46.無事の帰宅を願って
時を忘れ語り合い、やがてひと段落が付いたとき。
それまで黙って聞いていた女性は言った。
「こんなにも優秀な二人が、共に研究をしているとはな。それも夫婦になって、これからも二人仲良く研究を続けてくれるとは。なんと素晴らしいことか。なぁ、ニッセル公爵?」
──また含みを感じるなぁ。
褒められて悪い気はしなくても、どうしても女性の言い方が気になって、素直には喜べないアシェルだった。
この女性はさらに、ニッセル公爵との会話が終わったあとにも、気になる発言を残している。
「私たちからの確認は以上になるが、すまぬが止められなくてな。アカデミーからの要請にも付き合ってくれると有難い。事前に打ち合わせをするようにと言ってあるから、不満があれば何でも伝えてやってくれ。くれぐれもよろしく頼むと、私から言ってあるからな。だがもし──」
女性は足を組み換え、腕も組むと言った。
「無礼な真似をする者があれば、ローワン卿を通してでも、このニッセル公爵を介してでも、会えれば直接でもいい。すぐに私に伝えてくれ。迅速に対処することを約束する」
最後まで名乗らなかったのに、不穏を予期する言葉を残して。
女性はニッセル公爵を連れ、控室を出て行った。
扉が閉まるとすぐに、ローワンはアシェルたちに謝罪する。
「知らせずにすまなかったね。急な面会で驚いただろう?素直な二人の反応がどうしても見たいのだと頼まれていたのだよ。本当にすまなかった」
アシェルもソフィアも、問題ない、仕方がないと伝え、ローワンを励ました。
ローワンは柔らかく微笑むと、今度は二人に尋ねた。
「アシェルくんもソフィアも、彼女が誰か、予測はついたかな?」
アシェルとソフィアは、揃って頷いた。
──第一王女、オーレリア殿下だろう。以前から王太女はこの方しかいないと言われ続けているのに、いまだに王からは次代の決定がないというのは、ウォーラー侯爵領を出る前にも聞いていた。
アシェルには王と王妃、側妃の関係は分からないものの。
──第一王女殿下は王妃様の御子で、確か他に側妃様の御子である双子の王子殿下と王女殿下がいるはず。あの王様は、双子のどちらかを次の王にしたいのかな?
王が決めないのは、それを議会が承認しないと分かってのことではないか。
度重なる嫌な予感に、王家の問題に巻き込まれることがなきよう願いながら、アシェルはまた強く思った。
──早く帰りたい。ウォーラー侯爵領に。それに……。
アシェルが隣を見れば、ソフィアはふわりと微笑んだ。
──ソフィアとゆっくり話がしたい。ねぇ、ソフィア?聞いてくれる?
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