44.片付けを願う
──あの王様は、甘い香りを漂わせる花役だった。
女性の話を聞きながらその例えを考え付いたアシェルは、すぐに申し訳ない気持ちになった。
花はもっと可愛いのよ!
蜜蜂だって可愛いのよ!
一緒にしたら嫌よ!
そう言ってソフィアが憤る姿が想像出来たからだ。
それにアシェルも想像したソフィアの意見には完全に同意していて、花や蜜蜂にも悪いことをしたように思えた。
「おかげで整理が進んだからな。その点に関してのみは感謝していると言えようか。しかしな──」
あの王の周りに集う貴族たちが、どんな者たちであったか。
王都を長く離れていたアシェルにだって、それは容易く推測出来た。
そしてまた、短い時間話しただけではあるけれど、この女性がさくさくと彼らを裁いていった姿もまた、アシェルには予測出来ている。
──ということは、あの人たちも?
子爵家の先を予測すれば、アシェルが抱いたのは感謝の念だ。
──整理してくれるなら有難いね。
もう二度と会わない気がする王にも、はじめて感謝してもいいかなと思えてくるアシェルだった。
足を組みかえた女性が、深く息を吐く。
「さっさと次を指名してくれればいいものを。政務も出来ぬくせに、要らぬことなら少しは考えられる人間というのは、本当に厄介でな。最後通告はしてやるつもりだが、あれはこのまま何も決めずに倒れることになろう」
──次代の王は、現王が定め、議会がこれを了承する、という流れで決まると教わった。
ソフィアやセイブルらと共に学んだことを、アシェルは記憶の片隅から引っ張り出す。
普段使うことのない知識なのに、子爵家のあの家族との記憶とは違って、アシェルにはするすると簡単に思い出せていた。
──次代を決める前に王が崩御された場合は確か……議会に参加する資格ある貴族たちが、それぞれに次代の王となられるべき王子王女を推薦していって、最後は多数決を取るという流れだったかな?
最高位にある王だからといって、貴族たちがいる国では、何でも一人で自由に決められることはないのである。
王族もこれに然り。
「あれでも王だからね。無理に書かせることも出来るが、今のところ拷問までは考えていないのだよ。後々足を引っ張られることになっても困るからね」
──ねぇ、だからさ。それ、俺たちが聞いていい話かな?
続く女性からの不穏な発言を聞いているうち、アシェルは分からなくなっていた。
──この方は、俺たちに話してどうしたいのだろう?成人しても俺たちはウォーラーだから。国政に権限は持たないのに。
ウォーラー家は侯爵位を持つが議会には参加しないことになっている。
これは過去に王家とウォーラー侯爵家が双方合意の元に決定したこと。
王との謁見についてのお詫びにしては話し過ぎている女性に、その目的がいまいち見い出せないアシェルだった。
読んでくれてありがとうございます♡




