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十四話(中編)

相手のことをまったく考えない行動と

相手のことを考えてこその行動は、例え結論は同じく出ても天と地の差があるのでしょうけど、増してや逆の結論ならいうまでもありません。

孫権SIDE


「お姉さまはどこに行ったの?」


軍議が終わった後、突然姉さまが冥琳と姿を消していた。

もう直ぐ進軍するというのに、またふらふらどこに行ったのだろうか。


「蓮華さま、雪蓮さまと冥琳さまは劉備軍の所へ尋ねると仰っていました」


後ろから現れた思春がそう告げた。


「劉備軍、確か河北から来た諸侯ね。連れた兵も少ないし、規模も連合軍の中でも一番小さな所。何故そんな軍の所に行ったの?」

「詳しい事情は解りませんが、雪蓮さまがなさったことです。きっと何か理由があるでしょう」

「………」


それはそうでしょうけど、少なくも私に一言言ってから行ってもいいじゃない。


袁術によって姉さまや小蓮たちとバラバラになって数年、やっと集まったと思ったら、王になったお姉さまからは以前のような優しさがなくなっていた。

別段昔も戦争好きで周りの人の事情を考えずに突っ走るところは同じだったけれど、そういうのとは違う。

お姉さまは『王としての』振る舞いをなさらなければならなかったのだ。それが…再びお姉さまの前に立った時、私には凄い違和感になっていた。

以前は姉と妹であった関係が、今は『君』と『臣』の関係になっていた。その違和感が…お姉さまに昔のように振る舞うことを邪魔していた。

今ここに居ない小蓮がどう思っているのかは分からないけど、少なくとも私は思う。


以前のようにお姉さまに接することはもう出来ないのだろう、と。


「…蓮華さま、大丈夫ですか?」

「………ええ、大丈夫よ、思春。別に異常はないわね?」

「はい、問題もなく平和です。………もうすぐ戦場だというのに逆におかしな話ですが」

「ふふっ、そうね」


今のは思春なりに冗談のつもりで言ったもの。

あなたのそういう所、昔と変わってないわね。


「蓮華さま!」

「明命?」


ふと、明命がこっちに走ってきた。


「どうしたの、明命?」

「はい、陣の入り口で、変な男が蓮華さまを拝見したいと言っています」

「そいつは何者だ、どの軍から来た」

「それは、そういう話は一切話さずに、ただ今この軍の最上責任者に会いたいとばかり…」


妙な話ね。


「そんな不審な奴を蓮華さまが会いに行く必要がどこにある。直ぐに追い返せ」

「私もそうしようとしたんですけど、陣で警備をしていた兵士さんたちも倒して、私が脅威で剣を振るっても全然当たりませんでした」

「何?」


不審者と思ってしまえばお終いだけど、だとすれば正面から堂々とそんなこと言う必要はない。

明命の攻撃を避けられるほどの実力なら尚更そう。


「会ってみましょう」

「蓮華さま、しかし!」

「もし何か相手が変なことをしたらその場であなたが殺しなさい。どの軍の所属かも出さない者よ。そうした所で問題ないでしょう」

「しかし危険な者かもしれません!」

「かもしれない、じゃないでしょう?思春?」

「はい?」

「どの軍の者かも申さず、ただ無理矢理私に会いたいという不審な男。危険でないはずがないでしょう?」

「それをご存知でありながらどうして………」


そうね……お姉さまが良くいう言葉があるじゃない。


「勘、よ」


・・・


・・




陣の入り口に二人を連れて向かうと、白い服を来た変な姿勢で立っている男が目に映った。

その側には警備を立っていた兵士二人が倒れていて、男は静かにその兵士たちを見下してるような視線をしていて、ふとこっちが来るのに気づいたのかこっちを見た。


「私が今この軍の最上責任者だ。貴様は何者だ」

「…興味深い」

「なに?」


ふと男の口から出た以外の言葉に私は呆気取られた。


「そこの女が俺の話を三度目聞いて陣内に向かったのが僅か三分前、そいつの足の速さから察するにお前はこの話を聞いてほぼ直ぐやって来たこととなる。不審な者の身も蓋もない申し出を聞いて出てくるほど孫家の姫は安全不感症か?」

「なっ!」

「貴様!蓮華さまに何たる口の聞き方だ!」


思春が直ぐに剣を出して男の方に近づいた。

だけど、男は自分の話を止めなかった。


「俺が自分の所属を言わなかったのは今所属している軍が俺の軍ではないからだ」

「どういうこと?」

「今俺は劉備軍に居る。だが以前は曹操軍に居た。次にはどこに居るから俺の興味次第。そして君のやり次第だ、孫仲謀」

「私を知っているの?」

「当然だ。君に会いにきたんだからな」

「私に?」

「蓮華さま、やっぱり下がってください。この無礼者は私が始末します」


思春がかなり苛立っている様子で男を斬りかかろうとしたけど、私が止める前に先に男が動いた。


「なっ!なんの準備動作もなく私の剣を避けただと?」

「俺は話をしに来ている。剣を振るうことはこの後いくらでも出来るだろうから護衛武者は邪魔をするな」

「なんだと、貴様!」

「待って、思春!」


私はもっと彼の話が聞きたくて思春を止めた。


「あなた、名前は?」

「北郷一刀」

「ほんごう、かずと?変な名前ね」

「………」

「で、私に用があるって居たけど、どういうことかしら。この軍の最上責任者と言ったら私の姉、孫策を会いに来たんじゃないの?」

「孫伯符は今頃劉備軍で劉備玄徳と今回の戦と今後の戦いに関しての友好協約を結んでいるだろう。君の姉は玄徳に見所があると判断したはずだ」

「何故あなたがそんなことを知っているの?」

「玄徳の現在の弱さと小ささを見て己が気にする必要もないと思う君主が率いる軍は今後一年経たずにその軍が天下の地図から消え去るだろう。君の姉が今の劉備と手を結ぼうとしているのは、今がそれが出来る唯一な機会であるからだ」

「それほどの価値があるの?」

「ない」


え?


「孫伯符は玄徳に見所があると判断している。それは正しい判断だが、そう思っているなら、尚更彼女に接続すべきではない。いつか玄徳が自分たちと一緒に最後まで天下に残るだろうと思うのならそんな強敵を弱い今潰そうと思う方が正しい。君の姉は玄徳を警戒してこそ会いに行くべきではなかった。それはただ玄徳の器を分からないのとは違う話だが、結局同じ話だ。結果的に君の姉は孫呉の一番大きな敵を自らの手で救うこととなるだろう」

「………」

「だが、そんなことに俺は興味がない。俺は『今』この陣の最上責任者の意見が聞きたくてここに来た」

「!」


突然彼が私に迫ってきた時私は一瞬彼の狂気が滲み出る顔をちゃんと見てびっくりした。


「孫仲謀、君はこの戦で何を望む。この大陸で何を望む。親友と肉親を失いながらそれほど君が求めるものは何だ」


そのまま時が進んでいたら私はその質問に答えていただろうか。

でも、少なくともその場で、話はそれ以上続かなかった。


次の瞬間思春と明命の刃が彼の頸と脚に届く前に、彼は人とは思えない素早い動きで二人の剣の動線の先から抜けだした。


「なっ!」

「また!」

「………普段は譲歩なんてする人柄じゃないが、今回は引き上げよう。そのうち、逃げられない現実に会った時には、俺の質問に迷いなく答える準備をしておいた方が良い。【次世代の孫呉の王】よ」

「……!」

「まて、貴様。みすみす逃がしてやると思っているのか!」

「……」


思春の剣幕も構わず、彼はまるで興味を失せたかのような顔で私の前から去っていった。


「………蓮華さま、大丈夫ですか?」

「…ええ、大丈夫よ」


体の方は少なくとも………



<pf>



桂花SIDE


「華琳さま、お帰りなさいませ」

「ええ、ただいま、桂花」


軍議から帰って来られた華琳さまの顔は如何にも不機嫌そうな顔をしていらっしゃったわ。

無理もない。あの袁紹のことだから、どうせ軍議でくだらない話をして周りを呆れさせた挙句に『雄々しく勇ましく華麗に進軍』とか言い出したに違いないでしょうね。

…あいつがいつも言っていた言葉だから間違いない。


軍議の内容についてはどうでも良い。

今重要なのは……


「華琳さま、軍議にアイツは居たのですか?」


劉備軍に行ったアイツ…『一刀』のことよ。

アイツが居る劉備軍は弱小勢力だから、例え頼りにならないあんな軍議だとしても、情報を得るために自ら向かったに違いない。


「………」

「…華琳さま?」

「…ええ、元気そうだったわ。『とっても』…」


何故か、華琳さまの言い方から皮肉のようなものを感じるのだけれど……


「アイツから何か言わなかったのですか?」

「何もなかったわ。軍議が終わった後、劉備と一緒に来た小さい軍師と一緒に真っ先に出て行っちゃったわ」

「そうですか」


まぁ、アイツがそういうことする人柄じゃないということは知っていたけど…万が一にでもと期待したことがないと言ったら嘘になるでしょうね。

こっちとしては言いたいことはもの沢山よ。今にでも何か言い訳を作って劉備軍を訪ねたい気分。

でも、そんなこと華琳さまはなさらないでしょうね。


「桂花、汜水関攻撃に置いて、劉備軍が先鋒を任されることになったわ」

「……はい?」


一瞬耳を疑った。


「華琳さま、もうしわけありません。私が聞き間違えたみたいです。今劉備軍が汜水関攻略にて先鋒を任されたと聞こえたのですけれど…」

「ちゃんと聞いているわ、桂花。私はそう言ったのよ」

「そんな馬鹿な…!劉備軍は連合軍に参加した軍の中でももっとも弱小な部類に入ります。そんな軍に汜水関の先鋒を任せるなど…!」

「落ち着きなさい、桂花。私がそうさせたわけじゃないわ」

「あ、……申し訳ありません」


しかし、劉備軍は兵の数が5千にも至らない弱小勢力。そんな軍に先鋒を任せるというなんて袁紹は何を考えてるの?

あの馬鹿のことだからどうせ何も考えずにやったことでしょうけど、この戦が終わったら敵となりうる勢力たちの力を弱らせ、潰したいと思う他の諸侯たちの意図も混ざってなかったとは言えない。それはもちろん我々にも通じる話。


「…不安なの、桂花?一刀に何かあるかって」

「なっ!そんなはずありません!私があいつの心配をするなんて…!そんな暇があるなら華琳さまと我軍のためになる策の一つでも考えてるはずです」

「そう……なら、私たちはこれからどうするべきかしらね、桂花」


思わず大声で否定したにも関わらず、華琳さまはなんともない顔で私に今後の方針に付いて聞かれた。


「はっ、既に各軍にいくつかの斥候を放ってあります。汜水関にて後衛を任された私たちは、まずはこの場を周り諸侯たちの軍から情報を得る場として使わせていただきましょう。そして、出来ることなら汜水関にて、袁紹軍の被害を催せるような状況を起こせるようにできたら尚更良いでしょう」

「そう……汜水関では恐らく我々の出番はないでしょう。今は諜報戦に集中して、麗羽の軍と劉備軍の所には他の軍より集中して情報を探ってくるように」

「はっ」



<pf>



流琉SIDE


「ねえ、流琉、少し落ち着こうよ」

「………」


華琳さまたちは早く帰って来ないかな。


「ねえ、流琉」

「!何、季衣」

「落ち着いてよ。春蘭さまと秋蘭さまに休んでおいてって言われてたのに、さっきから流琉ったら進軍中の時よりももっと緊張してるみたいだよ」

「あ、うん……そうだね」

「……」


季衣が心配そうな目で見てくれていますけど、私はそれでも落ち着くことが出来ませんでした。

兄様が居る劉備軍もこの連合軍に参加しています。

兄様はほぼ確実に軍議に行くだろうって桂花さんが言ってました。


兄様はどうしてるでしょうか。

兄様は私が居ないと直ぐに生活が雑になっちゃいますから、その間痩せてたりしなかったでしょうか。

いえ、兄様はあれでも自分の体を壊すようなことは……あまりなさらない人ですからきっと大丈夫なはずですよ。

でも万が一にでも変な様子が見えたら、私が無理にでも連れ戻す他ありません。

兄様はあまりにも自分の体を荒く使うのです。季衣じゃないんですから。


「季衣、帰ってきたぞ」

「あ、春蘭さま!」

「流琉」

「!秋蘭さま」


秋蘭さまたちが戻ってきたのを見た途端、私は秋蘭さまに駆けつけました。


「秋蘭さま!兄様に会ったのですか?どうでした?やっぱりどこか悪そうでした?私たちに付いてなんか言ってませんでした?私に付いては……!」

「流琉、少し落ち着いてくれ。取り敢えず座ろう」

「あ…すみません」


私は私だけ熱くなっていたことに気づいて、秋蘭さまから離れました。

秋蘭さまが部屋の席に座って、私もその反対側に座って、卓の上にあったお茶の急須から四人分のお茶を注ぎました。


「季衣も聞きたいことがあるなら座ってくれ。姉者も」

「お、おお」

「はい」


春蘭さまと季衣も席に座って、そうやって四人が皆席につきました。


「まず、流琉、北郷のことだが、大丈夫そうだった。腕の包帯も解いていたし、他に悪いところも見当たらなかった」

「そうですか。…良かった………」

「良くあるか!華琳さまを裏切って他の軍に行ったくせに恥も知らず姿を現しおって、しかもこっちを見てもまったく動揺しなかったことが更に許しがた……」

「姉者」

「何だ、秋蘭!お前もそう思っているだろ!」

「………」


……秋蘭さま。

ほんとに兄様は…


「秋蘭さま、兄ちゃんからはなんか言ってました?」

「…いや、軍議が終わった後、奴は直ぐにその場を去った。それで、まだ会って話したことはない」

「我々を避けているのだ。当然だろ。アイツが華琳さまの前にまた姿を表せるようなことがあれば私が…」

「姉者」

「むっ……」

「…兄ちゃん、流琉の手紙読んだのかな」


……手紙


「読んでないはずはないと思うが……そもそも華琳さまはそれ以後も北郷に手紙を送っていらっしゃったからな。にも関わらず華琳さまに一言も言わずにそのまま去るとは流石に思わなかったのだが……」

「じゃあ、兄様が私たちの手紙を読んでない可能性もあるということですか?」

「…そこは私も分からないな」


…兄様……


「あの、秋蘭さま。私、兄様の所に行って来たら…駄目ですか?」

「………」

「他の軍だということは解ってますけど…でも、絶対華琳さまの名を汚すようなことはしません。兄様に会いに行って来るだけです」

「…すまぬな、流琉」

「……」

「ここは連合軍だ。公の場であって個人的な理由で『他軍の者』に会いに行くことは…」


!!!


「兄様は他所者なんかじゃありません!!」

「!」

「流琉ちゃん…」

「何で…なんで皆そんなになんともない顔で兄様のことを悪く言うんですか?なんでまるで他人行儀なんですか?仲間なんですよ?一緒に戦っていた人なんですよ?」


華琳さまも、秋蘭さまも、兄様が消えた時もあまり驚いた顔もしませんでした。

その平然とした顔、今になって考えたら厄介な人が消えてよかったとさえ思うような顔でした。

兄様は、最初から他所者扱いされていたんです。

最初から兄様を連れ戻そうなんて、誰一人思っていなかったんです。


だとすれば…


「流琉…」

「っ!!」

「流琉!」


私は秋蘭さまが伸ばした手を振りきって出て行っちゃいました。



<pf>



凪SIDE



一刀様が急に消えて早数ヶ月、その間、私は贖罪するかの気持ちで一刀様が残していった街を守ってきた。

本当に大切なものはそれが消えてしまうまでその大事さが分からないというが、一刀様のなくなって出来た穴は曹操軍に置いてそれほど長く持たなかった。

一刀様がやっていた企画の大幅は廃棄され、一刀様が居なくなることを既に想定されていたかのように流琉は親衛隊に戻され、私たち警備隊も解散される危機にあった。

政策を進める頭が居なくなったせいで、街の警備は技能をしなくなった。私が急いで一刀様の後を継いで警備隊隊長と街の発展計画の責任者を務めるとかって出てなければ、きっと警備隊も以前の体制に戻ってただろう。


一刀様は街の発展計画に関して詳しい案を既に作っておられたが、それを私が理解するにはとても長い時間がかかった。

どうしてこういうことが必要なのか、何故こんな装置を意味もなく建てなければならないのか、こんなことが本当に可能なのか。

沢山の疑問が私を襲ってくる度に私が諦めなかったのは真桜や沙和、そして桂花さまの助けがあったからこそだった。

少しずつだけど、あの方に近づくことが出来て、少しずつだけど、街は進展を見せ始めている。


そして、今私はここに居る。

陳留の街から離れて戦争をするためだと言うものの、一刀様が、走っていけば四半刻も経たない所に居まる。

今でも直ぐにあの方に会いに行きたい。

会って話し合いたい。直接会って話したいことが山ほどだ。『手紙』では伝えきれなかった言葉が沢山ある。


「凪ちゃーん、なぎちゃーん」

「アカン、これ完全に頭がいっちゃったるわ。凪!大将が帰ってきたでー!会いに行くって言ってたやろ!」

「……はっ!すまん、なんだって?」


すっかり二人が来たことを忘れて考えこんでしまった。


「華琳さまたちが軍議から帰ってきたの」

「そうか。…真桜、ここは任せた。私はちょっと華琳さまの所に行ってくる」

「ああ、分かった。頑張ってな」

「ああ、頑張る」


私は二人を置いて早い歩きで華琳さまの天幕に向かった。


・・・


・・



「華琳さま、凪です」

「凪?入ってきていいわよ」


華琳さまの許しを得て、私は休んでおられる華琳さまの天幕の中に入った。


「……私に何か言いたいことがあるの?」


どうやら、華琳さまはお気づきのようだ。


「はい、一刀様を…劉備軍に行って一刀様を連れて来ることを許可してください」

「……」


どういった経緯で一刀様が劉備軍に行くことになったのか、詳しい事情は分からない。

だけど、一刀様が私たちを離れたことは、華琳さまが願ったことでもないし、、きっと一刀様本人の意思でそうなったわけでもない。

謂わばこれは、誤解が起こした悲しい事件なのだ。

直接一刀様に会って話し合ったらきっと一刀様も誤解解けてくださるだろう。

そしたらまた以前のように、あの方の側で……


「駄目よ」

「…!」

「それは許可できないわ」


でも、華琳さまの口から出た言葉で、私は自分の夢から覚めた。


「何故ですか。一刀様も本意で出て行ったわけではありません。華琳さまが一刀様を迎えたら、きっと一刀様だって」

「戻ってきてくれるって…?本当にそう思ってるの、凪?」

「……はい」

「なら、一刀はあなたという娘を過信していたのかもね」

「どういうことですか?」

「あなたは自分のことだけ考えて一刀のことは考えないの?」


華琳さまは私に向かって怒りをぶつけながら仰っていた。

でも、それは普段の覇王としての部下をしつけるような怒りではなく、とても個人的な、身内の愚かな行為をしつけるかのような、心から出てくる軽蔑の気持ちが篭ってあった。


「今あなたが一刀に行って彼に戻ってきて欲しいと言って彼が戻って来たら、彼は劉備にとって裏切り者に記憶されるでしょう。それこそ私たちが最初に彼にぶつけていた感情を、彼は受け続けなければならない。所属が私たちに戻ってくるだけで、一刀自身は苦しみが増えるだけよ」

「あ」

「逆に彼が戻ってこないとしましょう。じゃあ、あなたはまた裏切られたという思いを彼にぶつけるでしょう。その両方の中で選ばければならない彼の立場を理解せずにただ彼に戻ってきて欲しいと思って彼の前に立った途端、一刀の中であなたは忠実な部下だった者から憎むべき存在に変えるでしょう。彼がもう二度とここに帰りたくないと言うとしても私は驚かないわ。あなたがやろうとしていることが彼の仕打ちの何倍は酷いのだから」

「…………」


私は、馬鹿だ。

確かに、私は一刀様の立場なんてまったく考えていなかった。

あの方と一緒に居る時にはいつも何歩先を見てからの行動を取らなければならない。

私が華琳さまの元へ来ないで独断で一刀様に会いに行ったら、きっと一刀様に酷い仕打ちをされて傷ついて、自分もまたあの方を傷つけるようなことをしてしまっただろう。

一歩間違えれば今の想いさえも全てなくなってしまう。一刀様と私たちの間の絆というものはそれほど儚いものなのだ。


『俺はいつか君たちを裏切る』


勝手な考えを言わせてもらうと、あの時一刀様がそうおっしゃっていたのは本当に我々を裏切るつもりがあったからじゃないと思う。

あの方のことだ。ここに来る以前にも沢山の人たちに誤解されながら生きてきただろう。

このようなことが起きて、私が自分に裏切られたという喪失感を味わわないようにするため、手先にあんな言葉をなさったのだろう。


勝手にそう思っている。


「しかし、それなら華琳さまはどうなさるつもりですか?」

「…あなたが心配することではないわ。あなたが本当に彼が戻って来て欲しいと思うのなら…彼を困らせるようなことは居ないで頂戴」

「………分かりました」


結局、華琳さまはそれ以上は何もおっしゃらなかった。

華琳さまのことだ。きっと何か考えがおられるだろう。




<pf>




一刀SIDE


洛陽の情勢は……厳しいものらしい。


『どの軍の斥候』も一人も戻って来た様子がない。

情報がないことこそがこの状況を一番良く説明してくれている。


この連合軍がどれだけの愚者たちの集まりであるかを……


「……人材が足りない」


一人……後二人ぐらい使える奴が居たら動けるのだが……


この軍は小さすぎる。以前の文官試験でも使えるような者は一人も見つからなかった。俺が試験官だったら全員落としていた。

くだらない経書の内容ばかり覚えている儒生ばかりだ。一等地を抜く人材が集まっていても、下に支える二等どもがなければ非効率な構造にしかなれないのだ。


だからこそ、この戦での目標は……


「ほ、北郷さん、やってかえってきましゅた!」

「…?」


そろそろ糖分が欲しかったので自陣に戻ってみると、鳳士元が迎えに来ていた。


「……」

「はぁ…はぁ……はの!……はぁ……」

「息を止めろ」

「っ!」

「…………吐け」

「はぁ…」

「吸って止まる」

「すーっ」

「………吐く」

「はぁ……」

「………で?」


過呼吸していたので取り敢えず適当に処理して話させる。


「あわわっ!あの、北郷さん!今部屋に行ってみてくだしゃい!誰か来てましゅ!」

「…………」









………孟徳…………ふざけんな……







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