幕間 王家三代転落記 はじまりの章
事の発端は、先王の若き頃へと遡る。
現王の父、そしてオーレリア王女たちの祖父である先王には、弟が沢山いた。
アカデミー長もその一人で、彼は末弟である。
先王は、王位についたばかりの頃にこう考えた。
弟が沢山いるのだから、後継者不足を懸念する心配はあるまいと。
こうして先王は、正妃一人を愛し続けた。
結局二人の子は、現王ただ一人となる。
それも大分遅くに生まれた王子だった。
長く子が出来ぬ間も、次の子が出来ぬ間も、周りは側妃を娶られてはどうかと進言していたが。
先王は弟たちがいるからとこれを拒み続けた。
さてさてその弟たち。
似た立場で継承権を持つ者が沢山いては、知らずその責任感も分散されていた。
兄たちがいるから。
弟たちがいるから。
皆が同じように考えて、王族らしからず自由に暮らしたのだ。
おかげで多くは結婚もしなかった。
一部は結婚したが、それも高齢になってからだ。
なんと兄弟があれほどいたのに。
気が付いてみれば子の代には現王となる王子が一人。
それぞれに側付きの者たちがいたことも良くなかったのだろう。
兄弟たちの周囲もまた連携が取れていなかった。
先王の姉妹たちは、それぞれ貴族家に降嫁して子に恵まれていたし。
その上の代にも王子王女は複数いたから、その血が途絶えるという懸念はなくも。
さすがに王族を抜けて三代目、四代目となった家の子を王子のスペアにするのは躊躇われた。
先王の姉妹たちの子からひとり選ぼうとすれば、一族の子を王に出来る可能性を知った貴族たちが王家も巻き込み争いをはじめるかもしれず、またもしその子が王となる未来がくれば、その生家に王を育てた家として大きな顔をされたくはなかった。
せめてもう一人王子がいたら。
と言うにはあまりに遅過ぎた。
先王の末弟であるアカデミー長は、一番若いということで甥王子のスペアに位置付けられるも、ぎりぎりまで子を作ることを期待されていた。
無慈悲に時は流れ。
ちらほらと儚くなる兄弟たちも出てくれば、もう新しい子は望めないと嫌でも彼らは理解した。
ならばこの息子を、この甥を、次の王として大事に育てようではないか。
兄弟全員同じように考え、そして彼らは……大事にし過ぎた。
老いるほどに、自分たちが責任を放棄した負い目を強く感じていたことも影響しているのだろう。
こんな小さな子一人に、王家のすべてを背負わせるなんてと考えては胸を痛め。
自分たちは兄弟が沢山いるおかげで気楽に生きてこられたものだから、将来この子に弟がいないこと、王族の従兄弟がいないこともまた、酷く可哀想に思えた。
そうして先王とその弟たちは。
可愛がり、可愛がって、可愛がるばかりで、好きなことをやらせ、嫌がることからは遠ざけさせた。
褒めて、讃えて、機嫌を取るよう徹し、周囲には望む者しか置かない。
こうして育成された結果が、今の現王となる。
アカデミーのここまでの凋落を招いたのもまた、先王とその弟たちだ。
元々王族や貴族への忖度が横行しており、その権威は陰りを見せはじめていたのだが、当時はまだ卒業したことに価値を見い出せる学舎ではあったのだ。
はじまりは当時王太子であった現王が、その義務もないのに、アカデミーに通いたいと望んだこと。
貴族の若者たちが集まると知って、興味を持ってしまったのだ。
可哀想な甥が現実を知って機嫌を損ねては困ると、先王の弟たちは先回りをして動いた。
先王の末弟がアカデミー長となったのもこの時だ。
これを機に優秀な職員はアカデミーを去って、穴埋めとして選ばれた職員は、現王を喜ばせることに躊躇しない貴族たちとなる。
王子と共に学ぶことになった若者たちも、王子の機嫌を損ねないよう振る舞える者だけに抑えられた。
そうして輝かしい成績を残しアカデミーを卒業した頃には、とても王になれない成人した王子がそこにいた。
先王たちもさすがにこの頃には、一人しかいない王子がこれではまずいと考えはじめた。
相変わらず、現状を知り未来を憂えることに、遅きに失する者たちだった。
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