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ねぇ、それ、誰の話?  作者: 春風由実


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49.守られた美貌の少年


 幼いとき、美しいが故にアシェルは苦労した。


 しかし美しいが故にアシェルが特別に得た利というものもある。



 かつてのアシェルは、知らないところで大人たちに守られていた。

 これはアシェルが美しい子どもであったが故に得られた利に違いない。



 イーガン子爵は、危機感なく幼いアシェルを社交の場へと連れ回していたが。

 行く先はいつも大人たちが多く集まる場所だ。それも豊かさを知る貴族ばかりが集まっていた。


 あまりに美しい少年を前にして、(よこしま)な考えを抱く大人が一人も現れずに終わるわけがない。


 しかもイーガン子爵は、側に付きっ切りで美しい息子を見ていたわけでもなく。

 夫人たちが多くいる場所に息子を残し、自分はさっさと親しい男性陣といつものお喋りを楽しみはじめる。


 多くの夫人たちが、預けるように余所の子を残していった父親に、眉を顰めていたことにも気付かず。

 それどころかイーガン子爵は、美しい息子を使って、夫人たちを喜ばせているものだと信じた。



 そんな愚かな父親だったから、悪い大人たちも容易にアシェルに近付いて、悪事を働こうと試みていた。


 アシェルを人気のない場所へ連れ込もうと声を掛ける者。

 アシェルを会場の外まで連れ出し、そのまま連れ去ろうと考える者。


 悪い大人は後を絶たず、それでも彼らの計画がすべて失敗に終わったのは、アシェルがケストナー男爵夫人シエンナをはじめたとした善良な夫人たちに守られていたからだった。


 これこそは、アシェルが美しい故に得た利のひとつだろう。


 貴族の中では心清らかな彼女たちであるから、アシェルが美しくなくとも守ってくれていた可能性はあるものの。

 彼女たちが少年の美しさを愛でていたことは事実で、美しいからこそ慈愛の心を強く抱いたし、美しいが故に庇護欲を掻き立てられて、彼女たちは皆自発的にアシェルを守ろうと行動を起こしたのだから。


 幼いアシェルは、美しいが故に危険な目にも数々合ってきたが、美しいが故に守られて無事に成長出来たのであった。


 実際、ある貴族夫人などは、夫が王都の警備に関わっていることもあって、イーガン子爵が参加する会があるときには、イーガン子爵邸から会場までをよく警備するよう夫に伝えていたし、何もないときにもイーガン子爵邸付近の警備をより強固にするよう都度夫に懇願していたという。


 知らぬはイーガン子爵家の者たちばかり。


 ある意味、イーガン子爵が息子を社交の場へと連れ回していたこと。

 それは正解だったのかもしれない。



 あの家族では。

 たとえばイーガン子爵邸がアシェルを狙う襲撃にあったとき。

 誰も抵抗せずに、アシェルを差し出していたことだろう。


 今頃アシェルがどうなっていたか……。







読んでくれてありがとうございます♡

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