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仕事と俺とどっちが大事だ!

作者: とと

むかし、言われたことがありまして。

「アリア、ちょっとこっちに手を貸して」


「はいスミス先生」


ロドリゲス子爵家の長子である私アリアは、貴族学院を卒業後、修道院に付属する、診療所で診療のお手伝いをしていた。

患者のケアや処置を介助するのは大きな農場を領地に持ち、畜産を収入の主力としている。動物たちに元気に育ってもらうためにもこの仕事はとても勉強になる。


診療所を切り盛りされるスミス先生は、伯爵令息でありながら医療や薬学の勉強を積まれ、町のみんなを助けるこの仕事についている。


とてもやさしい人だ。

傷の処置を終えた男の子の頭を大きな手でなでる。


「頑張ったな、強かったぞ」


「当り前だ!こんな怪我、痛くないぞ!」


「この子ったら。先生すみません、こんな終わり際の時間にお願いしてしまって」




「大丈夫ですよ、あした消毒に来いよ!」

スミス先生が手を振る。

男の子は元気に手を振り返し、母親と帰っていった。


「アリア。遅くなってしまって悪かったね、片づけは明日でもいいし上がっていいよ」


「それじゃお言葉に甘えて、お先に失礼します」


(あー。もうだいぶ遅刻してる)

私は急いで、ヒューゴの待つカフェに向かった。


「ヒューゴ!ごめん。急なケガ人が来て、遅くなっちゃった」

カフェに着いたのは、待ち合わせを一時間ほど過ぎたころだった。


「。。。。。」

ヒューゴは頬杖をついてこっちを向いてもくれない。


「本当にごめんなさい」

テーブルに着いて、勢いよく頭を下げた。


「何度遅れてくるんだよ」


「ごめん、今日のご飯は奢るからゆるして」

ヒューゴは、私の婚約者だ、アボット子爵家の次男で、我が家のロドリゲス子爵家に婿に来てくれることになっている。

婚約は既に2年になるが、私がもう少し診療所で勉強したいと結婚を待ってもらっている。

ヒューゴは、実家の商会の仕事をしながら、ロドリゲス子爵家の畜産と領地経営の手伝いをしてくれている働き者だ。

シルバーの短髪に澄んだ青い瞳の好青年で、よくある、ミルクティー色のストレートに緑の瞳、おっちょこちょいの私にはもったいないくらいの人だ。


「次は承知しないからな!」


「頑張ります~」

両こめかみグリグリ攻撃を受けた。




□ □ □ □ □



ぬあああああ私の馬鹿、今日は絶対に遅れたらダメなのに~。

「お願い。急いでくれる」


「もうお嬢様、あれほど言ったのに」

侍女のリナがむくれている。

今日は、ヒューゴのご両親に食事のご招待を受け、アボット子爵家のご両親、お兄様家族も待っている。


「反省してます。でもでも終わり際に熱を出した赤ちゃんが来て。。。。。小さな子供は熱が続くと命にかかわるのよ」


「絶対お嬢様がいなければならない状況だったのですか?」


「夕方の手伝いに来る、エルマさんのお子さんも熱が出たみたいで、来れなくなったから」


「ほかの人にお願いすることもできましたでしょ!」


リナのお説教を受けながら、馬車に揺られ、ようやくヒューゴの家に着いたのは約束に1時時間以上遅れていた。


「すみません。遅れてしまいまして」


「まあアリアちゃん。ようこそいらっしゃい、お仕事忙しかったんでしょ?いま食事を温めなおすからね」


「アリア!」

お義理母様の暖かな言葉に重ねるようにヒューゴの声が響いた。


「ごめんなさい。ヒューゴご招待いただいていたのに遅れてしまって」


「おまえな、今日は俺だけじゃなく兄さん達も待ってるんだぞ、甥っ子も楽しみに待ってたのに

待ちくたびれて寝ちゃったぞ」


「私も楽しみにしてたよ」


「はぁ?楽しみなのに遅刻かよ」


「急に熱を出した赤ちゃんが来ちゃって」


「お前がいなくても先生だけでなんとかできるだろ!」


「できるだけ早く処置してあげたかったの、辛そうだったから」


「待ってる人の事考えたことあるかよ」


「あるよ。だから急いできたじゃない」


「・・・・・」


「私だって。。。。」


「アリア、お前仕事と俺とどっちが大事だよ」


「。。。。。どっちもだよ、ヒューゴもみんなも」


「あらあらヒューゴったら大きな声で、アリアちゃん食事が温まったからこちらにいらっしゃい」


「アリアは仕事が大事なんだ、俺たちとのディナーはいらないみたいだ」


「ヒューゴ!何言ってるのアリアちゃんお仕事してたのよ、怠けてて遅れたわけじゃないじゃない」


「今までも何度も何度も遅れてくるんだよ!」

お義父さんとお義母が間に入ってくれたが、ヒューゴの怒りは治まらず、その日はそのまま帰る事とにした。



□ □ □ □ □




あらから2週間、ヒューゴから少し冷却期間を置きたいと手紙が来てそのまま会えていない。


「私がいつも仕事にかまけてしまうのがいけないんだ。。。。でも急なケガや病気もあるし。。。。

うん~。ヒューゴ元気にしてるかな?  会えなくて寂しいな」

スミス先生に頼まれた治療薬の買い出しに向かいながら、ぶつぶつ独り言。。。。。


もー。悩んでも仕方ない!ヒューゴに会ってちゃんと謝ろうと心絵を固め、路地を曲がった。


「。。。。」

少し先に見える川のほとりに、ヒューゴと赤みの強いふわふわの髪が揺れる、かわいいらしい女性が楽し気に話していた。


私は慌ててくるりと向きを変え、元来た道をただただ走った。

診療所の近くの丘までたどり着くと、ぼろぼろと涙があふれて止められなくなった。


ヒューゴはきっとふわふわしたかわいらしい子が好きなんだ。

仕事、仕事。そんなことばかり言って、大事な時間を削る私は、かわいくない。


丘の天辺にある木の根元で、膝を抱えてうずくまり、悪い事ばかり考えていると、ぽんと誰かが私の肩を叩いた。


「どうしたの?」


「スミス先生!」

先生は私の隣に腰を下ろした。


「お使いから帰ってこないと思ったら、こんなところで泣いてる」

そういって大きな手が私の頭を撫でた。

先生の優しさにまた大粒の涙が頬を流れた。


「ぐず。。。私、いつもヒューゴとの約束に遅刻ばかりで。。。2週間前もヒューゴのご家族と食事の約束に、遅れてしまって」


「ああ。ジャームスさんとこの赤ちゃんが来たときか。それはすまなかったね」


「いえ。私も心配でしたし、赤ちゃんは早い対応が必要ですから」

先生は、また私の頭を撫で、優しく微笑んだ。


「あの。。スミス先生は、伯爵家令息なのですよね、なぜ結婚されないのですか?仕事が大変だからですか?」


「痛いところをついて来るね。まあ32歳にもなって、未だに一人でいるからね。

まあ。私も長らく待たせている人が居るんだよ」


「もう待つのにも慣れましたけどね」

振り返ると隣接する修道院を管理するミア様がいつの間にか立っていた。


「ミア様。。。」


「まあこんなに眼を赤くして、カークにいじめられたの?」

ミア様も私の隣に座る。ミア様は伯爵令嬢でありながら、この町の修道院を管理し、いろいろな産業もこなす才女にして、豊な金髪にキャラメル色のきれいな瞳の美人さんだが、まだ結婚されていない。


「スミス先生には、いじめられていないです!」

「・・・ ところでミア様は、なにを長い事待ってるんですか?」


それから私は、お二人の馴れ初めと、ゆくゆくは、病気や怪我の人が寝泊まりして、集中的に治療を受けられる診療施設を作るため頑張っている話を聞かせてもらった。


「まあ。直ぐできると思ったのにずるずると時間が過ぎてしまったが、なんとか目途が立ってな」


「みんなにはまだ内緒だけど、漸く資金もたまって、療養施設がたてられることになったの、来年の夏には出来上がる予定よ」


「開院式と俺たちの結婚式も同時にやる予定だ。アリアも出席してくれるかい?」


「おめでとうございます。お二人には共通の目標があったんですね。素敵です」


「まあ長い間にはいろいろあったわね」

「そうだな。アリアもヒューゴ君ともちゃんと話し合ってみたら」

二人に背中を押され、ヒューゴとちゃんと向き合う事にした。



□ □ □ □ □



私は、自分の気持ちを正直に書いき会ってほしいと手紙を出した。

今日はいつものカフェで待ち合わせだ。

そしてちゃんと時間の15分前に到着した。



・・・・。


「ヒューゴまだかな。。。」

私は、冷めた紅茶をスプーンでくるくる回し、ヒューゴを待っていた。

もう30分以上待ち合わせの時間を過ぎている。

(どうしたのかしらヒューゴが遅れた事なんてないのに、やっぱり私との結婚は考えられなくなったのかな?それとも体調でもわるいのかも、お家に伺った方がいいかしら。)

いろいろ考えていたら、約束の時間を一時間ほど過ぎていた。


待ちくたびれた私に、慌てたパン屋のおかみさんが駆け寄ってきた。


「アリアちゃんこんなところで何してるの!ヒューゴ君、馬車の事故で大怪我して診療所に運ばれたよ!アリアちゃん診療所にいると思ったのに、知らなかったんだね!」


「おかみさん。ヒューゴと待ち合わせしてて、ここにいたの。馬車がどうしたの?」


「詳しくは知らないが、馬車が脱輪して横転したようだよ」


「教えてくれてありがとう。直ぐいかなきゃ!」

慌ててお会計をし、全速力で診療所まで走った。




「ヒューゴ!」

スミス先生越しに血だらけのヒューゴが見え、駆け寄りしがみ付く。


「ヒューゴ死なないで、しっかりして!」


「いたたた!大丈夫だよ!腕は痛いって」


「馬車の横転で大怪我して死にそうだって。血まみれじゃない、意識は大丈夫?どこか痛いところは?」


「お前の掴んでる腕!」

慌てて掴んだ腕を離す。


「ごめん」


「ヒューゴは、馬車で横転し、頭を切ったから出血が多かったけど、意識はしっかりしてるし腕は打撲で折れていなさそうだよ。しかしどんなに大重症の怪我人が来ても落ち着いて対応できるアリアがこんなに慌てる姿は、初めて見たな~。

愛されてるね~ヒューゴ君~」

スミス先生が二人をからかう様ににやりと笑った。


「いたた」

ヒューゴが照れたように頭をかく、私はすでに耳まで赤い。


「アリア、ごめん。商談が長引いてさ、約束の時間に間に合わそうと馬車を急がせたら、深い轍にはまって見事に横転しちゃってさ、いつも遅れるなって言ってるのにな」

安心したら涙が溢れた。


「おい。泣くなよ」

ヒューゴが優しく私を抱きしめる。

ゆっくり話しなさいと言って、スミス先生は部屋を出て行った。


「良かった。ヒューゴが死ぬかと思った」


「待たせてごめん」

私はぶんぶん首を振った。


「私こそ、いつも待たせてごめん。ヒューゴの気持ちが良く分かった。

待ってる間、いろいろと考えて心配になった。。。。

体調が悪くて来られないのかとか、私の事嫌いになって、赤毛ふわふわの かわいい子の事、選ぶんじゃないかって。。。。

わけもわからず待つのは、悪い事ばかり考えた。今までほんとにごめん」


「俺もアリアの仕事に理解ができなくて悪かったよ。馬車が横転して、ビックリするくらい頭から血が出て不安なまま診療所に運び込まれて、スミス先生を初めみんなに優しくしてもらって、ここのありがたみが良く分かったよ」

ヒューゴの抱きしめる腕に力が入った。


「痛!」

私達は笑い合い、これからの事をいっぱい話し合った。


待ち合わせは、カフェでなく診療所にする事、できるだけ休みを合わせる事、スミス先生とミア様の計画に、ヒューゴの商会で手伝えるところを協力する事になった。


そして、施設の開院、スミス先生とミア様の結婚式の日に私達も結婚する事になりました。


~終わり~


















読んでいただきありがとうございます。

誤字脱字いつもありがとうございます。

書きながらいろいろ悩み、着地点は元さやになりました。


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― 新着の感想 ―
別れたりしたわけじゃないし、元サヤとはちょっと違う気がする
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