表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
138/149

四十六話

明命SIDE


改めまして、お久しぶりです!


孫呉の諜報工作特殊要員の周泰と申します!


孫家の本隊が洛陽から引き下がった後にも、曹操及び劉備の軍の動きを調べるために洛陽で忍び続けていました。雪蓮さまたちが洛陽を去って十日程が経って、劉備軍が河北に回軍し、以後曹操軍も皇帝陛下をお連れして兗州へ戻っていきました。それまで北郷さんの容態は、死を隠蔽している様子ではありませんでしたが、逆に好転したという動きも見当たらず、依然として昏睡状態のようでした。


そんな情報を持って、廬江に戻られた雪蓮さまに報告を済ませた後、直ぐ様建業に行かれた蓮華さまからの伝言で、建業に渡ってきたのでした。


任務の内容は私が居ない間に見つかった、北郷さんとの友人というへれなさんという方の護衛でした。本人曰く、北郷さんが来たという天の世界での友人ということで、内心あんな人が天下に二人も居たら大変なことになったなあと恐れながら建業に脚を急ぎました。そして言われた通りに建業の宿屋に到着して屋根から様子を窺った私は、初めて見る人がお猫様に毒を盛って弄ぼうとする様子を見て興奮してしまったのでした。


私は猫、いえ、お猫様が大好きです。例え野良であっちこっちに媚を売って生きるとしても、その孤高な姿態を失わないお猫様のお姿はまさに泥水の中に咲く一輪の花!そんなお猫様にあんなにへなへなとした姿に変えて弄ぼうなどうらやま…いえ!冒涜です!天罰が当たります!


……そして気がついたらその人が蓮華さまに守りなさいと命じられた相手で、下手すると護衛対象に刃物まで見せつけようと思っていた私はその前で土下座して許しを乞うしかありませんでした。そして相手の方もずっと謝る私よりも更に謝って、互いの頭がどんどん下に向かって…気がついたらお猫様はもう部屋を出た後でした。


「何をしていたのでしょうね、わたし達」


状況が整って、へれなさんは自嘲するように笑いました。


「本当にすみません」

「いえいえ、…もうこの件は互い水に流すことに致しましょう。でなければまたずっと謝るばかりで時間が無駄になっちゃいそうですし。レンファには何も言いませんから、ね?」

「…はい」


ふとへれなさんが蓮華さまのことを真名で呼んでいることに気づきました。呼んでるということはもちろん蓮華さまが真名をお許しになったのだと思いますけど、軽く真名を口にしなかった北郷さんと比べて随分とあっさり呼んでしまうんだなと不思議に思いました。


「えっと、シュウヨウヘイさんで間違いありませんよね?」

「はい、あの、私のことは明命とお呼びください」

「え、…それはマナというものですよね?宜しいのですか」

「はい、蓮華さまと真名で呼び合う仲であれば、私にとっても大事な方ですので」

「そうですか…私はマナはありませんので、気安くヘレナと呼んでくだされば宜しいかと」

「あの、ちなみに蓮華さまは…」

「レンファからもヘレナと呼ばれていますよ?」

「それなら私が気安く呼ぶわけには行きません。今後はへれな様とお呼び致します」


へれな様はその後何度か遠慮しましたが、私がそこは譲れないと固く言ったので結局折れてくださいました。


「えっと、ミンメイはわたしの護衛のためにきてくれたんでしたね?」

「はい、軍に置いて重要な人物の保護も私の主な任務の一つです。その他には戦争に置いての様々な諜報、工作など、主に相手にバレないように行動する任務を任されております」

「あ、スパイみたいなものですね。チョイさんが昔やっていたと聞きました」

「すぱい?」

「はい、夫が昔…あ!」


話の途中でへれな様は何かを思い出したように声をあげました。


「ミンメイ、チョイさんの事について、えっと、私が居た荒野の調査で、誰か見つかったという話はありませんでしたか?」


そういえば、ここに来る前に聞かされたことがありました。へれな様を見つけた周辺の地域で探査した結果を蓮華さまに報告するように言われていました。へれな様に関しての内容なので直接お話しても多分大丈夫でしょう。


「その件ですが、調査隊の報告によると、あの一帯で他に人が居た痕跡は見当たらなかったそうです」

「……そうですか」


私の返事にへれな様は直ぐに残念そうな顔になりました。


「誰かをお探しなのですか」

「…夫を…見失ってしまいまして」

「あ」


見つける人って旦那さまだったんですね。それは…


「申し訳ありません」

「ミンメイのせいじゃありませんから」

「それでもです。…きっと、誰かが見つけて介抱してあげているとかそういうことだと思います」


そうは言ったものの、嘘でした。あの一帯は確か周辺に民家も一切ないはずでした。


「…ありがとうございます」


へれな様は優しく言ってくれましたけど、話す声に力が入っていませんでした。


「そ、それよりも、これからどうなさいますか。どこかお出かけでも?どこに行っても、私がお守り致しますから」

「…そうですね。元々は護衛の方が来てくれたらどこかへ行こうと思ったんですけど…ちょっとそんな気分じゃなくなって」

「そ、そうですか…」


まずいです。これは蓮華さまがいらっしゃるまで何も言わない方が良かったのかもしれません!


「すみません、せっかく来て頂いたのですけど…少し一人にさせて頂きますか」

「… はい」


何か他のことを言おうとしましたけど、祭さまみたいなそんな器用な慰めの言葉は私には出来なくて、仕方なく私は窓を通って部屋を出ていきました。


・・・


・・



「しくじりました…」


屋根に昇った私は呟きました。


新しく与えられた任務の初めから二度も連続で大きなヘマをしてしまいました。


今回の任務は貴賓の護衛ということですが、へれな様がこれからの孫家にどれだけ重要な方であるかを考えると、その機嫌を損ねたことは大きな過ちでした。蓮華さまが私を信じて任せてくださった任務なのに、このままでは初日から失望させてしまうことになってしまいます。


「なんとかして、へれな様を励まさなくては…」


しかし私はへれな様に関して何も知りません。あの調査が旦那さまを探しているということすら私は知りませんでした。私がへれな様に関して知っていることは……。


「お猫様が好き?」


変なものを使ってお猫様を誑か…弄んで…お猫様と戯れていたことを考えると間違いはないと思います。


ああ、でもいけません!いくら軍に大事な方とは言え、お猫様にあんな風に扱う方です。私の過ちを覆うためにお猫様をまた犠牲にするわけにはいきません。


ここは、自分の力でなんとかすべきです!


<pf>


時間が過ぎ、お昼ご飯を食べる時間になりました。そろそろ落ち着いた頃だろうと判断した私は屋根の端から上体をぶらさげて窓で部屋の中を覗きました。中を見ると寝床にへれな様が壁側に背を向けて座っていました。起きてはいましたが、ただ元気なく向こう側を焦点をなくして見ているだけでした。


「へれな様」


私が窓から部屋の中に入ると、へれな様は無言のまま私の方に視線を動かしました。


「店主に頼んでお昼を用意させて来ます。今日から私がへれな様のお世話をさせて戴きますので、なんでもお命じください」

「……なんでも?」

「はい!」

「……そうですか…それでは、お願いします」

「はい!少しお待ち下さいね!」


私は元気良く窓から飛び下りて、宿屋の厨房へ向かいました。いきなり剣を持って入ってくるこっちを見て驚いた宿主と一悶着済ませたのち、私は元気を失くしたへれな様のためのお粥を持って階段で二階のへれな様の部屋に入りました。


「へれな様、お食事をお持ちしました」

「ありがとうございます。車椅子に座るのを手伝ってくださいますか?」

「はい!」


部屋の卓にお粥のお盆を置いて、私は隅に置かれていた車椅子をへれな様の居る寝床まで運んで、寝ていたへれな様を抱き上げて車椅子に座らせました。そして車椅子を押して卓の前まで移動させその横に立ちました。


「ミンメイも座ってください」

「いえ、護衛が護衛対象と一緒に座るなどとんでもありません」

「大丈夫ですから、座ってください。それに、ミンメイもお腹が空いているのでしょう?」

「はい?」

「お腹、さっきからずっと鳴いてますよ?」

「???」


………ぎゅう。


「はうあ!」


自分もお腹がすいていることに全く気づいていませんでした!


「ほら、私のお隣に座ってください。幸い、粥の量が少し多いですし」

「う…はい」


恥ずかしがりながら隣に座った私ですが、お粥は一つしか持ってきていませんでした。


「ふー、ふー」


へれな様は蓮華れんげでまだ熱いお粥を掬って息を吹きかけて冷ましました。その後、そのレンゲを私の方に持ってきました。


「…へ?あ、あの…」

「はい、あーん」

「い、いいえ!?あの!これはへれな様のお粥ですし…それに食べさせてもらうなんて…」

「いけませんよ。好き嫌いなんてしたら」

「いいえ、そういうわけではなく」

「はーい、飛行機さんですよーふういいいいー」


私がお粥を断るとなんかへれな様がレンゲを宙に泳がせ始めました。どうしましょう。へれな様、壊れちゃったのでしょうか。横から見えるへれな様のお顔は微笑んでましたが、仕草を見てちょっと怖くなっちゃいました。


「ほらー、ういいいいい」


あ、レンゲがこっち来ます。これも断ったら状態が悪化するかもしれません。


「あー」

「お粥でも、ちゃんと噛んで食べるんですよー」


口を開けてレンゲを受け入れるとへれな様の口元が少し上がりました。これで良かったようです。


「はーい、次いきますよー」


しかし、私はお粥を食べ終わると、へれな様は次のお粥を掬って持ってきました。


「いいえ、あの!もう自分で食べられますから…」

「……なんでもするって言いました」

「た、たしかに言いましたけど…」

「いいえ、良いんです。変なことさせてごめんなさい…私はこんなことしか出来ませんから……ダメですよね。無理やり人の世話をしようとして自分が必要な人だと思いたがるって…本当は一人じゃ何も出来ないのに…消えた夫を探しに行くことさえも出来ない私が過ぎた真似を…」

「ああーー!判りました!判りましたから!食べさせてください!」


もうこのままだと悪化するだけですし、選ぶならいっそ自分を犠牲にする方を選びます。


「じゃあ、あー」

「あー」


それからしばらく私はへれな様が食べさせてくれるお粥を食べていました。へれな様は本当にお粥を冷ましては食べさせる作業に夢中で、途中から明らかにへれな様のお腹が鳴く音が聞こえたのですが、へれな様はそれを全く物ともせずに私にお粥を食べさせました。


「も、もうお腹一杯です。へれな様が食べてください」

「そうですか?まだ半分しか食べてないのに…遠慮してませんか」

「いえ、私は訓練で少食するようにされてるので、これだけでもお腹一杯です」

「そうですか…仕方ありません。それじゃあ、残ったのはわたしが…」


…って良く考えてみたら、レンゲは今まで私が食べていたものしかありませんでした。


「新しいレンゲ頼んできま…」

「ふん?」


私がそう言った頃にはへれな様はもう同じレンゲでお粥を食べていました。…何の迷いもありませんでした。私は思わず顔が赤くなりました。


「き、汚いですよ、へれな様!」

「大丈夫です。食事はいつもこんな風に皆が食べ残したものを食べてましたから」


食べ残しを食べ……へれな様、蓮華さまに見つかるまで一体どんな貧窮な生活をなさっていたのですか!


・・・


・・



やがてお粥の器が空になって、私が食器を厨房に返して来ました。帰ってくるとへれな様は寝床に腰掛けていて、その手には何か持っていました。


「あ、ミンメイ、帰ってきたんですね。こちらへ来てください」


へれな様はお隣を叩いて、私はそこへ座りました。


「あ、もうちょっとだけ離れて座ってくれますか?」

「はい?えっと…これぐらいですか?」

「はい、じゃあ、そのまま私の方に向かって横に倒れてください」

「…はい?」


私が意味がわからなくて面食らっていると、へれな様はご自分の太ももを叩きながら言いました。


「ここに頭が置かれるように寝てください」

「あの、それって所謂…」

「はい、膝枕です」

「…何故ひざまくらを?」

「その方が遣りやすいですからね」

「何をですか」

「それは……これです」


そう仰るへれな様の片手には爪楊枝のような細い木の棒を持っていました。


「なんですか?それ」

「知らないんですか?耳かき」

「…耳かき?」

「まあ、やってみると判るので、とにかく寝ちゃってください」


ぽんぽんと膝を叩いて促すへれな様を見て、どうせ断ってもさっきと同じようになるだけだと考えながら心を決めて頭をぽんとへれな様の膝の上に乗せました。ここ最近ずっと立ったまま寝るような生活の継続だったので、柔らかくて少しばかり暖かい人の膝の上はとても心地良い感触でした。


「それじゃあ、そのままじっとしていてくださいね」


そう言ったへれな様は私の耳元に手を置いて、その後耳の中に何か入ってくるのを感じました。


「な、何を…!」

「じっとしていてください!でないと耳の中に傷ができちゃうかもしれません」

「ま、まさかさっきの棒を入れたのですか?耳かきってまさか…」

「はい、これで、耳の中にある垢を掻き取るんですよ」

「なんでそんな危ないことをするんですか!しかも人に任せて!」

「気持ちいいからでしょうか」

「わけが判りません!」

「大丈夫ですから、わたしの事を信じて、ゆっくり深呼吸してください。ほら、吸ってー」


そう仰ったへれな様は大きく息を吸いました。私もその真似をして大きく息を吸いました。


「吐いてー」


へれな様の声と同時に我慢していた息を吐きました。


「また吸ってー…吐く時は、吸った時よりも長く時間を掛けて…吐いてー」


へれな様の指示に従ってしばらく深呼吸していると、心が落ち着いてきました。


「それじゃあー、行きますよー?手慣れてますのでー、ゆっくりして頂いていれば、痛くはしませんから、ね?」

「は、はい」

「緊張を抜いてくださいねー」


耳の中に何かが入っている感覚が慣れませんでしたけど、少しするとそれがちょっと気持ち良くなってきました。耳の中をかいていた棒が、耳の中の何かに引っかかって、ちょっと何かを持っていかれるかと思ったらいきなり耳の中の風が入ってくる感じがしました。


「お」

「凄く大きいのが取れました。間違いなく耳かき人生に置いて最大級です。これはやりがいがありそうなお耳です」


何か耳が大変なことになっていそうでちょっと不安なのもありましたが、なんか以前より耳がすっきりした気分になれてその後も続く耳かきとやらを私はされるがままになっていました。


耳かきをしている間も、へれな様は何やらを話をかけてきました。


「これ…実はレンファにもまだしてあげたことないんですよ」

「え、そうなのですか。蓮華さまもまだしてないことを私に…」

「レンファはよく私に頼ってくれますけど、あまり甘やかすとコウハさんに怒られてしまいますからね……それにしても、きれいな肌ですね。羨ましいです」

「別にそんな…いつも任務で不規則な生活で、長期任務の時は髪なんてボサボサになっちゃいます」

「お仕事、大変なんですね」

「はい、でもこれも全部孫呉のためですから」

「偉いですねー。でも休める時はちゃあんと休まないと…一瞬でポキっと行っちゃいますよ?」

「ポキっと?」

「ポキっ、と」


しばらく耳かきが続いて、耳に入るのが木の棒の代わりに柔らかな綿みたいなものへと変わりました。


「くすぐったいですか?」

「ん…ちょっとだけ…でもなんか気持ちいいです…」

「そうですよねー」


やがてそれも終わると、最後にへれな様は大きく息を吸って、耳の中に息を吹きかけました。


「んっ!」

「はい、こっちの耳は終わりました。それじゃあ、反対側を向いてください」


へれな様のご命令に私は反対側に寝ころびました。目の前にへれな様の腹部が入ります。


……ちょっといい匂いがします。


「ん…ミンメイ、そこであまり強く深呼吸したらダメです。手元が狂っちゃいますよ」

「あっ、ごめんなさい!」


耳かきが続いて、今度は何の会話もありませんでした。ただへれな様がゆっくりと耳かきをしていて、たまに棒に力を入れて耳垢を出すときに口から声が漏れる以外はとても静かでした。耳から伝わる感触、へれな様の息をする音、呻き、へれな様の体温、へれな様の匂い。


五感がへれな様でいっぱいで……途中からはどんどん頭が回らなくなって…


そのまま……。


<pf>


へれなSIDE


子供は羽のない天使…という言葉もありますけど、だからと言って喧嘩をしないわけでもなくてそれで機嫌が悪くなっちゃうことだってありました。そんな時に皆は、例え私が知らないことが原因だったとしても院長室に慰めてと訪れました。そしたら私は何があったのかそういうことは一切言わずに、こうして耳かきをしてくれたり、マッサージしてくれたり、とにかく子供たちが安らげるようなことをしてあげます。そうすると自分から話してくれる子も居て、何も言わずに癒やされて帰る子たちも居ました。どっちだとしても、また嫌なことがあったりすると約束したように皆私の所に来るので、少なくとも私が知らない所で泣いている子供は居なかったと思います。


一方、わたし自身も子供たちと喧嘩したり、子供たちが言う事聞かなかったりして、怒ったり落ち込んだりしてしまうことがありました。そういう時は子供たちから離れてしばらく何もしないでいました。そうしてると、またどこから喧嘩をして来た子たちが「あれやって、あれやって」と強請ってくるんです。それでしてあげていると、される側と同じぐらいしてあげる側も心が安らぐもので…ああ、私はこんなに必要とされているんだ、この子たちは私が居ないとダメなんだ、そう思うとまた元気が出てきて明日も頑張ろうってなりました。


レンファに甘えさせてるのも、実は私がそうさせているのかもしれません。レンファは本当は私なんか居なくても平気です。レンファが私を必要にしてるのではなく、本当は私が元気でいられるためにレンファに私を頼らせているんです。頼ってくれる人が居ないと、私もダメになっちゃう気分になるんです。さっきミンメイに言われた時だって何も出来ない状態に落ち込んじゃってました。だからミンメイに無理やりに世話をして、自分が無力じゃないと自分に暗示をかけていたのです。一旦見ると微笑ましく見えるかもしれませんけど、実は頼ってくれる人が居ないと壊れちゃうガラスの方な弱い精神です。


多分、コウハさんもこういう意味で朝の時そう言ったのだと思います。


「あまり褒められるものではないですよね…」


膝の上で寝ているミンメイの髪撫でながら私は呟きました。


「んっ……む…」

「それでも、やっぱり世話されるばかりというのは嫌だなあ」


そんな時、部屋の門が開きました。


「へれな、今日はちょっと早めに帰ったわ。お昼はちゃんと食べ……」

「あ」


門を開いたレンファは、私に膝枕されて寝ているミンメイを見て硬直しました。


「えっと…今は寝てますから…しーっ」

「……周幼平!!」


私がそう言ったにも関わらず、直に顔を赤く染め始めたレンファはミンメイの本名を叫ぶと寝ていたミンメイは体を動かしました。


「んぅ……今のは…蓮華さま!」


そして状況を把握したミンメイ は直ぐに私から離れて床に跪きました。


「周幼平、貴様の失態、判っているな!」

「はい!申し訳ありません!」

「貴様の罪状を述べよ!」

「はい!護衛任務中にも関わらず、対象を護衛できずその膝の上で寝ていました!」

「そうだ!貴様は私が信じて任せたへれなと羨ましくも乳繰り合っていたんだ!」

「…はい?」

「異議があるか!」

「ありません!全くその通りです!」


レンファ…もしかして妬いてますか?


「あなたは任務に真面目な娘だから信じて居たのに…こんなにもだらしなくなってしまうなんてどういうことなの?洛陽で悪名を広げたあなたはどこへ行ったの!」

「レンファ…」

「へれなは黙ってて。これは私と部下の間の問題よ。任務遺棄の罪は大きいわ」

「でも……」

「幾ら庇ってもダメ。理由がなんであれ、私が命じた任務を怠ったケジメはつけてもらうのだから」

「そうですか…それではレンファも、自分の職務を放棄したケジメをつけなければいけませんね」

「…へ?」

「ほら、後ろ」


レンファが後ろを向くと、そこには顔色は全然変わらず、ですがそのいつもと変わりのない表情から何故か怒涛のような怒りを感じさせるコウハさんが立っていました。


「し、思春?」

「蓮華さま、本日の日程はまだ終了していなかったはずです。私に他の仕事を任せたのはこのためだったのですね」

「だって仕方ないじゃない!明命が遅れているかもしれないし…もしずっとへれな一人だけだったら食事はどうしてるか心配で」

「問答無用です。二人とも、そこに直ってください」


それからレンファもミンメイ もコウハさんに酷く叱られました。


そしてその日の夜まで叱られた二人とも私が慰めてあげてーレンファ にも耳かきをしてあげましたー結局わたしの一人勝ちだったという、


そういうお話です。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ