二十話
風SIDE
長安に向かうはずだった愛理が帰ってきたのは翌日の正午。他の間者たちが戻ってきたのとほぼ同時刻でした。
「青野戦術…ですって?!」
「間違い!ないでしゅ!村も!畑も!全部焼いて!そこの!人達も!全部…!」
「ああ、ああ、話は判ったからちゃんと息しい。もう顔青くなり始めてるやん。はい、これに息吸って…吐いて…」
「はー!ふー!はー!ふー!」
真桜ちゃんが過呼吸している愛理ちゃんのために革袋を渡して息を整うのを助けてくれました。その間にも稟ちゃんの難しそうな顔は、この情報が本当の事なのかを頭の中でその理屈を早く判別していました。
青野堅壁…物資を全部回収、あるいは消滅させた後城に篭って防衛する、防衛側としては究極の決断といえる策。冬ならまだしも真夏にこんな策を実行するのは守る側にも甚大な被害出ます。この策を準備した人が正気なのか疑う程に外道な策なのです。そして、
「幾らなんでも相手の損失も大きすぎます。長安は決して小さい地域ではありません。寧ろ西涼の全部を長安と引き換えても良いぐらいの大都市なのですよ。その地にあんな外道な策を用いるはずがありません」
まあ、やっぱりそうなっちゃいますよね。
稟ちゃんって、一応軍略に精通していますけど、兵法書というのは常に軍事でやって良いことと悪いことがあるとしつこく言い続けるので、それらから外れた奇策というのはあまり好まないのです。逆に私はそういうのって大好きですけど…いえ、別に兵法を馬鹿にしているわけではありませんよ。稟ちゃんだって奇策を見抜きさえすれば簡単にそれを破る策を思い出せるのですから。軍略に精通しているとはそういうことなのです。だから肝心なのは今稟ちゃんにどうやってこの兵書でも外道と言われる策が実際に使われていることを信じさせるかなのです。
はい?どうして風はそんな簡単に愛理ちゃんの話を信じるかですか?そりゃ風が長安太守だったら真っ先に思い出すのがこの策だからですよ。
誤解はしないでください。風はそんな残虐無道な人ではないのです。風が言っている青野戦術はちゃんと民たちへの安全と補給も考えた戦術で、こんなむちゃくちゃな青野戦術じゃありません。
でも兵法書で言う禁忌や余の道理なんてまったく気にせずに一度きりの不意打ちで相手を壊滅させようとする策士だった居るのですよ。
そして風が思うに、そんな人はこの世が平和になるためにはもう二度と表に姿を現してはいけないのです。
「稟ちゃん、他の村から帰ってきた間者たちの話を聞くと、だいたい愛理ちゃんが言っていたように少数の部隊が村を防衛する形で囲っていたらしいですよ」
「……単なる街の防衛ではないのですか」
ふむ、これは頭がそっちに思わないようとしてますね。稟ちゃんのことだから、一応信じてくれれば対応には困らないはずですが…。
「そうかもしれませんね。でも長安から東にある県の数だけでも幾つもありますし、その中も村も数十個あります。その村ごとに一々衛兵を配置するというのは幾ら何でも私たちの軍に対しての防衛するための配置とは思えませんね。既に男たちが徴兵された村にまた精兵を配置することは非効率的なのです。これは何か匂いますよ?」
「それじゃまさか…馬騰、なんちゅう策を立てたんや!長安で勝っても負けても長安の人たちは飢え死ぬわ!」
霞ちゃんもお怒りの様子ですね。まあ、どっちかって言えば、稟ちゃんが言う通りに単なる防衛な可能性もないわけではありませんし、寧ろそんな風に防衛してくれたら村に残された人たちにとってはとても心強いでしょう。でも風が思うにはどうもそんな優しい策ではないのですよ。
「まあ、稟ちゃんが迷ってるのもそこですけどね。まさかそこまでするわけがないと…でも、相手の策が青野戦術なら、やることは決まってますよ?」
「…そうですね」
青野戦術は、基本敵がゆっくりと砦などを落としながら進んでいる間に他の所で一斉に策を行った後速やかに本城で帰還して成す策です。だから順を追って攻撃をせずに、本城に奇襲をかければ青野戦術はその意味を失うのです。
「しかし、仮に本当に相手が考えているのが青野戦術であるとすれば、この場合私たちが本城を落としても畑や村の焼き逃げはする可能性があります。敵の目的は私達先鋒部隊の消耗にあるわけではなく、長安の民たちを助けるべく私たちが時間と資源を消耗するように強制するためです」
そこまでは風も考えませんでしたが…というかそこまで来るもはやただの略奪ですよね。長安の救恤をするために私たちが攻撃の手を緩ませるしかなくするのが向こうの目的であるとするなら……それじゃ私たちには打つ手もありません。向こうは敵領ですし、仮に東側と本城を占領出来ても、西側はどうしようもありませんからね。
ふむ、そうだったのですか。だから稟ちゃんはよりこんな策であるとは考えたくなかったのですね。
「…愛理」
「すー…はー…」
「呼吸はもう良いでしょう」
稟ちゃんは息を整っていた愛理ちゃんを呼びました。
「私の目を見て確かに言ってください。あなたが見たこと。そしてそこから見出した結論、確信できるのですか?」
「…私が見た限りだと、確信出来ます。村の人たちは兵士たちの防衛が自分たちを守るための者だと思い込んでいましたが、兵士たちの顔からもどこか嫌々とそこに居る感情が見られました。自分たちがこれからやるであろうことに嫌味がさしていました。それに私が泊まった家の壁に農具とかが結構な日日使われずに放置されていました。敵さんは結構前から村の男たちを徴兵していました。私たちが来る前、いや、稟さまたちが使者に行く前からですよ。相手はずいぶん前からこうしようと準備していたんです
」
「……」
「もし敵さんの思惑通りになれば、長安は私たちの手に落ちるでしょう。でもその長安では食べるものがなくて飢え死ぬ人が後を断たなくなるはずです。私たちがこれを止めなければ、結果的に長安を得たとしても意味がありません」
愛理ちゃんは、些か感情的になった感がありますね。でも、理性的に振る舞う稟ちゃんも実は結構感情で動かされる柄なのでああいう話には割りと耳を傾けます。
「霞、千夫長の中でも統率力が優れたものを六人だけ招集をかけてください」
「あ?…りょうかい」
稟ちゃんに言われて霞ちゃんは場を離れました。
「残りはちょっとこっちに来てください」
私と愛理ちゃん、そして真桜ちゃんが稟ちゃんの居る円卓の周辺に集まりました。円卓には洛陽が燃える前に事前に回収されていた長安周りが細密な地図が置いてありました。
「各々二千ずつ部隊を分けてあげます。愛理は南側、真桜は北側、風は本隊と一緒に動きながら村に合うごとに部隊を分けて制圧してください。行く道に幾つかの砦が存在しますが、落としてる暇がないでしょうから適当な数で包囲して、村の制圧を優先してください」
「……なんや、凄い適当な指示やな。しかもそんな一々制圧していっても結局後ろの方は間に合わんで」
「まず向かうべき優先順位は農村です。まず穀物の被害は最大限に抑えます」
稟ちゃんは地図の上に石で優先して救済すべき村を指し示しながら話を続けました。
「私たちの戦略を知ったら後ろの地域の部隊は即刻予定された計略を実行するはずです。残念ながら幾ら早く動くとしても長安から西側までは手が届きません。ですが東側は砦などの占領は二の次に考える分翌朝が来るまでに制圧します」
「はあ?!んな無茶やろ」
「でも、そうしないと制圧する意味なくなっちゃいますからね。一晩過ぎてしまうと制圧できない所に知らせが届いて行動に移ってしまいますから」
「騎兵千、歩兵千ずつに分けますから距離によって運用は任せます。ですが必ず翌朝まで長安城の東側のすべて制圧してください」
「………よし、行けます」
「ほんまかいな!」
おお、愛理ちゃんの目に火がついてますね。やっぱ自分の目で見た分やる気まんまんなのです。
「兵士さんたちにはちょっと無理をかけさせますけど、それでもこれしか方法がありません」
「真桜ちゃん負担でしたから風が変わりましょうか?中央の方が多分稟ちゃんと一緒だから楽ですよ?」
「…いや、任されたからウチでなんとかするわ。任されたこと出来へんかった聞いたら後で隊長に何て言われるか判らへん」
「残って補習かもですよ」
「カンベンシテエナ…」
真桜ちゃん泣いてますよ。お兄さん一体どんな風に真桜ちゃんに仕組んだんでしょうかね。
「私も霞と一緒に急いで長安に向かいます。多分歩兵は置いて騎兵のみでまず長安に辿り着くと思うので風は残った歩兵にも気をつかってください」
「おお、風ってば後でついてきたのに一番面倒な仕事任されたんですよ」
「これぐらいあなたなら出来るでしょうに。…もし愛理が判断が違っていれば、砦を制圧出来ずにこんな風に軍を散開した我々は全滅します」
「だ、大丈夫です。私が責任を持って…」
「今回先鋒部隊の指揮を任されたのは私です。私の判断で行った指揮にはもちろん私が責任を取ります」
そう言ってる稟ちゃんが悲壮な顔をしているのです。
「稟!集まったで!」
「では半刻内に各自進軍を開始してください」
「はい」「りょうかい「はい…あ、そうでした。稟ちゃん」
霞ちゃんが帰ってきて軍議は解散、愛理ちゃんと真桜ちゃんは頷いて千夫長を二人ずつ連れ場を去りました。風も残った人たちと他の部隊の管理に入ろうと思ったのですが、ふと何か思い出して稟ちゃんを呼びました。
「なんですか、風」
「稟ちゃん、もし長安に行ったのにもう長安が落ちていた場合にですね」
「…なんですか、その無茶な仮定は」
「怒ったりしちゃいけませんからね」
「そんなことありませんからちゃっちゃっと動いてください。ただでさえ時間がないのですから」
スルーされましたね。
まあ、風は確かに警告しましたし、後のことは稟ちゃんがうまくやってくれるでしょう。
<pf>
稟SIDE
丁度半刻後、我々が進軍を始めました。愛理と真桜が各々二千を連れて西南、西北側に進軍し、私たちは正西方向に進みました。私と霞は途中で霞が訓練した陳留で一番早い騎馬隊五百を連れて先に長安へ駆けました。道中にある砦などは無視しながら走ったら騎馬であっという間に城まで辿り着く…と思いはしてましたが…思った以上に速いものでした。
「霞!速すぎです!こんなに速く走ったら逸れる者が…」
「阿呆!そんな腑抜けな奴はとっくにウチの部隊から抜けてるわ!ウチは二百里(80km)は走り続けられる奴らじゃないとウチの騎馬隊には入れんわ!二刻ぐらい走れば辿りつづから我慢しい」
「冗談ですよね!?」
そんなに早いなんて聞いてません!
「いくら先鋒部隊隊長でも遅れたら置いてくかんな。んじゃあ、ウチは先鋒に行くで!」
「ああ、ちょっと待って下さい、霞!」
こうなることなら風に任せた本隊の歩兵を連れて行けば良かったです!
でも、長安にたどり着いて状況を確認しなければ愛理の見たことが事実かどうか判断ができません。
「くっ、私だって今回の攻めに私のすべてを賭けたのです」
半端な功名心で買って出たわけじゃ…ありません!
「きゃああああ!!」
「おお、なんや、ちゃんと走れるやん」
「やっぱ速すぎます!止めてぇぇ!」
これが終わったら当分馬は乗りたくありません!!
※ ※ ※
二刻後(本当は二刻すらかからなかった気もしますが)、私たちの前に長安城が見えてきました。
「稟、もうついたで。どうす…大丈夫なん?」
「………」
しゃべる気力がなかったので手で大丈夫だという信号を送りました。
「にしてもおかしいな。駆け足で来たとこはあるんやけど、城壁に誰も立ってへんで?稟、ウチが何人か連れて偵察いってくるわ」
「……お願いします」
私はもう一歩も走りたくありません。
「おい、何人かついてきな!ぐるっと一周するで!」
霞とまた何人かが騎馬で城に向かって走りました。
長安もかつては都であった場所です。洛陽が燃えた今、長安は司隷を支えられる唯一の場所。そこを失ってはは合わせて漢を四百年間支えた洛陽、そして長安の両方ともその機能を失い、司隷は荒野と化します。それだけはどうしても避けなければ…。
「稟!」
そんな時に霞が帰ってきました。思ったより早かったですね。
「大変や、稟!」
「なんですか!何か動きが…」
「城門が開いとるんや!」
…は?!
<pf>
連れてきた騎馬隊全部を連れて再び駆けつけた長安城は、霞が言う通り城門が開いており、その前には予想だにしていなかった方が立っていました。
「遅かったではないか」
「……ああ」
「…!」
ボロい平民の服を着ていましたが、その風彩は隠せませんでした。それは陳留にいらっしゃるべきの、皇帝陛下でした。
「陛下…」
「なんでこんなとこにおるねん!死ぬ気か!」
私も驚きましたが、私より陛下を護衛していた霞は怒りを隠さずに怒鳴りました。
「ああ、ああ、そう怒らない給え、文遠」
「これが怒らずに済むことと思ってんか!なんでここにおるねん!華琳は知っとるんか!」
「今になっても知らずに居たら少し別に意味で困ってしまうな。まあ、なによりも無事そうで良かった」
「…!」
霞はどうすることも出来ず陛下の前で怒りを抑えていましが。そんな時静かに一刀殿が現れました。霞は一刀殿を見るやいなや、一発ぶん殴る勢いに近づきましたが陛下がそんな霞と一刀殿の間に入って彼女を止めました。
「置け。北郷一刀は世のワガママを聞いてくれたまでだ」
「退いてな、陛下!あんたウチがぶっ殺す前になんか言い訳してみぃな!」
「…俺が連れてきたわけではない。自分が勝手に潜ってきたのだ」
「戻しておけや!少なくともウチらに話しとけや!」
「そんな余裕はなかった。こいつを置いてくる時間を消耗していたらここまでうまくも行かなかっただろう」
「そんでも…!」
「張文遠、おけと言ったはずだ」
怒り狂っていた霞も二度目の陛下の怒気づいた声を聞いて一歩下がりました。
「北郷一刀は余の安全を守るために最善を尽くした。余が自ら危険な真似をしたものの傷ひとつもなかったのは北郷一刀の功である。なのに汝はそんな余の恩人にこうも非礼な真似をするか」
「うっ…」
「…此度の事は余が悪かった。謝ろう。しかし今はまだ成すべきことが残っている。今直ぐ連れてきた部隊で長安の官庁を制圧して混乱を鎮めよ」
「…御意」
しばし一刀殿を睨んだ霞は連れて来てた騎馬隊と一緒に城内に進入しました。
騎馬隊が全部城内に入ると私は馬から降りて一刀殿と陛下の方に近づきました。
「一体どういうつもりだったのですか、一刀殿」
勝手に一人で長安まで来ただけでなく、北郷に陛下を連れて二人で長安城を占領したって言うのですか。
「少し二人きりで話す」
「…ああ、判った」
陛下が私たちの会話が聞けないほど、だが決してこちらの視線から離れない場所まで移動なさると私は一刀殿に訪ねました。
「何故一人で行ったのですか」
「……」
「最初から私と手足を合わせるつもりはさらさらなかったんですね」
「その方がお互い良かっただろ」
「こんなことをしておいてそんな風に言うのですか!」
人の事はさんざん混乱させておいたくせに自分は単身で乗り込んで私が落としていたはずの城を一兵もなく落城にまで追い込みました。最初から隊長に任じられた私に功を挙げさせないためにここまでしたのではないのでうsか
「これが今までのあなたのやり方ですか!人に不意打ちかけることしか出来ないのですか!」
「勘違いするな。ここに来ているのがお前でなければ手足を合わせられた」
「なっ!」
「…もし俺がここに来て俺の予測が奇遇で終わったのなら先鋒隊に戻って合流したかもしれない。そして今のように俺の考えが正しいと判ればなんとかして先鋒にこれを知らせようとしただろう。だがお前なら…はたしてお前は俺が相手の策が青野戦術と言えばなんとそうなのですかって直ぐに動いたのか。絶対俺の言うことだけは違うと意地を張っただろう。俺の目的はお前の揚名ではなく華琳が沼地に落とされることを防ぐことだ。その過程でお前がどんな屈辱を感じるだろうが俺の知ったことではない」
一刀殿はやはり長安城にたどり着いて青野戦術を看破していたから帰ってこなかったのですか。いや、もしかすると来る時からこれを念頭に入れていたかもしれませんね。これは先見の明以前に人として間違った考え方です。この人も長安太守も同じです。
「…自分だけ華琳さまのことを思っているみたいな口ぶりで…私だって華琳さまの前に私の実力を見せる機会があっても良いではありませんか!私に功名心を焦って仕損じるななんて言ったくせに、自分は手柄を私にあげたくないから私に知らさずに一人で策に転じたのではありませんか。これでは単なる古参の縄張り主張と変わりないではありませんか!」
「……お前が酷く勘違いしていることがある」
「なんですって」
「…新参ものが古参を追い抜くというお前のその理想は…所詮幻だ」
「…!」
「お前はいつから華琳に仕えようと心を決めた。華琳が黄巾の乱で名を揚げ、反董卓連合で悪戦苦闘している頃にお前は見聞を広げるだの言って乱世の波から離れていただろうが。そんな身分で突然現れてはあの苦闘を凌いできた桂花や俺と一発で並べると思ったのか?今お前がどれだけ生意気な事を言っているのか自分で判ってるのか」
「……」
「古参の新参もの潰しだと思って結構だ。だがこれは別に俺が俺の経歴を使ってお前を押しつぶしたわけではない。寧ろ軍権を持っていたのはお前だったし、俺はお前の邪魔は一切していない。これはお前と俺の実力の差だ」
悔しかったものの、これ以上反駁する力もなければ、確かに軍権を持っていたのは私が一刀殿によって動きを限られたことは一切なかったからです。逆に一刀殿が私と一緒に居て悉く私とぶつかりあったでしょう。そうなれば現在より良い結果が出たとしても、私は一刀殿のせいで仕損じたと言い訳したはずです。
一瞬、夏侯淵将軍の話を口に出そうかも思いましたが、その禁句を口にするには、私は既に冷めてしまっていました。
「…今愛理と真桜、風が東側の村を制圧しながらこっちに向かっています」
「……西側でも同じことをされている可能性はあるが、止める方法はないか」
西部は既に我々の手の届かない所でした。霞と来た騎馬隊は長安の防衛があるため動けず、本隊が到着する頃には既に時は遅くなるでしょう。守る術がありませんでした。
「半分だけの勝利、ですか」
「半分と、長安城分だけの勝利だ。初陣としては上々じゃないか」
「……」
「長安太守は捕まえられなかった。まあ、混乱を起こしただけで指揮を執れたわけではないからな」
「見たのですか?長安の太守、青野戦術を実行しようとした将を見たのですか」
「……ああ、見た」
「!一体誰だったのですか!こんな策を使えるような輩が…」
「…姿を見ただけだ。誰かまで判るはずもない」
それを言う一刀殿の顔はさっきよりもずっと暗い顔をしていました。
「それにしても、一体どうやって長安を制圧したのですか。どうやら内部から民たちを揺らしたようですが、長安太守の信望はかなりのものだったと聞いています。青野戦術のことを言ったにしても簡単に信じたはずは…」
「ちょっとした応援があったな。以外と目に見えぬ太守よりも目に見えるお嬢さんたちの方に耳が傾いたようだ」
「お嬢さんたち…とにかく例え信じたにしても武装した兵士たちが駐屯する城をどうやって蜂起だけで…」
「それが…少し話がおかしくなってな」
「はい?」
「知っていたか?長安に駐屯していた兵の多数が実は村々から徴兵された人たちだったことを…」
「…あ」
「で、自分たちの畑を燃やすだろうって話に一般人に兵士たちまで蜂起に合流する形になってだ。それで防衛線が乱れるともう耐えられずに引いたわけだ」
それは…思わない所で運が良かったのですね。
「いや、ちょっと待って下さい。じゃあ結局城が落ちたのは運が良かったからだったのではありませんか!何が実力の差ですか!」
「…天運も実力のうちだ。天子を連れていたからな」
「うまいこと言ったつもりですか!しかもなんですか!陛下は何故連れて行ったのですか!」
「勝手に付いてきただけだ」
「なら見つけた時即陳留に戻るか本隊に合流して陛下の安全を確保するのが道理でしょう!」
「そんな面倒なこと一々やっていられるか。運悪く死んでも自分の責任だ」
「な、なんて不敬な…!」
「知らなかったのか。この時代の法が正しく働いていたら、俺は不敬罪に逆賊で斬刑に死体は犬の餌だ」
誰か頼みますからそれ実行してください!本当に!
まあ、とにかく入るぞ。紹介する人たちも居るからな。おい!もう済んだぞ。戻って……なにやってるんだ、あいつ」
「陛下!陛下ともあろう方がそんな所で土遊びなどやめてください!」
こうして、ひとまずの長安攻略は、一刀殿が長安城を落とした事により執着を迎えました。以後霞の騎馬隊を連れて長安の西側の様子確認しましたが、時は既に遅し、畑は焼かれ、村人の多くも抵抗中に殺されていました。
長安に居た西涼軍はそのまま西涼に逃げました。我々は戦後報告を陳留に送り、長安の民への救恤を始めました。半分は守ったものの、半分の人々は悲惨な目に合いました、こんな策を迷いもなく使う外道な連中が相手となると思うと、これからの西涼との戦いが決して簡単ではないだろうと認める他ありませんでした。