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二十七話

桃香SIDE


曹操さんと別れた後、私たちは私たちの陣に戻るために歩いていました。


「桃香さま、先に言っておきますけど、華琳さまの時のような顔では直ぐにバレてしまいます。もう少し泣き崩れそうな様子じゃなければ…」

「私ってそんなに演技下手なの?」

「……正直、あの時の顔はなんとも言えません。不自然でした」

「そ、そうなんだ…」


皆に一刀さんが死んだようにしておくのも心が痛むけど、そもそも皆を騙せられるかちょっと心配です。


「桃香さまー!!」

「あ」


遠くから私を探すために陣の外に出ていた愛紗ちゃんが馬でこっちに向かってきます。


「愛紗ちゃーん♪」

「桃香さま!お顔!」

「はっ、そうだった」


えっと、悲しそうな顔。悲しそうな顔。


「だからそれじゃ駄目ですって!」

「ええ!?精一杯頑張ったのに!?」

「表情だけじゃ駄目です!本当に一刀様が死んだのだと想像してみてください!」

「え……」


一刀さんが……死んじゃったら…?




「桃香さま!!また一人で戦地に……」

「…愛紗ちゃん……」


どうしよう…


「桃香さま…?」


想像しただけなのに……涙が止まらない。


「どうしよう…愛紗ちゃん。…一刀さんが…一刀さんが……」

「北郷がどうしたと……!」


愛紗ちゃんの視線が隣の凪ちゃんに移った瞬間、私は血まみれた一刀さんの上着を持ったまま愛紗ちゃんに抱きつきました。


「愛紗ちゃああん!!」

「そんな……ことが…」

「……切り替え早いですね、桃香さま」


なんか聞こえたけど気にしない、気にしない。



<pf>



「これが…本当にアイツだと言うのですか」

「そんな…」

「嘘なのだ…」


陣に戻ったら皆心配した顔で私を向かえましたけど、持ってきたものを見た瞬間、皆の顔が青くなりました。

知らないのはここに居ない雛里ちゃんだけです。


「先に逝ったか…あの時私たちがついて行っていれば…」

「それを言えば忠義を誓った私の罪です。私さえお側にいたならこんなことには…」

「楽進殿はアイツの命令に従ったまでだった。安易に一人で向かった北郷殿の責任だ。しかし……こんなことで死ぬような者ではなかったはずだ。何故こうもあっさりと」

「……北郷さんは知っていたんです。虎牢関に入った自分が死ななければ私たちが危険になることを…」

「どういうことなのだ?」


朱里ちゃんが暗い顔をしながらも皆に説明しました。


「今回袁紹軍は董卓軍の奇襲で大きな被害を受けましたけど、その原因を辿れば北郷さんの挑発です。袁紹さんが生きている今、今日でも軍議で諸侯たちが集まれば、私たちが董卓軍と内通して、袁紹軍を挑発しこの連合軍を潰そうとしたのだと罪を問われるかもしれません」

「馬鹿な!我々が内通していたというのか!大体悪いのは袁紹だろ!」

「名目上ではそうですが、状況がすんなりと行きすぎてます。実際に、北郷さんが個人的に虎牢関の将と内通していたかもしれませんし……そこのところ、どうなのですか?」


朱里ちゃんは凪ちゃんの方を見て聞いた。


「…はい、一刀様は張遼と組んで、袁紹を打つおつもりでした」

「!!」

「やっぱり、そうでしたか」

「我々に言わずにそんなことを企んでいたのか。このままでは我が軍は連合軍に潰されてしまう!」

「一刀様は桃香さまのためと思ってしたことです」

「しかし、袁紹さんを殺すという計画は失敗しました。先にこれを見抜いていた曹操さんが動いたせいで、袁紹さんが現在曹操さんのところに居ます。恐らく曹操さんは事前にこれを知っていたのだと思います」

「つまり…」


私たちの軍が袁紹さんによって潰されるか否かは曹操さんに掛かってるってことだね。


「誤魔化すことは幾らでも可能です。ですが、袁紹軍は今回で大きな被害を受けました。話なんて聞かずこちらを攻撃する可能性もないわけではありません。だからこそ、北郷さんは自ら虎牢関にて命を落す方を選んだのかもしれません」


そうか。

一刀さんは私たちのためにわざわざ死んだフリを……


「…今は私たちに出来ることをやろう。取り敢えず、皆戻って休んでて。朱里ちゃんは、もし朝軍議が開かれた場合には準備しておいて」

「はい」

「桃香さま、宜しいのですか」


愛紗ちゃんが心配そうに私を見てるよ。

あ、そっか。一刀さんが死んだんだもんね。

ここで一番苦しむべきなのは私……いや、もしそうだったら凪ちゃんの方が辛いかな。


「私は大丈夫だよ。私は雛里ちゃんにもこれを話しておかないといけないから…」

「私もご一緒に…」

「ううん、私一人で行くよ」


雛里ちゃんには…話した方がいいかな。取り敢えず、皆みたいに嘘を言って様子を見ようかな。



<pf>



雛里SIDE



前に北郷さんに告白したことがあります。

あなたが今からでも、群雄割拠が始まる寸前のこと時すでに遅しな時期に、旗揚げをするとしてもあなたに付いて行く覚悟があるって。

でも、北郷さんはこう返しました。


『お前は玄徳を選んだ人間だ。俺はこれ以上お前に興味ない』


ある意味、その答えは必然だったのかもしれません。

私は桃香さまを主君に選びました。桃香さまこそこの世の平和を本当に望んでいる人だと思ったからです。

それはつまり、私自身がそんな天下を望んでいるわけでもあります。


でも、私は自分に嘘をついていたのかもしれません。

私が本当に望んでいた主君の姿って……私が望んでいたこの天下の未来図は何なのでしょうか。


「雛里ちゃん、入るね?」


そんなことを思っていた頃、桃香さまが入って来ました。

昨日北郷さんが虎牢関に捕らわれたという話を聞いた以来です。


「桃香さま、北郷さんは…」

「……ごめんね」


謝る桃香さまの顔を見て、私はやっぱり最悪を想定しなければいけませんでした。


「そうですか」

「ごめんなさい…」

「桃香さまのせいじゃありません。最も…まだ死んだとは言い切れません」

「虎牢関から一刀さんの服と首を持ってきたよ」

「服は脱がせばいいし、首なんて顔をむちゃくちゃにして、目玉の抜いてしまえば髪色だけ合わせたらいいです」

「……」

「どうなんですか?」


朱里ちゃんが桃香さまにどう言っただろうかは想像がつきます。

北郷さんが死ななければ、私たちは本当に危ないんです。

でも、それが単に『桃香さまの軍師』として見た視線での見解です。

私は桃香さまの軍師であると同時に『北郷さんに生きていてもらいたい人』でもあるんです。

どうしても北郷さんが生きている方向に考えてしまうのです。これは仕方ありません。


「雛里ちゃんは一刀さんが死んでないと思う?」

「死んでいません。死ぬ理由がありません。ですから、桃香さまも希望を捨てないでください」

「でも、もし死んでいたら…」

「その時になって私が泣き崩れるとしても、私は最後まで諦めません。諦めたら私の中の北郷さんも殺してしまうことになりますから」

「……」


桃香さまはしばらく私を見つめていました。

そしていつものようににっこりを笑ってみせました。


「うん、私も信じてるよ。一刀さんならきっと生きてる」


私は桃香さまも私のように最後の希望を捨てないでいて欲しいです。

少なくとも、北郷さんが生きていた時に、桃香さまがまるで幽霊を見る目で見ていたら、可哀想ですから。



<pf>



桃香SIDE


案の定、朝の食事を取っている時、袁紹さんの代わりに曹操さんから諸侯たちに集まって欲しいとの連絡がありました。


「麗羽はこちらで介抱しているわ。顔良将軍は重傷でまだ目を覚ましていないけど、文醜将軍は目を覚まして今は麗羽と一緒に居る。袁紹軍の被害は今はまだ測れないけど、君主と将たちが皆倒れたのだし、大体予想は付くわね」


袁紹軍の被害状況はまだ確かなものではありませんけど、とてつもなく大きな被害なのは間違いありませんでした。

それを聞いた諸侯たちは皆静かになりました。


「後は、劉備軍の将、北郷一刀が死んだわ」


諸侯たちがいる卓の中央、私と朱里ちゃんの前には一刀さんの首(偽)を入れた木箱があります。

でも、諸侯たちが一刀さんの死なんかよりも気になることがあったようです。


「総大将の麗羽があんなにやられるとはな。なんであんなことになったんだ?」

「何も、劉備軍のあの天の御使いの人との喧嘩の後、全軍を一気に後退をさせようとする際に後ろから突かれたとか…」

「なんだそれ。一気に抜けるとか馬鹿だろ」


最初から白蓮ちゃん、袁術軍の軍師張勲さん、後…誰だっけ。


「西涼の馬超さんですよ。五胡との戦いで忙しい西涼の盟主馬騰さんの代わりに娘さんが来たのです」


と、隣で朱里ちゃんが説明してくれました。


袁紹さんが大きな被害を受け、もはや戦線に立てるかあやしくなってきた今、この連合軍という船は行く道を見失い揺れていました。


「とにかく、総大将の麗羽さまがああなってしまってはもう連合軍なんてやれたものではおらぬ。妾たちは豫州に戻るぞ」

「ちょっと待った!じゃあ董卓はどうするんだよ。皇帝を助けるんだろ!」


そう、この連合軍はここで諦めることが出来る集まりではありません。


「馬超の言う通りよ。董卓に囚われている帝を助けるために集まったのがこの連合軍。なのに今解散してしまったら、世の笑いもの。そして董卓はこの機を以て一気に勢力を拡張するでしょうね」

「しかし、こんな状況で虎牢関を落すというのも無理がありますし…」

「え?虎牢関ならもう落ちましたよ?」

「「「………は?」」」


私がそう言うと、曹操さん以外の諸侯たちは皆拍子抜けな声を出しました。


「今日確認したわ。現在虎牢関は空になっているわよ」

「それは本当か?」

「なんでだよ。じゃああいつら虎牢関を捨てて洛陽に行ったってことか?」

「理由は分からないけれど、とにかく虎牢関は今や連合軍の手に落ちたわ。残ったは洛陽のみ。こんな状況でも戻ると言うのかしら」

「うーむ……」


袁術さんは見た目は子供ですけど、袁紹さんが居ないこの場で最も地位も高く、多くの兵を連れてきた諸侯です。


「お嬢様、袁紹さまが居ない今こそ、洛陽を手に入れる良い機会ですよ」

「そうなのかえ?」

「はい、洛陽は大将軍何進さんと十常侍との戦いで今やボロボロな城。そんなところで戦うのなら董卓軍に勝つことのなんて朝めし前ですよ」

「……分かった。なら、妾もこのまま洛陽に向かうぞ。惨めな姿を見せた麗羽お姉さまを更に惨めにできるかもしれないしのぅ」

「さすがお嬢さま。よっ、人が良くなる様は絶対にみないその小悪魔のような心、そこに痺れる憧れるぅ」

「うはは、もっと褒めてもよいぞ」


完全に聞こえてますよ。袁術さん。


「そうね。では、連合軍の新しい総大将の役割は袁術に任せましょう」

「うむ!妾に任せるのじゃ!」


…あれ?


「…え?ちょっと待って下さい。誰も総大将になるとは…」

「何を言っているの。麗羽がいない今、代わりに総大将になれるのは袁術しかないでしょ?」

「うむ、うむ、そうじゃな。情けなくも負けてしまった麗羽姉様より、妾が大将になった方がもっと…」




「だ・れ・が、情けなく負けたですって?」




「ぬぉっ!幽霊!七乃!助けてたも!!」

「だぁれが幽霊ですの!」


袁紹さんが軍議場に現れたのはその時でした。

まだ目を覚ましていなかったのでは…?


「あら、麗羽、目を覚ましたようね」

「ええ、あなたが私の居ない間何を企むかを考えたら寝てもいられませんわ」

「何の話かしら」

「とぼけないでくださいます!」


ガン!と卓を叩きながら袁紹さんは曹操さんをにらみ付きました。


「あなたが北郷一刀と組んで私を連合軍の総大将の座から引き下ろそうとしたのはお見通しなのですよ!」


…え?


「とんだ濡れ衣ね。せっかく助けてやったというのに…ものは言い様だわ」

「うるさいですわ!あなたたちのせいで私がどんな目にあったかわかっていますの?!」

「自業自得でしょ?それとも、何かこちらに非があったかしら」

「ありますわ!このわたくしが董卓軍に攻められるように仕掛けたじゃありませんの!」

「はぁ……あのね、麗羽。言っておくけど、董卓軍と一週間も戦っていたのはあなたよ。なのにそんな急に軍を引き上げてみなさい。敵の騎馬隊に攻めてくださいとお願いしてるのと一緒じゃない」

「それもあなたたちが挑発したせいであって…」

「誰もあなたに全軍引き上げてなんて言ってないでしょう。全部あなたがやったことよ。私が何か間違ったことを言ったかしら」


なんか、袁紹さんが私たちじゃなく曹操さんの方を責めていますけど…


「そうやって抜け抜けと…それにあの男はどこに居ますの!あなたもあなたですけど、あの男は今この場で殺してやっても気がすみませんわ!」

「彼なら死んだわ」

「…え?」

「アレが見えないの?」


曹操さんは私の前にある木箱を見ながら言いました。


「ちょ…本当にあの男が死んだというのですの?また私を騙しているわけではありませんの?」

「それなら確かめてみたらどうなの?」

「そうさせていただきますわ」


袁紹さんは私にことわりもなく、その木箱を開けました。

布で包んであるものを解くと、顔の皮が剥かれた首が現れて、袁紹さんを含めたその場でその首を見た諸侯たちが皆顔をしかめながら視線を逸らしました。


「これで分かったわね。あなたの所の将はまだ生きているだけでマシよ」

「……生きていても私の手で殺していましたわ」



「本気で言っているのかしら」

「当たり前ですわ。あの男のせいで名門袁家の当主たるこの私がこうも侮辱されたのですわ!百回を殺しても気がすまないですわ」

「……」

「…桃香さま」

「分かってるよ」


今は耐えよう。ここを凌げば、また一刀さんに会える。

それまでは我慢…


「これで終わりだと思わないこどですわ、劉備さん。あなたのところの人間がくれたこの侮辱。あなたたちにきっちり返して頂きますわよ」

「……」

「この私の侮辱し、名門の名に泥を塗ったあなたたちをこの場で粛清することもできますが、もう一度機会をあげますわ」


ただ、思うことが一つだけあります。


袁紹さんは自分の誇りが傷ついたことばかりを気にして、今回の戦いで死んだ何万の兵士たちのことは一言も言っていませんでした。

董卓さんがどのような悪人であるとしても、袁紹さんのような名ばかりを気にする人がまた権力を握るとすれば、


人々が以前より幸せになることはありえないってこと…。


「これで残るは洛陽のみ。あなたには洛陽に着く際に董卓に最後におとなしく降伏し首を差し出すように説得することを命じますわ。ただし、あなたの兵卒と兵糧を没収します」

「はわっ!」

「余計な真似をしては困りますからね。あなたとあなたたちの家臣たちのみで洛陽に向かわせてもらいましょう。万がまた私を裏切るようなことがあれば、その時はあなたの兵たちの命はありませんわよ」

「何が機会よ。彼女に死ねと言っているのと一緒でしょう?そんなことさせないわ」

「華琳さんは黙っていてください!さもなくばあなたの兵も没収しますわよ」

「はっ!言ってくれるじゃない。忘れてるようだけれど、あなたの将は皆こちらで介抱してるわ。今のあなたの軍なんか黄巾の変わりに金ピカな鎧を着た雑兵よ」

「なんですって!」


ここは、我慢。


「分かりました。袁紹さんに従います」

「桃香さま!」

「当然ですわ。この連合軍で私に逆らうこと、即ち皇帝を裏切る反逆と見しても変わりありませんから」

「その代わり、約束してください。洛陽に行く間、私に付いてきた兵たちに何の危害も与えないって」

「それはあなた次第ですわ」

「……」


一刀さん。

一刀さんに君主としての志を学んだ。

世を見る目を学びました。

この世は私が期待していたことと違ってもっと醜くて汚い所も多かった。

でも、私はその先が見たいんです。

だから、私に見せてください。


この先にあるものを……

あなたが見ているそれを私にも見せてください。


この外史って一人一人の考えなどを詳しく表現してるつもりですけど、その分更新が遅くなってしまうんですよね。

そこんとこ、どうですか?そろそろ展開はやい方がいいですか?


これを書き終えたこの夜、私は開学して大学周辺にある小さな部屋(韓国で『考試テル』と呼ばれる場所)で過ごしています。暫くはここで過ごすことになりました。台風のせいで外は大嵐です。

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