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幕間4 明命√

拠点:明命 題名「私、そんな嫌な娘じゃないですから!」


へれな様の護衛の任務から外されて数日後、魯子敬殿からへれな様がなさったことを聞いた時、私は蓮華さまや魯粛さまに自分の顔が真っ赤になっていることをバレないようと必死でした。


へれな様と最後に孤児院に行った時、私はへれな様の面前であそこの事は私たちとは何の関係もないと申し上げました。それを聞いたへれな様は口ではおっしゃらなかったものの、私に酷く怒っていらっしゃいました。その理由が今判りました。単にご自分が孤児院を営んでいたからではなかったのです。私たちが江東に帰ってきた目的。それを考えれば、私がへれな様に言ったことはとてつもなく恥ずかしい妄言でした。へれな様が怒るのも当たり前でした。


関係ないはずがありませんでした。蓮華さまに、私たちにとって彼らもまた守るべき民であり、その責任を放棄するなら我々に江東の支配者を名乗る資格はないでしょう。へれな様はそう思っていらっしゃったのだと思います。なのに私はその面前で彼らのことなんてどうでも良いから無視しましょうと言ったのでした。その時、へれな様に私はどれだけ無責任な人に見えたでしょうか。


蓮華さまはこの後、ご自分にこの問題を相談しなかったへれな様に怒りました。だけどへれな様は恐らく蓮華さまの部下である私があんな風に言うのを見て、蓮華さまも同じ考えだろう思って言うのを躊躇したのでしょう。


この騒ぎ、私が愚かにもあんなことを言ってしまったせいで話が難しくなったのでした。うまく解決できたから良かったものの、このままへれな様の努力も虚しくあの子たちを守れなかったら、へれな様はどれだけ私や蓮華さまに失望したでしょう。


「護衛の遂行中に保護対象に不要な意見はしない。そう教しえたはずだが」


蓮華さまがへれな様の部屋に居る間、私は廊下で思春殿に私がへれな様の護衛から外された直前にした会話について教えました。


「へれなが自ら危険な場に飛び込もうとしたことを止められなかったのはもちろんの事、それが原因になって興奮した状態で周りや保護対象に言ってはならないことを言ってしまった。貴様はへれなの身体だけでなく心も傷つける所だった。蓮華さまがお前を彼女の護衛から外したことは正しい判断だったようだな」


案の定、思春殿はきつい言葉で私を叱りました。正直私も誰かに叱られたい気持ちでお話していました。


「思春殿はへれな様のお考えが判ってて、へれな様が豪族たちに会うことを止めなかったのですか」

「成功するだろうとは思っていなかったけどな。最初は単に人が良すぎてあっちこっち突いているのだと思ったが、魯粛に言うことを聞いてこういうことについて長く考えたのだと判った。彼女の性格からして蓮華さまに迷惑になる言葉は言わないだろうと判断したから放っておいただけだ。結果的には蓮華さまももっと広い視線で物を見れるようになられて良い影響を与えたしな」

「…蓮華さまはそうかも知れませんけど、私に対してはへれな様はまだ失望されたままです」


なんとか謝罪しないと…。


「今日は恐らく蓮華さまがずっとへれなと一緒に居られるだろう。謝罪がしたければ明日にでもすれば良い」


思春殿はそう言いましたけど、正直不安です。明日、まさにこのすべての原因であるあの孤児院に魯子敬殿まで連れて皆で行くことになっていました。問題の発生源になる所に行ったらへれな様も私が言ったあの妄言を先に思い出すでしょうし、謝りたい私に良いことではありませんでした。


「はあー」


今夜は心配で眠れそうにもありません。


<pf>


「……私だけまず入ってあの子たちに説明してきます」


次の日、皆で孤児院に向かって建物が目の前になった頃、へれな様が一先ず私たちを止めて、ご自分だけで中に入ると仰りました。


「あ、では私がお供します」


蓮華さまが一緒に入ると仰っしゃろうとする素振りを見せたので、少しでもへれな様と二人だけになりたかった私は突発的に言いました。


「…はい、判りました」


へれな様は許してはくださったものの、少し戸惑いました。やっぱり私と一緒に居ることすらも戸惑うぐらい失望なさったのでしょう。辛くても、早くへれな様と仲直りしないと、これ以上に距離感が広がるだけでしょう。


「へれな様」


私はへれな様の車椅子の取っ手を取り、他の皆さんと離れ、孤児院の入り口に入る短い間ですが、早く謝罪するつもりでへれな様に言いました。


「私、へれな様に謝りたいことがあります。前にここに来た時に言ったこと、訂正させてください」

「どんなことですか」

「孤児院のこと、私たちとは関係ないって言ったことです。一軍の将として、言ってはいけないことでした」

「そうですか」


私が謝ったものの、へれな様はあまり機嫌が直ったようでなく、素っ気ない返事だけが帰ってきました。私がどうすればいいか分からず焦っているとへれな様はため息をついて言いました。


「別に怒ったわけじゃありませんから」

「でも、失望されたんですよね」

「……少しは。でも明命が悪いってわけじゃありません。私が勝手に欲張っただけです」


欲張った、ということは、元々はへれな様が私にそれぐらいは期待したってことです。そして私はその期待を裏切った。誰でもなく普段優しいへれな様からそんな風に言われるともっと苦しくなって来ました。


「同じ孤児院の出だから、もっと彼女たちのことを優しく接してくれるだろうって思ったんです。どんな生活か判ってるだろうから、もっと理解してあげられるだろうって。でもほら、人それぞれですし、明命が孤児院を出て以来、どんな風に生きてきたか私は知りません。もしかしたら彼女たちよりずっと苦労してここまで来たのに、あの娘たちは何の苦労もせずに助かるなんて不公平だって思ったとしても仕方のないことです」

「ちょ、ちょっと待ってください!」


へれな様が勝手に納得なさろうとしてる中で私の評価が逆にどんどん低くなっていくのを感じました。というか私が苦労したからお前たちもそれだけ苦労しろだなんて私はどれだけ子供なんですか。ここまで来ると逆に私が怒っちゃいます。


「私、へれな様が今思ってるみたいなそんな嫌な娘じゃありませんから!」

「…そうですね、ごめんなさい」

「いいえ、今のはいくら私に非があるとしても見過ごせません!へれな様が私のことそんな人だと思っていたなんて知りませんでした」


でも、今へれな様にこんなこと口で言っても本当に信じてもらえないでしょう。行動で見せるしかありません。


「今に見ていてください。絶対見返させますから!」


・・・


・・



それ以後、私はへれな様にそれ以上話すことを辞めて自分の努力を行動でみせることにしました。一先ず、その日に朝早く出かけるへれな様の様子を見てもしかしたらと思ってへれな様が部屋に置いて来た手袋人形を持って来たことが思わぬ高評価を受けてました。思いもしなかった台詞も聞けましたし。


その以外にも蓮華さまとへれな様に勉強を教わっていない小さい娘たちと遊んであげたり、へれな様の人形劇に補助をしたりと積極的に子供たちともじゃれ合った結果、


「明命お姉ちゃん、この絵本読んで」

「はいはーい」

「お姉ちゃん、ボクたちに剣術教えてくれるって言ったじゃん?」

「男子たちは昨日いっぱい遊んだから今日は女の子たちと遊ぶ番でしょう?ズルい!」

「ズルじゃないよ!昨日そう約束したんだからな!」


見事子供たちの中で人気者になることに成功しました。


……なんか当初目標としていたこととは異なっている気もしますけど、とにかく頑張りました。


で、その結果宿屋の広場で男子分かれて私を取り合ってるのですけど、どうしましょうか、これ?


「はい、はい、皆さん、あまりミンメイお姉ちゃんのこと困らせちゃいけませんよ」


子供たちが男女分かれて私を取り合う口論を始めたその時、へれな様がやって来ました。


「へれな様」

「絵本は私が読んであげますので、ミンメイちゃんは男子たちにゆずしましょう?」

「えー、やだー、ミンメイお姉ちゃんが読んでくれる方が良い」


その瞬間、場の空気が一気に冷えるのを感じたのは私だけでしょうか。


「そ、そうですか」


へれな様、顔は笑ってますけど周辺の空間が歪んでる気がします。これは…まるで戦場に立っているような感覚!今へれな様から視線を離したらヤられちゃいます?!


「ミンメイちゃん、大人気で困りましたね」


そしてへれな様も私の方を見てきました!耐えなきゃ!逸したら死にます!でも見ていても死にます!あの瞳の奥の何か見てはいけないものを見てしまう気が…!


「お姉ちゃん、具合悪いの?手震えてるよ?」

「え、だ、だだだいじょぶでですよ?問題ありません!」

「……そうですね。大人気のミンメイちゃんが一緒に遊んでという皆の期待に背くはずがありませんものね」


しまったです!ここは具合が悪いと言い訳して場を離れるべきでした!でももう完全に完全に固まって動けません。ただ視線を送ってるだけなのに、まるで雪蓮さまに睨まれてるみたいに指一本も動かせません!


こんなはずじゃ…こんなはずじゃなかったのに…!!


「こらあ!」


その時突然威厳に満ちた叫び声に私はもちろん、へれな様もビクッと身体を震わせました。


「せっかくお二人とも忙しいのに遊んでくれると言ってくださってるのに何失礼なこと言ってるの!取り合いっこなんて」

「呂蒙姉ちゃん」

「だって、女子たちが…」

「言い訳しない!」

「「ごめんなさい」」

「どうしてお二人が謝ってるんですか?!」


子供たちを取り合った(?)喧嘩は、更に上の保護者が来ることによって解決されました。


「お二人とも申し訳ありません。今日は私から皆にしっかり言って起きますから、もうここは私に任せて休んでください」

「え、でも……」

「大丈夫です。皆甘えてさせてくれる人が増えたからってあまり行儀が悪くなったみたいなので今日は私がしっかり教育します。へれな様も」

「…判りました。じゃあ、絵本は今度…」


そう仰って中に入ろうとしたへれな様はふと私を振り向かれました。


「階段昇るの、手伝ってくれますか」

「あ…はい!」


孤児院から来て以来、へれな様から直接私に話をかけてくださるのが初めてだったので私は喜んで車椅子を取っ手を握りました。


二階のへれな様の部屋まで来ると、へれな様は直ぐに窓側に向かってさっきまで居た広場の方を見下ろしました。私も窓に行って下を見ると、呂蒙ちゃんが子供たちを叱るのを辞めて皆で隠れんぼを始めて居ました。


「いいなー」

「…ぶっ」


へれな様がそう呟くのを見て私は思わず笑っちゃいました。それを聞いてへれな様がつんとした顔で私を見ました。


「も、申し訳ありません。笑うつもりじゃ…」

「だって笑ったでしょう」

「いえ、笑って…笑いましたけど……でもへれな様が………笑いました」

「私笑ってませんよ?」


いや、だって仕方ないじゃないですか。面に向かっては禁句でしょうから言いませんけど、この年で子供たちと遊べなくて羨ましがる人がどこに居ますか。


「ミンメイは子供たちに一気に人気出てきましたね」

「それは…へれな様が年のある子たちと勉強したり、授業の準備なさってる間私がずっと遊んであげてましたから」


男たちには剣術を教えると言って面倒見てあげて、女の子たちは絵本や、へれな様と一緒に造った人形を持たせて遊んであげたら直ぐ人気になりました。


「私、子供嫌いじゃありませんから」

「…そうですね。子供たちもミンメイのこと好きみだいでしたし……ちょっと妬いちゃいました」


私が感じたのは「ちょっと」じゃありませんでしたけど。


「前に言ったこと、まだ気にしてるんですか」


視線を窓の下の方に戻しながらへれな様が私に言いました。


「…もう忘れました」

「実は言った直後にあ、言い過ぎたって思ったんですけど。あの時ちょっとまだ自信なくて…」

「仕方ありません。先に非道いことを言ったのは私の方でしたから」

「それでも、やっぱり大人気なかったですね。言い訳をすると、ミンメイやレンファに私と同じ考えで合って欲しかったのだと思います。二人とも大切な人だから、私と同じ考えであって欲しかったんです。勝手な考えなんですけどね。身近な人だからって自分の考えに同意するのが当たり前だなんて」


…へれな様が言ったこと、私もあの時ちょっと感じたかもしれません。孤児院に不遜な輩が入り込んでるのを知っていて、その中に入ろうと言うへれな様を見て、私は本当に怒っていました。その後、近くに居てってお願いしたのに消えた時も、私はへれな様に怒って大きい声を出してしまいました。


相手が大切な人である程気をつけなければならない時もありますけど、逆に大切な人だからこそ我慢出来ない時だってあるのでしょう。私がへれな様にしたように。その後へれな様が私にしたように。


「へれな様、前に孤児院の子たちに対して酷く言ったこと、許してくれますか」

「私に許しを求めることなんてありませんよ。私にだって非がありますから」

「へれな様の口から聞きたいんです」

「…判りました。許してあげます。ミンメイも私が言ったの、許してくれますか?」

「…はい」

「良し、それじゃあこれでおアイコってことで」

「はい」


その時がちゃっとへれな様の部屋の門が開いて、へれな様に勉強を教わっている大きな子たちが入ってきました。


「先生…」

「あっ、先生の部屋に入る時はどうしなさいって言いましたよね?はい、やり直し」

「あ、ごめんなさい」


先に部屋に入った子は慌ただしく部屋を出て門を閉じました。そして外から門を叩く音が聞こえました。


「はい」


へれな様が部屋に入る許可をくれた後、その子は門を開けて中に入ってきて、他の子たちも入ってきました。


「はい、良く出来ました。私のですか?それとも孫権先生の?」

「両方あります」

「はい、うーん、それじゃあ…ミンメイ、レンファが教えてる部分が判らない子たちに教えてもらえますか?ミンメイからすればそんなに難しくないはずなので大丈夫だと思いますけど」

「あ、はい、大丈夫です」

「ありがとうございます。じゃあ、孫権先生の所が判らない人は今日はこっちの周泰先生がもっと簡単に教えてあげるので周泰先生に聞いてくださいね」


手を軽く振りながら来た子たちを見ると、手が墨がついて爪の下まで黒くなっていました。今までろくに筆も取ったことがないだろう子たちが熱心に勉強を始めていました。思うと私も文字を学べたのは孫堅さまに抜擢された以来でした。


へれな様は私に私が苦労したからこの子たちもそれぐらい苦労させたいと思ってるのでは?と思ったみたいですけど、そんなの絶対ありえません。そもそも、そんなんじゃあ私が苦労してここまで来た理由が判りません。私がやってきた苦労を後から来る人たちも同じく繰り返すことを望むなら、私がやってきた事に一体何の意味があるのですか。そんなの駄目です。


「教えるからには厳しくします。蓮華さまみたいに優しくするだろうなんて思わないでくださいね」

「……」


横でなんかへれな様が難しい顔になさっていましたけど、その日は夜までその子たちとへれな様と一緒に補習をしました。


・・・


・・



「ねえ、明命、今日授業中に子供があなたの名前を出して、あなたが教えるのがもっと簡単だったって言ったのだけど、どんな風に教えたのか教えてくれないかしら」

「は、はい」


ですから蓮華さま、その今にでも切り刻みそうな目つきを辞めてください。死んでしまいそうです。


<pf>



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