守銭奴聖女
当代の筆頭聖女は、ひそかに守銭奴聖女と呼ばれている。
何かと手当を要求するからだ。
聖騎士団と魔獣討伐に行く際は、必ず危険手当を要求する。
時間外の仕事は、時間外手当を請求する。
今までの聖女は誰もそんな請求はしなかった。
黙って言われた通りの仕事をしていた。
筆頭聖女ジェニーは、枢機卿に呼び出された。
「何の御用でしょう?」
「近頃肩こりがひどくてな。何とかしてくれぬか?」
「何とかと言いますと?」
「治療をしてくれということじゃっ!」
「通常の業務以外の個人的な依頼でしたら、料金が発生しますが、お支払いいただけますか?」
「同じ教会の一員なのに、料金を取るのか?」
「個人的な依頼ですから。」
しぶしぶ枢機卿は支払いをした。
筆頭聖女の治療だけあって、効果は申し分ない。
しかし料金もなかなかのものであった。
しばらくして教皇も聖女を呼びつけた。
「腰痛が悪化して、痛くてたまらん。
痛みを消してくれ。」
「治癒の代金を支払ってくださるなら、やりましょう。」
「私は、教皇だぞ。それでも金をとるのか!」
「もちろんです。皆平等にお支払いいただきます。」
「後で払うから、早く治療をしてくれ。」
「本来でしたら、原則前払いなのですが、早く治療をということですから、
特別に後払いにいたしましょう。
必ずお支払いくださいね。
さもないと大変なことになります。」
「つべこべ言わず、さっさと治療しろ!」
ジェニーは、教皇の腰痛を治療した。
しかし教皇は何かと理由をつけて、支払いを拒んだ。
金がないわけではない。
なんとなく、聖女の言いなりになるのが嫌だったのだ。
あーぁ、知らないよ。
女神さまを怒らせると、大変なのに。
ジェニーは、少しだけ教皇に同情した。
様々な手当の要求は、女神さまの入れ知恵だった。
教会幹部は高い報酬なのに、教会付属の孤児院は予算が少なく、運営に苦労していた。
長年、高位聖職者の贅沢三昧に女神さまは不満を持っていたのだ。
そこでジェニーに、あれこれ手当を要求するようにさせた。
ジェニーは、その金を貯めて、各地の孤児院に渡していた。
ジェニーも孤児院育ちなので、ひもじかったり、寒さで眠れなかったりする辛さは、よくわかる。
今回の教皇の不払いは、女神さまの怒りに触れてしまった。
腰痛は、以前にも増してひどいものになった。
教皇は痛みに泣きながら、治癒代金を支払うことになった。
やがて執務もできなくなり、療養のため教皇の地位も降りた。
「さて、今度誰かが不払いをしたら、どんな罰にしようかしら?」
心なしか女神さまが楽しそうに見えるのは、どうしてだろう。
これからも女神さまと一緒に、支払わない者には、強引に取り立てる、
守銭奴聖女の汚名を甘んじて受けよう。
それで少しでも孤児たちの力になれるのなら。
ジェニーは、そう思うのだった。




