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幕間3 稟√

拠点:稟 「嵐の去った後」


稟SIDE


それからの戦いというのも、ほぼ一方的なものでした。敵は自分たちの騎馬を使った奇襲も、会心の罠も失敗に終わってしまい、彼らに残った選択肢は少なくなっていました。そして天水まであとわずかといった所まで進軍してきた所に、今までとは違い、大軍が荒野で私たちに迫ってきているとの報告が入ってきました。


「敵は全面戦に全てを掛けたようです」

「とは言え規模はせいぜい一万程度。私たちの敵じゃあありませんね」


風の言った通り、今までの損耗によって西涼の軍の残りの精鋭は少なくなっていました。別働隊がある可能性もなくはありませんでしたが、今までの敵の動きから察すると、敵に遊撃を考える余裕はないと思われました。


「向こうがやっとやる気になってくれたってわけだ。今度こそ真正面からぶった斬ってやる!」

「春蘭さま、以前の怪我は…」

「あんなもん何日寝てればもう治った!」


普通そんなんで簡単に治るものではないと思いますが。


「せやな、この前ウチを馬鹿にしてくれた落とし前、きっちり払わせてもらうで」

「あ、その件ですが、今回霞には別の件をお願いしたいと思います」

「なんやて!怪我人の惇ちゃんも出るのにウチだけ省かされるってどういうことやねん!」

「霞にしかできない仕事なんです」

「ウチにしかできない仕事?」


霞の怒声を軽く流しながら私は作戦を説明しました。


「敵との全面戦は以前から十分対策が立てていました。現在私たちが持っている全軍を使うこともありません。そこで霞には五千の騎馬で別働隊を組み、我々が西涼軍と戦ってる間に天水を落として頂きたいのです。天水は今手薄なはずですので、それだけの規模でも十分天水を制圧できます」


真桜が開発したものは投石機だけではありませんでした。工兵部隊の働きのよって作られた対騎馬戦のための柵や地面を泥場にして隠しておいて騎馬の速度を落とす罠もしくは塹壕、そしてそれらを素早く建設できる工兵隊の腕が合わさり、多数の騎馬戦は我々にとって大分対応しやすい戦闘になっていました。


「む…ウチとしては野戦で馬家とやりあってみたいんやけど…馬騰を制圧することもその分美味しい話ではあるな…」

「霞の実力を十分発揮出来る場面だと判断しましたから任せるのです。お願いします」

「…あいわかった。じゃあ、軍師さんの二人の中で誰が付いてくるん?」

「私が行きます」


風とちゃんと話あった結果私が行く方が良いと結論が出ました。


「<<まあ結果的にはじゃんけんで決めたんだけどよ>>」

「宝譿があそこでチョキを出せって言ったのがいけなかったのですよ」

「人形の手でパーだとかふざけたこと言っていた人は黙ってていただけますか」

「ぐぅー」


まあ風はそのまま寝ていてもらうとして、


「そういうわけです。春蘭さまと季衣は真桜の工兵部隊が場を設けるまでに待機してください。向こうから突撃してくるのを待つ形になります。騎馬の足止めが出来た時点で、霞と私は敵の騎馬を迂回して天水に向かいます」


詳しい作戦が皆の前に説明され、次の日の朝、何も知らず突撃してきた西涼の軍勢を見事に乱戦に追い込んだ春蘭さまたちを残し、霞と私は天水に向かい、無防備な城を占拠したのでした。


<pf>


城を陥落するまでの時間はわずか一食頃。残されたわずかな防衛部隊が抵抗したものの数で勝るこちらが会っという間に城壁を占拠し、城の防衛戦は崩れました。城内を出来るだけ安静したまま制圧し、馬家の館に突入しましたが、館に馬騰の姿は見当たりませんでした。


「ダメや。どこにもおらへんで」

「館の中に馬騰の行方を知る者は居ないのですか」

「侍女たちなんかに聞いてみたんやけど、数日前に突然消え去ってて自分たちも慌てて探そうとしたんやけど、戦の最中やから事を大きくできずに隠していたらしいで」


私たちが戦った西涼軍に馬騰の姿はありませんでした。そもそも馬騰が居たなら事がそんな簡単に片付けたはずがありませんでした。こっちに来てなかったということは…。


「大変です!直ぐに五丈原へ向かわなければなりません!他に行く所もありませんし、あそこしか考えられません」

「直ぐに一部の部隊だけで駆けつけるわ。稟はここに残って西涼の連中が何かしてこないか監視しとき」


そう言って霞が館を出ようとした時でした。外からうちの軍の兵士の一人がやってきました。しかし、


「あんたは…ウチの部隊じゃあらへんな。どっから来たんや」

「報告します。私は五丈原より曹操さまからの伝令として来ました」


伝令の話に私も霞も驚愕しました。


「華琳さまは無事なのですか!というか私たちがここを占拠できたのはつい今日のことです。何故華琳さまはここ天水に伝令を向かわせたのですか」

「私もそこまでは…私はただ天水に行くと郭嘉さまが居るはずだからこれを渡せと言われただけです」


伝令は私に書簡を渡した。


私は何がどうなっているかよく判りませんでしたが、とにかく華琳さまよりの書簡を開きました。


『これを私が送った伝令からちゃんと貰い受けたということは、あなたが無事に天水を占拠できたということでしょうね。こんな短時間で西涼の精鋭を制圧し、天水を手に入れたこと、褒めてあげましょう。ご苦労だったわ』


天水を占拠出来てわずか半日後に届いた書簡でした。もしまだ天水を占拠できていなければと思うと、思わず頭から冷や汗が出ました。


『私は今五丈原に居るわ。心配することはないわ。私も皆も無事よ。今直ぐにでも天水に向かいたいけど、残念ながらそうできない理由があるわ。この五丈原で、馬寿成が私たちとの戦いにて命を落としたわ。私は敵将とは言え西涼の英雄に対して最大の敬意を以って彼女に接するつもりよ。彼の葬礼をこの五丈原で済ませた後、天水へ向かうわ。もし馬騰の娘、馬超を捕らえたなら、彼女に母の死を伝えて頂戴。馬騰は最後までちゃんと英雄として私と戦い、そして戦士としての誇りを持ったまま散っていったと伝えて頂戴。詳しい事は天水に行って話しましょう。それと、春蘭に特別な贈り物があるとも伝えて頂戴


曹孟徳より』


西涼の盟主、馬騰死す。


これで春蘭さまたちの戦いで馬の一家が捕まれば西涼は完全に中心を失うことになります。


それにしても葬礼とはまた…。


「まあ、これで全部終ったんやな」

「そうですね。まだ春蘭さまが戦っていますが、全て解決したと見ていいでしょう。春蘭さまの方へ天水を落としたという伝令を入れてください」


<pf>


その夜、春蘭さまたちの本隊が天水に入城しました。


戦の結果はもちろん我々の勝利。しかし、他の豪族たちは捕まえたものの、軍の大将であった馬超、そして馬岱は天水が落ちたという知らせを聞いて逃亡。以後の行方は分からぬということでした。


「馬騰も五丈原で命を落として、その一家も行方不明。連盟体である西涼を束ねていた馬一家が全滅となると、西涼を治めるにおいて厄介なことが一つや二つでは済みませんね」

「どうしてだ?西涼を制圧したからには、馬家は元々消えてもらわないといけないのではないのか」

「それがそうもいかないのですよ」


春蘭さまの疑問に風が更に説明しました。


「馬騰は長い間朝廷からの横暴、そして五胡の侵略から西涼を守った英雄。今や西涼で住む人たちにとって神のような存在なのです。末年の奇行や内乱の後でも馬騰が西涼を束ねる盟主として居続けられたのもそのためなのですよ。そんな西涼の人々の大黒柱であった馬騰が死んで、そしてその娘の馬超まで西涼を離れたとなると、西涼の民たちの不安が高まることでよう。更には私たちの言うことを聞いてくれず反乱に移る可能性が高いのですよ。本来であれば馬騰が死んでも馬超や馬の一家が残って私たちを手伝ってくれたらよかったのですけど」

「『手伝い』と言っても実際傀儡にするという意味ではありませんか。戦場で生き誇りを命より重く見るように育った西涼の戦士たちがそんな話に乗るとも思いませんが」

「おや、じゃあ稟ちゃんはどうすれば西涼を丸く私たちの手に納めることができると踏んでいたのですか」

「正面からのぶつかり合いで力で示す。彼らにはそれが一番効果的だろうと思っていました」


ですがいざ蓋を開けてみれば西涼は戦える状況でもありませんでした。むしろ既存に知っていた誇りを大切に思う英雄の仕業とは思えない謀略の数々。最初から西涼を先に攻めるという考えに問題があったのです。


「つまり、馬超と馬岱を捕まえればいいのか。今からでも追撃してみようか」

「無駄でしょう。ここは元々彼らの領地です。隠れているすれば探すのはもう不可能に近いです。今は五丈原に居る華琳さまがこちらに来るまで待ちながら西涼に残存兵力が奇襲などをして来ないか警戒するぐらいです」

「うむ……」


今一番大事なことは、如何にして西涼の民たちから信望を得るか。一番手っ取り早い方法、馬家の残りを利用することが出来なくなったとなれば、長期的な策を講じるしかなくなりました。それに西涼は内乱によって荒れ果てた状況。この戦いにて私たちは西涼を得ましたが、得よりは失の多いものになるかもしれません。


<pf>


そして十日後、華琳さまたちが天水に到着しました。


「今回の西涼征伐。いろんなことがあったが、戦いは我々の勝負に終った。皆大義であったわ」


天水の御殿の上席に(何故か来られた)陛下が座られると、下で華琳さまが集まった我々に向かっておっしゃりました。


「稟、今回あなたの功は一番大きかったわ。褒めてあげましょう」

「勿体ないお言葉です。私が成したことなど微塵なものです」

「そんなことはないでしょう。長安への先発隊の素早い仕事ぶり。そして西涼の本隊との戦いも少ない被害であっという間に天水を落としたのはあなたの采配があってこそでしょう」

「ですが傷なく得られるはずだった長安は半壊され、肝心な馬家の将たちの確保にも失敗しました。これでは西涼を得たしても半分の勝利でしかありません」


そして、それはつまりこの戦、私たちが半分は負けたことを意味するのでもありました。


「そう、確かにまだ解決すべきことは残っているでしょう。でもそれはこれから解決していけば良いわ。今は今成したことを祝いましょう。そして春蘭。あなたも今回頑張ったそうね。怪我は大丈夫なの?」

「はい!あんなの怪我のうちにも入りません!」

「そう。でも以後はあまり無茶なことはしないで頂戴ね。あなたが傷つくと悲しむ人が居るのだから」


一瞬隣に立っていた季衣がビクッと震えましたが、他の皆気づいていない様子でした。


「入ってきなさい」


その時、華琳さまがそう仰ると御殿の入り口から外套で全身を隠した者が一人殿内に入ってきました。


「五丈原で私は馬騰の策に引っかかって命の危機に陥ったわ。彼女の助けがなかったなら、今あなたたちの前に立っている私は居ないかもしれないわね。その功を称えて、彼女を改め我軍の将として受け入れることにしたわ」


華琳さまの宣言に、五丈原に言っていなかった我々は驚きました。


改め…?


「皆に顔を見せなさい」


華琳さまの命令に、被っていた外套を脱いで現れたのは……。


「しゅう…らん?」

「お久しぶりだな、姉者」


水色の髪に春蘭さま似の青の旗袍を着たその人は、かつて春蘭さまと共に華琳さまを支えた曹操軍の大黒柱の一人にして、謀反の罪を問われ放逐された夏侯妙才殿でした。


「どうしたのだ、姉者。もっと熱烈に歓迎されるとばかり思っていたが、妹が恋しくなかったのか」

「しゅ…らん…」


呆気取られた表情でゆっくりと妙才殿に向けて歩き出した春蘭さまは、そのうち脚に力を入れ走り出しては妙才殿の頬に拳を直撃させました。


「ぐぉっ!」

「ちょっ、春蘭!?」


そんな反応はさすがに予想外だったのか微笑ましく見ていた華琳さまも驚いて目を丸くしました。


「私に断りもなく消えた罰だ!よくものこのこと帰ってきやがったな!」


結構な距離跳んでいった妙才殿が腫れ上がった頬を撫でながら立ち上がった。


「っつ…痛いではないか、姉者。久しく再会した妹をいきなり殴るとは傷つくぞ」

「うるさい!うるさい!うるさい!私が貴様のことをどれだけ心配してたか判るのか!」

「…解っているさ。済まなかった、姉者。許してくれ」

「……っ」


皆の中央に立って肩を震わせていた春蘭さまは堪えていた涙を流しながら両腕を開いている妙才殿に抱きつきました。


「うわああああん、しゅうらあああああん!」

「ただいまだ、姉者」

「お゛がえ゛り゛い゛いいいぃいぃ」


姉妹が(主に春蘭さまが)再会の嬉しさに涙を流している間、どうしても聞かなければと思った私は華琳さまに尋ねた。


「これはどういうことですか、華琳さま。あそこに居る夏侯妙才殿は確か陳留であった謀反の首謀者にして放逐されたと…」

「あれは噂好きな輩が流した流言にすぎないわ。私は一度も彼女を私の元から追い払ったつもりはない。ただ彼女に少しの間休暇を与えたまでよ」

「休暇…ですか」

「そう。そしてその間も彼女は私への想いを忘れず自分を磨き、今回馬騰の討ち取る武功を挙げたわ」


放逐されたとばかり思っていた妙才殿。しかも馬騰を討ち取るという大きな武功を挙げたと知らされた私は驚愕しました。これで華琳さまの寵愛を受けていた古参が軍に帰ってきたことになりました。それも敵将の首と言う最高の功と共に。


思わず私は唇を噛み締めました。


「今日は私たちは帰ってきたばかりだから今日はこの辺で解散して疲れを癒やすことにしましょう。兵士たちにも酒を振る舞って目一杯勝利を祝わせなさい」

「……」

「稟?」

「あ、は、はい、判りました」

「元気がないわね。そんなんじゃあ私の閨の相手は務まらないわよ」

「そ、それは……へ?」


閨?


「ね、ねねねねねね閨ですか!?わ、私が華琳さまとね、閨で…」


・・・


・・



『やっとあなたを味わうことが出来るわね』


『か、華琳さま…』


『ふふっ、震えちゃって。こんな初な反応を見せる娘も久しぶりね』


『ひゃっ!』


『安心なさい。あなたの働いた分、いえ、それ以上に楽しませてあげるわ




私なしじゃ生きていけない身体にしてあ・げ・る』




・・


・・・


「ぷっはーーっ!」

「ちょっ、稟!」

「…お前学習しろよ」

「ちょっと忘れてただけよ!誰か衛生兵連れて来なさい!」


ふあぁ……。






・・・


・・





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