幕間 舞台裏から駆け出して
ぐるぐる巡るローワンの言葉は、オーレリア王女の指先からも血の気を奪った。
それでも今は倒れてはいられないと、気合で歩みを進めながら、オーレリア王女は自分の失策も省みる。
父の側妃の実家が力を付け過ぎた。
ウォーラー侯爵家を巻き込み、彼らの勢いを削ぎたかっただけだ。
異母弟妹も、無責任な祖父や大叔父たち、欲深き貴族たちの犠牲者だと思っているから。
ウォーラーの中でも優しく見える若き夫妻が関わることを良しとした。
そして夫妻をきっかけにして、ウォーラー一族が少しでも国政に携わってくれたなら──。
それは短い期間だけでも良かった。
即位する気でいるが、最初から繋ぎの女王のつもりだ。
王家の立場が弱くなっている今、ウォーラーの助言の元に体制を立て直して、王家の威信を復活させたうえ、次代へと繋ごうと考えていた。
これから教育した異母弟が無理ならば、なるべく早く子の代の王子に王位を譲り、女王否定派を黙らせたい。
だが今は自分が出産のために休んでいる暇もなかった。
残る大叔父たちは皆高齢で、他に真面に仕事の出来る王族がいないのだから。
少しでも休暇を取れば貴族たちは好き勝手に動き、余計に王家の権威は失墜するだろう。
異母妹を降嫁させず王女のまま適当な男を婿にして……そうだ。願った。
血統を重んじるうえで、子爵家の出自であることは汚点だが、ウォーラーの名があればどうにでもなるだろう。
何よりあの美貌は使える。
しかし仲睦まじい若き夫婦を見て、その考えはすぐ捨てた……そうだろうか?
オーレリア王女から見ても、異母妹は見目が良かった。
報告書通り妻しか知らず狭い世界に生きてきた青年ならば。
ある日気付いて、妻には美しい女性をと願うこともあるだろう。
可哀想な境遇にあった美しくも賢いあの青年を王家に取り込めたなら。
その利用価値は計り知れない。
『ウォーラーの教えをひとつ披露いたしましょう。今後があれば、お役に立つこともあるかもしれない』
──欲を掻いては全を失する──
口内はからからに乾いていた。
はじめて議会に参加した遠い日にも、感じたことのない緊張感。
気持ちは急いでいるのに、一歩はやけに重たくて、身体は講堂に向かうことを拒んでいるよう。
自分も結局は愚王の孫、愚王の娘。
オーレリア王女の築き上げてきた自信が崩壊する──。
講堂の扉が開かれていく間。
その扉に刻まれた大樹の幹に、突然現れた口が開いて、中に飲み込まれる。
オーレリア王女はそんな幻覚を見た。
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