45.若き研究者たち
「私の話はこれくらいで十分だね。実はな、二人には論文の件でいくつか聞きたいことがある。彼から質問してもいいだろうか?」
本日王城に召喚された目的が無事に果たされそうで、アシェルもソフィアも身体から力が抜けた。
聞いて良いのか不明な話が続いて、二人ともに女性がこれからさらに何を言うかと少々身構えていたのである。
「お二人の論文を拝読し、大変に感銘を受けました者が、私以外にも大勢おりましてね。是非に自領でも養蜂をはじめたいと名乗り出る貴族が、すでに幾人もございます」
女性が紹介したローワンより年上に見える男性は、現役の大臣だった。
ニッセル公爵を名乗った彼は、特に国内全体の産業分野の管理・発展を担当しているという。
外見は似ていないけれど、アシェルはニッセル公爵に、ローワンに近いものを感じ取った。
ニッセル公爵が穏やかな話し方をする人だったからだろうか。
「すでにウォーラー侯爵領産の蜂蜜が出回っている以上、これは成功する産業です。国としましても、養蜂を導入する貴族たちを支援しようと考えております」
ウォーラー侯爵家が国政に参加せずとも許されてきたのは、例外を除いて研究成果を惜しみなく発表し、国の発展に貢献してきたからであろう。
アシェルとソフィアの研究結果を早くに発表したのも、ウォーラー家がいずれは養蜂が国の新たな産業になろうと予測したからのこと。
家の者たちが論文を書くよう言わなければ、今もアシェルたちはただ夢中で研究に没頭していたに違いない。
ちなみにローワンの経済について、あるいはセイブルの人の精神についての研究結果は、使い様によってはかえって国に危険をもたらすために、一部しか公表されていなかった。
国王が次期当主としてセイブルを認めたがらなかったことも、その辺に理由がありそうだと、アシェルたちは考えている。
だから当主のことで何か言われるのではないか。
そんな懸念はアシェルもソフィアもしっかり抱き王城に来ていたが。
あの王も、そしてこの女性も、ニッセル公爵も、ウォーラー侯爵家の次期当主について一切踏み込んでくることはなかったのである。
ここでアシェルたちの警戒心が緩んだことは確かだ。
「貴族たちからはいくつか質問が出ておりましてね。しかし個別に対応しては、お二人の研究の邪魔になってしまいましょう。ですので私が、貴族たちとお二人を繋ぐ窓口になろうと思いまして。最初に挑んだ者たちが成功すれば、養蜂をしたいと望む貴族はさらに増えていきますからね。最初から直接の問い合わせは不可であると公表しておいた方がよろしいでしょう」
ニッセル公爵の頭には、すでに養蜂が国の産業となる未来が描かれているようだ。
「ご了承いただければ、早速ですが、質問をまとめてきましたので、この場にて問わせていただきたいのですが。お二人はどうですかな?」
これにもちろんだと答えたアシェルとソフィアは、それからニッセル公爵と共にやっと研究者らしい会話を楽しむことになった。
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