閑話 妻ソフィアの悲しみと希望②
アシェルのお父さま、お母さま、お兄さまたちを前にして。
私は悔しかった。
とてもとても悔しくて、そして苦しかったの。
だって何も言えなかったのよ。
アシェルのために言うべき言葉が分からなかったんだわ。
私は知らないから、アシェルのために何も出来ない。
アシェルの妻なのに。
アシェルの妻になれたのに。
アシェルのために何もしてあげられないなんて。
知りたくて、知りたくて、知りたくて。
あの人たちに何か言う前に、アシェルを問い詰めてしまいそうだったから。
王様の前ではずっとアシェルの手を握り締めていた。
結婚までして貰って、自由な未来を奪ったのに。
アシェルの過去も全部知りたいと思うことは強欲かしら?
答えは分かっているわ。
アシェルは嫌だと分かっていてそう願うのだから、間違いなく私は強欲で、浅ましい人間ね。
アシェルは怒ってくれたけれど、王様の言った通りなのよ。
私は素敵なアシェルにとても相応しくないんだわ。
こんな私が妻になったこと、アシェルは悲しんでいるかしら?
私のことが嫌になって、いつかは他の誰かを好きになってしまう?
駄目よ、駄目。やっぱり駄目。
アシェルの妻は私がいいわ。
他の誰かにアシェルをあげられない!
お城から邸に戻る頃には、私はとても嫌な気持ちになっていた。
アシェルのせいではないわよ。
自分の嫌な部分を沢山見てしまったからなのよ。
悲しいのはアシェルなのに。
辛いのもアシェルなのに。
そんなときにも、私は自分の想いに囚われて、自分のことばかり考えていたのだもの。
最低な妻だと思ったわ。
でも浅ましい考えは止まらなかったのよ。
だから今日は疲れたことにして、部屋に籠ろうと考えたわ。
ひとりでいないと、アシェルに甘えて、また泣いてお願いしてしまいそうだったからよ。
話してアシェル。全部教えてって。
言わないでいられる自信がなかったの。
だけど一晩寝たら、少しは私の気持ちも落ち着いているかもしれないでしょう?
研究と同じよ。
立ち止まって熟考する時間も大事にしなさいと、お父さまがよく言っているわ。
なのにアシェルは部屋まで来て言ったのよ。
「ソフィア。少し話せる?」
アシェルはとっても優しいのよ。
だから私、心配になってしまって。
嬉しいくせに、私のために無理はしなくていいと伝えたのよ。
「俺がソフィアに聞いて欲しい。駄目かな、ソフィア?」
本当に?本当なのね?
私のために頑張っていないのね?
「ソフィアに言われて思ったんだ。俺もソフィアのことで知らないことがあるのは嫌だなって。そうしたら、ソフィアには全部聞いて欲しくなった。どう話してもつまらない内容だと思うけれど、付き合ってくれないかな?」
泣くでしょう?
アシェルが私と同じように思ってくれたのよ?
「あぁ、ごめんね、ソフィア。泣かないで。今日はやめておこうか」
「だめよ、やめないで!泣き止むから、今夜のうちに聞かせてアシェル」
涙を堪えようとして顔に力を入れたら、アシェルは困ったように笑っていたわ。
その優しい顔を見て、私は焦ったのよ。
今夜を逃したら、アシェルは話すことをやめてしまうと思ったから。
研究でも朝に目覚めると昨夜とは違う考えが浮かんでいることがあるでしょう?
「泣かないように頑張るから。お願い、アシェル」
アシェルは頷いてくれたわ。
優しいから、我慢しないで、泣いてもいいよ、とも言ってくれたのよ。
そして私は頑張れなかったわ。
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