一話
長らくお待たせしました。
帰ってまいりました。
反董卓連合軍が解散し、各軍は自分たちの領地に散っていった。反董卓連合は誰もが予測した以上に大きく天下の版図を変えることになった。
一番大きく変わったのは河北の版図であった。冀州を本拠地としていた袁家の当主袁紹が死、袁家の元老たちは傀儡だったとは言え自分たちの当主がなくなったことに混乱した。洛陽からの情報が徹底的に封鎖されていたことも相まって袁家が平原の劉備領に狙いを定めた頃、既に元袁家の兵の半分ほどを吸収した劉備軍は平原に到着してした。
劉備は平原に戻るやいなやで袁家に宣戦布告された。長い戦争にて疲弊した劉備軍であったが、袁紹軍から併合した兵士たちがあったおかげで数で押されることがなかったためかこれを無事迎撃した。
袁家は県令に過ぎなかった劉備の軍が想像以上に大きくなっていることに混乱した。劉備を自分たちにとって脅威になることに気づいた袁家の元老たちは冀州より徴兵を始めた。が、既に反董卓連合の結成時に袁紹が無理をして徴兵を行っていたため、冀州の民たちの反感は大きく、更に洛陽から移民して来たという人々から洛陽からの噂を耳にした冀州の民たちは激怒していた。自分たちの息子が肥えた元老たちの利のために連れされたことを知って冀州では各地で一揆が起こった。これに機と見た劉備は帝より授かった勅書を名分として、幽州州牧になった公孫瓚と同盟を結び冀州に攻め入る。外も内も敵だらけだった袁家の元老たちに残る道は逃げる他なかった。残りわずかな袁家の者たちが軍を以って抵抗するもあっさり敗退。これで袁家の過去の栄光は完全に消え去り、河北には平和が訪れるかのように見えた。
だが頭を失った袁家の残った傭兵たちが河北のあっちこっちで山賊と化し騒ぎを起こした。冀州だけにとどまらず幽州、并州に至るまで被害が拡散し、劉備はこれらを早く鎮圧すべく自分の猛将たちを河北各地に散らした。
一方最後まで劉備と戦うも敗戦し逃げた袁家の残党らがまた黄河辺りにて略奪を行っていた。この残党は残党と言うにはかなりの規模で、指揮している者は袁家の参謀のであった逢紀だった。冀州のある城を奪い居城としていて略奪をしていたものの劉備軍の将、関羽、趙雲などに追われることになった逢紀はやむを得ず更に逃亡し、狙いを曹操領に定め南下していくのであった。
<pf>
??SIDE
「にゃー」
……シャー
「おおっ!」
うむ、なかなか難しい生き物ですね。
猫とは…
「風!!」
なー
「ああ」
猫が逃げちゃいました…。
「こんな所で何をしているのですか!」
「……ぐぅ…」
「寝るな!」
「おおっ」
稟ちゃん、今日は早かったですね。
「これはこれは、稟ちゃん、どうなさいました?」
「どうなさいました?じゃありません!朝議に顔を出さないかと思いきやこんな所でサボっていてどうするのですか!」
「ぐぅ…」
「だから寝るな!」
今日の稟ちゃんはいつも以上に手厳しいですね。
「まぁ、まぁ、そう怒らないでください。今日風はとても気分がいいのですよ」
「私は朝から最悪の気分です」
「何で風の気分が良いか聞きたいですか?」
「別に」
「そうですか。稟ちゃんがどうしてもというのなら話す他ありませんね」
「だから聞きたくないと…」
「今日良い夢を見たのですよ」
とても素敵な夢。
温かい夢。
「……ぐぅ」
「いい加減にしろ!」
「おおっ!」
あまりの暖かさにまたつい眠ってしまいました。
困ったものですね。
とまぁ、それで今日はなんだか良いことが起こりそう気がします。
「というわけでして、風は今日ちょっと有給を使いたいとおもいます」
「どういうわけですか。というかいきなりそんな事言われて許可するわけないでしょう?」
「<まあ、そんなに融通きかないこと言うなよ。怒っても皺しかふえねーよ>」
「これホウケイ、女の子にそんなこというのではありません」
まったくホウケイはたまにこんな礼儀に反する言葉を口走っちゃうから困るのですよ。
「とまぁ、ホウケイもこう言っていますし、後で稟ちゃんが休もうとする時に風が手伝いますので今日はお願いします」
「はあ…どうせ無理やり連れて行ってもロクに仕事もしないでしょうし…判りました。ただし!今日の分はしっかりと埋め合わせしてもらいますからね!」
「わかりました」
許可が降りたので風はまるで蝶々のように腕をひらひらしながら官庁を出て行きました。
・・・
・・
・
「さて、何から始めましょうかね」
せっかく休みをもらえましたので、どっか日差しがいいところに行って猫さんと日向ぽっこでも……。
なー
「おお?」
これはこれは、この城に出て早々友好的な猫と遭遇しましたよ?
しかしこの町中で風をご指名とは、はて?
なー
「付いて来いということでしょうかね」
それとも「なにみちふさいでんだしめんぞごらぁ」という意味かもしれませんねー。
「にゃーう?」
なー
お?どこに行くのですか?
なー
「やっぱり最初の考えが正しかったみたいですね」
これでここの猫とも少し親密になったかもしれませんね。
<pf>
なー
にゃー
なーう
「おお」
これは、なんという猫たちの饗宴。
まるでこの町の猫たちが全て集まっているかのような数なのです。
風はまるで夢を見ているような気分なのです。
「はて、風は何故この集まりに参加を許されたのでしょう」
と、なんか妙に猫たちが群がってる所がありますね。
「……む?」
「……」
これは…
猫たちが下に人が倒れていますね。
「……」
ちょいちょい
「…おーい、生きてますか?」
「……」
返事がない。ただの屍のようだ。
まさか猫たちはこの人を助けるために風を呼び寄せたのでしょうかね。
「とはいえ、かよわい風だけでは何もできることがありませんね…」
誰か助けを呼んでくるしか…。
しかしなんとも奇怪な服装の人ですね。
真っ白な服を上下に着ていて、日差しが強い所なのでなんだかキラキラしている感じがしますねー。
「ちょっと、お兄さん」
風は持っている飴でその人のほっぺをちょいちょいと突いてみました。
「…!」
カジリ
「おおっ!」
びっくりした風はそのまま尻もちをついてしまいました。
突然風の飴に噛み付いてきた男のせいで、風の大事な飴が半分になってしまったのです。
「……」
体は動かずに風から奪った飴を口の中で齧る音が鳴り続けると思いきやごっくんと喉口を通って行く音がしました。
「……おい、砂糖はもっとないか」
それがそのお兄さんが初めて発した声だったのです。
「風の飴は美味しいですか?」
「生き返るような味だったな」
「じゃあ良いのです」
風の大事な飴がなくなることは残念ですけど、風も人が齧った飴を口にしたくはありませんから…。
渡された飴を獣のようなかじり始めたお兄さんはあっという間に大きな飴を食し終えたのでした。
「ふぅ…」
「お粗末さまでした」
「…礼を言おう」
「で?お兄さんは誰でしょうか」
のろのろと体を起こすお兄さんを見て回りの猫たちが騒ぎながら解散していきました。
「猫というのはなかなか不思議な動物だ。そう思わないか」
「はぁ……」
「ここでしか食べることの出来ない間食があるというから来てみれば店は既に他の所に移転したと言って最悪の気分になっていた所ここを見つけて癒やされていたら、突然体が動かなくなって倒れてしまった。そういえば三日ほど何も食べていかなかった気もしなくはないが」
これはなかなか死に急いでいる人の様子。
「お金がなかったのですか?」
「間食を喰いに来たと言ったはずだ。ないわけはない。ただそれ以外に食べる気が起きなかっただけだ」
「それはそれはお気の毒でしたね」
恐らくこのお兄さんは後半日経たずにまた死の境をさまようでしょうね…。
「まぁ、目的だったものがここにもうないことが判ったから俺はもう帰る。世話になった。飴のお代はこれで良いか?」
「いいのですよ。今日の風は機嫌がいいのでそれぐらいは貸しにしてあげるのです」
「…貸しにするぐらいなら金をもらえ」
「風の大事な大事な飴ちゃんは金では償えないほどの価値があるのです」
「……」
「……」
どうしろってんだこらぁって言いたそうな顔でこちらを見ているお兄さんの顔がなかなかおもしろいのでついつい見上げちゃいますね。いつも手にあった飴がないので少し落ち着きながないかもしれませんが、それでも風はなかなか楽しんでますよ。
「何が望みだ」
「そうですね。今日一日風と一緒に町を探検していただきましょうか♪」
「…俺はもうこの町に用がないのだが」
「風はここにずっと居るので色んな所に用事があるのです」
「…初対面な男に対して少し不用心とは思わないか」
「これは風の持論なのですが、猫に好かれる人の中に悪い人はいないのです」
「という割にはお前の方が随分猫たちに警戒されているようだったが」
「…ぐぅ」
「……」
ツッコミが来ないというのもなかなか新鮮でいいですね。
ガーンガーンガーン!!
…おお?
「このドラの音は…」
「…タダ事ではないみたいですね」
今のは近所に敵が迫ってきたことを知らせる銅鑼。
どうも今日の休みは返還しなきゃならないみたいですね。
「それじゃあ、お兄さん、これでお別れなのですよ」
「……お前、ここの管理者か?」
「管理者…そうですね。この城を担当している太守の一人なのです」
「なるほど…確かここの太守は……郭嘉と程立だったな」
「…!」
このお兄さん…風と稟ちゃんのことを知っていますね。
「風はそうだとしてお兄さんは何者でしょうかね」
「俺か?…そうだな……言葉より行動で示した方がいいだろう」
「…?」
「官庁に行こう。興味深い状況なのかどうか確認しなきゃならないからな」
「……!」
……このお兄さん、もしかして…?
<pf>
稟SIDE
「袁家の残党ですか…また厄介なのが」
「数はおおよ五千。こちらに向かって進軍中です。半刻経たずにこちらに着くと思います」
「やられましたね」
対応するには時間が少なすぎますね。一部の残党が黄河を越えたとは聞きましたけど、こちらとは距離があったからと油断していました。
それでも軍の準備はしていたのですが、数が問題です。こちらの常備軍は五百ほどしかありません。そこから民兵を募集するとしたって時間まで間に合わせられるかずはせいぜい合計一千。
援軍を要請して籠城する他ありませんね。
「陳留に援軍の要請を。各自籠城の準備をしてください。城門を閉じて民の移動を制限します」
「はっ!」
たかが五千。
援軍が来るまで三日ほどかかるでしょうからそれさえ耐えしのげば…。
「稟ちゃーん」
「風!どこに居たのですが!一大事ですよ…って」
後ろに居る男は一体…?
「向こうの数は?」
「はい?」
「敵の数だ。袁家の残党なのは判っている」
「ちょ、ちょっとまってください。あなたは一体何者ですか!」
「稟ちゃん、稟ちゃん」
「なんですか、風。この男は一体何故連れてきたのですか!」
「町で倒れているのを拾ってきました」
「はぁ?!」
「おい、まどろっこしくなる言い方をするな」
「だって事実ですし…」
「……」
「ぐぅ…」
風、あなたはこの大事な時期に…。
「悪いですが、今は緊急事態です。部外者の相手をしている暇なんてありません。民兵に支援くださるのでしたら歓迎ですが、それは後に行います。そこの者、この男を官庁の外まで案内しなさい」
「はっ!」
「俺の体に指一本触れるんじゃないぞ」
男を連れ出すだめに近づいた兵士二人が男の腕に触れるやいなや、男は後ろを振り向いてその兵士二人を制圧しました。
「うっ!」
「ぐっ!」
「なっ!」
直ぐに周りの兵士たちが状況を理解して剣を取りました。
「…で、数は?」
「あなたは今自分の立場が判っているのですか?」
「お前らこそ自分たちの立場が判ってないようだな。この城には今三千もの民が住んでいて、この後ろに建つ村など合わせたら6千だ。ここが落ちたらそいつら全部死ぬ。そして言っておくが、援軍要請はするな」
「なっ!」
その言葉を聞いて私がガッと来ました。
「あなたが何の権利でそんな口を…!」
「もちろん、ここを捨てるってわけではないから送りはするだろう。だが俺がそんな面倒なことを向こうにさせたくない」
「どうしてお兄さんはそんなことを言えるのですかね?」
「今陳留は少々忙しい。陳留に近頃行ってみたことがあるなら誰でも判るだろう。で、今援軍とかそういう面倒くさいこと送られると俺の知り合いの中何人もうなじ握って倒れそうだからな。だからこれ以上陳留に仕事送らないで欲しい。いや、てか送るな」
「何を言っているのですか!援軍が来なければいくら籠城した所でそのうちその城は…!」
「まあ、忙しいと言っても半分は俺が居なくなったせいだが…いや待て、残りの半分の半分の俺の責任か…まあどの道反省はしていない」
「あなたは一体何者ですか。そろそろ話してもらいますよ」
「…おおっ!」
とそんな時、突然風が変な声を出してきました。
「稟ちゃん、稟ちゃん」
「なんですか、風。今この男は性分を知ることが…」
「思い出しました。このお兄さんは、例のあの男です」
「例の男?」
誰のことですか。
「ですから…
例の曹操さまの彼氏さんですよ」
「……はぁ?」
「……その噂は一体どこから始まった?」
「やっぱりそうですか。あぁ、ちなみに彼氏というのは風の勝手な想像だったのですけど、その反応ですと間違いありませんね」
「……」
彼氏…だと?
馬鹿な…だって曹操さまは確か女好きでは…?
まさか私が知らぬ間にノンケに…!?
「そ、そんな…」
「稟ちゃん、なんか落ち込んでますけど、大丈夫ですか?」
「良く判らないが…多分原因はお前だ」
あなたのせいです。
「と、落ち込んでいる間に勝手に地図を見せてもらうぞ」
と言いながら勝手に卓の上の城の位置や現在袁家の残党の居場所などを示した地図を見下ろしていたその男は……。
「…なるほど。おい、太守、戦略はどのように立てている」
「相手の数は五千ほど…こっちは正規軍は五百程度ですから、籠城して援軍を待つつもりでしたが、陳留からの援軍がなければ死を覚悟しても五日耐えるかどうか…」
「陳留は今忙しい。できればこちらで解決したい所だ」
「それはとんだ無茶むりですね。相手にそのままお帰りいただければ良いですけど…生憎相手は兗州北方でも一番警戒が薄いこちらをわざわざ突いてきたほどですからそう簡単に帰ってはくれないでしょう」
「向こうは奇襲染みた行動をとっている。こちらの正規軍とは戦っても勝ち目がないと判っているのだろう。だとするとこちらの戦力が判っているとして……向こうの指揮官は誰か判るか?」
「偵察兵からの報告だと逢紀という人ですね」
「……ああ、何だ、なら話は簡単だな」
「はい?」
私が追い付いていけない間男と風はそんな話を交えて男は一人で納得した顔をしました。
「程立、奴らが来る北方の城門を開けて、兵たちも他の門より手薄にしろ」
「……なるほど、そういうことですか」
「判るか?」
「<兄さんってとんだ死に急ぎ野郎だな。さっき野垂れ死ぬとこほっとけばよかったのによ>」
「これ、ホウケイ、人が聞いて傷つくようなことをそう対面で言うものではありません」
「で、出来るよな」
「むむ、そうですね…このまま籠城しても甚大な被害は逃れませんし…万が一失敗してもお兄さん一人死ぬだけならそれで結構かと」
「…本体もあまり良いしゃべり方はしていないようだが」
「冗談ですよ。決して飴のことを恨んでるとかではありませんから」
「……」
風、一体何を考えているのです。
「風、まさか空城の計を使うというのですか」
「みたいですね。正確には完全に空城ってわけではありませんが」
「正気ですか。相手はただの盗賊に成り下がった輩ですよ。そんな高度な知略が通用するような奴らじゃ…」
「確かに単なる盗賊にならそんな高度な計略は使えない」
その時その男が言いました。
「だが、奴らはこの開かれた城門をくぐることが出来ない」
「何故そうはっきり言えるのですか」
「何故なら、その門の前には五千の兵を持った者すら恐れる存在が立っているだろうからな」
「一体彼らが何を恐れるというのですか」
<pf>
「…俺だ」
<pf>
半刻後、城壁からはっきりと砂塵が見えてきました。
今北郷一刀と名乗った男は開いた北方の城門の上に一人、『曹』という旗を掲げたまま立っています。
「これは本当に自殺行為ですよ。十中八九は失敗します」
「今でも城門を閉じて籠城しましょうか」
「私はそれが正しいと思います」
既に援軍要請は送りました。何日かかろうと援軍が来ると判れば、死を覚悟してでもここを守りぬきます。
「稟ちゃんはあのお兄さんの噂を知っていますか?」
「…北郷一刀、以前曹操さまに使えていた、天の御遣いという男で、誰も追いつくことの出来ない知略家だそうですね」
黄巾の乱では五百の兵で2千の黄巾賊を殲滅し、黄巾党の本城を誰よりも早く見つけ出し陥落するに置いて一番の功を挙げたという。
それからしばらく劉備軍に居ましたが、連合軍が終わった後曹操さまの元に戻ってきた男…。
「夏侯淵将軍が失権したのもあの男が関連しているそうですね」
「政治的な話はそうですね…でも連合軍にてのあのお兄さんの戦果もすごいらしいですよ」
「と、いうと?」
「何も、董卓軍の側について連合軍を解散させるために洛陽を全焼させたとか」
「……ただの放火魔ではないですか。しかもあれについては袁紹の仕業という流言が…」
「袁紹を殺したのもあのお兄さんだそうですね。袁紹軍を壊滅に送り込み、現在の劉備軍を大躍進の礎を作った人だとか」
「そもそもその袁紹軍をちゃんと片付けることが出来なかったからこんなことになっているわけですが…」
「こんな噂もありましたね
彼を得ずとして天下は得られず、と」
「あー、あー、テスト、テスト中」
その時でした。
どこからか大きな人の声が聞こえてきました。
これは…あの男の声?
「おい、俺の声が聞こえるかー」
「はーい」
「こ、これは一体…!」
肉声でこんな大きな声が出せるわけが…
「そこに走ってる連中ちょっと止まれ。俺の名は北郷一刀だ。繰り返す。城主の北郷一刀が告げる。逢紀はそこに軍を止めろ!」
あの男は何をしているのか。
「郭嘉さま、敵軍が進軍速度を下げ始めました」
「なんですって?」
「お兄さんの声が聞こえたようですね」
「聞こえたにしても…まさか本当に止まるなんて…」
それほどあの男が大した人間というのですか?
「早く止まれ、逢紀!俺が話があるからその砂塵蒔くのやめろ!」
もうむちゃくちゃでした。
やがて袁家の残党は進軍を完全に止めました。城からわずか数理離れている場所でした。
「何考えてここまで来たか判らないが…いや、判る、判るが俺がここに居ると知っていてここに敢えて突撃したというのなら褒めて使わす他ないな。お前らが連合軍でどれだけ惨めに俺にやられたか忘れたわけではないだろうな。まあ、歓迎する。攻めてくるなら今のうちだな」
あの男は何を言っているのですか。
「あ、ちなみに言っておくが、こちらの戦力は5百だけだ。おまけに城門を開けてる。だから欲しいなら勝手に入って占領すれば良い」
相手を挑発している男の姿を見て冷や汗をかきました。
本当に大丈夫なのだろうか。
偉そうにいうけど、本当にこのまま攻めて来られたら最初から籠城に徹したよりも悪い状況になります。
「…あぁ、そういえば稟ちゃん、朝良い夢を見たという話をしましたね」
「なんですか、こんな時に夢の話なんて…」
「さっきお兄さんが言ってたじゃないですか。陳留の内政に困っているって」
「……」
「そろそろ頃合いだと思いませんか?袁紹もいない今や私たちがこの地域で見せるものも少ないですし、もう普通に陳留に仕官した方がいいと思いますけど」
「……」
元々は連合軍が結成される前から曹操さまに仕えたいと思っていました。陳留に行こうと思った頃連合軍が結成されて、陳留に曹操さまがいなければ我々の実力の見せ場もないと思い、この辺境で袁紹との戦いが起こる時を待っているつもりでしったが、なんと連合軍の解散と共に袁紹軍は劉備によって滅亡。私たちが出る幕がなくなってしまいました。
「今攻めてきたらそうだな。絶対勝てるだろうと思ってるだろうな。それは事実だ。今こちらには兵もなければ大した武器も策も何一つない。だからどうぞ攻めてきてみろ。俺が完全に無策で無能だとしといて目をぐっと閉じて突撃すれば良い。だが覚えておくことだ。今お前らに話している相手がどんな風にお前らの顔に泥を塗ったのか、あの地獄を作り上げたのが一体誰だったのかをだ。……まだここに一歩でも近づく気があるか?」
男の挑発は度が過ぎていました。
しかし男の言葉が終わったと思ったら間もなくして逢紀が率いる袁家の残党は我らの城から離れ始めました。
「まさか本当に舌三寸だけで引き帰らせるなんて…」
「それだけあのお兄さんを相手にするのが怖かったのでしょうね。連合軍に参加していなかったからなんとも言えませんが、参加している人たちにとっては恐怖の対象かもしれませんね」
「洛陽を燃やして、袁紹軍を壊滅に押し込んだ男ですか…」
そんな策略家が曹操さまの側に居るのなら…そこに私たちの居場所はあるのでしょうか。
<pf>
「こんなブラフが通るとは…賭けもやってみるものだな」
「賭けだったのですか!?」
ここに来てなんてことを…!
「まぁ、4割ぐらいは成功すると思った。…だがこれは時間を稼いだことにすぎない。確実に行くには…」
「…一刀様」
その瞬間流れる水のように話をしていた男が固まりました。そして、声がした後ろの方を向くと私たちの後ろにまるで鬼のような形相ですごい剣幕を出している武将が一人いました。
「なっ?!」
「おお…禍々しい感じがするのです」
とても危険な空気を感じた私と風は直ぐに二人の間から離れました。
「……いつ来た、凪」
「ついさっきです。城が臨戦状態に入っていてびっくりしましたけど、一刀様の声が城中に響いてたたので大丈夫だろうと思っていました」
「そうか、その信頼はありがたいな」
「はい、それに比べて突然また姿を消した一刀様と来たら…」
男の人は顔の筋肉ひとつ崩さずにその武将と語り続けていました。
「桂花さまより命令がありました。四肢を捕縛してでも連れて帰って来いと」
「……そんなことしなくても用は済んだからそろそろ帰るところだった」
「はい、後個人的に私がとても苛立っているので、一応そこは清算していただきたいと思います」
「……はぁ…」
その後ため息をつき、男の近づいた武将は男の頬を体を大きく振って引っ叩きました。それで横に倒れて何回か転んだ男は私たちが行ってみた所気を失っていました。
作者はこの小説を韓国、日本に同時連載するようになりました。
日本で連載が遅れたのも実は韓国でこっちと速度を合わせるためだったりしますが…。
とにかくこれから『再び』恋姫入りした北郷一刀に乞うご期待。
これからもご感想にもしっかり返答いたしますのでそちらの方宜しくお願いします。
ちなみに次の連載日は19日の予定(逃げ