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一話

あくまでも興味深そうだったから…

場所を変えて、私たちは陳留の街の料理店にいた。

椅子に座った彼は素足だった足を椅子に上げてとても見た者が不安になる座り方をした。

直しなさいといっても「この姿勢をした方が集中力が4割ぐらい増す」とか言って変わらなかった。



「この時代人間は場所から場所へ移動するために足で歩くか、それとも馬のような足の早い動物を用いて移動する。そして、未来に至っては、馬よりもより早く移動するため車や飛行機という鉄で作られた移動手段を発明した。こういう速度を早くして空間を移動する手段らはある意味時間の流れを遅くする効果を持っていると言える。同じ距離を移動することにより短い時間を使うことにより、未来の訪れを遅くしているのだ。ここで速度をより早くすると、例えば、光と同じ速度で移動するとしよう。そうすれば、時間は進まなくなる。未来は来ない。永遠に今という時だけが存在する。ここで更に加速すると、時間は過去へ動く。この仮説を利用を我々は実験をし、そして俺はここに来た」

「………」

「理解したか?」

「あなたがまともな人間じゃないということはわかったわ」


何を言ってるのかさっぱりよ。


「…秋蘭、こいつは一体何を言っているのだ?」

「……悪い、姉者。私にも良くわからない。」


とはいえ、同じ言葉で話をしているはずなのに、彼のいっていることの半分も、私たちは聞き取れなかった。

やはりこの男、凡人ではないわ。


「補足説明すると…そうだな、長江の水の流れを時間の流れとしよう。例えば、長江の水の洪水によってすごくその流れがとても早くなっているとしよう。その流れは時間の流れと同じで、上から下へしか移動できない。が、その流れを遡るほどの推進力を持った船があるとしよう。さすれば、その船に乗って水流に逆らって長江の上流に行くことができるというわけだ」

「つまり、あなたが使っていたというそのだいむましぃんというのが、時間の流れに逆らうための船。そういうことね」

「そうだ」

「なら、そのたいむましぃんというのは今どこにあるの?」

「わからない。時の流れで崩れたか、それとも最初から俺だけがここに落ちたのか。どちらにせよ、この世界は俺が単純に知っている過去の世界とは違う。いわば長江を遡っていたつもりが、気がつけば黄河だったという話だ」

「…わけがわからないわ」

「貴様、我々が知らないと思って適当なことを口走ってるわけじゃないだろうな」


春蘭が自分に理解できない話が続くとイライラしてきたのか殺気を立て彼を見る。


「言ったははずだ。タイムマシーンはまだ試作品で不安定であった。俺がそれに乗ることになったのも事故によるもの。俺もどうなっているのか完全な説明をすることはできない」

「……ぐぬぬ」

「…秋蘭、あなたは彼をどう思うかしら」


一刀がどこから来たのかその話はもう頭が痛くなりそうだから後ほどするとして、私は秋蘭に彼を見た感想を聞いた。


「…妖しい者だと言うことは間違いありませんが、特に害になるような者でもないでしょう」

「それだけ?」

「……私と姉者の攻撃を同時に避けながらも彼は余裕を持っていました。かなりの武を持っています」

「俺は武人ではない」

「…何?」


一刀の言葉に私たちは驚いた。


「ふざけるな!我々が武人でもない奴に手間取っていたというのか!」

「…研究をするためにはまず基本的な体力を持つことが必要だ。自分の考え通りに動ける肉体を持つこと。それが出来なければ人間は己が力の半分も出すことができない。が、特に武術を磨いているとか、そういうことはしていない」

「………」

「君たちの攻撃が避けられたのは、その攻撃の軌道や次の動きを計算し、ならそれをどう避けるべきかを頭で考えていたからだ」

「……彼女たちの動きを全て予想していたですって?」

「そういうことになる」


信じられないわ。

戦いにとって相手の動きを読むことは当然必要なことだけど、彼はそういう段階じゃなかった。

完全に相手がどのような軌道で剣をふるって、どのように矢が飛んでくるかを全て予測した上で、それをその短い時間で判断して避けた。

とても人間にできたことじゃない。


「一刀、私の元で働く気はないかしら」


<pf>


欲しい。

欲しいわ。その腕。その頭脳。


「華琳さま!危険です。まだこいつが本当に妖の類でないと決まったわけでも…」

「春蘭、何を言っているの」

「…華琳さま?」

「時間を遡って来たと言っているのよ。妖に決まっているじゃない」

「なっ!なら何故……」

「例え妖の術だとしても、我が覇道に必要であれば使ってみせるわ。それが私よ」

「華琳さま……」


自分でもちょっと狂っていると思っていた。

だけど、欲しい。

この者をここで逃せば私はきっと後悔するでしょう。

こんな面白いもの、先に拾った者勝ちよ。


「……曹孟徳の将か。悪くない」

「なら…」

「条件がある」

「貴様、華琳さまからの直々のお誘いに…」

「姉者、少し落ち着け」


姉を抑えた秋蘭だったが、その顔に不安の色は隠せなかった。

その分、彼はまだ信用できないものだった。


「言ってみなさい」

「まず、ここにある書物を全て読ませろ。過去の書籍というのはすごく興味深そうだ」

「…なるほど。わかったわ。他には?」

「それと、孟徳、君が出る戦場には必ず俺を参加させろ」

「…それは何故?」

「英雄曹孟徳の戦だ。一つ一つが良い資料になるだろう」

「…結構よ。こっちからもそのつもりだったし」

「そして最後に一つ」

「まだあるの?」

「俺が欲しい時に甘いものが食べられるようにしてくれることだ」

「…は?」


最後のはちょっとわけわからなかった。


「甘いものがないと頭が回らない」

「………いいでしょう。ただし、あなたの要求を三つ呑んでくれたからこっちからも三つ言わせてもらうわ」

「……妥当だな」

「まず、あなたが持っている知識を私のために最大限に使うこと」


でないと彼を使う意味がない。


「……俺が知っている歴史に反するようなことはできない」

「構わないわ。次に、私にあなたが知っている歴史というものは言わないこと」

「…俺の持ってる知識を最大に利用するのではなかったのか?」

「自分が行く道は自分で決めるわ。例え歴史が既に決まっているとしても、私の行く道が私が決める」

「……同意しよう。最後の一つだ」

「そうね。最後は…………私のことはこれから孟徳じゃなく華琳と呼びなさい」

「華琳さま!?」

「……興味深いな」


最後の条件を聞いた途端、春蘭は立ち上がり、一刀は目を丸く開いた。


「こんなものに真名までも……!」

「…華琳さま」

「あなたたちにまで強制するつもりはないわ。ただ、これは私なりの意志よ。彼はこれから我が軍にとっていい戦力になるわ」

「…その真名という風習。とても興味深く思ってはいたが…なるほど、それを許すことで自分の相手への信頼を示す……確かにいい道具になる」

「で、あなたはどう思うかしら」

「結構だ。ただ、夏侯惇が俺がお前の真名を呼んだ途端頸を切り落とす体制をしている。この距離だと流石に分かっても避けられないぞ」

「春蘭……」

「ですが、華琳さま!」

「………私が決めたことにどれだけ文句を言えば気が済むの?」

「っ!!」


私はわざとらしくそこで覇気を出した。

春蘭は私の気迫に圧されて肩を落とした。


ガタッ!


「!」

「大丈夫か、北郷!」


と思ったら、突然一刀が座っていた椅子から落ちて倒れた。


「ちょっと、大丈夫なの?」

「………」


返事がないわ。


「秋蘭、これは一体どういうこと?」

「……信じがたいですが、恐らく華琳さまの覇気のせいで気絶したのかと」

「………」


春蘭と秋蘭の攻撃をあれほど簡単に避けられるというのに、ただ数秒発した覇気には耐えられないですって?


「如何致しましょうか」

「……春蘭」

「はっ」

「一刀を城まで運びなさい。先の私に逆らった罰よ」

「うぅっ…わかりました」

「秋蘭は部屋を用意して。後侍女を付けて目を覚ましたら私のところに伝えるよう…」

「…ほんとにこの者を信用しておられるのですか?」


秋蘭までそんなくどいことを言うつもり?


「あなたも私に逆らうつもりなの?」

「そうではありませんが、ただ、北郷この男について、華琳さまはあまり過大評価しているのではないのか心配です」

「ありがとう、秋蘭。だけど、私はもう決めたわ。それに、」

「……?」

「男が私の目に叶ったのよ。これほど面白いことはないわ」

「……はぁ」

「わかったなら、さっさと行きましょう。起きると直ぐに彼が望んだ通り書庫を紹介してやりなさい。甘いものの手配も」

「御意」



<pf>



それから何刻が時間が経った頃だった。

政務に集中していた私は、突然入ってきた秋蘭を見て動かしていた筆を止めた。


「秋蘭、どうしたの?」

「はっ、北郷が意識を取り戻しました」

「そう、随分遅かったわね」

「…いえ、目を覚ましたのは随分と前のことなのですが……」

「?」


じゃあ、どうして今になって私に……

何か、秋蘭の顔が複雑になってるわね。


「言いなさい」

「はっ、北郷を書庫に案内したのですが、書庫に入った途端、棚一つにささってあったの本を全て持ち出しては、それを凄まじい速度で読み始めまして……今頃書庫にあった本の二割ぐらいが彼が座っている卓に積もっている状態です」

「なんですって」


自慢じゃないけど、陳留の城の書庫にある本の数は都の書庫にも負けないぐらい詰めてあるつもりよ。

私はもちろんそこにある本は全部読んでいるけれど、それの二割をたった半日で読み出すですって?


「書庫で働いている文官たちが整理してはいるのですが、彼の読む速度に間に合わずに悲鳴を上げています」

「………面白いわね」


ほんとに想像通り、いえ、想像以上の男のようね。

もし彼を軍師や政略家として使うことができれば、秋蘭も軍部と政治の仕事を両方任せなくても済むかもしれないわ。


「放っておきなさい。書庫には余力があるところから何人か助けを入れといて」

「はっ」


だけど、そうね。

少し見てみたくなったわ。


「必要な本もあるし、少し見に行ってみましょう」

「よろしいのですか?」

「何?単に必要な本を探しに行くだけよ?」

「………」


ふふっ、嫉妬する秋蘭もかわいいわね。


<pf>



パラパラパラパラパラパラパラっ


「…………暗いな」

「……すごいわね」


聞いた通りの光景だけど、目で確かめると尚更その凄さが分かった。

料理店の時のような座り方をして本を片手で持ったまま、もう片手は常に本の次の枚を開き続けていた。

一刀の座ってる席の両側には書籍が山ほど積もられてあって、それは書庫の本棚いくつを完全に詰められるほどの量だった。


「この本をたった数刻で全部読んだというの?」

「この時代の書籍は文が少ない。その意味は深みがあるが、無駄なところも多い。無駄なところは通りすぎて必要な情報のみを吸収しているつもりだ」

「……」


彼が読んでいた本の中で一つを取ってみた。

孫子の一遍だった。


「故に善き將の者、人形せしめて我形無ければ、則ち我專らにして、敵分かれる」

「我專らにして壹と爲す、敵分かれて十と爲らば、これ十を以て壹を撃つる也。我寡くに而敵衆だとしても、寡を以て衆を撃つ者、則ち吾と興に戰う所の者約なればなり」


途中の部分を読んだだけで、次のところが出てくる。


「意味は?」

「少ない兵を持って多い敵を叩きたければまず敵にこっちの情報を与えないことで軍を分散せざるを得ずするべき。十を持って一を叩くとしても、その十を十に分散して戦えば数の利は得られないもの。重要なのは数ではなく、いかに持った軍を必要なところに集中させることができるか」

「すごいわね……」


一読みしただけで完全に理解しきるなんて…


「何がしたいのだ、曹孟徳」

「へ?」

「俺の能が試したければこんなくだらない書物でなく、実践で確かめることだ」

「……たしかにそうね」


単に孫子を一読しただけで覚える能を見たくてあなたを得ようとしたわけではないわ。


「それともう一つ」

「何かしら」

「……読書中の俺の前に影をつくるな」

「なぁっ!」


驚く私の姿は気にもせず、彼はまたパラパラとすごい速度で本を読み始めた。




<pf>


あのまま読書の邪魔をするのも悪かったので、さっさと用事だけ済ませて出てきた。


「華琳さま」

「……」

「いくら華琳さまの命だとしても、あのような無礼な行動、姉者でなくても私がゆるせません」

「………」

「彼が奇人だということはわかります。華琳さまが興味を持つことも無理はないでしょう。ですが、彼をずっとここに置くことについて私に意見を言って頂ければ、私は反対です」

「……押されてたわ」

「…はい?」

「この私が、私の一瞬の覇気も受け入れられなかった男の気迫に押されたのよ」


益々面白くなってきた。


「秋蘭」

「はっ」

「明日何でもいいから彼に現在陳留の政にて関係のある仕事を渡しなさい。その仕事を見て、彼をこのままここに居させるかそれともあなたのいう通り追い出すかを判断しましょう」

「……御意」


さぁ、あなたが言ってた通りにしてあげたわ。

これから私にあなたの能を見せなさい、一刀。




・・・


・・





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