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幕間4 亞莎√

拠点:呂蒙 題名「救われた理由、救う理由」


私が生まれた場所は江東ではありませんでした。私が元々生まれた場所は、今も袁術が治めている豫州の汝南という所でした。平民で貧乏だったお父様は、豫州の悪徳な税収にもうここに居ても希望がないと思って家族を連れて長江を渡ったそうです。江東は当時大々的賊たちを掃討していた頃で、他郷の生活でもなんとか生きることはできました。ですが、間もなく孫堅さまがお亡くなりになって、袁術が江東を治めるようになるとまた生活は貧窮になり、そのせいで消えていた盗賊たちもまた現れ始めました。結局、私が十二才だった頃、村を襲った盗賊たちによってご両親は殺され、私だけが奇跡的に逃げることができました。


でも生きていても行き先は地獄の連続でした。食べる物、着るもの、住める処何一つろくにない子供。食べていける術があるわけでもないので最初は本当に村から村に移りながら乞食をしながら生きてきました。一つの村に長居するといつか追い出されました。ある時は人のない家にこっそり入って金や食べ物を盗んだこともありました。そんな動物以下の生活をしながらあっちこっちに流れていたある時、あの建物を見つけました。森で迷って日が暮れてきて、もう今日こそこのまま死ぬのかなって思った時でした。運命の女神はどうしても惨めだった私に生きてもっと苦行を強いたかったみたいです。


建物はその時もう廃墟も同然でした。でも幸い残された食器や寝具、家具などが半壊されながらも残っていたので、路地で丸まって寝ていた私にとってはまさに天国でした。一気に住と衣が解決できた私は森から採ってきた山菜とかでなんとか一人生きられる余裕が出てきました。


だけど問題はそこで終わりませんでした。余裕が出てきた私は拠点から離れた場所に出てみて、ちょっと離れた処に大都市の建業があることを気づきました。だけど大都市と言っても、あるのは大きさだけで、中の状況はあまり良くありませんでした。治安もあまり良くなくて、人があまり居ない市場にはいつも食物が腐りそうになっても乞食たちは近づくことさえもできずに、全部土に埋められました。そして私は一番驚愕したのは都市のある貧民区画でした。あそこは私みたいな行き場を失った人たちの墓場でした。所々に死体が転んでいて、その横にも死んでいく人たちの姿がありました。最初に行った時私はそんな人たちを目が会って怖くて逃げてしまいました。それから一ヶ月は城の中には行きませんでした。


次に城に入った時、私は同じ路地で、寝ている子供を見つけました。外相はとても汚く、きっと私のようにご両親をなくして一人だけ生き残ったけど、誰にも助けてもらえないままここまで流れてきたのでしょう。そしてこのまま誰にも気づかないまま死んでいくのです。次私が覚えているのは、私がその娘を私が住んでいた廃墟まで連れて戻ってきたということでした。自分の身もなんとかできるようになってやっと一月ぐらい経ったのに死ぬ寸前まで行っている子供を助けてしまったのでした。他の人たちみたいに知らんぶりしていれば楽だったものを……。結局残っていた服を着せて、食べ物を別けながら、その子が元気をつけるまで診てあげることになりました。


そうやって一人、二人、月が流れるにつれ人数は増えました。人数が増えると、ただ森で採ってくるものだけでは食べていけなくなって、ちょっと年のある男の子たちが労働や商売で城からお金を稼いで来るよおうになりました。建業に来た以来、一度も乞食をしたことはありませんでしたし、子供たちにやらせたこともありませんでした。乞食は自分のことを守れない頃の話でした。身を守れる家と、毎日食べて行ける程の体があれば、後は自力で、皆力を合わせて正当な方法でその日の糧を得ました。誰の手も借りず、私たちだけで生きていく。長く乞食をしながら、こそ泥をやりながら生きてきた私にとって、誰にも迷惑かけず、助けを受けずに生きていけることはそれだけでも大きな誇りでした。それも二十名通りの頼りにしてくれる家族が居る生活でした。恥にならぬように生きて行きたかったのです。


私たちを住処が自分たちのものだと言う人たちがやってくるようになったのは今年の夏からでした。最初は紳士的、というより私たちのことを肩についた虫を払うようにしながら出て行けと言いました。その日私は年のある子たちと一緒に集まって相談しました。今までの苦難をなんとか乗り越えてきた私たちならここを出ていってもなんとかなるという男の子たちも居ましたけど、彼らはともかく、ここには乳歯の残った子供たちもいっぱいいました。ここを追い出されたら、育った私たちはともかく、弱いあの子たちを守れる気がしませんでした。だから私たちは意地でもここを守ると決めたのでした。やってくる男たちを大勢で囲んで怯えさせて追い出したことを何回が続けた結果、結局向こうが専門の人たちを雇うまでに至りました。もしあの時へれな様がやって来なければ、私たちは死んだか、大きな怪我をして追い出されていたでしょう。


もしかすると私はもう懲り懲りだったのかもしれません。小さい子供たちを守るためとは言ってましたけど、私自身が、もうあっちこっち徘徊しながら泥水を飲み、人が捨てたものを食べて生きる生活に戻るのが嫌だったから、あの倒れかけの廃家を出ていかないようと必死だったのだと思います。


本当に、へれな様に助けられたその時も、まだここまでしてくださるとは思っていませんでした。


「すみません、仰ってることの意味が分かりません」

「ですから、ここに居る皆を、後援してくださる人を見つけました。それもなんと、建業で一番偉い商人さんと、孫家のお姫様です」


また来ると約束して、三日が過ぎて現れたへれな様が言ったことの意味が分かりませんでした。いいえ、本当に誰かが私を助けるという言葉の概念を忘れるぐらい、私は絶望に身をまかせて生きていきたのでした。


「何故ですか」

「それが当たり前だからですよ」


そんなはずはありませんでした。私たちのような人を助けることがこの世で当たり前なはずがありませんでした。馬鹿な妄言でした。なのにそれを言うへれな様の顔はとても明るくて、人を騙すつもりなんて微塵もないってお顔でした。


最初現れた時から、へれな様は胡散臭い方でした。人形劇だの、助けたいだの。確かに助けたいという人たちはたまに居ました。町で子供たちがものを売っているのを可哀想に思ったおばさんたちが大きな魚を買ってあげたり、ある時は家で使えなくなった古着をくれたりすることもありました。そんなものはありがたく受け取りました。


でもそうなる一方、ただ私たちの見た目がボロいからと言って、町にうろちょろするのを嫌がる人たちも居ました。露天で商売を始めた私たちの山菜を蹴って駄目にしたり、酷かったら大人たちに踏まれて怪我をして来る子も居ました。一番衝撃を受けた時は、ある子が誰からかもらってきた魚を料理して、一番先に食べた子が吐き始めた時でした。魚の中に鼠ごろしが入っていたのでした。それからは食べ物は誰からも貰わなくなって、町から買って来たものは全部私が料理する前に毒味するようになりました。


この世に善意がないだなんて言うつもりはありません。だけど、私たちに対して世は善意よりは悪意に満ちていて、何の関わりもなかった私たちをただ目障りというだけで殺そうとしていました。そんな悪意を一度見てしまったら、もう二度と手を伸ばそうだなんて思えませんでした。


だけど、


「大丈夫ですから」


へれな様はまだ疑う私の手を抱きしめながら仰りました。


「判ってます。信じるって怖いことです。だけど、信じてくれないと助けてあげられません。あなたがあの子供たちに信じられてるみたいに、あなたも誰かを信じても良いんです」


前にも善意を受けたことがありました。その善意は、どっちかと言うと憐れみでした。可哀想だから助ける。そんな善意はもらっていると自分のことを憐れむようになります。自分を惨めに思ってしまいます。人の助けを受けなくなったのにはそういう理由もありました。私は私たちだけでも生きていける。あなたたちが憐れまなくても良い程、私たちはうまく生きていると言いたかったです。


でもへれな様に抱かれていると、そんな人たちからはもらえなかった感情を感じました。


愛。


ご両親を失った後一度ももらったことのなかった感情。


その薄れていた感情が何かを感じたら、もう我慢ができませんでした。


「お母様……」


ちがうって判ってるのに、仕方がありませんでした。あまりにも久しぶりでした。誰かに愛された記憶なんてもう全部忘れて、そういうこと自体あったかも曖昧になっていました。でも、へれな様に抱かれていたら、何故かお母様とお父様と一緒に暮らしていた子供の頃の記憶が浮き上がってきて、泣かずには居られませんでした。


「はい、もう大丈夫ですから。大丈夫だから……」


へれな様はそんな私を安心させるようにもっともっと囁きながら、他の子たちに聞こえないようと声を殺してなく泣いてる私の背中をさすってくれました。両親を失ったあの日以来、人の悪意を怖がらずに居られたのはこれが初めてでした。


・・・


・・



しばらく時間が経った後、へれな様は他の人たちが外で待っていると言って紹介してくださると言いました。


「と、その前に、あなたの名前、教えてもらえますか」

「あ、はい!私、呂蒙といいます。字は子明です」

「……」


私の名前を聞いたへれな様が笑顔のまま固まったしまわれました。


そして間もなく、


「ええええええええー!!!」


凄い声と共に、私は新しい未来を迎えるようになりました。


<pf>


その日、私たちは全員へれな様と孫権さまがいらっしゃる宿に一緒に泊まることになりました。宿はそれほど大きなところではありませんでしたけど、なんとか四、五人を一つの部屋に詰めて全員の部屋を割り当てることができました。部屋が足りなくて、私も他の子たちと一緒に暮らそうと思ったのですが、へれな様が私のことは一人部屋にするべきだと強力に主張なさったので、結果的に今の状態になりました。


どうして一人の部屋に入れられたのかは、その夜に知ることになりました。


「リョモウちゃん?へれなですけど、入ってもいいですか?」

「は、はい!」


普段この時間なら夕食の後食器の整理などをしている時間なのに、何もしなくてもご飯が出てきて、食器の洗もしなくても良いと言われたので、何もすることがなくただ座ってるだけでした。そんな時にへれな様がお越しになったので、私は慌ただしく立ち上がって部屋の門を開けました。門を開けると、そこにはへれな様が他の付き添う方もなく一人で車椅子に座っていられました。


「お時間、大丈夫でした?」

「は、はい!大丈夫です!どうぞ!」


私は落ち着きのない仕草でへれな様を中に案内いたしました。部屋に置いてある卓の前に対面で座っても、私はどうすればいいか分からずただそわそわっしていました。


「そんなに慌ただしくしなくたって大丈夫ですよ」

「は、はい!」


へれな様は朝あからずっと楽に接してくれても大丈夫って言ってくださって居ましたけど、私はそうはできませんでした。


へれな様たちの助けなしであのままあそこに居たら私たちは結局悲惨な最後を迎えたでしょう。私はあそこに住めるようになったのが天国に出会えたようだったと思ったのですけど、本当は違ったのです。本当はずっと前から私は地獄に居ました。あの廃家はただの時間伸ばしでした。ご両親の失ったその時の絶望から全然抜け出せていないくせに、私は他の子を助けたり、大人たちから住み処を守ってるふりをして自分は全部克服したかのように振る舞っていました。へれな様たちが居なければ、私のせいで他の子たちまで皆死んでいたでしょう。


「それで、後援者の魯粛さんと話し合ったのですが、新しく、正式に建つ孤児院には十六才未満の、まだ成年を迎えていない子までを引き受けることになりました。それで…リョモウちゃんは…」

「…はい、今年で十六になりました」


へれな様の話によると、新しく建つ孤児院では、私はもう守ってもらえないようでした。それでも構いませんでした。他の小さい子たちが安心して暮らせるようになっただけで私は満足でした。私や他にもう成年してる子が何人か居ますが、私たちは自分の身だけはなんとか出来ます。


「それで、レンファに無理を言って、リョモウちゃんと他に十六以上になった人たちは孫策軍に入れてもらうってことになりました。」


そう心を決めていた私はへれな様の話にまた拍子抜けになりました。


「どうしてですか。どうしてここまでしてくれるんですか」

「助けるって言いましたからね。最後まで責任は取ります」


どうして…この方はこんなにも当たり前のように私たちのことを助けてくださるのでしょう。


「男の子たちには他の方々が話をしに行っています。本人たちが望むなら、後から正式に訓練兵として受け入れるか、それとも城の雑務をさせる使用人に入れてくれるそうです」

「ありがとうございます」

「今直ぐ決めなければいけないってわけじゃないので、時間はまだまだあるから良く考えてください。その間は、わたしとレンファで色々皆に勉強教えてあげることにしましたから」

「……はい?」


勉強って…何のですか。いえ、その前に、孫家の姫君が自ら私たちのような平民、いやそれ以下の孤児たちに勉強を…?


「そ、そんな恐れ多いことを…」

「恐れ多くありません」


この一瞬、さっきまで嬉しそうに説明してくれていたへれな様はぐっと真剣な顔になって仰りました。


「大人が、国が子に教えを施すことは当たり前です。今まで教えられなかった分、わたしとレンファが徹底的に叩き込みます。そこで習得が早かったら、軍に推薦して下級仕官として雇ってもらえるようにも出来ます。これは配慮ではなくて、わたし達なりの償いです」


この方がこう仰る理由を、その考えの基盤を私は知りませんでした。だからへれな様が仰る言葉の一つ一つが、私たちにとんでもない贔屓をしているように感じました。実際私たちの年の子たちが勉強を教わってもらうには数少ない私塾に高いお代を払って入れてもらうしかありませんでした。私たちはもちろん、普通の平民には誰かに教育をしてもらえるなんて夢のまた夢でした。


「どうしてですか?」


二回目。いえ、今朝まで合わせて三回目聞く同じ質問でした。へれな様の答えは同じでした。『それが当たり前だから』。だけど誰もそれを当たり前だと思っていませんでした。助かった私たちも助けた孫権さま方も。


「……真面目に答えないと、リョモウちゃんも納得してくれないでしょうか」


苦笑をしながらへれな様はそう仰りました。もしかしたら私はへれな様が言いたくなかったことを言わせようとしているのでしょうか。


「申し訳ありません。助けてもらった立場なのにこんな態度をとってしまって…」

「いいえ、リョモウが納得しないのも当然です。わたしも答えを避けていました。ちゃんと答えます」


そしてへれな様はどうしてご自分がこんなに私たちのことを手伝おうとしたのかその理由を教えてくださいました。


「ご覧のように私は脚が不自由でして、これは実は生まれてからこんなでした。それでわたしを産んでくれた親はわたしをとある孤児院に預けて逃げてしまいました。その孤児院の院長先生はとても悪い人で、機会さえあれば孤児院の女の子たちを自分の部屋に連れて行って犯しました。脚が不自由で、当時孤児院で一番年が多かった私なんて一番都合の良い孤児で、随時に連れて行かれて性的な暴行を受けて……それでもどこかに訴えることも出来ませんでした。例え訴えて院長さんが捕まるとしても、そしたら孤児院な閉鎖されて、私たちが行く所を無くしちゃうから仕方ないと、そう思ってただ我慢する日々でした。思えばあの時誰かに助けを求めるべきでした。何も知らなくて、ただ臆病になってしまっていたのです。結局孤児院に居たとある男の子が反旗を揚げるまでわたし達の地獄は続きました。それから孤児院は良くなって、後でわたしはその孤児院の院長先生になりましたけど、いつもあの時自分が孤児院のために何もできなかったことが気掛かりでした。だからそれからいつも守る側になるために頑張ってきました。私の身には何があっても、苦しむ子供たちのためには守る側になってあげるって。あの時守れなかった分まで、大人になった今守ってあげるって」


へれな様の話が進むにつれ、私の中からは聞かなければ良かったという後悔がもぞもぞと昇ってきました。へれな様の過去が私より酷かったからではありません。へれな様の過去が私の帰る所を無くして彷徨っていた私より酷かったと思ったわけではありませんでした。だけどあっちこっち移りながら何度も死にかけた私でも犯されるなんてことはされませんでしたし、自分を無力だったと思ったこともありませんでした。今回の事件で自分の無力さを知らされる寸前までは行ったかもしれませんけど、それで砕かれはしませんでした。この方はそれを経験して一度砕かれた人でした。へれな様がそんな風に一度大きく絶望したことのある人だったから私たちは生き残れたのでした。


「この事はまだ誰にも言ったことがありません。レンファにもです。だからリョモウちゃんもこの事は誰にも言わないでください」


にも関わらずこの方は何時の間にまた慈愛に満ちた笑顔に戻ってきていました。


「これを言ったのはリョモウちゃんに哀れんで欲しいとか、私みたいな人も居るのにあなたが弱音を言うなとかそういう理由で言うわけじゃありません。リョモウちゃんがこれから同じ境遇に会う時、助けられる側に居て欲しいからです。誰にも救われず、自分もどうすれば良いのかわからない人達に出会った時、知らない結果を恐れずにまず助けるための手を伸ばす人になって欲しいからです」

「へれな様……、どうしたらそんな風になれるんですか」

「その人たちをあなたの家族だと思ってください。誰よりも守るべき、愛おしき家族だって。私はいつも私が会う子供たちをそんな思いで見ていました。そうすれば、目を逸したくてもできませんから」

「あ」


だからだったんですね。だから貴女さまの胸はあんなにも暖かったのですね。


「もちろん、今直ぐにそうしましょうというわけじゃありませんけどね。リョモウちゃんにはまだ時間はたくさんありますから。それに、今は他の子たちを守る立場からやっと開放されたばかりじゃないですか。暫くは、自分のために何をするかを考えてください」

「…はい」

「それと、出来ればレンファとも仲良くしてください」

「孫権さまと…ですか?ですが…」

「レンファはわたしに色んなことを教えて欲しいって言いますけど、どうしても私は他郷の人です。私の話よりもリョモウちゃんの声がもっとレンファの心に響くこともあるはずです。レンファにはリョモウちゃんが必要です。だから怖がらないでちゃんと向き合ってください。ちゃんと思ったことを話すと、レンファなら聞き入れてくれます」


この方の前では、人以下の扱いを受けてきた乞食の孤児も、一国の姫さまも同じなのでしょうか。とても恐れ多い話でした。


でも、どうしてもこの方のお頼みなら、今も、これからも、断られる気がしませんでした。


「はい、判りました…」


この方は、長く忘れていた温もりを思い出させてくれた方でしたから。


「お母様」

「……ふふっ」


…あ!


「ご、ごめんなさい!今のは違くて…!」

「大丈夫ですよ。良く聞きますから」

「あうう……」

「ここに居て何か困ったことがあったら誰にでも良いから言ってください。どうしても言いにくかったら、隠さずにお母さんに言うですよ?」

「からかわないでくださいい!」


恥ずかしくてそう言ってましたけど、私の心のどこかではこの人がお母様でも良いと思っていました。もう私を産んでくれたお母様とお父様の顔は思い出せませんでした。ただ温かい記憶うっすらと残っているだけでした。その暖かさをへれな様は再び思い出してくれたんです。後で知ったのですが、私だけではなく他の子たちもこんな風に思ってる子たちがたくさん居たみたいでした。


これが私たちを覆っていた絶望の物語を終わりでした。だけど私たちの物語は始まったばかりです。


これから私たちが救って行く人々の物語のように。


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