57.似たもの親子
「ねぇ、アシェル。お二人はとても似ていらっしゃるのね。さすが親子だと思うのよ」
たった今感じたものを転じて、ソフィアは言った。
アシェルはこれに大きく頷く。
「あぁ、本当だね。イーガン子爵令息は誰かに似ていると思ってきたけれど、夫人に似ていたんだね」
「アシェルは今まで気が付かなかったの?」
「イーガン子爵夫人のことは、ほとんど知らないからね。ソフィアが言うまで気付けなかったよ。確かにすぐに手が出るところなんかはそっくりだったね」
イーガン子爵夫人が短い時間ソフィアを睨みつけていたことを、アシェルは見逃していない。
他の席ではまた貴族たちがひそひそと会話を繰り広げている。
『聞きまして?すぐに手が出るのですってよ』
『先ほどもご令息を叩いておりましたわ』
『まさかアシェル様も……』
『信じられないわね、あなた』
『あぁ、市井には子を叩く親がいると聞いたことはあったが』
聞き耳を立てていたアシェルは、美しく笑みを深めた。
周囲を気にしたからだろう。
イーガン子爵夫人は急いで立ち上がると、ドレスの裾を直している。
それから立ったままアシェルたちに向き直ると、引き攣った笑みを浮かべ、怒りを灯した目をしてソフィアを見据えた。
ここから夫人の足元で上半身は起こしたものの、まだ肩を押さえ立ち上がることの出来ない息子を心配するものはいなくなる。
ダニエルの動きにも気を配っていたアシェルは、本当に可哀想なことだとまた少し思った。
「嫌だわ、もう。おかしなことを言わないでちょうだい。わたくしこの次男とは似ていると言われたことがありませんのよ。ほら、この子の顔は父親似でしょう?乱暴なところも父方の血筋が出ているのではないかしら。ほほほ。お恥ずかしいわ。それよりわたくしとその子の方がよく似ていると思いませんこと?昔はよくわたくしに似た可愛い子だと褒めていただいておりましたわ」
「夫が夫人と似ているですって?」
思えばこれが、ソフィアとイーガン子爵夫人の初の会話である。
アシェルは妻を紹介していないし、イーガン子爵夫人もまたソフィアを居ないもののようにしてアシェルばかり見てきたから。
──両親のどちらにも似ていると言われた記憶はないし、これからも似たくはないんだけれど。ねぇ、ソフィア。俺とあの人たちに共通点なんか……ソフィア?
アシェルは見てしまった。
ソフィアが嫌悪感をまるで隠さずに、それは嫌そうに眉も目も細めてレンズ越しにイーガン子爵夫人を睨みつけている様を。
それはソフィアが苦手とするセイブル相手にも見せたことのない険しい表情だったけれど。
──ソフィアが可愛い。
アシェルの好みは一般的なものから大分外れていたようだ。
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