51.昔のように
会場に同じ白い円形のテーブルが追加された。
椅子も二脚増やされ、別のテーブルからさらに二脚もそちらへと移動した。
──この庭園の支配人にも、改めてお礼をしよう。
常に貴族を相手にしてきたから、貴族からの急な指示には慣れているのだろう。
それにしても支配人は嫌な顔ひとつ見せず、それは彼の下で働く使用人たちも同じで、かなり遅れて現れた望まれぬ招待客を受け入れると決まってからは、連携した素早い動きでこの場を整えてくれた。
席を用意したあとの彼らは、瞬く速さで菓子や軽食が乗ったお皿を運び、席を移動したアシェルたちにまで新しいカップで紅茶を用意した。
──ガウス男爵ご夫妻か。王様と同じことなんだろうね。
アシェルは門の前が騒がしくなってから、ずっと青い顔をしてこちらの様子を窺う夫婦に気付いている。
どちらから声を掛けたかは分からないが、彼らは良かれと思って知らせたに違いない。
──同席するのは、何年振りだろうね?
紅茶を味わいながら、しばしアシェルは前の二人を観察した。
落ち着いて座った状態で、それもこんなに近くで二人を見たことはなかったと、アシェルは改めて実感しながら、自分から声を掛けると決める。
その行動にどういう意図があるか、黙り続ける前の二人が気付くことはないだろう。
隣でソフィアも、紅茶を味わいながら、今日は強い視線で子爵家の二人を見ていた。
アシェルはカップをソーサーへと戻した。ソフィアがこれに続く。
「先日振り、二度目になりますね。イーガン子爵夫人。イーガン子爵令息。このパーティーを催してくださったケストナー男爵からは、お二人に招待状を送られていないということですが。今日はどうしてこちらに?」
アシェルが声を掛ければ、笑顔を浮かべていたイーガン子爵夫人の顔は少々歪み、その隣で最初から面白くなさそうに閉じた口を曲げていたイーガン子爵家の次男は鋭くアシェルを睨みつけた。
「嫌だわ。この子ったら。この間からずっとこうして他人行儀なんだから。久しぶりに会うものだから照れているのよね。お母さまは、そろそろ昔のように仲良くして欲しいわよ?」
わざとらしく貴族夫人としては大き過ぎる声を上げたイーガン子爵夫人は、困ったように眉を下げて首を傾げた。
「昔のようにですか?では、こちらの席から外れましょう。せっかくこうして席を用意してくれたところだけれど、戻ろうか、ソフィア」
ソフィアの手を取って立ち上がる仕草を見せれば、女性は明らかに慌てて「まぁ嫌だわ。お母さまを虐めないでちょうだい」と早口で告げてくる。
アシェルの心はまだ凪いでいた。
「昔のようにとお話しされましたので。私はイーガン子爵夫人と食事に同席してはならないと思ったのですが……。あぁ、そうでしたね。イーガン子爵夫人は、私が目に映ることも許せない方でした。そちらから勝手に来て、私たちには帰れということですね?あぁ、やっと分かりましたよ。私たちの代わりに参加するから、今日は招待状もなくこちらに参られたのですね?」
笑顔でアシェルが言い切ったとき、テーブルからドンっと強い音が立ち、これを叱咤する女性の声が続いた。
「やめなさい、ダニエル!」
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