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人類には早すぎた御使いが恋姫入り  作者: TAPEt
覇王と御使いで七日間の駆け落ち
70/149

二日目(前)

2日目:人間


華琳SIDE


目を覚ますと、夜が明けるぐらいの時間だった。

彼から渡してもらった『ぱじゃま』を羽織って寝床を出て鏡を見ると、髪型が崩れていた。


「……困ったわね」


私の髪は、虎牢関で麗羽に斬られたせいで短くなった右の方がやっと均衡を合わせてくれるほど伸びていた。


ここには髪を整える道具がない。

櫛みたいな道具は置いてあるけど、他の道具は使い方が判らなかった。

そしてなによりもこの髪型を整えるには匠が造った特殊なものでないといけない。

もちろん元の世界からは体一つ以外に何一つ持ってきてない。


要するに、このままだと彼の前で整っていない髪を晒すはめになってしまう。




……本気でまずいことになってきたわ。




<pf>



「ん、起きたか」


一階に降りると彼が片手には湯気が上がる飲み物が入った杯を、もう片手に紙の束を持って私を見た。


「朝からシャワーでも浴びたか」

「え、ええ…まぁ…お湯をいつも使えるってあなたって本当贅沢な生活していたのね」


頭を布で覆った私を見て彼はそう言った。

人の気は知らずに……知って欲しくないからやったわけだけど。


「悪いが、今日は朝食は抜きしよう。行くどころがある」

「何故出かけることが朝食を食べないことに繋がるのよ」

「関係があるから言っている。代わりと言ってはなんだが昼飯は豪華なものが食えるだろうと思うから期待しておけ」

「それは本当に期待していいのでしょうね」


私は彼が座っている『そふぁー』に近づいて後ろから彼が持っている杯に目を移した。


「何なの、その黒い飲み物は、湯薬?」

「コーヒーという嗜好品だ。飲んでみるか」


彼は自分が飲んでいた杯を勧めながら言った。

少し口にしてみると、


「苦っ」


彼が嗜好品というものだからてっきり甘味のあるものだろうと思ったら苦かった。


「まぁ、そうだな。普段なら砂糖を入れるのだが…今日はこんな感じだ」


彼は予想通りの反応だ、と言いながら何の迷いもなく私が口をつけた杯に再び自分の唇の跡を残していった。


「その手に持っている束は何なの?」

「『新聞』だ。昨日見せたニュースなどを紙面に移したものだと思ってくれて良い」

「これがこの世界の瓦版ってわけね」


覗いてみると、信じられないほどの細かい大きさの字が余白なく大きな紙面を覆っている。

それも瓦版のように1面だけではなく、なかなかの量。

彼曰く、手で筆者するのではなく、カラクリを利用して大量に刷ることが出来るらしい。

その技術自体もすごいけど、それほどこの世界では日に多くの事件が起きているというわけね。


「8時…あと一刻経てば向かえが来るはずだ。それまでに出かける準備をしてくれ」

「出かける?どこに?」

「行ってみれば判る。さて…本題に入ろう」


ここで『本題』と言いつつ彼の視線が私の目線より少し上、つまり頭の方に言った。

…知っていて知らんふりしたわね。憎たらしい。


「一つ良い知らせをしてやると、俺は造形には一見識ある。任せてくれれば髪のセットぐらいは出来るのだが」

「私の髪を貴方に任せるなんて真っ平御免だわ」


大体あなたに見せたくないからこうしてるんじゃない。


「とはいえ、ここには他に整えることを手伝える奴も居ない」

「部屋に置いてあった道具の使い方を教えなさい。それでなんとかするわ」

「教えると言っても、先ず手本を見せないわけには教えることが出来ない。ソレこそ俺がお前の髪を整えれば済む話だ」

「だからそれが嫌って言っているじゃない」

「……」


彼はとても困った顔で私を見た。

そんな顔しないでよ。私が駄々こねてるみたいじゃない。


「この際髪型を変えてみるのはどうだ」

「嫌よ。私はあの髪型がいいの」

「俺から言わせてもらうと、あの髪型はあの阿呆の亜流に見えて大変対応に困る」

「なっ!そんなこと考えていたの、あなたは!」

「実は最初袁紹に会った時、お前がアイツを嫌う理由が髪型のせいだと思った」

「ふざけるんじゃないわよ!」


ここまで来てなんて侮辱させてくれるわけ!?


「新しい体験だと思えば良い。この世界には人の髪の面倒だけを専門的に見る店とかもある。いいところを紹介しよう。正直な話、お前の髪型はこの世界でも時代の斜め上を行くのだ」

「向こうで外見のことなんてどうにも思わなかったあなたがそれを言う?」

「向こうでの俺のことはともかく、この世界に来た以上、俺がお前の外見のことを気にするのは当然の働きだ。最も、俺はお前にこの世界での休息の時を約束したつもりであって、新しい悩みを増やすつもりはまったくない。だから解決の道を示してるうちにさっさと従え」

「…っ!自分の世界だからと言って強気に出て…!!」


だけど、確かに彼の言い分も最もだった。

このままだと私はただ無理難題押し付けているだけだし、自分でもどんどん子供の駄々みたいに思えてきた。


「…判ったわ。だけど、ここはあなたの世界だから、あなたに合わせてあげる」

「後悔はさせないように最善を尽くそう」

「当たり前よ。後、帰ったら覚悟してなさい」

「……」


彼はしばらく黙りこんでは新聞に目を移した。

本当に帰ったら覚えてなさい。


<pf>


彼に髪を任せると、彼はかなり手慣れた作業で髪に櫛を入れて、雑に回っていた髪を下ろした。

変な道具を使って丁寧に髪を通すと、直ぐに髪は直線上に降ろされた。

元々少し巻きのある髪なのにそれがすっかりなくなっちゃったわ。

元が手入れされて良い髪だったのが、更に彼が手に香油みたいなのをつけて髪を撫でると更に潤いのある髪に見えた。


「取り敢えずこれで行こう」

「このまま?他に手なんて付けないの?」

「後は専門家に任せよう。後、俺は手を加えていない自然体の髪が好みだ」

「あなたの好みなんて聞いてないし、普段バサバサとした髪で過ごしていたあなたに言われたくもないわ」

「…それじゃ着替えの服は置いておくから、着替えたら俺の部屋に来てくれ」


彼にそう言って私の部屋を出て行った。

彼が門を閉じた後私はぱじゃまを脱いで彼が置いていった『わんぴーす』を着た。

天の世界は今夏だそうだ。

服がとても軽い素材になっていて、ふと服を羽織ってないんじゃないかと思うぐらい軽い。

これって本当は室内用なんじゃないの?

本当にこんなの着て外に出るの?


着てきた服は洗濯してしまったらしい。

そもそも目立ちすぎてこの世界で着ていると「こすちゅーむぷれい(?)」に見せるらしい。

それが何か聞いたら『俺が初めてお前の前に現れた時お前が俺の服について思ったように思うって意味だ』と、とても解りやすい説明を受けた。

自覚はあったんだね、と言ってやったら視線を逸らしたけど。


ブーブー


その時窓の外から変な音が聞こえた。

窓から外を見てみると門前に妙なものが置いてあった。


コンコン


「準備出来たか」


その時のっくする音が聞こえて一刀の声が聞こえた。


「ええ、出来たわよ」


私がそう応えると門が開いた。


「迎えが来ている。そろそろ行くぞ」

「迎えって、外のアレのこと?」

「この世界の一般的な移動手段だ。車は車でも速度は段違いだからそこは事前に言っておく」


車…ね。

そういえば最初にたいむましーんに関して説明された時にも言ってたわね。より早く移動するための手段が存在すると。


「判ったわ。ところでどこに行くのか聞いてもいいかしら」

「それは着いてからの楽しみだ」


彼はそう言って先に部屋を出て行った。

私が彼の後を追って一階に降り、家の門前(玄関)を出ると、彼はその『車』のらしきものを開いて私に先に入ることを薦めた。

私が中に座れるようになっているところに入って座ると、彼は門を閉めて反対側から入って私の隣に座った。


「行くぞ」

「はい」


車の前には見知らぬ男が一人が前の輪のようなものを握って座っていた。

彼が一刀に返事をすると突然その車は動き始めた。


「うわっ!」


彼に先に言われたにも関わらず準備なしで動き出した車の反動で私はびっくりして声が出てしまった。


「如何がしました?」


前から車を操ってるらしき男から声をかけられたけど、恥ずかしくてなんでもないと平然とした声で返した。

横を見ると一刀が視線を窓側に向けていたけど窓に反射された姿から彼が口を手で塞いでして、しかもその手が震えていることに気づき私は彼の足を思いっきり踏みつけた。

彼がそれを躱したことは言うまでもない。



<pf>



初めて車に乗った感想をいうと、速いという割には体に来る反動があまりなくて最初は本当にそんなに速いのか自覚できなかった。でも、窓の外を見ると風景が通り過ぎる速度が馬の時とは段違いだったからそれでやっと実感がいった。


風景がどんどん変わっていき、住宅地から市街地に来ると建物の高さがどんどん増していき、その中には天をぶち抜いたかのように高いところまで伸びた建物までもあった。

様式美はともかく、あれだけ高く建てられることに驚きを隠せなかった。


「華琳、あまりはしゃぐな」

「だ、誰もはしゃいでなんかないわよ」


彼のけんつくを食わされてそう返したけど、実際彼がそう言うまで私は窓に手をつけながらもうちょっとでも多くその景色をこの目で見ようと必死だった。


時間が過ぎて、車がある白い建物の前に止まった。


「尽きました。Mr.北郷」

「待つ必要はない。今日はこれで帰れ」

「はい」


彼が車の騎手とそう話してから外に出て反対側に居る私のところの門を開いてくれた。


「着いたぞ」


私が降りて彼が門を閉めると、車はまたどこかに走っていって直ぐに見えなくなってしまった。


「ここは……」


周りを見ると、そこには人為的に造られた園や長椅子などが置いてある公園、そして目の前には大きくて白い建物があった。

周りの人は丈夫な人たちも見えたけど、中の多くの人々は皆同じ白い服を着ていて、あるものは輪のついた椅子に座っているものや、歩きにくそうに他の人に支えてもらっている人、パッと見てもどこか具合が悪そうな人も大勢居た。


「なるほど、ここがこの世界の医院ね」


私はそう結論を出した。


「病院という。今日ここに来た理由は、お前と俺の健康チェックのためだ」

「健康…あ」


今はなんともないような格好で私と話してるけど、実際彼は最後に意識が会った時でもほぼ死にかけていたし、それからほぼ一ヶ月近く昏睡状態だった。決して丈夫だとは言えない。今は大丈夫でもどこか悪いところがあることには間違いないでしょう。


「あなたはそうだとして、私は特に悪いところは…」

「悪くなってからは遅い。現代の医学は基本は予防と初期治療にある。そのためにも定期的な健康検診は必須だ。最もお前は初めてだろうけどな」

「…なるほどね」

「朝食は食べなかったのはこのためだ。検査するためには腹の中を空っぽにする必要がある。精密検査に予約したから昼時まではかかるだろう」

「そう、判ったわ」

「なら行くぞ」


彼の後を追って中に入ると、中は大勢の病者やその保護者たちで混んでいた。まだ朝なのにすごい人ね。

が、彼はそんなことは気にもせず受付らしき場所に向かい用件を話した。


「HONGO KAZUTOで予約している」

「少々お待ちください…確認しました。北郷一刀様と北郷レベッカ様ですね」

「…は?」

「合っている。さっさと準備してくれ」


れべっかって誰よ。


「ちょっと、どういうこと?」

「言ったはずだ。この世界でお前の名前は過去の歴史に残っている。それとも真名で名乗るつもりか」

「……仕方ないわね」


ていうか先に言いなさいよ。


「少々お待ちください。案内役のナースが直ぐに来ます」


本当に少々の時間待って、本当は受付の女が話を終えた時案内役の二人の女が来て私たちを連れて行った。


<pf>


それからは色んな『検査』が始まった。

身長や体重などの測定から針でわざと腕に刺して血を取ってそれで検査するなどと、私に理解出来る行為はそれぐらいだった。そのほかの変な輪のような機械の前に横になって数十分も過ごしているなどの経験はいい思い出にもならないぐらい分けわからない時間が過ぎて、やっと長かった検査が終わった。

時計を見た時は十二時を過ぎて一時半ぐらい。既に昼時も過ぎようとしていた。


検査結果は何日が後に出るということでそろそろ昼食に行くのかと思えば、案内役だった女が私たちをどこかに連れて行った。

そこには白衣を来た老年の男が私たちを待っていた。


「こちらがMrs.Hongo(ミセス・北郷)の脳内映像です」

Miss(ミス)だ、ドクター」


彼が何か医員に訂正を求めて、医員は咳を払った。


「失礼。Miss.Hongoの映像です。こちらに黒くて丸い部分が見えますね」


彼が指した写真は私の頭を横に斬って撮ったかのような黒白の写真だった。どうやって撮ったのかしら。

それはそうと、医員の言う通り、確かに小さい玉のようなものがあった。


「それがどうしたの?」

「腫瘍です。この腫瘍が脳の血管を抑えて脳出血につながる可能性があります」

「……?」


私は意味が判らなかったけど、一刀の顔に皺が出来るのを見るとあまりいい話ではなかった。


「悪性か?」

「いや、ただの陽性腫瘍。謂わば脳内にコブが出来たようなものです。しかし、このまま置いておくとかなり危険ですね。Miss 北郷は普段ストレスが溜まると頭が痛くなったりなどの経験をしたことがありますか?」

「…ええ、気にすることがある時とか…ある時は仕事に手がつけられないほど痛い時もあったわ」

「この脳内の腫瘍が血管や周りの神経などを刺激しているのです。かなりの痛みだったはずですが、今まで良く耐えましたね」

「それで、治療方法は?」

「確実な方法は手術でも行けますが、手術するほどの大きさではありませんし、脳であることもあって危険性も否めません。薬を使って少しずつ縮めていけば一ヶ月ぐらい経つ周りに影響を及ばさないほどに縮小させることが出来るでしょう」


一刀はその話を聞いて少し落ち着きを戻した様子だった。


「そして、Mr.Hongoのことですが…」

「…あ、レベッカー、少し外で待っていてくれ」

「………は?何でよ?」


私はレベッカーが私を呼んでいることを少し遅く気づいて返事した。


「なんでもだ」


彼らしくない駄返事だったので


「断るわ」


と応えてやった。


「……」

「宜しいでしょうか」

「…構わん、言ってくれ」


一刀は諦めたかのように医員の言葉を促した。


「Mr.Hongoの症状ですが、右目の視力がほぼ完全に消滅しています」

「……え?」


私は驚いて彼の方を見た。


視力が消滅って…目が見えないってこと?


「しかもこの写真を見ると、視神経があるべき場所が真っ暗になっています。中が空になっていて視神経がほぼみつかりません。まるで最初から神経がなかったかのように…」

「……それで、視力が戻る目論見は?」

「眼球の問題ならともかく、視神経が完全に消滅したのならどうにも…」

「…だろうな」


彼はさっきの私の時とは違って諦念したような声でそう言った。


また出た。

彼の利己主義者みたいな装いの内側にある己への無神経。

医員が彼に後半年もないと言っても彼は同じ反応をしたでしょう。


「そもそも原因は何なのよ」


私が医員に聞くと、医員は困った顔をしながら応えた。


「判りません。このような症状は50年も医者を続けましたが初めてでして…本当に最初から視神経がなかったのではないかと思うほどに消えているのです」

「そんな馬鹿な話が…」

「レベッカー、彼に言っても無駄だ」

「あなたはもうちょっとなんとか言いなさいよ!」

「うるさい!俺の体だ、黙ってろ!」

「!」


私は彼が怒鳴る姿を初めて見たので少し怖気づけてしまった。


「………」

「…そのほかにも右腕の傷や左脚の筋肉損耗など、色んなところにかなりの重症を負っているように見受けられますが、一体あなたの身に何があったのか私が聞きたいぐらいですね」

「…ドクターが知ることはない。欲しい情報は得た。もう帰る」


私がまだ驚いた心臓の高まりを抑えられずに居た時、彼は先に部屋を出た。

私は彼の後に付いて外に行きたかったけど、二人だけになって彼に何といえばいいのか判らなくて少し迷っていた。


「死の受容の5段階というものをご存知ですか」

「へ?」


その時老医員が私にそう言った。


「死の受容と言っても、必ず死とだけつながるわけではなく、人間が受け入れにくい状況にぶつかった時に人が心理的に通る5つの段階のことです。拒否、憤怒、妥協、絶望、受容」

「……」

「彼は貴女の前では出来るだけ平然を装ってしていたのですが、結局のところ彼も人間である以上、この5つの感情の起伏を通るのです。それを周りの人が知るか否かとは関係なく…」

「……」

「彼は貴女に怒ったわけではありません。ただ心の奥に秘めていた本来の感情を曝け出したことに過ぎないのです。そして潜めていた感情を表に出した方が、受け入れが速いという研究結果もあります。側に居て、彼がうまく乗り越えられるように手伝ってやってください」

「……ありがとう」


私は老医員にそう礼を言って外に出た。


<pf>


一刀SIDE


外に出て華琳がついてこないことを見て俺は門を閉じた。

そしてそのまま横の壁に背中を任せたまま両手で顔を覆った。


何をやっているんだ、俺は。

自分で人に怒ってしょうがないと言ったくせに何彼女に怒鳴りつけている。


そもそも片目が見えなくなったのは虎牢関の出来事以来だった。

虎牢関で華琳が軍を出したことに知った俺の脳内によぎった最初の未来図は夏侯元譲の負傷だった。

虎牢関に兵を出した華琳の目的とはつまり張遼、あわよくば呂布の確保だった。

だが乱戦の内、そして元譲の性格からして無理をするのは当然で、負傷することもある意味必然と言えた。

俺が華琳に機会を与えて、そして彼女は三度目も裏切った。

最初は黄巾党の時、2つ目は初めて連合軍に来て流琉が俺のところに来た時、そしてこの虎牢関でのこと。


厳密にいうと三回目は俺の勝手な望みだった。

もちろん華琳ならそこで出ると判っていた。だけどいざこの後にあるだろう結末とそれを耐えられるかどうか判らぬ華琳の姿を考えると、そうせずには居られなかった。


もし俺が元譲を助けたことで視力を失ったとすれば、なるほど、雑だけど理屈はちゃんとある。

そもそも元譲が盲夏侯と呼ばれるようになるのはこの時期ではないが。

アイツの場合今でも両目ともないのと同じぐらいだから変わらない。


「…ふふっ」

「何一人で笑ってるのよ。気持ち悪いわよ」


ふと気づくと華琳が既に外に出て俺を見ていた。


「さっきは怒鳴って悪かった」


俺がそう言ったけど、華琳はジド目で俺を見ながら言った。


「口だけで謝るつもりでも駄目よ。私は今お腹が空いて気が立ってるの」

「…それは心配するな。良い所に予約をつけてある」

「本当に期待出来るんでしょうね。言わずともわかると思うけど、私は料理には目が高いわよ」

「その時はお前が厨房を占領すれば良い。そしたらそこの料理長がお前の弟子に入るか二度と料理なんか作れない身になるだろう」

「冗談はそれぐらいにしなさい」


華琳はそう言って両手で俺の顔に触れて俺と瞳を合わせた。


「…こうしたら見えないの?」


彼女が俺の左目を手で塞ぐとほぼ暗闇同然の景色が写った。


「ああ」

「…いつから見えなかったの?」

「……」

「ねぇ、私が聞いてるじゃない」

「…お前が心配しなくても良いことだ」

「心配していいのかしなくてもいいのかは私が決めるわ。あなたが傷物になって一番困るのが誰だと思っているの」


…他に言い方があるだろうに。


「行こう。実は予約時間がギリギリだ。今から行かないと間に合わない」

「…判った、行きましょう」


華琳はそう言って俺から手を離した。


己の選択の責任を人に押し付けることは人としてしてやいけない最も愚かなことの一つだ。

俺は確かに迷ったが、だといってその行為が間違ったと思ったことはない。

もしかしたらその三度目の裏切りこそが俺が気づいた時かもしれない。

何故出会う前から彼女の顔を知らされていたか。

その理由を…。


「社長!」


…!


「何?」


…早いな。


「こんな所で何をして…」

「華琳、走るぞ」

「え?ちょっと…!」


遠くから来る奴を確認して俺は華琳を連れてさっさと隣にあった非常用階段を使って下へと向かった。

いつも言っただろう『チョイ』。人を掴む時には相手に予告するものではないと。



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