表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
136/149

四十四話

蓮華SIDE


「建業…ここに来るのも久しぶりね」


何年ぶりに地を踏めたのだろうか。母様が亡くなった以来、初めてだった。


昨夜建業に到着して一晩を過ごして私たちは今朝三人で建業の名物の魚市場に来たのだった。


「見て、へれな。ここが建業で一番賑やかな魚市場よ」

「……」

「…へれな?」

「ごめんなさい、レンファ…わたし…気持ち悪くて…」


私がおかしくなってへれなの顔を見ると、へれなは手で鼻を摘んでいた。


「何してるの?」

「魚の臭さが酷すぎて…」

「それがいいんじゃない。これが生きている建業の市場の匂いよ。そうでしょう、思春?」

「あ゛い゛。お゛っし゛ゃるどおり゛です゛」

「……」


思春の方を見ると、ちらっと見るといつもと変わらない様子に見えた。いや、様子は確かに変わりなかったけど何故か鼻が詰まったような声を出していた。


「思春、あなた鼻に何か詰めてる?」

「……」


思春は答える代わりに首を横に振った。


「もう、なんなの、思春!それで江賊なんて良くやっていたわね!」

「レンファ、これって生臭いんじゃありません。腐ってる匂いです」

「…へ?」


へれなの話を聞いて私は再び匂いに嗅いでみたそしてへれなの言うとおり、それは単に魚の生臭い魚介類の匂いだけではなく、腐った魚の匂いもすることが判った。


「こんな匂い、一体どこから…少なくとも市場に出ている魚は腐っているようには見えないわよ?」

「お゛ぞら゛ぐ…」

「思春、鼻に詰めたモノを外しなさい」


私の叱りに思春は仕方ないという顔で鼻に詰めていた綿を抜いて話を続けた。


「恐らく、鮮度が落ちてる魚をまとめてどこかへ捨ててるのでしょう。捨てる場所は市場と距離があるはずなのですが、それでもやっぱりどこかで匂いがしてきます。匂いが市場の道具などに染み付いているのかと」

「それに…市場が大きい割には人の通りがあまり少ないみたいですけど」


へれなが指摘したとおり、まだ朝ということを考えても大通りに人が私たちを含めて十人にも至らなかった。私の記憶の中の魚市場の賑やかな姿とはまるで違った。


「どういうことなの?あんなに活気に溢れていた建業が…」

「私たちが居なかった間江東が変わったということでしょう。詳しい話はここの商会の長を会ってみれば判るでしょう」


実はここに来た理由は単に観光の目的ではなかった。建業に来る時事前にそこの豪族たちを会う約束をしていて、ここの商会の長もその一人だったのだ。


「商会の長…そんな大事な人に会うのに、わたしも一緒に行っていいのでしょうか」

「何を言っているの。あなたも私たちにとって十分大事な人よ。あなたはこれからこの国の守護神みたいな存在になるのだから。それにあなた一人で居させるわけには行かないしね」

「でも…」

「大丈夫。へれなは何もせずにただ側で見ているだけで良いから。もし何かあっても、へれなのことは私が守ってあげるから」

「レンファ…」


良し、へれなが感動した顔で私を見上げてきた。これでもっと好印象を与えることが出来た。


「そんな台詞は剣にご自分の身を任せて振るう悪癖を直してから仰って欲しい所ですね」

「っ…思春!」

「失礼、口が滑べました」


かっこよく決まった所なのになんでそんなことを言うのよ!


「レンファ…」

「うっ、へれな。これは違くてその…」

「わたしが知らないからって見栄張っちゃって…めっ!」

「う…」


怒られた…。


<pf>


建業に今残っている豪族たちは、母様が亡くなった時期に袁術に協力したか、少なくとも母様に最後まで忠誠しなかった者たちだった。最後まで母様に仕えた重臣たちは今は姉様の元に居るか、それともまだ軟禁状態にあった。まだ軟禁状態のシャオと一緒に居る張昭がその例だった。


一方、今会う建業の商会の長のように母様が死んだ途端、袁術の命令に従って姉様を見捨てた者たちも居た。彼らが姉様を裏切ったことを恨んだりはしない。江東は母様という大きな英雄を失ったばかりで混乱していて、彼らの目からして姉様はまだ幼かった。何の準備もできていなかった彼らにいきなり姉様に従えというのは、姉様が江東を取り戻した直後にいきなり死んで北から曹操が攻めてきてるのに、姉様の後を私が継ぐから問答無用私に従いなさいって言っているものだった。


……今の例えはなんか洒落になってなかったわね。


とにかく、建業の商会長に会いに行くという約束をした時、私は相手が私のことを無視するだろうと思っていた。だけど驚くことに、私たちが昨夜船着き場に到着して宿所を探してる際に商会長が出したという人間が船着き場で待っていて、私たちを宿にまで案内してくれていたのだ。私たちは予定に大変遅れて建業に来ていたにも関わらず、私たちが建業に着いて彼の使い人に会うまではそう時間がかからなかった。それだけ商会長がこの建業で持っている力が大きく、そして不思議なことに私たちを待ち遠しくしていいたのだった。思春は罠である可能性を恐れたし私もその可能性はあると思っていたけど、相手は建業の経済を牛耳る人だった。もしそんな人が私たちを罠にかけるほど袁術に浸かっているのなら、最初から江東を取り戻すという姉様の夢は不可能に近かった。打開できない絶望的な状況を仮定した所で何のためにもならなかった。


商会長の居る商会に辿り着いた私たち三人を手前の受付の人が迎えて、私たちは貴賓室へ案内された。


「なんというか、素朴なところですね」


貴賓室だと案内された場所は、それはもう私たちが泊まった部屋とそう変わらないぐらい素朴な部屋だった。普通こういう豪族の執務室や客を迎える部屋となると豪華な陶器や金で造られた工芸品の一つや二つどうということもないように飾ってあるものなのだが、部屋には机に四つの椅子、日光が通る窓の下に慎ましい花鉢が置いてあるぐらいだった。


私が椅子に座ってー思春は護衛のためと言って座らず、へれなは車椅子の方が楽そうだったので彼らの分の椅子は外してもらったー待っていると、間もなく受付の人が商会長と共に戻ってきた。


「良くぞいらっしゃいました。わたしがここの商会の長、魯粛子敬と申します」


商会長、魯子敬は長江の色のような水色の髪を持った美人だった。髪の色と対比される赤い色のお洋服を来ていて、華麗な彩りながらもやりすぎない慎ましい服装だった。頭の両側には蓮の花の飾りを付け、手首にまた蓮の茎と花を模した腕輪がをしていた。上半身はほぼ顕になっていて、首の所と乳房以外には肌をさらけ出していたけど、肌は江東の人らしく無く白かった。


「あなたにこうして会える日をお待ちしていました、孫仲謀さま」

「…熱烈な歓迎、感謝する」


顔を合わせて確信した。彼女、魯子敬は私に異様に好意を持っていた。これが吉と出るか凶と出るか……。


「こちらは私の護衛の甘寧。そして、こっちは崔へれな、私の友人だ」

「初めまして、ヘレナと申します。こんな体でして、座って挨拶することご了承ください」


事前に言葉を合わせた通り、私はへれなを紹介した。


「初めまして。それでは座りましょう。時は金なり。商人の金言です」


挨拶を終えた後、私と魯子敬は席に座った。


「私があなたに会いに来たのは、他でもない。噂を既に耳にしただろうと思うが…」

「もちろん、耳にしています。連合軍でも大変ご活躍なさったとか」

「少なくとも我々に必要なものは得れた。私たちの願望、それを叶うための鍵。そしてそれを実現するためにも、あなたたちの協力が絶対に必要だ」

「もちろん。私はいつでも仲謀さまを力になる準備が出来ています」


魯子敬の豪快な同調に、私は少し混乱した。そして何より……。


「私の力?」

「はい、それで、決行の日はいつですか?」

「決行…いや、まだ日時を決めたわけではないが…」

「まあ、いけませんよ。仲謀さま。あまりうじうじしていると、公瑾さんが感づきちゃいますからね」

「…あなた、一体何を言って…」


どこか話がズレていた。私が詳しく聞こうとしたけど、その前に思春が剣を抜いた。


「貴様、何を考えている。場合によっては…」

「ひゃわ、いきなり剣なんて抜かないでくださいな。私は完全に仲謀さまの味方ですから」

「ほざけ。誰の指示だ?袁術か!それとも周瑜様か!」


私は話に追いつけなかった。


「思春、あなたも何を言っているの」

「判りませんか。蓮華さま。こいつは蓮華様にカマをかけているのです。蓮華さまが謀反を起こすかどうかをです」

「なんですって…!」


謀反って誰に?袁術に?いや…。


「まさか…貴様は私が姉様を裏切って江東を手に入れようとしていると思っているのか?」

「…ひゃわ?違ったのですか」

「そんな馬鹿な話があってたまるか!」


魯子敬の呆気撮られた返事を聞いて、私も席を立って剣に手をつけた。


「袁術の計画か?私たち姉妹の間を離間させて我々を自滅させる算段か!」

「ひゃわわ!違いますよ…あれ?おかしいな。とにかく落ち着いてください、仲謀さま」


やはり最初から罠だったらしい。私が少しでもこの話に乗っていたら、どういう経路ででもそれが冥琳や姉様の耳に入り、私たち姉妹の仲にヒビが入る。仲間割れをしている隙を突かれたら幾ら姉様でも危険だ。そんな禍の火種にならないようにすることこそが私の最優先目標だというのに、真っ向からこんな話をかけてくる奴がいるか!


「レンファ」


だけど私も剣を抜こうとした時、へれなが私を呼び止めた。


「あまり物騒なことにするのはやめましょう。ロシュクさんはただ話をしていただけです。暴力を振るう必要はありません」

「へれな!あなたはこの女がどれだけ大変なことを言ったのか判らないから…」

「はい、わたしは判りません。でも、判らないからって招いてくれた人に剣を向けるのを見て良いとは思いません」

「だって…」

「座ってください、レンファ。大人なら言葉には言葉で対応するものです」

「……!」


座ったまま私を見上げるへれなの顔は、魚市場に居た時とは変わって真面目な顔だった。不思議なことを今まで生きていきて私に話し合いで解決しなさいと戒めた人はへれなが初めてだった。姉様も母様もいつも行動で示す人達だったから……。


ふとへれなに出会えて本当に良かったと思った。


「思春、剣を収めなさい」

「…御意」


思春が剣を収めて、私も剣から手を離して凍っていた場面はなんとか落ち着いた。思春が剣を抜いた時隠れていた刺客が現れるなどのこともなかったので、へれなの言ったように、武力で通す必要はなかったのかもしれない。


「話が逸れて失礼した。魯子敬、あなたはどうして私が姉様を裏切るだろうと思っている?」

「…思ったと言うより、私の願望でしょうか」

「あなたの?…あなたが私の何が判るというんだ?」

「仲謀さまは覚えていないかもしれませんけど、貴女がまだ幼い頃、孫文台さまは我々に常に言っていました。あなたこそが、ご自分の跡を継ぎ、孫呉の名を高めるに相応しいと」

「私をこれ以上口車に乗せようと思わない方が良い。私が我慢するのも限界がある」

「これは決して私が作り話ではありません。これは間違いなく文台さまのお言葉です」


母様が、姉様でなく私を後継に思っていた。そう言っているの?


「仮にそれが本当だとしよう。だけど今孫家を立て直したのは姉様だ。私は離れ離れになった孫家をここまで持ち直した姉様を裏切るつもりはないし、姉様が孫呉の正当なる王として不足しないと信じている」

「…本当にそうでしょうか」

「どういうこと?」

「建業の街の様子をご覧になりましたでしょうか」

「ああ…良く覚えていないけど、昔はこれより活気がある街だった」

「文台さまの居た頃とは比べて良い物ではないでしょう。文台さまと袁術ではそれこそ虎とミジンコ程の差がありますからね。袁術に取って江東は、自分の懐を潤すための貯金箱でしかありません。現に江東で収集される税収のほとんどが豫州の袁術に流れており、江東は経済が回らず商会たちは破綻寸前にまで追い詰められています。文台さまがお亡くなりになってたった数年でこのザマなんです」

「あなた達がそれだけ江東のことを大事に思っているのであれば、何故姉様の力になってあげなかった?どうして袁術の下について、姉様を江東から追い出したんだ?」

「それはですね、仲謀さま。江東の未来を考える目からすると、袁術も伯符さまもそう変わらなかったからです」

「んなっ!」


姉様を…袁術程度の匹夫と言いたいの!


「貴様…!」

「レンファ!」

「…っ!」

「めっ!」

「……」


私はまた怒りを我慢出来ず立とうとしたけど、またしてもへれなに止められた。何故か私を止めるへれなの声には凄い迫力があって、私はそれに従ってしまうのだった。


「ロシュクさん。ご覧の通りレンファはとてもお姉さま想いです。あまりハクフさんを悪く言うような言い方は控えてくださると助かります」

「ひゃわわ…すみません。ついつい口が…」

「わたしはこの地の政治的な争いについては良くわかりませんけど、今までロシュクさんが話したことから推測するに、ロシュクさんはハクフさんが江東に来ても、江東はエンジュツさんが治めている今の江東とそう変わらない。そう思っているみたいですけど、合っていますでしょうか」

「違いありません」


その返答に私はまたむっと来たけど、へれなを信じて我慢した。


「どうして、ハクフさんのことをそこまで悪く思うのですか?レンファと同じ、ブンダイさまの娘さんなのに」

「それは伯符さまでも、袁術でも、基本的に江東に対する態度はそう違いがないからです。あの二人にとって江東とは、大陸にその勢力を広げるための糧。謂わば『贄』です。江東の民を絞り取ったその金で伯符さまは兵を集め、武器を研ぎ、大陸を目指すでしょう。孫呉の夢、江東の願望と言うと聞く耳には良いですが、結局はそのためには江東の民を犠牲にするしかありません。そのために伯符さまも江東を得ようとしているのです。そしてそれは袁術が伯符さまに江東を渡さない理由とそう変わらないのです」


魯子敬の話を私は何度も繰り返し熟考した。袁術と姉様を同一線上に置くことからありえなかった。いくら袁術の悪政によって江東が飢えていると言っても、姉様が来てそんな江東を更に絞り取るはずがなかった。少なくともここまで荒んでしまった江東を再興させる前までは大陸を目指すために江東の民の膏血を吸うなんてあるはずのない事だった。


それに、逆に私が孫呉の王になるとしても、天下を統一することは楚覇王の意志を継ぐ呉の願望だった。私だって天下を目指す。何故姉様はダメで私は双手を上げて歓迎するというのだ?


「私が恐れていることは伯符さまが江東に来て、傷ついた江東の面倒を見ようとせず、復讐と言って直ぐに袁術を討たんとすることです」

「復讐をすることが間違いだというの?」

「確かに文台さまの死は孫家だけでなく江東の皆の大きな悲劇でした。ですが情に身を任せた復讐はもっと辛い結果を呼ぶでしょう。仮に復讐を成して、豫州を手に入れたとして、そうやって手に入れた豫州をちゃんと守り抜く力が果たして我々にあるのでしょうか。豫州は広大な地です。江東は長江によって守られていますが豫州は陸で守らなければいけません。そのためには多くの兵が常に必要になるでしょう。その常備兵を養うための金と糧は一体どこから出てくるでしょう。聞くと豫州も揚州と比べられないほど経済的に壊滅的だと聞きます。江東は、己の身も保てない状況でコブももうひとつ付ける状態になるでしょう。結局袁術が治めている今と何の代わりのない状態が続くことでしょう」


魯子敬の話を聞くと、まるで姉様が復讐に狂った人みたいに聞こえた。でも、私から先ず江東を取り戻せばスグにでも袁術に復讐出来ると思っていた。だから姉様もそんなことを考えて居ないと言い切れない。少なくともこんな問題があることを、今まで江東に居なかった私は知らなかった。


「魯子敬の恐れている点は良くわかったわ。姉様にもあなた達が恐れていることを十分に伝えましょう。だけどこれだけは考え直して頂戴。袁術と違って、姉様や私は江東のことを大切に思っている。江東は私たちが生まれ育った場所で戻るべき故郷よ。故郷を犠牲にして大義を求むなど本末転倒なことはしないわ。私の事を買ってくれることはありがたいけど、私に対してのその信頼を、姉様に持って頂戴」

「…仲謀さま、私は孫策の臣にはなりません。これは昔公瑾さんにも直接話したことです」

「っ…!どうして…!」

「今江東が求めるのは覇王ではありません。傷ついたこの地を慰め、慈愛なる王です。そして伯符さまは決してそんな王にはなれない。それは誰よりも伯符さまご自身が良く知っているはずです」

「……」

「もし仲謀さまにその気があるなら、この魯子敬、持っている全てを以ってお支え致しますが、例えこのまま伯符さまが江東に戻られることが天運だとしても、私は伯符さまを手伝うことがありません」


どうして…どうしてここまで姉様のことを恐れるの…?袁術がマシと思うぐらいに…姉様が江東を取り戻すためにあれだけ頑張ったのに…どうして……。


「……あなたの考えは良くわかったわ。姉様にはあなたに害が及ばないように上手く言って置きましょう」

「今日は酷いことをたくさん言ってしまって本当に申し訳ありません、仲謀さま。私はいつもこうなので……またいつでもお越しくださいね。そして、いつかは私が最初に言った提案を聞いてくださる時をお待ちしております」

「……思春、へれな、帰りましょう」


私はそれ以上何も言わず、魯子敬の見送りも無視して商会を出ていった。


<pf>


商会を出てしばらくの間私は何も言わずただ歩くばかりで、へれなも思春も何も言わなかった。


市場にはまだ人の通り少なかった。


「これ以上…何が悪くなるというのよ」


袁術なんかよりも…姉様が江東を治めていることが百倍も千倍も良いに決まってるじゃない…!


なのにどうしてあんな…!


「レンファ、大丈夫ですか」


後でへれなが私の様子を伺ったが、もちろん私は大丈夫じゃなかった。


母様が居なくなって以来、姉様が私の目標だった。姉様が孫家の長だった。姉様を否定するのは、私の夢を否定するのと一緒だった。だけど…


「…まだ一人会っただけよ」


江東に人が魯子敬一人だけというわけでもなかった。豪族は彼女以外にも沢山いた。まだ私が会うべき人も沢山残っていた。もともと、そのつもりここに来たのだから。江東の人々に出会って彼らの考えを聞いて、私たちの味方につけるため…!まだ最初の一回を失敗しただけだった。


「私が大丈夫よ」

「レンファ…」

「本当に大丈夫だから。それより、へれなこそまだ大丈夫でしょうね?悪いけど、これでお終いじゃないのよ。今日中に顔を合わせなきゃいけない豪族がまだまだ残っているのだから」


最初の一回はへれなに助けてもらったけど、これからもずっと連れて回るのはへれなに辛いかしら。豪族たちに顔を知らせるという点もありはしたけど、今後一ヶ月ぐらいはこれが続くのだからへれなには強行軍を強いる形になってしまう。もう一人ぐらい護衛につれて来れば良かった…。


「丁度時間が良いから昼食にして、次の所へ行きましょう。私の記憶が正しければ、美味しいつみれの店が居るの」

「…つみれって……カマボコ?!お昼にですか!」

「美味しいのよ。豫州ではアレは食べられなかったから待ち遠しかったの。さ、行きましょう。思春、私が押すから」

「というかそのお店って、まさかさっきの魚市場の中に居るんですか?わたしあそこはもう嫌です!魚の匂いもうしばらく嗅ぎたくありません!レンファ!そんな早く押さないでえええええ!」


まだ仕事は始まったばかりだった。落胆するにはまだ早い。


・・・


・・



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ