閑話 妻ソフィアの悲しみと希望③
それから私たちは談話室に移動して、話をしたのよ。
アシェルは自分の話ばかりせず、私のことも聞いていったわ。
その話し方が、研究の話をしているときのアシェルと何にも変わらなくて、私は胸がくすぐったく感じたのよ。
「ソフィアは離れていて、恋しいと感じたことはある?」
「恋しい?そうね、会いたいとはよく思うわ。それが恋しいかしら?」
「会いたくて辛いときもあった?」
「辛くはなかったわね。アシェルと一緒に研究していたら楽しくて、会いたい気持ちも忘れてしまうのよ。酷い娘かしら?」
「それで酷かったら、俺は大変だよ」
アシェルはよく笑っていたわ。
「私たち同じね」
そう言ったときも、アシェルは笑ったの。
駄目ね。
起きてからずっと顔がにやけているわ。
昨日のどの部分を思い出しても、頬が緩んで、口が開いてしまうのよ。
これはうんと気を引き締めておかないと、お父さまのお説教がいつまでも終わらないわね。
私はこれから叱られる予定よ。
昨日は、うぅん、もう今日のことね。
私たちがお父さまから早く寝なさいと叱られたときには、もう陽が昇り始めていたの。
アシェルと別れて、起きたらお説教ねと思いながら眠りに付いて。
目覚めたらもうお昼を過ぎていたんだわ。
きっとお父さまはお叱りなのよ。
二度寝をしてお父さまのことは忘れてしまいたかったけれど。
早くアシェルの顔を見たかったから、急いで身支度を済ませて廊下に出たの。
そうしたらアシェルもちょうど出て来たところで、私たち二人で笑ってしまったわ。
それで朝食?うぅん、昼食かしら?いいえ、昼食にも遅い時間ね。
こんな時間になってしまったから、二人で朝食と昼食を食べられなかったことを謝って、それから残りものを出して貰えないかとお願いするつもりで、私たちは食堂に向かうことにした。
いつものように並んで廊下を歩いたわ。
見上げるとアシェルの横顔が今日はいつもより素敵に見えた。
よく寝たあとだからかしら?
駄目だわ。
もう私の顔は溶けちゃいそう。
ずっとにやついているなんて、セイブルみたいな締まりのない顔になっているかもしれないわね。
それは嫌だわ。少しは引き締めないと。
手のひらで頬を擦っていたら、アシェルと目が合った。
「長く寝ちゃったね」
「そうね。すっきりしたわ」
「寝坊ってどうしてこう悪いことをした気になるんだろうね?」
「もう、アシェルは真面目なんだから。昨日はお城に行ったからいいのよ。それに私たち、今日は予定もないわ」
まだ寝ぼけているみたいで、そうかなぁとぼんやり言うアシェルに、そうよ、そうよと伝えながら食堂に向かったら。
お父さまが座っていて、私たちは入口で固まった。
アシェルもすっかり目が覚めたみたい。
だけどお父さまは私たちを怒らなかった。
食事を一緒にしようと思って、ここで待っていてくれたんですって。
なぁんだぁって、気が抜けちゃって。
私は沢山食べてしまったわ。
いつもより美味しく感じられて、止まらなかったのよ。
アシェルもお腹が空いていたみたいね。
そんな私たちを見て、夕食もうんと遅めにしないとなって、お父さまは笑って言った。
ふふ。今日も夕食後にまた話そうねってアシェルと約束しているのよ。
早めに寝るならいいわよね?
あら?でも夕食を遅くしたら、早く寝られないかもしれない。
そういう日が続いてもいいかしら?
いつまでもにやけていたら、お父さまから仕事が与えられたわ。
「成人したことだし、自分たちで処理してみるかい?」
お父さまはそう言って、それぞれに箱を渡してきたのよ。
中身は全て手紙だったわ。
どういうことなの?
「貴族のしきたりというものだね。二人が謁見を終えたという情報は、昨夜のうちに王都の貴族たちに広まったということだよ」
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