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ねぇ、それ、誰の話?  作者: 春風由実


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48.成長を知る


 アシェルのそれは束の間の安堵だったようだ。

 アシェルは自分でも顔に熱が集まっていくことを感じているが、こればかりは自分の意思ではどうにも出来ない。



 ──ソフィアが言うとまだ駄目だったね。見られちゃったな。



 見られることに慣れ過ぎていたアシェルは、遅れて集めた視線に気付くも、その視線の意図を正しく認識出来てはいなかった。



「お礼だなんて。わたくしは何も出来ませんでしたのよ」



「いいえ。夫人が夫を守ってくださいましたから、無事に夫と出会うことも出来ましたわ。それに私たちが出会えたことも、ケストナー男爵夫人が以前の夫に優しくしてくださったおかげですもの。ですから夫人には、妻として最大限の感謝を伝えたいと思っておりましたのよ」



「そういうことでしたら、有難く、お言葉を受け取らせていただきますわ。ふふ。本日このように、お二人の幸せなご様子を拝見出来ましたら、あの頃のわたくしを褒めたい気分になれますわね。ソフィア様。それにアシェル様も。どうかわたくしのことは、シエンナと」



「是非私のこともジェイムスとお呼びください」



 アシェルたちは、ケストナー男爵夫妻をジェイムス、シエンナと呼ぶことになった。


 男爵夫人シエンナが、再びアシェルを見詰め、目を潤ませる。



「本当に良かったわ。アシェル様が幸せそうで。素敵な方と出会いましたのね」



 ──昔はアシェルくんだったなぁ。急に大人になった感じがする。



 成人したとて、ウォーラー侯爵領では誰との仲も変わらず。

 今になってやっと成人した気がしたアシェルである。



「はい。おかげさまで七年前に妻が私に会いに来た日から、これが幸せなのだと感じる日々を過ごせております」



「まぁ、惚気ていらっしゃるわ。あなた、聞きまして?」



「新婚なのだから、惚気るくらいが健全だよ。それよりいつまでも立たせていては悪いだろう」



「そうね。大変。私ったら。さぁ、アシェル様。ソフィア様。今日は楽しんでくださいましね。そちらの者がお席にご案内いたしますわ」



 使用人の案内のもと、アシェルたちは庭園の中央へと歩み出した。


 花々の美しさに目を奪われていたアシェルたちは、集まる視線を気にせずに席に着く。


 良くも悪くも、二人は立場から他者からの視線に慣れていた。

 特にアシェルの目立つ美しさが相まって、どこに行っても二人はよく見られてきたので、ここでも違和を覚えずに、自然に受け入れてしまったのである。


 庭園の中央には花壇はなく石畳の広場となっていて、そこにパラソルの下、白い円形のテーブルが五つ並んだ。

 アシェルたちはそのひとつへと案内されて、あと二つ席が空いていた。どうやら男爵夫妻も同じテーブルに落ち着くようだ。



 アシェルはやっと他のテーブルに座る人たちを順に眺めていった。



 ──良かった。思い出せる人たちばかりだ。これならソフィアも守れる。



 こうしてアシェルの古い知り合いしかいないはずの、少人数のパーティーは始まった。






読んでくれてありがとうございます♡

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