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三十二話

華琳SIDE


私と一刀の結婚騒ぎが多くの犠牲者を出して終わってから三日後、私たちは再び陳留まで戻る準備を整った。


あれから沙和から長安の現状についての報告を受けた。難民の救恤はちゃんと行われていて、街の復旧も残留した兵士はもちろん、難民たちの中にも力ある者たちは協力したおかげ進捗があった。


けど、やっぱり再建のための物資が足りず、陳留か他の所から調達しなければならないようだった。食糧の問題は命から援助されたものがあるから問題ないけど、木材や鉄などの調達はどうしても問題になった。米を売って調達するって方法もあったけど、生憎収穫期を迎えて、米で物資を集めるのは相場が悪かった。


もうすぐ冬が訪れる。まだ仮住居で生活している難民たちにとってはとても厳しい冬になるでしょう。それまでになんとか間に合わせたいのだけれど、どうなるかしら。


復旧が必要なのは長安だけではなかった。西涼もまた全域において長い戦争で地は荒れて、民たちは中心を失い混乱していた。今は五斗米道が手を貸してくれてるけど、彼らはあくまでも宗教集団であった。政にいつまでも直接絡ませるのは互いに良くなかった。


長安及び西涼に残された問題は決して簡単なものではなかった。長安は今まで沙和とチョイが頑張ってくれたけど、二人に出来ることに限界があった。西涼と長安を任せられる力量を持ち、またこの地に慣れた者。


そんな娘は今この軍に一人しか居なかった。


「あなたに、長安太守を任せようと思うわ」


出立する前日、私は誰にも言わずに秋蘭を部屋に呼び寄せてこの言葉を告げた。


悪いという気持ちもあった。私の元を離れてやらねばならない大変な役割、それもその娘が今までずっと私の元を離れていた娘ともなると益々申し訳ない気持ちになった。だけどそんな気持ちを剥がすと、やっぱり彼女が適任だった。


「あなたにこの役を任せることが、どれだけあなたに酷い仕打ちかは良く判っているつもりよ。だけど…」

「そんな顔をなさらないでください、華琳さま」


そんな私の話を聞いた秋蘭は思いの外、据わった顔で私に言った。


「実は華琳さまが仰らなければ私から申しあげるつもりでした」

「それって…」

「いえ、私も華琳さまと一緒に戻りたい気持ちは山々です。ですが今長安の西涼の復旧と、五斗米道との同盟を同時にうまく引っ張っていける人材はこの軍で私しか居ません。実力面では新しく加わった稟や風でも務まると思いますが、後者の点を考えるとなるとやはり…」


秋蘭との付き合いはとても長かった。桂花や一刀は今でこそ軍の中で古参の分類に入るものの、その更に前から仕えてきた春蘭や秋蘭とは一緒にした年月が比べ物にならない。特に気遣いの出来る秋蘭は春蘭よりも私も気持ちを良く察してくれた。そういう私のことを良く知っているという慢心が逆に秋蘭との仲が割れる原因になったわけでもあるのだけれど、それでもやはり彼女は私のことを良く知っていた。


「いつまでも手放しているつもりはないわ。いつか呼び戻すわよ」

「手放されたとは思いません。漢中に居た時とは違い、今度は単に少し遠く離れているだけ。身体は離れていても心はいつも華琳さまのことを考えているつもりです」


でも、それはそれ。これはこれ。覇王としての私が、彼女を適任だと言っていた。それを曲げることは出来なかった。


「あなたが長安の現状になれるまで沙和を残していくわ。受け継ぎが終われば、長安、そして西涼はあなたに一任するわ」


とても大変な仕事だった。実質今私たちが治めている兗州ほどの人口、土地の広さは何倍もあった。それだけ重い荷をかけていることでもあり、彼女をそこまで信頼しているという意味でもあった。


私は席から立ってそっと秋蘭の肩に手を乗せた。


「いつどこに居ても、私のために頑張ってくれると信じているわ」

「はっ、夏侯妙才、この身が砕けるまで、貴女さまのために尽くすつもりです」


私は優しく秋蘭を抱きしめた。


<pf>


桂花SIDE


もう直ぐ遠征隊が陳留へ帰ってくる。簡単に終わるだろうと思っていた西涼征伐は思いの外相当な資源と国力を損耗させた。稟から来た戦況報告書を見ると、これからも長安及び西涼復旧には相当な投資が必要とされる。行ってない私が言うのもあれだけど、この遠征は結果的に失敗だったと言えるでしょうね。


陳留ではまだ華琳さまが戻ってきていらっしゃらない今から今回の遠征の責任を誰が取るかについて騒ぎあっていた。というのも、公式的な場で華琳さまに西涼征伐を奨めたのは他でもないアイツだったから問題は尚更だった。華琳さまの本心を察してのことであることを知っているのは本人を除けば華琳さまと私しか居ないし、たとえ知ってるとしても下の連中はまだ懲りずにアイツを排除しようと企んでいるのだった。少なくとも華琳さまの居ない場で変なことを企み始めては困るので根回しはしてあるけど正直もう限界だった。というかもう疲れた。


正直華琳さまもアイツも居ないのに、仕事の量はそんなに減らないから辛いし、華琳さまが居ないから仕事の意欲も下がる一方。もちろん仕事だから真面目にはやるけどやっぱり効率は落ちてきた。ここで無駄に暗躍しようとする新参どもを叩く仕事も増えてきてイライラするのも通り越してもう何もかも面倒くさくなってきていた。こういうの普段ならアイツの仕事なのにまた私の仕事ばかり増えるじゃないの。アイツ帰ってきたら全部投げておもいっきり休んでやるわ。


半日ぐらい。


「桂花さま」


そんな愚痴を一人でしていた時、凪が入ってきた。


「先に迎えに行った部隊から連絡がありました。今日の夜までは到着なさるようです」

「予定通りね。流琉の所には連絡が入ったかしら」


勝戦祝い、と言っても上で話した通り損の大きい勝ち戦ではあったけど、これも裏方での工作を霧散するための根回しだった。街の厨師組合と協力して街の大通りを中心に祭りを開くことになった。軍での縁が深い流琉と連携し組合と取引して、かなり大規模な企画となっていた。


「はい、既に街では祭りが始まったかも同じような騒ぎです」

「あなたの仕事は増えてしまうけどね」

「街が賑やかなのはいい事です。むしろ遠征が続いたせいで弱くなっていた街の活気を取り戻せるのならいくらでも忙しくても構いません」

「へー、後で涙汲んで私に助けを求めても知らないけどね」

「うっ…」


凪が正式に警備隊長になってあれこれ一年になるけど本当に仕事が大変な時は私に助けを求めてきた。アイツが居た時期も、アイツに頼めばいいのに自分が任された仕事(主に内務関係)にアイツに手を貸すのが申し訳ないと思ってるのか私に泣きながら頼んで来た。そして私はそれをアイツに言って、結局愛理が助っ人に行った。チョイがしばらく書類の仕事を手伝ってやって大丈夫かと思いきや彼が長安に呼ばれて間もなくしてまた助けてと言って来た。この時はさすがに叱ったけど。


「まあ、今回は私も忙しいから手伝いなんて出来ないわよ。他は他で皆疲れてるはずだから助けなんて出来ないでしょうし。あなた一人でなんとかするしかないわ」

「はい」

「それじゃあ行きなさい。私も準備するから」


凪が礼をして部屋を出た後、私は隠しておいたアイツからの手紙をもう一度確認した。


今回の遠征では周りに知らせない問題も多かった。例えば西涼の英雄、馬騰のご乱心な行動が実は華琳さまとの昔の痴情劇の延長で、しかもその原因となる司馬仲達は実は妖術で生きていたなどなど。んな話公に知らせられるわけもない。長安で張三姉妹を拾ったこともそうだった。彼女たちを育てるためにチョイを呼んでくれと言われた時は(華琳さまからは沙和の補佐として連れてくるようにと書いてあったのに、アイツからの手紙では張三姉妹の管理役だった)もうどこから突っ込めば良いのか判らなくなっていた。


他には秋蘭の復帰も機密だった。この話はまだ陳留では私しか知らなかった。基本的に華琳さまへの忠義がなくなったわけではないから余計なことは考えてないはずだけど、一度放逐された将にとてつもなく大きな権限を与えてしまったため、またしても秋蘭を中心に集まろうとする連中がいないだろうとも限らなかった。もし秋蘭を西涼と長安を併せる涼州の州牧に薦挙するとなれば華琳さまと爵位が並ぶことになる。既に『公』の爵位を授かっている劉備とは違って、華琳さまの場合官職は丞相だったけど爵位は兗州『州牧』のままだった。事実上部下である秋蘭と爵位が並ぶ事になるのでこの問題を解消するには華琳さまの爵位を一緒に上げるしかなかった。


そして問題がもう一つ。と言ってもこれはあくまで私とアイツが気にすべき問題だったけど、


今回の遠征でアイツは稟が不満を抱くことを気にしていた。


稟は一目で見ても権力欲というか向上心というか、とにかく上に上がりたいという欲望が強かった。今回の戦争で大戦果を上げ、この軍での自分の立地を築こうとしたようだけど中途半端に終わった西涼征伐だった上で総指揮を任せられたとは言え華琳さまとはほぼ離れてばかり居た。決して本人が満足できるような戦果ではなかっただろう。そしてここの連中同様、嫉妬の矢先が一刀に向く可能性は高い。下っ端どもならまだしもこれから重用されるはずの稟がそれでは本当に秋蘭の二の舞いになってしまいかねなかった。もう二度とあんなことを起こさせないためにも事前に管理が必要だった。


なんでこう、私は遠征にも出ていなかったのにこんなことまで考えなければいけないのかと言いたくなってきた。


「やっぱ丸一日は休んでやろうかしら」


・・・


・・



その日の夕方、遠征から華琳さまたちが帰ってきて、正式に陳留の街で祭りが始まった。


街で用意された公演などが開かれたが、一番盛り上がったのはなんと長安から来た張三姉妹の演舞で、陳留の人たちは彼女らを見るのが初めてなはずなのにあっという間に雰囲気に圧倒されて街中が歓声に満ちた。黄巾党を始めただけあって凄い掌握力だった。


公演が続く一方、私は遠征から帰ってきた皆の様子を伺った。


やはり一番気になるのは隣に座った華琳さまだったけど…なんというか、皆華琳さまに対する態度が以前より少し固い気がした。というか怖がっていた。春蘭までも。上席に座っている皇帝陛下に至っては隣に霞を置いて一向に離さずに居た。一体何があったの。


アイツは少し違うかと思いきやアイツと言うと華琳さまから一番離れた席に座って愛理を弄りながら遊んでいた。誰もアイツのことを気にして居ない状況なので凪も流琉もこれを見たら絶対絡みに行きたかったはずなんだけど残念ながら二人とも今絶賛忙しくてここには居なかった。


話を戻して華琳さまの様子だけど、公演になんか全く目なんてやらなかった。それはまあ当然と言っていいでしょう。正直、大衆を盛り上がらせることには持って来いだけど音で圧倒してるだけで実力自体は高級な京劇や公演に慣れた華琳さまや私には向いてなかったし、興味もなかった。可笑しなことに華琳さまはアイツの方を見ていた。それはもう周りの目を気にして時々横目で見るとかそういうのじゃなくてガン見だった。もう本当に何があったのか聞くべきだった。そしていい加減周りの目があるので止めるげきだった。皆はともかく陳留に居た渦虫どもがこの様子を見るとまた騒ぎ出すかもしれない。


「華琳さま、見過ぎです」

「…あ、ええ……」


華琳さまは私が指摘にすると直ぐに我に戻り前を見直したが、演舞を見ているわけではなく、ただ目がそこを向いてるだけだって感じだった。


「華琳さま、長安でアイツと何かあったのですか」


無意識にまた華琳さまの首がアイツの方を向く前に私が続いて華琳さまに聞いた。不幸中の幸いで、演舞が煩くて本当に近くでなければ私たちの言う言葉を聞ける者は居ないはずだった。


「……何もなかったわ」

「何も?」


華琳さまはあまり言うつもりはなさそうだった。だけど長安から帰ってきた皆を様子を見ると、誰もこの件に触れることが出来ないらしい。だったら陳留に残っていた私が聞くしかなかった。


「華琳さま、ここなら聞く耳は私たち以外ありません」


不幸中の幸いで、周りは演舞のせいで煩く本当に近くでなければ声が漏れることはないはずだった。


華琳さまは私の方を向かれた。少しの間私をじっと見つめては、目を逸らしたり、下を向いたりして泳ぎ続ける視線は私に言うこと悩まれているのがはっきりと判った。こういう様子は普段の華琳さまからは到底見られる様子ではなかった。例え悩んでるとしてもこんなに顔に考えてることが全て見える方でもなかったし、そうではいけなかったのだ。


それが結構悩んだ挙句、華琳さまは結局視線を前に戻してしまった。顔も謹厳な姿に戻ってしまった。私にも言えないと心を決めたみたいだった。一体何が華琳さまをこれだけ取り乱すのか。一体何が周りがこれだけ華琳さまのあからさまな様子を見て見ぬふりをするようにしたのか。私にまで話されない問題なら私がアイツに聞いたってアイツが言うはずもなかった。


「桂花」

「はい」


視線はやらず華琳さまは私を呼ばれた。


「後で閨に来なさい」


それを聞いた私の背筋には電流が走った。ある意味本能だった。さっきまでとても真面目な話をしようとしていたにもかかわらず華琳さまからこの言葉を聞くだけで私は反応してしまうのだった。


だって仕方なかった。もう何ヶ月も華琳さまと『会って』いなかったのだから。


「…はい」


それは私の悩みも憂いもさっぱり忘れさせてしまう魔法の言葉だった。


<pf>


祭りが終わった深夜。


私は華琳さまの閨の前に居た。部屋は弱い光が門越しに漏れていた。


久しぶりだったから、期待していなかったというと嘘だった。でもさっき聞けなかった華琳さまとアイツの間にあったことが一体なんだったのかも気になった。でも一度言ってもらえなかったことをくどくも更に聞こうとすると今晩愛してもらえないかもしれない。もう何ヶ月もご無沙汰だったのにまた生殺しは嫌だった。


そう。ここは他の心配は忘れて自分の欲望だけに充実しよう。これだけ待ったんだもの。今夜ぐらい良いでしょう?


そう心を決めた私はのっくをした。


「入って来なさい」


華琳さまの許しを頂いて私は中に入った。


華琳さまは部屋の中央の円卓に座って、唯一部屋に光を灯している蝋燭の炎に視線を集中していた。円卓には清酒が用意されていて、華琳さまの手には半分飲んだ杯が握られていた。


「座りなさい」


視線はそのままの華琳さまの命令に私は何も言わず華琳さまの反対側に座った。私が相席に座っていても、華琳さまは私ではなく炎を見つめ続けているのが判った。



よーし、現実に立ち向かう時間よ、桂花。これは明らかに可愛がられる雰囲気じゃないわ。


「…華琳さま」

「あれからずっとああなのよ」

「はい?」


私が欲望を胸の奥に締めて真剣そうな華琳さまに問うと思った途端、華琳さまは咄嗟にそう仰った。


「進軍中もずっと離れているし、夜に天幕に行こうとしてもいつも居ない。ある晩本当に彼の天幕で夜更かししたのにそれでも帰ってこなかった。完全に私のこと避けてるのよ。それも周りに目がある時はそう見えないように適当な距離を取ってるから怪しまれもしないし。姿は見えど話もかけさせてくれないし触れることさえ出来ないし、あれからずっと生殺しよ」


ごめんなさい、華琳さま。何を仰ってるのか判りません。そして今生殺しなのは私の方です。


「…華琳さま、あれからと仰っていますが、長安で一体何があったのですか」

「……」


そしたら華琳さまは炎から私をちゃんと見られた。


「桂花」

「はい」

「あなたは私のことを支えてくれるわね?」

「はい?」

「あなたなら…あなただけは信じてもいいわよね?」


何故突然こんなことを仰るのか。信頼されてるのは嬉しいが、この言い草だとまるで春蘭や稟たちは信じられないとでも仰ってる様…。


「何があっても、私は華琳さまの味方です。仰ってください」

「……桂花…、」


・・・


・・



<pf>


一刀SIDE


「…来ないな」


あまりに来ないから囲碁盤に一人で碁を打っていた俺は月の向きを見てまた一人呟いた。


あの様子を見ると絶対俺の部屋に来ると思っていたんだが。


ぶっちゃけ今のこの軍の現状、この状況を理解し、更に助け舟をしてくれそうなのは桂花しか居なかった。今日桂花がこの変な空気を気づかなかったはずはない。


華琳との問題もそうだし、今後の布石も話そうと思ったのに何でこんな遅いんだ。


その時ガンと門が開いた。門を蹴り開けたのは桂花だった。


「遅いぞ。何でこんなに…」

「死ねええええええ!!!」


どんどんと足音を立てながら入って来た桂花は石が置かれていた囲碁盤をその軍師のくせして小柄な身体でどこからそんな力が出るのが一気に持ち上げては、俺の頭にぶつけた。咄嗟の出来事で避けることも出来ずに桂花の大声を最後に気を失った。


<pf>


華琳SIDE


長安であった事、陛下が私に話したこと、私が一刀に言ったこと、朝議であったことを全て黙々と聞いていた桂花は、私の話が終わるやいなや何も言わずに部屋を立ち去った。


やっぱり、あなたまでも受け入れられない話だったの?


それだけこれはいけない話だったの?


自分が馬鹿みたいなことをしてるのは分かっていた。一刀があんな風に距離感を置いてる理由も実は良く分かっていたし、私があんな目立つように彼を意識してもいけないことも分かっていた。だけどいざ彼の新しい関係を始めようと思っていた私と裏腹にただ状況を伏せることに集中してる一刀に対して寂しい気持ちもあった。だから周りの目なんか気にせずもっと彼を探し回った。せめてこうしてああだから距離を取る方が良い、と顔を合わせて話してくれたら納得したかもしれない。頭で判っていても、ちゃんと言ってくれるのとはまた違うのだと初めて思った。


戦場では言わずも互いに判ることが便利だと思っていた。互いを良く分かってる証拠だと思っていた。でもこんな状況になると分かってるからって何も言ってくれないのはとても苦しいことだった。


彼に言いたいこともあった。あの日から私も決めたことがあった。それを彼に言いたくてずっと探したのに彼は完璧なまで私を避けた。


周りも気づいてるはずなのに、またそういう話をすると私に怒られそうだから誰も指摘にせずに居たのが、今日になってやっと状況を知らない桂花に指摘されたのだった。


それでも桂花なら分かってるくれると思っていた。むしろ桂花じゃなきゃもうだめだと思った。でも現実は非情なものだった。彼女もまた他の娘たちのように私への愛情が深い分、話を頭では分かっても心では拒むしかなかったのかもしれない。


もうこれからどうすれば…。


そう思っていた時、再び門が開く音が聞こえた。私が卓にうつ伏せていた頭を上げると、そこには桂花が立っていた。


「桂花……?」


桂花が大きく深呼吸をして、部屋に入って門を閉めた。


「失礼しました、華琳さま。少し用があって済まして来ました。突然去った無礼、どうかお許しを…」


立ったまま頭を下げる桂花を見て私は何がなんだかわからなかった。そのまま帰ったのだと思ったのに戻ってきた。


「…顔をあげなさい。怒っていないわ。だけど、どうして帰ってきたの?」

「華琳さま、華琳さまが遠征に向かわれた間、私がどんな思いで華琳さまをお待ちしていたかお分かりですか?」


顔を上げた桂花は立ったままそう言った。


「待つことは誰にも苦しいことです。それが自分にとって命に代えても良いぐらい大切なものなら尚更のこと。華琳さまは私にとって、命に代えても欲しい、私の全てです。これからもあなた様へのこの想いは変わることはありません。ですから私は待てました。初めて貴女様の前に立つことになった時も、貴女様が私の代わりに他の娘を連れて戦場に向かわれた時も、私は待ちました。待つほど、待てるほど、それだけ貴女様が大切だったからです」


何時の間に桂花は私の直ぐ横に来て立っていた。私は何も言わず彼女を見上げた。


桂花、あなたってこんなに大きかったのかしら。


桂花が私の頭をゆっくりと自分の胸に抱き寄せた。


「待つことも、また愛です」

「……」


桂花は私を慰めようとしていた。普段なら彼女からのこんな同情をされたら直ぐに覇王の自分に戻って叱ったでしょう。


でも今は何故かそんな気にならなかった。それだけ苦しかったのかしら。


誰からもこの辛い気持ちを分かってもらえず、一刀と話すことも出来なかった。


桂花、あなたってこんなに逞しかったのね。


「ありがとう、桂花」


誰かには、解って貰いたかった。


そしていつかは他の娘たちにも…そして彼にも。


解ってもらいたい。









「んあぁ…華琳さま…」

「…はっ!」


桂花の喘ぐ声に私は無意識に撫でていた彼女の尻から手を離した。


「ご、ごめんなさい、桂花。私って本当…」

「い、いえ、平気です、華琳さま。というか…もっとしてください」

「け、桂花」

「私、ずっと待っていて…もう我慢できません」

「ま、待って頂戴、桂花。さっきは言えなかったけど私、彼に認めてもらえるまでは他の娘たちには手を出さないって決めたの。さっきのはちょっと無意識というか本能的に出ただけで…ちょっと、押し寄せて来ないで。本当に駄目なの。いや、そんな腰を振りながら誘惑しないで。手が勝手に…」



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