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〇話

誰と誰を混ぜた感じの北郷一刀です。

一人はわかるけど、もう一人分かったら、あなたは同志


2011/11/30 一部内容修正しました。

「華琳さまーー!!」


昼頃、桂花が私の部屋に来て私にがっついてきた。


「どうしたの、桂花?昼から積極的ね」

「アイツが…アイツをなんとかしてください!」


がっついた桂花が指す指を追って桂花が入ってきて閉じなかった扉の方を見てみると、


「………」


彼が何かを持って立っていた。

背筋をちゃんと立てず、少し曲げているのは彼のいつもの癖。

いつも姿勢を正しくしなさいと言ってもどうも直すつもりはないらしい。


「あなた、また桂花を虐めて遊んでいたの?」

「……先に勝負を挑んだのは彼女だ」

「勝負?」


よくみると、彼が持っているのは象棋盤だった。

そしてもっとよくみると……なるほどね。

桂花の駒はほぼ壊滅。これはもう勝負はついていると言ってもいいでしょう。


「幾ら劣勢な状況でも、常に方法を考えねばならないのが軍師。戦場を逃げ出すとは恥を知れ、荀彧」

「……桂花?」

「ヒクッ!!」

「私の軍師が勝負を挑んでおいてそのまま放り出して来たとは関心しないわね」

「で、でも……」

「でもも何もないわ。だけど…あなたもそれほどにしたらどうなの?」

「どういう意味だ?」

「その象棋盤、もう勝負はついているじゃない。なら、それをここまで持ってきて勝負を片付けるまでもないわ」

「…………」


そう言ったら彼は一度象棋盤を観直してこっちを見上げてきた。


「勘違いをしているな、孟徳」

「勘違い?」

「お前は……今この負けている駒が荀彧の駒だと思っているようだが……これは【今から】私の駒だ」

「……え?」


どういうこと?


「アイツ……アイツは鬼ですよ。私が涙をこらえながら負けたって認めると、その自分が負けた盤をそこで反対側にひっくり返して、それをまた繰り返して……」

「まさか……」


桂花が負けたと認めると、その桂花が負けたと思った駒を自分が操って、勝っていた自分の駒を桂花に渡して勝負を続ける。そしてそれがまた桂花に劣勢になるとまた劣勢になった駒を自分が操って優勢だった自分が操っていた駒をまった劣勢に押し付ける。

なるほど…それならいくら桂花でも心が折られるわね。

しかし、ここまでしてくれると、やはり彼、北郷一刀は恐ろしい男だわ。



彼と初めて会ったのは一年前……



<pf>



街から逃げた賊を追撃していた先の荒野に彼がいた。

私が春蘭、秋蘭たちを連れて追っていた三人組の男たちは、この辺りの賊たちの党首であって、私が気がかりして探していたあるモノを持っているという情報があったため、私自ら彼らを追っていたのだけれど……


私たちが近くに着いたときには彼は今のように腰を少し曲げて立っていて、三人はあっちに逃げていった。


「………」


腰を曲げたまま、ズボンのポケットに両手を隠したままこっちを馬に乗っているこっちを見ている姿はどうもこっちを馬鹿にしているようで気に食わなかった。


「貴様!華琳さまの前でその目は何だ!しっかりと立て!」

「……ここはどこだ?」

「何?」

「情報が足りない。ここはどこだ?今はいつだ?お前らは誰だ?」


初めて会って突然そんなことを聞いた彼はそれから私たちが何も言わないからそのまま私たちを通りすぎて行こうとした。


「ま、待て!」


それを見た春蘭が愚弄されたと思ったのか(私もそう思ったけど)馬から降りて彼の行き先に剣を立てて彼を止めようとしたけど、


「…ちょっと通る」

「は?」


その剣をなんともないかのように彼は曲げた腰をもっと下げてその下をくくって先に進んだ。


「貴様……もう手加減はしないぞ!」

「……口のうるさい奴だ。興味がないから俺は行く」

「貴様ぁーー!」


もう殺す!と決めたように春蘭は自分の剣を振るった。

でも、彼はぶつぶつと何かを言いながらその剣を素早い動きで避ける。

キレた春蘭の攻撃をあんなに簡単に避け続けるなんて、男と云えどもただものではないわ。


「くふっ、こいつ、ちょこちょこ逃げおってー!」

「ちょっと待ちなさい、春蘭」


そんな彼に興味が湧いた私は春蘭を止めて私も馬から降りた。


「華琳さま?」


そんな私を見て、秋蘭も続いて馬から降りて私の側に立った。

私は近くに行って彼を見た。

背筋を曲げている彼だったが、それでも私よりは少し目線が上。

普段からそういう目線下にして見る連中にはイマイチ苛立たりしないけど、この姿勢はどうも忌々しいわね。

だけど、今はそれより彼に興味があった。


「ここがどこか知りたいって言ってたよね。ここは陳留よ」

「……ちんりゅう?」

「そう、そして私は陳留の刺史、曹操よ」

「ちんりゅう……しし……兗州の陳留……?」

「そうよ」

「……お前の名前は…何?」

「貴様!華琳さまに……」

「私の名前は曹操、字は孟徳よ」


春蘭は怒るけど、私はもう一度彼に私の名前を言った。


「そうそう……孟徳……陳留の刺史………乱世の奸雄……」


そう私が言った言葉から、私がいっていない言葉までぶつぶつ言い始めた彼は私から目を逸らして、春蘭や秋蘭に目を送った。


「女性の……三国志…曹操………夏侯惇に夏侯淵…」

「「!!」」


私の名前を聞いただけなのに、二人の名前まで分かるなんて…

春蘭ならまだしも、秋蘭は私が刺史になってから個人的な家臣。外に名が出てはいないはずよ。


「貴様、何故私の名を知っている」


秋蘭もそんな彼を警戒しながら聞いた。


「……ふふっ……ふふふっ」


そんな秋蘭の声には反応せず、彼は不気味に笑い始めた。


「ふふふふふふふふふふふふっ」

「答えろ!」


ギシッ


矢を射て彼を脅かそうとする秋蘭、春蘭も彼の異常的な行動に私を下がらせて前に立った。


「…ふふふ………………」


そして、彼は笑うのを止めて空を見上げた。

そして……


「興味深いな」


そう呟いた。


「華琳さま…こいつはどう考えても危険です。ここで仕留めたほうが……」

「……ちょっと待ちなさい、春蘭」


彼が変人なのは分かったわ。だけど、それでは春蘭の攻撃を避けたわけにはなっていない。

まだ何かあるわ。

私の胸に興味を沸かせる何かを、彼は持っている。


「あなた、名前は何かしら」

「……ほんごう…かずと……」

「ほんごうかずと?」

「北郷一刀…年は拾八、米国マサチューセッツ工科大学博士学位修了中。今から1800年の後から来た者だ……そうか、あのタイムマシーンは成功したのか。なかなか興味深い研究ではあったが、まさか本当に成功するとは……興味深くなってきたな」

「……?」


正直、彼の名前と年齢以外には何一つちゃんと聞き取れなかった。


「華琳さま、こんなやつにこれ以上興味を持つ必要もありません。さっさと連中を追って……」

「お前…曹孟徳と言ったな。だが、彼女はお前に違う呼び方をしている。何故だ?…予想するに何かの愛称か?」

「真名を知らないの?」

「まな……それはまなという風習か。……なるほど。人に大いに知らせる名前とはまた違う名を小規模に使うことで、自分と近い集団の人たちの間の信頼を深め、自分の有様を隠すことなくさらけだせる相手を作る……見事な選別道具だ」


……どうやら彼はこの大陸の者ではなさそうね。


「お前は……」

「貴様!それ以上華琳さまに近づくな!」


私の近くに来ようとする彼を、横から春蘭がぶんと殴る。

春蘭のおもいっきりの拳を食らった彼は砂の上にニ、三回転んでは止まる。

死んでないかしら。


「華琳さま、もう戻りましょう。あんな奴、相手をしている暇なんてありません」

「私もそう思います、華琳さま。どうも危険な匂いがします」

「秋蘭もそう思うのかしら。私も彼からは何か危険な匂いがするわ。……だけど」


そこがいいのよ。


「!」

「……」


と思っていたら、いつのまにか倒れていたはずの彼は私たちの前まで来ていた。

だけど、今の彼の目は私じゃなく、自分を殴った春蘭に向かっている。


「…お前が曹操を変人から守ろうとするその気持ちはわかる。だが、……


一回は一回だ」


ぶっ!


「!」

「姉者!」


そう言った瞬間、彼は春蘭の腹部を足で加撃した。

剣で急いで防御したにも関わらず、砂場だったせいか勢いにてすこし下がる。


「貴様…!」

「<<スッ>>」


彼はまた春蘭の剣を避け始めた。

だけど、今度は少し難易度が高い。


サシュッ


「<<すっ>>………同時打ちか。計算が暗算して追いつくか分からん」


秋蘭が矢を撃ってくる。

春蘭の剣を避ける先を狙って矢を打つ秋蘭の技も見事なものだけど、そんな先まで呼んでまた彼は矢と剣を同時に避けている。


「たああっ!」

「<<サシュッ>>」

「<<スッ>><<スッ>>」


手はポケットに詰めたまま、目線は剣を振るっている春蘭を少し下から見上げて、同時に秋蘭の動きにも注意して道先を考える。


まさか……



「二人とも得物をしまいなさい!」

「華琳さま!」

「華琳さま、しかし姉者が…」

「二人とも私の言うことが聞けないの?二度も言わせないで頂戴」

「「……」」


二人が剣と弓を下ろすと、彼の目がまた私に向かってくる。


「……言葉だけで将たちが己の恨みを後回しして命令に従う」

「当然よ。彼女たちは私のものなのだから」

「………そういう考え方は、きっと戦場では己に有利なものになるだろうな」

「そうね。そういうあなたこそ、なかなかすごいわね。二人の攻撃を同時に読みながらそこまで把握しているだなんて」

「……興味深いな」

「ええ、興味深いわね。とても…」


彼は私に興味を持った。

そんな彼に私も興味を持った。


私たちの関係はそこから始まった。


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