操さまが直々に?」
その話を聞いて私は察しました。
さっき一刀殿は試験があることを知らなかったと言いました。それの真偽は別として、もし試験を行っているのに特採で軍師を雇えば試験の真実性と公明さに異議を唱えられるでしょう。こんな試験を公開的に行う事自体遠くからも人材が集まるようにするためというのにその試験を通らずに特採される者が出たら重用されるためにこんな所まで試験を見に来ようとする人材も無くなるはずです。
とにかく大事なのは華琳さまの前に立ってからです。試験なんてそれに比べたら山とも言えぬ小さい丘でしかありません。
「判りました。それならその試験、受けて立ちましょう」
「その意気なのです」
「試験は明日の巳の刻(午前10時頃)だ。それじゃあ、後日また会おう。俺たちはこれで先に失礼する。行こう、桂花」
そして一刀殿は荀彧殿を連れてその場を去っていきました。
「あーあー、やっちゃいましたねー。風は理論上の話は少し苦手なのです」
「今更あなたが弱気を言ってどうしますか。あなたは試験中に寝さえしなければ大丈夫です」
「…ぐぅ」
「今から寝るな!」
何はともあれ、曹操さまの元で仕えるためには試験でもなんでも私の全てを尽くしましょう。それが私の夢なのですから。
次回からは多分一ヶ月に戻って状況説明などすると思います。
最近頭が痛くて辛いです。