幕間 無責任の皺寄せはどこへ行く?
それでなくとも、先王の息子である現王は遅くに出来た子どもだ。
息子のスペアに設定した末弟だっていつまで生きるか。
しかもその末弟は、多くいる兄弟の末っ子として王子教育もほどほどにしか与えられていなかったから、スペアとして息子を支えるには心許ない存在だった。
自分の先も長くはないと思えば、先王の焦りは強まる。
息子を支える人間を急ぎ増やそう。
そう考えた先王は、高位貴族の中でも賢いと噂の令嬢を現王の正妃に決定した。
このときばかりは、嫌がる甥の願いを叶えてやる叔父も現れなかった。
そして二年後、オーレリア王女が誕生する。
先王と弟たちは孫娘、又姪の誕生を心から喜び合い、そして共に長く持ち続けた罪悪感を薄めた。
心が軽くなれば勝手なもので、孫娘、又姪には、今までにない厳しさを見せる。
すべては王国のため、王家のため、そしてこの子の未来のために、仕方なく厳しくしているのだ──その言い訳は、彼らの人生すべてに甘美な許しを与えたから。
そうしてますます罪悪感を薄めた彼らは、自分たちの若き日のことは棚に上げ、正妃に次の子を迫るようになり、数年待つことも出来なかった。
側妃を認め、現王にこれを選ばせたのだ。
しかしどちらの妃もすぐに子には恵まれない。
おかげでオーレリア王女の教育は、より厳しさを増していく。
政務にも早くから携わってきたオーレリア王女がはじめて議会に参加したのは、十歳のときだった。
奇しくもこの年、側妃が双子の王子王女を出産している。
バージル王子とベリンダ王女の誕生だ。
孫が増えたことに安堵して将来を描いたとき、先王はまた自分が取返しのつかない間違いを犯していたことに気が付いた。
同じころ、弟たちも王家から発生している問題に気付き始める。
年老いてもなお学ばず、遅きに失する兄弟だった。
高位貴族家の娘という条件だけを与え、息子自身に選ばせた側妃は、あろうことか正妃の実家と対立する貴族家の娘だったのだ。
孫を増やそうと先王自身が焦っていたこともあるが、正妃を選ばせて貰えなかったといつまでも拗ねていた息子の機嫌を取ろうとして、先王が判断を間違えたことが事の発端と言えるだろう。
どちらの妃も子を得たことで、貴族たちの対立は目に見えて激化していった。
そのうえ対立に関係なく、王子がいるならその子を王にすべきでは?という声も自然に出てくる。
王国の歴史上、女王は幾人か立っているが、王子が即位出来なかったときに限られてきたからだ。
この時点で後継者を王子と決定していれば、あとに愚かな王子王女は誕生していなかったかもしれない。
しかし先王は悩み、いつまでも決断出来なかった。
強い罪悪感がまた彼を襲っていたからである。
王家の内情を知り過ぎた王女は、王にならずとも、この先ずっと王家に残って貰わなければならない。
さすれば自分たちの与えた厳しい教育は意味を持つことにはなるだろう。
しかしそれはオーレリア王女にとって、あまりに酷い話ではなかろうか。
自分の姉妹は、王族の責務から解放されて、先王から見れば皆、降嫁先で幸せに暮らしていた。
もう一方の孫娘のベリンダ王女とて、いずれはその道を辿るだろう。
オーレリア王女だけに、生涯王家に残り、王になる異母弟を支えろと願うのか?
その異母弟は、実母と仲の悪い正妃の娘を、大事に扱うだろうか?
そしてまた議会に参加する貴族たちの中には、オーレリア王女を未来の王にと望む声も多かった。
どちらを選ぼうと貴族たちの関係が荒れることは目に見えている。
そのうえまだ赤子の孫息子にも、一から厳しい教育を与えなければならない。
息子の次の代では何としても賢王を即位させなければ、王家の威信が揺らぐことは分かっていた。
しかし先王がそうだと決めなければ、この赤子は愛されて甘やかされて育つ未来を得る可能性がある。
オーレリア王女とて、王になった方がこれまでの努力が報われ幸せなのでは?
答えを出せぬまま、ある日先王は病に倒れ、それからすぐに崩御した。
弱った先王の遺言は、「どうか息子の治世を支えてくれ」この一言。
孫たちへの言及は何もなかった。
こうして現王が即位する。
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