閑話 妻ソフィアの悲しみと希望④
王都での貴族の面会には順番があるそうよ。
特に普段王都に不在の貴族は、これを遵守するものらしいの。
王様が先で、貴族はあとね。
あら?アシェルは先に子爵と会っていたわよ?
そう聞いたら、お父さまが家族は別だと教えてくれたわ。
でもあのときには、もう家族ではなかったのではないかしら?
そう言ったら、お父さまは驚いたの。
それから急に機嫌が良くなったわね。
どうしたのかしら?
アシェルは笑っていたわ。
だけど人に会うにも規則があるなんて。
王都って大変な町ね。
研究中に誰かに会いたくなったら、すぐに会いに行っちゃう私たちには、とても守れない規則だと思っていたら、アシェルが同じことを言っていたわ。
ふふ。私たち同じね。
よく似ているわ。
それからお父さまが仕事を片付けてくると言ったから、私たちも机のある部屋に移って、手紙の中身を確認することにした。
私たちが仕事をすると聞いた侍女が、お菓子を沢山用意してくれて嬉しかったわ。
お腹はいっぱいだったけれど、お菓子は入るもの。これは市井では別腹というのよ。面白い表現よね。
手紙を確認しながら、私はときどきアシェルの様子を眺めていたわ。
「これはいつもの夫人からだね。こっちは、うーん、あの子爵夫人かな?この男爵夫人は知らないと思うなぁ」
アシェルは差出人を見ては、記憶を辿っていたのよ。
幼かったから王都に居た頃のことは大分忘れているとアシェルは昨日も言っていた。
私の方は、思い出す作業は何もなかったわ。
私宛のお手紙はすべて女性から。内容はどれもお茶会のお誘いよ。
だけど一人を除いて、知らない人からだった。
アシェルは女性からも男性からもお手紙が届いていたわ。
それは私も気になってしまうでしょう?
手紙を読みながら、私は耳を澄ませていたの。
研究中も頭で考えていることを小さな声で口に出していることがアシェルにはよくあるのよ。
今と同じね。
「この男爵は会ったことがないはずだけれど、夫人があの会にいたからどうだろうな。この男爵は確実に知らない。でもこの子爵は一度会っているような」
アシェルもパーティーやお茶会のお誘いばかりみたいね。
ひと段落したら、アシェルが言ったわ。
「うーん。これはローワン様に相談した方が良さそうだね。話しやすいよう一覧にしておこうか」
研究のときみたいに、アシェルは誰からどんなお誘いが来ているか、一枚の紙に分かりやすくまとめていったわ。
私も同じようにまとめることにした。
書き終えて二人で見比べていたら、すぐに気が付いたのよ。
「同じ人からも届いているのね」
「一緒にどうぞというお誘いと、個別のお誘いがあるね。それもまとめておこうか」
アシェルがさらさらと文章を書いていく仕草が、私は最初から大好きなのよ。
いつまでも見ていられるけれど、しばらくして私は聞いたわ。
「アシェルはお誘いを受けるつもりなの?」
「うーん。まずはローワン様に聞いてみないことには決められないかな」
「参加したいお誘いがあった?」
「いやぁ、高位貴族はどうなのかなって。断れるならそれでいいんだけれどね。あとはお礼をしたい方々には会えたらいいなとは思っているんだけれど……日程的に全部は無理だからさ。一部のお誘いを受けて、それ以外は断るというのも失礼だよね?だから迷っていて。ソフィアはどうしたい?」
「アシェルが参加するなら、私も一緒に行きたいわ。妻ですもの!」
気付けば夕暮れで。
ランプには早くに火が入れられていたのね。
照らされたアシェルの顔が赤らんでいくところがよく見えたわ。
アシェルは美しいけれど、こうして赤くなるときは、とても可愛いと思うのよ。
それからお父さまの助言を受けて、私たちはお返事を書くことになったわ。
うちから断れないお誘いはないのですって。
高位貴族に関しては、お父さまからもお断りを入れてくださることになっているわ。
私たちが参加する会はひとつの予定よ。
時間が限られているということで、以前からお手紙のやりとりがあった男爵夫人に協力を願うことにしたの。
「一度だけ付き合ってくれる、ソフィア?」
「もちろんよ!任せて、アシェル!アシェルを守ってくれた方々に、私もお礼をするのよ!だって妻ですもの!」
赤くなってありがとうと言ったアシェルは、とても可愛かったのよ。
アシェルを見詰めていたら、急にアシェルが子爵家の誰とも似ていなかったことを思い出したわ。
それはとてもいいことね!
アシェルと私が似ている家族になるのだもの!
私たちはもう似ているし、これからますます似ていくわ!
あの人たちはアシェルを大事にせずに手離してしまったことで、こんなにも素敵なアシェルと似る機会も失っていたことを、遠くから後悔するといいのよ!
もしも二度目に会うことがあったら、今度は容赦しないわ!
妻として、アシェルのために戦うんだから!
読んでくれてありがとうございます♡




