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ねぇ、それ、誰の話?  作者: 春風由実


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幕間 そのとき舞台裏で


 無駄に広い応接室で。

 ソファーに軽く腰掛けたローワンが、真向いのソファーに深く座るアカデミー長に冷え冷えとした視線を送っている。



「なんだね、その顔は?何が不満だと言うのかね?」



 老人から取り繕っていたものが消えたのは、少し前のこと。

 あれこれ所用を頼まれたローワンがそのすべてを断ってから、アカデミー長は態度を一変させた。



「アシェルくんをアカデミーに通わせるようにと言っているだけではないか。こちらは研究室まで与えてやると言っているのだぞ?有難い話であろうに。なんだね、君のその態度は。だいたいあの子は、侯爵の実子ではなかろうに」



「彼は私の義息ですよ。ウォーラーとしてお断りしていることが分かりませんか?」



「それがなんだ?こちらは王から頼まれていると言っているだろうが。王子たちも共に学びたいと望んでいるのぞ?あの青年から、輝かしい未来を奪うつもりか?」



「御年を召されたようだ。あなたたちの勝手に描いた未来が、多くの者に迷惑を掛けてきたことをお忘れか?それとももしや、あなたは末弟でしたから、描かれた方にあったのかな?」



「はっ、迷惑などと。分からぬことを申すでない。それより私にそんな話し方をしていて良いのか?私は甥にもその子どもたちにも、慕われているのだぞ?」



「あなたがとても都合の良い存在だからでしょうね。元王族ならば、いつでも切り捨てられる。アカデミーに置いたのも、それが理由でしょうな」



「なっ!何と無礼なことを申すのだ!いくらウォーラーとて、今の発言は許せぬ!この件は、必ずや甥に相談するからな!」



「それで結構。お話は以上でいいですね?私は早く子どもたちのところに行きたいのですよ」



「それは困る!まだ話は終わっていない!」



 怪し過ぎることこのうえないアカデミー長の様子だが。


 ローワンは、子どもたち自身の心配はさほどしていなかった。

 しかし違った方向に憂いはある。


 後始末が面倒になり過ぎないようにと。

 アカデミー長を無視し立ち上がろうとしたローワンは、キィっと扉が開く音を聴いた。



「なんだ?しばらくは誰も入るなと言ってあったであ……オーレリア!」



 堂々と入ってきたのは騎士服を纏う王女、そして先日もアシェルたちと顔を合わせた大臣ニッセル公爵である。

 ローワンは、彼らのことも、冷え冷えとした目で眺めた。



「何をしている、オーレリア。こんなところで遊んでいる暇はないはずだぞ?」



「ローワン卿をお借りしたくてね。大叔父上、もう彼は連れて行ってよろしいな?」



「急に来て何を言うのだ、オーレリア!ここをどこだと思っている!」



「アカデミーだな。それで?」



「それでではないぞ、オーレリア。そなたは今、議会に参加しているはずではないか。それにニッセル公爵。そなたも何故ここにいる?議会はどうした?」



「ジャスパー卿は関係者として、私が連れて来たのだ。議会の心配は、大叔父上がすることではない。それより聞きたいことがある。大叔父上はアカデミー長として、愚弟たちが今何をしているかご存知か?」



「は?何を当然なことを聞いているのだ。そなたも今日はアカデミーで何があるかは知っているだろう?」



「講演の話は聞いている。許可したのも私だからな」



「知っているなら何を聞くのだ?」



「愚弟たちが今どこで何をしているか、知っているかと問うている」



「あぁ、分かったぞ。それで講義のない時間に、知らせもなく来たのだな?弟たちに意地の悪いことはよせ、オーレリア。あの子たちはそなたの考えたように、遊んでいるのではない。心優しいあの子らは、自ら申し出て、講演の準備を手伝っているのだ。それも王家のために、頑張りたいと言っていてな。今日はそなたに咎めるところはないぞ」



「王子、王女が自ら準備とはね。大叔父上には同世代としてウォーラー家の者たちと親交を深めるとでも言ったのだろう。大人たちがいては本音で話せないとでも言って、自分たちだけで過ごす時間をくれと望んだか。さすがの大叔父上でも、あの愚行を事前に聞かされていれば止めたであろうからな」



「……何を言っている?」



 オーレリア王女は、アカデミー長に答えを与えず、ローワンに視線を向けた。



「すまないね、ローワン卿。すべては王家を統制出来ない私の責任だ」



 王女は頭を下げなかった。

 だが王族として謝罪の言葉を口にしただけでも、そこには重い意味がある。


 ローワンがにこりと微笑み、オーレリア王女はほっと息を吐き出した。

 しかしローワンから出て来た言葉は、期待したような謝罪に対するものではなかったのだ。



「ウォーラーとしては、貫いてきた無関心により、迷惑を被ることもあるという学びにはなりましたね」



 王家に問題あり。

 それはウォーラー侯爵家の先代当主も、よく知っていたこと。


 ウォーラー一族は国政に関与しないという道理を掲げ、長く静観してきたのだが。

 結果、こうして世代を超えて一族の若者たちが巻き込まれる事態となってしまった。


 ウォーラー一族の道理、この見直しを協議するときが来てしまったようだ。

 ローワンは笑顔を深めると、オーレリア王女と、ニッセル公爵を順に見た。








読んでくれてありがとうございます♡

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