40.登城の目的
当然ながらイーガン子爵家の面々は、最初は王の言葉に素直に従うことはなかった。
口々に意見して、王の意思を変えようと試みたのだ。
しかし彼らが重ねた言葉はどれも王の心に響くどころか、その機嫌を悪くする一方だったから。
王は大きな声で言った。
「そなたらと話す時間はなしにすると、このわしが決めたのだ!分かったら、早うここから出て行け!」
怯えた子爵家の者たちが口を閉ざせば、彼らが入ってきた扉がゆっくりと開いていく。
壁に描かれていた絵はぽっかりと四角い穴が開いたようになり、それが早く出ろと言っているようで、彼らも諦めが付いたのだろう。
子爵家の人々は順に「御前失礼します」と言っては王に向かい頭を下げて、開いた扉に向かい歩き出した。
全員が綺麗に着飾っているが、入って来たときよりもその衣装が大分草臥れたように感じたのは、アシェルだけではない。
──会うこともこれが最後……と思いたいね。
どこから湧くのか。不吉な予感を覚えながら、アシェルは部屋を出て行く彼らを見送った。
全員と目が合ったのは、彼らが扉の前で振り返って、今一度王に向かい頭を下げたあとのこと。
夫人はもの言いたげな視線を寄越し、兄たちは険しい顔をしてアシェルを強烈に睨みつけていた。
一方で子爵は今までとは異なり何か訴えるような目をしてアシェルを見たが、子爵が何を伝えたかったのか、それはアシェルには分からない。
扉が閉まった。
壁に完全なる神話の絵が戻ってくれば、はじめから何もなかったように思えてくる。
さて、これでアシェルたちもイーガン子爵家に続いて退室──とはならなかった。
「そなたを悪い気分にさせるつもりはなかったのだ。誰でも家族ならば会いたかろうと思うものであろう?良かれと思いしたことであるぞ。そなたなら分かるな?」
アシェルが王の言い訳に付き合わされたのだ。
「よいかの?良かれと思ってのことであるからな?わしを恨むでないぞ。よいな?恨むな?わしを嫌うのもならぬぞ?」
「はい、陛下」
アシェルからの返事はそれだけ。
──次はきっとないから。今は何も言わないよ。だけど……。
──あの失言は忘れない。次があったら、よろしくね、陛下。
まだ王は話したいように見えたが、ローワンが切り上げさせて。
さぁ、今度こそ。
城を出られるかと思いきや──。
アシェルとソフィアが期待した通りにはならなかった。
「次が本命でね。このために城に来たと言っていい」
二人に説明するローワンの足取りが軽やかで、それが王の間に向かったときとは大分違っていることに、アシェルたちも気付く。
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