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二十一話(中編)

足掻く。

覚醒する。

躍進する。


青年は自分の行った行為への代価を払う。


顔良SIDE



「早く軍を引きあげますわよ!」

「姫、ほんとにいいのか。十日も攻めたのに何も無しだぜ?今更引いてもカッコわるいじゃん」

「うっ…そんな細かいことどうでも言いですわよ。私を侮辱した華琳さんとあの男。両方ともまとめて潰してやりますわ」


軍議場から帰ってきた姫は、早速全軍を後退させ始めました。

でも、私たちの兵の数は、十日間の被害があったとしても連合軍一。突然軍を引こうとしても、後ろに居る軍の人たちに退いてもらわないと行く道がありません。


「斗詩さん、まだ終わりませんの?!」

「伝令が行きましたからもうすぐ後ろから動き始めます」

「遅いですわよ!これじゃあ美羽さんが先に引いてしまいますわよ!」


袁術さんの軍の方は後退が始まったらしいです。

張勲さんがおそらく先に手を回していたのでしょう。後ろに居るのが孫策軍なのも動きが早い原因の一つでしょう。

あの腹黒な人なら、いつ後退してもいいように準備していたはずです。


そう思っていたら伝令が後方から後退を始めたという伝令が来ました。



「姫、動いてますよ」

「じゃあ早く華琳さんと劉備さんの所に伝令を入れてください。半日と言いましたわね。もし半日が経っても落ちなかったら、私たちが上がって二人の軍の攻撃しましわよ」

「え?!」

「ちょっ、姫、それはいくらなんでもひどすぎだろ」

「ええい、うるさいですわ!私を、この袁家の当主たるわ・た・く・しを侮辱したのですわよ。私を侮辱したのは、袁家の顔を、ひいては『漢』の名を侮辱したことに等しいですわ」


さすがに飛躍しすぎです。


「何かおっしゃいまして?」

「なんでもありませーん」


心の声読まないでください。


でも、幾らなんでもおかしいです。

そもそもあの劉備軍の男は、なんでそんなこと言ったのでしょうか。

以前から少し不気味な男だとは思っていましたけど、突然綺麗さっぱりした感じで現れたと思ったら、今日はまた毒を吐いて、この連合軍で誰もが機嫌を損ねようとしない姫のことを貶めて、挑発しては自分の軍を危険に陥れました。


今回は汜水関のようにうまく行きません。

だって私たちもこんなに攻めたのにビクともしなかったのです。



「はぁ前線は疲れましたわ。斗詩さん、引いたらお湯を用意しなさい」

「はーい」


何か手がある?

私には分からない。

いったい何が目的で…


「むっ?なぁ斗詩」

「何、文ちゃん?」

「なんか、変な音しない?」

「え?そういえば…」


何か扉が開くような音が……


扉?


「関門が…!」


関門が開いてる…。

虎牢関の関門が……!


「姫、不味いです!今すぐ反転しないと…」

「何を馬鹿なことを言ってますの、斗詩さん。私は疲れてますのよ」

「そんなこと言ってる場合じゃありません。アレを見てください」

「アレ?」


姫は後ろを向いて開いている虎牢関の関門を見ました。

もう半分ぐらい開きました。


「あらー、虎牢関の将たちもやっとわたくしには敵わないと気づいたようですね」

「あぁ?どういうことだ姫」

「そんなの白旗を持って私の前に降伏するために門を開いてるに決まってるじゃありませんの」

「そんなわけありませんよ!!これは…」


と私が説明もする前に関門から騎馬隊が出てき始めました。


旗は張、呂。

両方とも出てきました!


「…なんか、降伏するような勢いじゃないけど」

「私のことが怖くて早く降伏しようと急いでるのですわ」

「だから違いますって!あれは奇襲です!早く反転しないとこのままやられます」


姫があまりにもうるさくて全軍反転させてたのがいけなかったです。


「後退中の前線の部隊に告げてください!今直ぐ反転して殿を努めてください!」

「斗詩、あたいもいくぜ。せっかく出てきたから連中と戦ってやる!」

「駄目だよ、今戦いに行ったら私だけじゃ姫が守れないよ」

「ちょ、ちょっと、一体どうなってますの?」


姫も異常な状況に感づいたのか慌て始めた。


「後退してる後方部隊に急ぐように告げてください!それと他の軍の部隊にも伝令を入れてください!」


こんな奇襲をしてきたというのは、向こうの狙いはタダの荒らしではありません。

狙いは…姫。


「文ちゃん、私から離れないで」

「わかってるって」


相手は神速の張遼に飛将軍呂布。

関じゃなく同じ地面に立ったあの二人に敵うの?

いや、勝てるか勝てないかは関係ない。

なんとしてでも姫を守らなきゃ……




<pf>




桃香SIDE


袁紹さんが……落ちる?


「あの、質問して良いですか」

「聞こう。手は挙げなくていい」

「それって、わざと袁紹さんが危険に陥るように仕掛けたってことですよね?」

「そうと言える」


よし


「愛紗ちゃん、星ちゃん、今直ぐ前線に向かうよ。一刻を争うから急いで」

「「はい」」

「よし、凪、玄徳を抑えろ」

「はい?!」


…ちょっとだけ沈黙。


「言っておくが、今更袁紹を助けるのは無理だ。まだ伝令は届いて居ないが、帰って早々撤退を始めただろう。今頃関門が開いているはずだ」

「どうして袁紹さんにそんなことをしたんですか?」

「安心しろ。この件においてこの軍が責任を問われることはない。向こうが兵法も知らずに怒り狂って動いたせいだ」

「そういう問題じゃありません!なんで袁紹さんにそんなことしなければいけないんですか。袁紹さんはこの連合軍を集めた人なんですよ?」

「だからだ」


え?


「玄徳、最初にここに来る時に言ったな。この連合軍は、悪政をする逆賊董卓を潰す戦じゃない。単に名を揚げることと次の時代に備え力を蓄えようとする狼の群れだ」

「だからって…」

「なら聞く。もし本当の逆賊が袁紹だとすればどうする」

「……え?」

「董卓が無実だとしよう。なら無実な董卓を潰してこの連合軍が得るものはなんだ。そしてその中で一番簡単な論理で一番大きな得をするのは誰だ。言ってみろ」

「!!」


その瞬間、何か私の中から動きました。

壊れた花瓶の欠片を集めて元に戻すと、元の綺麗な花瓶に戻るかのようにすべてが嵌る感覚。

それを感じて私は体から血が引くのを感じました。


「そんなの…考えるまでも…」

「考えろ。自分の頭で考えた最悪の結末があるだろ。俺に言ってみろ」

「北郷さん、それ以上は……」

「自分に立ち向かわせろ、鳳士元。玄徳には心に決めたことがある。お前が責任を取るのだ。自分が何をしたか判らぬまま責任なんて取れない。言ってみろ、玄徳。俺が言った通り董卓が無実なら、この連合軍は何だ」


そうでした。

私は決めたんです。

私が背負うべき責任があること。

君主として間違っていた私。一刀さんはそれを気づかせるために自分を犠牲にしました。

だから……


「…もしそうだとしたら……無実な董卓を逆賊だと討ち取り、私たちは都を制することになります。同時に、連合軍の大将にして名家の袁紹さんが陛下を董卓の代わりに補佐することになるでしょう」

「そして、お前もその逆賊謀議に一助けしたということだ」

「……っ!!」


突然吐き気が襲いかかりました。


「飛躍しすぎだ!本当に董卓が悪政を行なっているかもしれないだろ!」

「どっちが利に適っているかの問題だ。本当に逆賊一人を潰すために全大陸の諸侯が立ち上がったとしたらそれは本当に素晴らしいことだ。まさに太平な世だ。だがそうは行かない。この天下にそんな時代はとっくに昔に終わった。この連合軍は本当の姿は、狼の群れだ。そして奴らが狙う羊は董卓、いや、『漢』というこの国だ」

「……うっ…」


私は…自分が皆を守るために頑張っていると思っていました。

でも少しひっくり返せば、それがこんな簡単に人を苦しめることになってしまうなんて…

私が背負うべきものがこんな……


「簡単じゃないだろ…初めて感じるその罪悪感。今までずっとお前が背負うべきだったものがそれだ」

「はぁ……はぁ……」


これが元々私が背負うべき感情。


「俺を見ろ」


私が弱いせいで、皆に背負わせていた罪悪感。


「こっちを見ろ」


こんなの耐えられな…


「桃香、前を見ろ」

「!!」


驚いて前を見ると、


一刀さんが私の目の前に居ました。

とても近くに……

いつの間に…?


違います。

最初からそこに居たんです。

最初から、一刀さんはこんな近くに居ました。

なのに、さっきとは全然違うように感じます。

ずっと違い。今までで一番近いです。


「一刀…さん?」

「独りで背負えとは言わない。仲間たちに担いでもらえば良い。でも少なくも、自分が仲間に何を背負わせているのか、それはわかっておけ」

「今……私のこと…真名で…」

「前を見ろ。何が見える」


私はそう言われて前を見ました。

一刀さんの後ろには、愛紗ちゃん、鈴々ちゃん、星ちゃん、朱里ちゃん、雛里ちゃん、そして凪ちゃんも、心配しているように私を見ていました。


「何が見える」

「……皆のこと…」

「どんな風に見える」

「……近いです。…うまく言えないけど…今までよりもずっと…『近い』です」

「そうか。ならそれで良い、桃香」


また…呼ばれた。


「あの時言ったな。俺は認めた人間の真名しか呼ばない。今日がその日だ。今日感じたそれを忘れるな」

「…はい」


あ、これなんだ。

一刀さんに認めてもらうのって。

いつも馬鹿とか呼ばれたり、散々馬鹿にされたのに…。

こんな感じなんだ。一刀さんに認めてもらえるって…


「桃香さま、大丈夫ですか?」


愛紗ちゃんたちが心配してくれてる。

もう…苦しんでる時間はお終い。


「うん、もう大丈夫だよ」


だから笑って。

私も私に出来る最高の笑顔で皆の前に居るから……


「部隊の準備はどうなってる?」

「は、はい、もう少しで準備出来ます」

「よし、じゃあそのまま暫く待機して」

「はい?」

「今後方に居る私たちだけ動いても、袁紹さんは助けられず私たちの被害だけ増えるよ。他の部隊が動くまで待って、伝令が届いてから動いたら良いよ」

「あ」


まだ伝令も届いてないのにこっちが先に動く必要はない。

必要もないし、行っても無駄。前線には辿り着くことも出来ずに、戦線だけ乱して被害を増やすだけ。

せめて中央の白蓮ちゃんや馬超さんの騎馬隊とかが動いてくれてからじゃなきや……。


あ、でもきっと動いてくれない。

だって袁紹さんの部隊はすごく多いから。袁紹さんがいる最前線まで行くまでも大変。

それに袁紹さんの部隊は撤退中だから、後ろから叩かれるときっと混乱する。

その混乱に巻き込まれたら何も出来ず乱戦状態になって被害が起きることは間違いなし。


誰も今袁紹さんのために動いてあげることが出来ない。知っていても、知らなくても、袁紹さんと一緒に戦ってあげられない。

ごめんなさい、袁紹さん。

でも、助けに行けません。

遠くに居る人を守るために、身近で私を信じてくれて守ってくれている人達を犠牲に出来まぜん。

今の私に、そんなことはできません。


「『準備』だけしておいて」

「…分かりました」

「わーい、突撃なのだー」

「鈴々、万が一でも一人で出ていくんじゃないぞ」

「わ、わかってるのだ」

「ふふっ」


そうやって愛紗ちゃんと鈴々ちゃんと星ちゃんが出て行きました。


「桃香さま、宜しいのですか?」

「うん、朱里ちゃんは軍議行って来て疲れてるよね。今のうち休んでて良いよ」

「いいえ、大丈夫です。私も雛里ちゃんと一緒に出て待機しています。何があったら直ぐに報告します」

「そう?じゃあ、お願いね」

「はい。雛里ちゃん、行こう」

「うん」


朱里ちゃんと雛里ちゃんも出て行きました。

残っているのは一刀さんと凪ちゃんだけ。


「……行かなくて正しかったのかな?」

「…今のお前に正しいというのは何だ?」

「……」

「5000の兵で10万の兵を守ることは出来ない。黄河に落ちた時に言ったはずだ」

「うん、覚えてるよ」


助ける能力もないくせに、助けられないって嘆いていたら駄目。

無理して助けようとして、一緒に溺れても駄目。

助けられるだけ助けて、後は守る。


「なんか…ちょっとヤになっちゃった。なんかすごく悪人みたいで…」

「…凪、どうだ?桃香は悪人か」

「いえ、桃香さまは立派な君主です」

「俺の目にもそう見える」

「一刀さん……」

「勘違いをするな。お前は今他の軍の君主なら誰でも知ってることに気付いただけだ」

「あうぅ…」

「今までお前は君主じゃなく、タダの自分の熱烈なファンたちに讃えられていた人気アイドルだった。そこからやっと君主になったんだ。それでもお前には大きな一歩だがな」


アイドルとか、ファンとか初めて聞く言葉だけど、一刀さんが言いたいことは分かった。

私は、今まで何も知らなかった。

自分が何から守られてきたのか知らなかった。

そして、今その痛みを知った。

そしたら今までこの痛みから私を守ってきてくれた皆のことがもっと近く感じた。もっと大切に見えた。


一刀さん、一刀さんも……。


「ありがとう、一刀さん」

「……ふっ」

「あ、笑った」

「笑ってない」

「今笑ったよ」

「笑ってないと言ったら笑っていないんだ」


絶対今笑ってました。

笑ってないと否定している時にも一刀さんは笑ってました。

でも、そう言おうとした次の瞬間、一刀さんが笑っていたという証拠は消え去りました。


「あわわ、桃香さま、曹操さんの部隊は進軍を開始しました!」

「え?」

「……!!」


その瞬間、一刀さんの笑顔は消え去って、歪んで。

そして…


「孟徳……お前…」


いつもの虚しい顔に戻りました。


<pf>


華琳SIDE


麗羽が噛ませ犬……ね。


ある意味今この状況は、麗羽の自業自得、まさに『自滅』よ。

一刀が見るに、麗羽という君主(そもそも君主と見ては居たのだろうか)いつ手を加えても潰せる脆い塔のようなものだっただろう。

それをいつ如何なる時に一番『興味深い結果を得ながら潰せるか』。その時期を待っていたと思う。


今、麗羽を助けに行かなければ、当然向こうからは麗羽の頸一本だけ狙うでしょう。

最初から数しかない麗羽の軍よ。麗羽までも居なくなったら壁にもならない。


なら、麗羽が消えると言ってこの連合軍が瓦解するのか?

そうはならないわ。それは士気は下がるでしょうし、数は減るでしょうけど、各々の欲があって集まったこの群れ、最後まで洛陽を目指すでしょう。

そしたら、麗羽なんて居ない方が寧ろ仕事が捗るわ。

麗羽が居ない方が連合軍にとっては得になる。私も麗羽の前で牙を隠しておかなくても済む。


「だからお前も手を出すな、と私に言っているわけね。一刀は」

「華琳さま?」

「桂花、あなたはどう思うかしら。ここから私がどう動くべきか」

「…今の状態で、袁紹を助けに行くことは、正直私たちにとって何の得にもなりません。今回の事件で袁紹が大きな被害を受け、連合軍の総大将の座を維持できなくなったら、私たちが連合軍を操ることも出来ます。更に袁紹自身の身に何かあったとしても、それもまた好都合です」

「確かにそうね」


どの道、麗羽は私が行く覇の道に第一の関門。ここで散ってもらうのも悪くないわ。

でも麗羽のことは二の次にしても、


一刀は何か仕掛けたのよ。

そこに私が何もせずに流されてしまったら彼の思惑通りなってしまう。

ここで何もしなかったら、それはつまり彼との賭けでの負けを意味する。


それに、関から張遼と呂布が出てきたということは、逆に言えば私にとっては私にとっては好機よ。


「虎牢関に向かうわよ」

「華琳さま?…しかし」

「あまいわ、桂花。私がいつから人の都合によって動いてくれる人間になったと勘違いしているの?」


私は覇王よ。

一刀、あなた思う通りには動かない。


「春蘭」

「はっ!」

「あなたに特別に命じておくわ。張遼を私の前に連れてきなさい」


神速の張遼、汜水関で見た時から欲しかった。

一刀が仕掛けてきた今が最後の機会になるかもしれないわ。


「期待してるわよ。春蘭」

「御意!」

「…華琳さま」


桂花は釈然としない顔で私を見ていた。

でも、私の決定は揺るがない。


「桂花、一刀がこっちの動きが分かるようにしなさい。どう出るか見てみましょう」

「…分かりました。前線は既に袁紹軍と董卓軍が絡まって大きく混乱しているはず。動かす兵は最小限で良いでしょう」

「そうね…では動くのは春蘭と季衣、そして……秋蘭だけにしましょう。動かす兵は各々500ずつにしなさい」

「華琳さま、私も行かせてください!」

「沙和たちも行きたいの!」


流琉と沙和、真桜も出立したいと申し出てきた。

三人ともどういう訳で行きたいと言うのかは分かっていた。

だけど、


「あなたたちまで先に行く必要はないわ。あなたたちは何かある時を備えて待機していなさい」

「じゃあ、せめて秋蘭さまと一緒にでも行かせてください」


それでも流琉は諦めない。

流琉は一刀が凪を連れて行ったことで最も衝撃を受けていた。

戦場に行ったら一刀に会えるかもしれないという考えをしているはず。


「ダメと言ったらダメよ」

「お願いです、華琳さま!」

「流琉、華琳さまはもうお決めなさったのだ。それ以上は…」

「でも…!」

「くどいぞ、典韋!!戦場は遊びじゃない。己の私情を巻き込むな!」

「っ!!」


私がそう怒鳴ると、流琉は静かになった。

ごめんなさい、流琉。

でも、今のあなたを連れて行った所で一刀のためにも、私のためにもならない。


「全軍進軍を開始しなさい。春蘭と秋蘭は私が言った通りに準備が出来る次第先攻して麗羽の本陣に向かいなさい。そこに張遼が現れるはずよ」

「「御意」」


一刀、あなたの狙いが何か定かではないけれど、あなたが自分がしたいようにしてるのなら、私も私の目的を果たすために動くまでよ。

どう出るの?



<pf>



一刀SIDE


この世界には、ある種の力が存在する。

それは、この世界がまるで自分の意志を持っているかのように、ある固定されている事件を起こそうとしているのだ。


もはやいろんな意味で俺普段知っている三国志からは外れているこの世界だが、

そのある『固定された事件』、起きるべき事件があるとしよう。

俺はどうやってそれを分かるのか。


俺がその固定されているものに故意に触れようとしたら世界が俺を邪魔してくる。

俺を自分自身から押し出そうとする。

その『痛み』こそが、俺が今しようとしていることがある『固定された事件』を変えようとしているということの証拠となる。


そしてこの瞬間、その痛みが消え去った。

この『固定された事件』、孟徳の動きと関係がある。

孟徳にある回避することが出来ない事件が起きる。

そしてそれは決して孟徳にとって良い物ではない。


「一刀さん、どうしたの?」


……構わない。

孟徳に何が起きようが俺が知ったことではない。

例え孟徳が出たことで袁本初が助かるとしても損することはない。


だけど、そう思ってるうちに、『見えてしまう』

俺にはこの先どうなるか見える。

この先どうなるべきかが、どうなるかが分かってしまう。

この当然の因果が何故お前には見えないんだ………。




ああ、そうだ。お前には借りがあった。

俺はもらった分は返す人間でな。




「ちょっと行ってくる」

「一刀様、どちらへ…」

「用ができた。袁紹に会いに行く」

「はい?」「え?!」「あわわ!」


そこに居る三人が驚くだろうがなんだろうが、俺には行く他に方法がない。


「無茶です。一刀様が仕掛けた策です。中がどうなっているかは…」

「口で俺を止められると思ってるなら壁とでもじゃれあってろ。無口でも良い友達になれるだろうからな」


俺は凪を放っておいて外に行こうとした。


「雛里ちゃん、愛紗ちゃんたちに出立するように言って。兵の数はあの中でも混乱しない程度にして」

「あわわ、分かりました」

「…桃香、どういうつもりだ」

「うん?何が?」


振り向くと桃香が何も知らないという顔でこちらを見ながら頭を傾げる。


「曹操さんが動いたのだから私もそろそろ行こうかなぁと思っただけ。一刀さんも袁紹さんの所に行くんだよね。一緒に行って」

「………」


案外腹黒になりそうだな、こいつも。


「お前の軍だ。俺に止める権利はない」

「やったー!雛里ちゃん、お願い!」

「は、はい」


急ぎ足で雲長たちに伝えに行く鳳士元を見ながら俺は凪に言った。


「凪」

「はい」

「一緒に行くか?」

「ダメと言われてもついて行きます」

「……地獄に飛び込むか」

「あなた様を共になら」

「……ゾクゾクするね」


丈夫なまま帰って来れないだろう。

だが、興味深いものが見れる。仕方のないことさ。



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