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二十二話

皇帝SIDE


「北郷一刀が怪我をしただと?!」


丞相が怖くて軍議にも参加できず、陳留に戻される日を待っていた余は先日北郷一刀が怪我をしているということをやっと文遠から知った。


「どういうことだ!既に長安は曹操軍の手に落ちていたはず。まさか残存していた暗殺者でもあったというのか。それを十日も余に知らさずに居たというのか!」

「いや、それがなんというか…ちぃと誤解があってな…惇ちゃんが…」

「とん……夏侯元譲のことだな」


敵の奇襲でもなく味方の将に怪我をされただというのか。


こんなことが放ってみて居られるか。


「北郷一刀に会いに行く、案内せよ」

「ちょっ、よした方がええって。今華琳も一緒に居るし…ってかなんか鎖付けて逃げれないようにしてるみたいやし」

「何?では丞相が北郷一刀軟禁したというのか?」

「いや、それとはちょっとちゃうような…」

「ええい、うるさい!余の目で確認する。自分の将に怪我をさせられたのにその将を処罰せずに寧ろけが人の動きを封じるなどこんな不届きがあるか!これが曹丞相が言っていた信賞必罰か!」


曹丞相は賞罰がはっきりした英傑と思っていたが、どうも違ったようだ。余に対しての横暴は受け止められる。だが北郷一刀がこんな目に合ってもいいのか。否、幾ら曹孟徳とてこんな仕打ちは出来ない。


「案内せよ、文遠!汝が連れていかんと言っても余は行く。この件は幾ら名ばかりの皇帝とて黙っては置けん!」

「一刀だって華琳の将や。これは曹操軍内の問題やで。陛下が気にする所じゃ…」

「案内せぬか!!」

「っ!!」


余の怒鳴りに、武将である文遠もビクッと一瞬怯んだ。


余が今駄々をこねていると思わないで欲しい。余は今真っ当な怒りを表現しているのだぞ。北郷一刀はかつて洛陽の民を救ってくれた、まさしく天の御遣い。幾ら北郷一刀が名目では丞相の部下であってもその名は一軍の君主が自称させてなるものではなかった。天を名乗っている以上、北郷一刀は天子である余の保護下にある者でもあるのだ。


曹丞相、汝と北郷一刀どんな関係なのかはこの際余は気にしないと思う。これは全くもって間違った行為であって、それを正しく処理していないのならそんなお主を今咎められるのは余しか居なかった。


<pf>


華琳SIDE


美しい声で鳴く鳥がある。その音がとても美しく、その鳥が木に座って鳴き始めると、百、千の鳥がその木に集まってその木に集まってその鳥の声に合わせて協奏を始める。聞く誰もが惚れてしまうその鳥の声。しかしとある王がその鳥の声を毎日聞きたくてその鳥を鳥籠に閉じ込め宮殿の庭に置くと、カゴの中の鳥は二度と鳴くこともなくその中で死んでしまう。


彼を鎖で束縛して三日、何一つ喋らない彼の様子に、私は自分の行動を後悔し始めていた。


本当に、一言も喋らなかった。


衝撃を受けて喋れなくなったのではないかと思えるぐらいに何も言わず、こっちから何を言っても返事もしてくれなかった。


そうやって時間が経つにつれ、自分がやったことが一刀をどのように受け取っているのか判らなくて、そもそも何故私がこんな行動に出たのかすら良く判らなくなってきた。思うと、それが理由だったのかもしれない。何をすれば良いのか判らなかったから、私はこんな馬鹿なことをやってしまったのだと思う。


一刀を信じられなかった。こんな状況に置かれて彼が私の元を離れないという確信がなかった。今までこんな状況にあったことがなかった。私が他の娘を香可愛がって妬いてる桂花や春蘭の姿はよく見たものの、それで私に怒って私を離れるかもしれないと私が恐れたことなんて一刀が初めてだった。それだけ彼は私にとって絶対な存在だった。


でも、どうすればいいの?今更手錠を解くとしても彼が許してくれるだろうとは思えないし、そもそも私の自尊心がそれを許さなかった。


「……」


一刀はずっと何も言わずただ天井を見上げていた。


私も外見では動揺なんて一切せず黙々と彼の側で本を読みながら時間を潰しているみたいにしていたけど、実際頭の中は真っ白で本の内容なんてまるで頭に入っていなかった。


本当にどうすればいいの?


「北郷一刀!曹丞相!」


その時ドンと門を壊す勢いで蹴って皇帝陛下が一刀と私の居る部屋にやってきた。


「陛下!」

「……」


部屋に入った陛下は顔を赤くして、私を見るやいなや私が座っている椅子の前に来られた。真っ赤に染めた陛下の顔が、どんな用件でここに訪れたかを大体説明してくれた。


「……ちょっと待て」


と思った途端、陛下は前に屈んで門を蹴った足の方を握りながら唸った。


「ヤバイ、痛い。文遠、余足の爪割れたかもしれぬ」

「なにやってん…?」


門の方を見ると霞が陛下と一緒に来ていた。


「っっ…ええい、こんなみっともない姿を晒してる場合ではないのだ!」


なんとか痛みから抜けだした陛下はパッと立ち上がり私を再び睨みつけた。


「曹丞相!余が来たというのに椅子に座ったまま迎えるとはいいご身分ではないか!」

「……失礼しました」


それからやっと私はちゃんと椅子から立って礼をした。


「お言葉ですが陛下、今ここは病者がいます。あまり怒声を上げることは…」

「黙れ!」

「……」


この皇帝、今までになく強気で出ていた。それほど逆鱗に触れたのかもしれない。


「文遠から事情を聞いた。今回の失態は全て曹丞相、汝の不届きだ。異義はあるか!」

「……将たちの喧嘩を止められなかった咎めは受けましょう。しかし、これは我軍での問題です。陛下が気にするようなことではありません」

「内部の問題と申すか。汝は北郷一刀が一体誰なのか判っているのか。北郷一刀は洛陽に居た十万の民と余を救ったは英雄にして、今回長安の惨事も止めた救済者とも言える存在だ。現に北郷一刀は天下に天の御遣いと知らされている。そして余は北郷一刀に丞相の位を与えたこともある。北郷一刀が自ら断っていなければ、余は北郷一刀に相国の座を渡すつもりもあった。汝が今自分の部下だと、そしてこの事件を汝の軍の内部の事故であると一縮することは、余に対しての、そして天下に北郷一刀の名を知る者たちに対しての冒涜である!」


陛下は一度彼の様子を確認してから言葉を続けられた。


「それだけならまだ聞き流そう。汝らの関係に口を挟むほど、余も野暮ではない。だがあれは一体何だ!」


陛下は私が彼に付けた手錠を指しながら仰った。


「これが汝の答えか。北郷一刀の意見に反しても自分の好きなように扱えれば構わぬというのか。汝に一体北郷一刀は何だ。汝の好色の延長線でしかないというのか」

「……陛下、幾ら陛下のお言葉でも、その話は聞き流せられません」

「反論できるというのか。今汝のやっていることが互いの同意を得ているとでも言うのか。これが互いを大切にしている男女の間にあって良い事だと思っているのか!」


私と彼の関係はそんなんじゃない。


そんな『普通』の『男女関係』などという概念に定義出来るものではない。


―じゃあ、許されるとでも?


……


―こんな行為、彼が許すと思っていたの?


…思わない。


思わないけど、でも彼だって私を許そうと思っていなかった。私の話を聞こうともせず、問題をやり過ごして、ただ忘れようとした。私はそれが嫌だった。彼がもしあのまま何もなかったように振る舞うとしても、私は納得していなかった。それは彼も一緒だったと思った。


だから私は彼を縛っていたのだった。彼がこの問題について私から逃げられないようにするために。この問題を解決出来るまで、彼も、私もこの問題から目を背けずに立ち向かって、誤解を解くために。


そう、それで私は彼の自由を奪ったのだった。


―だから春蘭が彼を痛めつけるのも見守っていたの?



―彼を拘束する口実にするため。


それは…違う。


―違わないでしょう。内心安心していたでしょう?皆に反対されることもなく、彼を引き止めていられる言い訳が出来たことを。


違う!


―欲張りな娘。この世の何でも自分のモノにしたい欲張り娘。自分のモノにならないのなら…他の誰かのモノになるぐらいならいっそ『壊してしまう』


やめて…!


―自分しか知らない欲張りな娘。


違う。そうじゃない。そうじゃなかった。


私は…そんなつもりじゃ…




「おい、いい加減にしろよ」


<pf>


一刀SIDE


「黙って聞いていれば、お前が何様で俺たちの問題に頭突っ込みやがってんだ」


返事もせず、動かなくなっている華琳を見てそれ以上見てられず俺は帝に向かって言った。


「止めるな、北郷。今回の事は余も黙っては…」

「黙ってろ。お前が口を挟む所じゃない」

「…今自分の姿を見てそんな事が言えるのか、北郷一刀」


帝は俺の方を向いて、手首の方を指しながら言った。


「今俺がどういう状況かは俺が一番良く知っている」

「なら…!」

「だからお前らが口を挟むな。お前にも、ここに居る誰もそんな権利はない。俺と華琳の問題だ。これ以上言わせるな。出て行け」

「……」


帝は何も言わずに俺の方を数秒間睨んでブルブルと体を震わせて、入ってくる時変わらない感情溢れる歩きで、部屋を出て行った。


「お前も行け。後、帝の管理ははっきりしろ」

「…わるかったわ」


文遠は一瞬横をちらっと見て部屋を出て門を閉じた。


「…華琳」


帝は追い出したが、あいつが正しいことがあるとすれば、この馬鹿げた状況をさっさと終わらせるべきだという事実だった。


で……。


……


「……悪かった」


俺の謝りに、固まっていた華琳はゆっくりと私の方を向いた。


「…何で?なんであなたが謝るの?」

「……」

「あなたは何もしていないじゃない。全部私がやったのに」

「そうだな。やったのは全部お前だった。そして俺は何もしなかった」


そしてそれが俺が彼女に悪いことだった。


俺が苛立っていることは自分でも判った。でも一体何に怒っているのか判らなかった。冷静に考えると俺が怒る理由なんてなかった。だから俺はそんなはっきりとしなくて非合理的な感情をとにかく感情を抑えて普通に振る舞うつもりだった。が、どうも華琳にはそう見えなかったようだ。それともただ俺が問題を埋めて見過ごそうとしたのが気に入らなかったのかもしれなかった。


俺たちは過去は振り向かない主義だ。だけど俺の目の前を遮る問題なら立ち向かわなければならない。この問題はその両方の特徴を同時に持っている。


それでも俺が何もせずに過ごそうとしたのは…どうすれば良いのか判らなかったからだろう。


そして、それは決して問題から逃げるに妥当な理由にはならない。


三日間そんな考えがまとまると、俺を手錠で束縛した華琳の極端な行動にも、はっきりと怒れなかった。もしこれが不当な行為だと思ってたなら俺が手段を選ばずに脱出していた。本当に鋸持ってきて手首を斬ってでも脱出する。だが俺が切実に逃げようとしていたのと同じく、彼女も俺を引き止めることに切実だったのだ。


「今回俺もお前も馬鹿なことやった。今お前に怒りたいことよりも、俺自身の馬鹿な真似に怒りたい気持ちの方が強い。だから、いつもなら互いに悪いことやっても言わずに済ませるが、今回ばかりはお前に謝っておく。悪かった」


結果的に…今回は俺たち二人とも普段の自分たちとは思えない馬鹿な真似をしていたわけだ。どうして脳みそがこんな真似をするに至ったか解らないが、本当に馬鹿みたいな事だったことは間違いない。


「……」

「…おい」

「ごめんなさい。ちょっと…」


突然華琳は外に逃げようとした。だが、自分が付けた鎖があることを忘れたのか門に手が届く前に鎖に引っ張られて後ろを振り向いた。振り向いた華琳の顔は赤く染まっていた。


「…ごべ…なさい…」

「……お前…」

「怖がっだの…」


そして、彼女のずっと我慢していた不安や恐怖の感情が堤防が崩され溢れ出てきた。覇王の威厳なんてあったものじゃない。


「どうずれば…いいが…わがらなぐで……」

「…外に漏れるだろうが」


俺は繋がった鎖を引っ張って彼女を近くに連れてきた後まだ治ってない胸を避けて股の上に彼女の顔を埋めた。


周りに君主を泣かせたって話が漏れたら元譲が俺にトドメを刺しに来る。


「こんなつもりじゃ…ながったのに…」

「…判っている」

「わだしが……よぐばっだから…ぜんぶ…だめにしぢゃっだ…」

「…この世の全てを手に入れる…それがお前の夢だろうが…。俺はそのお前の夢に興味があったからここに残ったんだ」


もちろんその実現が醜く、到底納得いかないものなら話は違うが…少なくとも彼女のその理想自体に軽蔑したことはない。だから司馬懿の話を聞いた時も、俺は華琳自ら司馬懿を殺そうと画策したと推測した時もそれが醜いとは思わなかった。彼女みたいな独占欲を持った人なら十分ありえることだし……。


もちろん、その対象が俺になった際に、如何に対処するかはちょっと問題が残るが…今回は俺も馬鹿なことをやりすぎたから見逃すことにしよう。


「今回の事はなかったことにしよう。……もう馬鹿馬鹿しくなってた。俺とお前両方とも馬鹿な意地の張り合いに大事な時間を無駄にした。埋め合わせをしっかりしなければならない」

「うっ……」

「勘違いするな。この話はまだ終わっていない。そのうち決着をつけてやる。でも今はもっと大事な事がある」


俺が幾ら無理やり動く派でも、こんな体でここ十日動くつもりはない。だからと言ってこれ以上進軍を遅らせるわけにはいかない。極端な手に出るしかないか……。


「……っ」


……今気付いたが、


俺は他の事より今彼女が泣いているという事実が一番腹立たしいようだ。


<pf>


愛理SIDE


皇帝陛下が一刀様の部屋に訪れたという話を聞いた後、華琳さまの命令によって全員が一刀様の部屋に集まりました。一刀様はまだ寝床の上に居ましたが、お二人とも普段と変わらない真面目な顔で皆を見ていました。


「明日、全軍西涼に出陣するわ」


皆が集まった場で華琳さまはそう宣言なさいました。


「待ってた事ではあるんやけど、一刀はどうするん?まだ完治してないんやろ」

「俺の体は俺の責任だ。俺のせいで遅れた時間を埋めるのも勿論俺の責任だ」

「それで、一体どうやってその無駄にして時間を埋めるおつもりですか。長安に残るおつもりですか?」


稟さまが皮肉混じりに言うと、一刀様は私に卓の上に長安で見つけた西涼の地図を広げさせました。


「西涼を攻める道は二つある。一つは五丈原を通って下から西進して天水まで行く道。そして黄河の渭水を渡って安定を落として天水を他の西涼から孤立させる方法だ」

「馬騰は本拠地の天水にあります。もちろん進む道は天水へ行く五丈原…」

「いや、両方行く」

「…はい?」

「こちらの軍の数は敵を圧倒している。一溜りになって相手の対応を簡単にさせたくない。だから二手に分かれて両方から西涼を攻め上げる」


一刀様の話に合わせて私は駒を渭水の北側に一つ、天水に行く西側に一つ置きました。


「五丈原には…俺が行く。奉孝お前は北へ行け」

「元々今回の進軍の軍師は私です。本筋の天水の方に私が行くべき…」

「誰が五丈原の方が本筋と言った?」

「……」

「五丈原の周りは森に囲まれ地帯が高く攻防両方とも最適な天涯の要塞だ。そんな所に軍を突っ込ませるだと?そこに防衛軍一千あっても十万大軍の足止めが出来るのに、お前なんかがそんな場所に大事な曹操軍の兵士を連れて突っ込ませると思うか?」

「渭水を越えた道も被害が大きいことには変わりありません。寧ろあそこは荒野が広がっており、四六時中敵の奇襲の危険に晒されます。兵の消耗という面で考えると寧ろ北西側の道の方が危険です」

「そうだな。お前が下手な用兵術施せばそうなるだろうな」

「…!」

「だがもっと大きな問題はだ、俺が五丈原に行かせるほどお前を信用できないってところだ

「…それはどういう意味ですか」

「言葉通りだ。長安攻めでのお前の指揮能力は認めよう。だがそれは周りの洞察があってからこそ。運が良かったからだ。今お前は周りの声を聞き入れるほどの余裕がない。それじゃあ周りに助けるための仲間が居てもアイツには敵わない」

「アイツって…一体誰のことを言っているのですか」

「……」


一刀様は答えずに華琳さまを見ました。


「…風と真桜、季衣、そして…春蘭は稟に付いて北側に行きなさい」

「華琳さま、どうして私が華琳さまと別で動くのですか!」


最近謝罪も出来ず、華琳さまに会えられなくて最近ずっと元気がなかった春蘭さまが今にも泣きそうになって華琳さまに訴えました。


「これは罰じゃないわ、春蘭。これは今回の戦いに必要な采配なだけよ」

「し、しかし…」

「あの時の事件は私にも責任があったわ。あなたをもっと早く止めるべきだった。でも、だからといってあなたがやったことを完全に許したわけでもないわ」

「っ…」

「あなたが私が見ていなくても私に尽くすだろうって信じているわ。だから次合う時まで戦功をあげなさい。自身を持って私の前にまた立てるようにね。私が言いたいこと、判るわね?」

「…はい。この夏侯元譲、華琳さまの剣、必ず華琳さまの期待に応えてみせます」

「期待しているわ」


そして華琳さまは稟さまを見ました。


「稟、あなたには失望したわ」

「…!」

「あなたが軽んじている彼や桂花は、私の元で長く仕えた功臣であってその実力も一流よ。あなたは口や態度からは自分が彼らと並ぶと堂々と言い張ってるようだけど、あなたが私に見せてくれた行為の数々は彼らに大きく及ばなかったわ。彼らなら見せないはずの未熟な面をあなたは何度も私の前で晒したわ」

「それは…」

「あなたにもう一回機会を与えましょう。誰にも邪魔されることなくあなたの知謀を披露できるわ。しかし、本当にあなたがやっていることが何のためなのか、それを判らない限り、あなたが彼と桂花に並ぶことはないわ」


華琳さまの言葉は、稟さまに匕首のように刺さったようです。稟さまは反論することもなく、頭を項垂れました。


「稟の部隊の出発は明日の朝よ。私は一刀の経過を見た後に五丈原に遅れて出征するわ」

「華琳さま、じゃあ華琳さまたちが行った後、長安の守りを誰がするかまだ決めてもらっていないのですけれど」


風さまがまだ確定してない長安太守の任を臨時的に誰が任されるかについて聞きました。


「そう。その件があったわね」

「それに関しては適任者がある。于禁、お前が責任者だ」

「えええ!?だって前には沙和には無理だって」

「無理とは言っていない。大変な仕事だと教えたまでだ」

「同じでしょう?」

「お前の普段通りにやってはいけないって意味だ。ここに40万の人がお前のやり次第で命の救われたり、失ったりもするだろう。お前の分に余る役割を任せたつもりはない。だから死ぬ気でやれ。お前が初めてこの軍に来た時こんなことがしたくて入ってきたんじゃなかったのか?だから最初に志願もしたのだろ?」

「……」「張三姉妹を助っ人に付ける。内政には頼りないが市民の慰問活動ぐらいは出来るだろう。それと末の姉妹が政治に少し明るいから手伝ってもらうと良い」

「うぅ…貧乏くじなの………でも、信じて任されたからには頑張るの」


あ、沙和さんがいつになく生き生きしてます。普段仕事の時は一刻過ぎると死んだ魚の目になるのに、あんなにキラキラした目になってるのは仕事抜けだして服選んでる時並です。凄い発展です。


「敵は天下一の騎馬を持つ西涼の馬騰よ。決して気を緩めてはいけないわ。稟、春蘭、明日の出征に備えて準備なさい。あなた達の手にこの戦いの勝敗を任せるわ」

「はい、判りました!」

「はい」

「では、各自戻って準備なさい。軍議はこれにて解散するわ」


そう言った華琳さまは一刀様と意味ありげな視線を交わりました。この前見たお二人の間での変な空気はもう薄くなっているように感じました。


<pf>


馬超SIDE


「陽動だと?」

「はい、敵は陽動を準備しているようです」


あたしたちが防衛のための兵を集めている所に、司馬懿がやってきて間者たちが持ってきた情報を教えてくれていた。こいつは味方ではあるけど、いや味方と言うにも胡散臭い女だ。言うことを全部信じることは良くなかった。


「渭水を越えて荒野を通る道を本筋に思っているようです。五丈原が通りにくい場所であることを気にしたのでしょう」

「なら好都合ではないか。相手が荒野に来るならあたしたち騎馬隊の餌食だ」

「普通の采配ならそうでしょう。それだけならばわたくしもお約束した通りに手を加えずに済んだでしょう」

「…どういうことだ?」


まさか約束を破るってんじゃないだろうな。


「この荒野を通る軍には、曹操と、かの悪名高い天の御遣いが参加していません」

「何だと?」

「彼らはこの本隊と時間を置いて長安から出征して、少数の部隊で五丈原の方へも進軍し直線距離で天水を狙うつもりだそうです」

「けっ、小賢しい真似を…まあ、良いさ。知ったからには五丈原にも軍を分散すれば」

「ですが孟起殿、騎馬隊だけでは五丈原を占めていても敵を食い止めることがままなりません。それにあくまでも本筋は北側に行く軍。兵の数の少ない西涼軍が部隊を分散すれば、本隊を食い止められなくなるかもしれません」


その兵の数が減ったのは誰のせいだよ…!!


「それで、孟起殿を楽にして差し上げるために、わたくしが五丈原を守ることに致します」

「……言っておくけど、あたしが集めた軍はやらんぞ。貴様に西涼の戦士たちの命は預けられない」

「それはもちろん…わたくしがなんとか致しましょう。孟起殿は兵の数の多い北側に集中して頂ければ…………曹操さまはわたくしの手で………うふ、ふふふふっ」

「……」


まるで死んでいく人が出してるようなその笑い声に、あたしは背筋がぞっとした。

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