41.一息入れて
「約束の時間まで、あと少しはあるか。本当はもっと早く休ませてやりたかったのだが。すまなかったね」
ローワンは何も悪くないとアシェルとソフィアが励ましながら、辿り着いた場所は誰もいない個室だった。
控室として本日ウォーラー侯爵家に用意された部屋だという。
さすがは王城。
廊下も広いが、個室もまた広かった。
壁や天井は真っ白で『王の間』のような派手さはないが、それがかえって解放感を与え、部屋に入る手前から大きな窓の向こうに青空と樹々の先端が見えていて、しばし時間を忘れて絵画のように鑑賞出来そうだった。
ローワンに続き部屋に踏み出したアシェルとソフィアは、揃って「わ」と小さな声を上げてしまう。
絨毯が毛布のように柔らかくて、慣れない足元に戸惑ったからだ。
室内には歴史を感じる揃いの重厚な家具が並んでいた。調度品も一目でそうと分かる一級品だ。
しかしアシェルたちの興味を引いたのは、四方の壁際の棚に飾られている色の違う花々だった。
──あの花は見たことがないや。あれも知らない。うちでも育てられるかな?苗はどこで手に入るだろう?
「ほら、二人とも。まずは身体を休めなさい」
ローワンに言われて、二人はソファーに並び座った。
同じようにローワンも腰掛けるだろうと思い座る場所を選んだアシェルたちだったが、ローワンは二人に待つよう伝えると、すぐに部屋を出て行ってしまう。
ローワンと入れ替わるように現れた侍女が、二人のためにと菓子と紅茶を用意してくれた。
自然にアシェルとソフィアがいつもの癖で礼を伝えれば、侍女は驚いた顔を見せて、それから嬉しそうに微笑んで言った。
「どうぞごゆっくりお過ごしください」
あっという間に広い部屋にはアシェルとソフィアだけが残された。
──いい部屋なんだけれど、落ち着かない。
二人で使うには広過ぎるせいだろうか。
そわそわした気持ちで隣を見たアシェルが、「疲れたよね。せっかくだからいただこうか。それから花を見る?」と提案した直後だ。
「アシェル!」
「わわ」
不意に横から飛び付かれて、アシェルも焦った。
それでも両腕でしっかりとソフィアを抱き締めて。
アシェルは息を吐く。
──カップを持つ前で良かったよ……今日は色々あったけれど無事に……無事とは言わないかもしれないけれど、終わって良かったなぁ。
安堵に安堵が重なって、またアシェルは息を吐いた。今度はより深く、そして長く。
──ソフィア?
ぎゅうっと抱き着いて離れないソフィアの様子が気になったアシェルがどうしたかと聞く寸前。
「アシェルに言いたいことが沢山あるのよ!」
ソフィアが力強い声で言った。
怒っているようなのに、その声はアシェルの心を凪いだ状態へと導いていく。
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