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ねぇ、それ、誰の話?  作者: 春風由実


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34.人心掌握術


「おかしいのぅ。聞いていた話とは違うようだ」



 王の言葉に、アシェルは大まじめな顔で頷いてから、問い掛けた。



「お聞きされていた内容をお尋ねしても?」



「うむ。ウォーラーのせいで、そなたが長く家族とは会えておらぬと聞いておったのだよ。ウォーラーが家族を何年も引き離すような惨いことをしているとなれば、わしも黙ってはおられまい。だから此度は、わしの力で家族を会わせてやろうと思ったのだ」



「私のようなものにまでお慈悲をいただき感謝いたします、陛下。しかしながら、どうやら間違った情報を陛下の尊きお耳に入れた方がいるようにございます」



「なんと、それはいかんな」



「つきましては、私が陛下に事実をお伝えしてもよろしいでしょうか?」



「おぉ、是非頼むぞ」



 嬉しそうに言った王は、「お待ちください!」と口を挟んだイーガン子爵を「そなたはもうよい」の一言で黙らせた。



 ──この王様、いつも付き合う職人さんたちと比べたら、ずっとやりやすいや。



 どちらの研究においても、アシェルたちは研究に使う新しい道具をよく思い付く。

 そんなとき、簡易的に自分たちで作ることもあったが、多くはウォーラー侯爵領にいるそれぞれの分野の職人たちに依頼してきた。


 彼らはなかなか気難しい人間が揃っていて、アシェルもソフィアも付き合いに苦労してきたのである。

 当主の娘というソフィアの強い権限が意味をなさない相手には、アシェルの美しさだって何の役にも立たなかった。


 一方でアシェルたちが実験場として選んだ畑では、農民たちは二人にとても協力的だった。

 それはソフィアが領主の娘としての権限を持っているからであり、またアシェルが極めて美しい青年だったからだ。

 一部がアシェルに手を合わせ拝みはじめてしまうことだけは、困りごとであったけれど。

 彼らは農作業や経験から得た知恵を教えてくれることもあったし、アシェルたちが新しく思い付いたことを率先して手伝ってくれている。


 そしてまたアシェルには、ソフィアにはない経験があった。

 幼き日々に連れ回された社交の場にて、大人たちに囲まれて得てきたもの。



 こうした経験があったから、アシェルは王の扱い方をこの場ですぐに見極められたのである。

 するといくら権力を持っていようとも、もうアシェルの中で王は恐れる対象からは外れてしまった。

 自身で対処出来る人間を、アシェルは恐れない。


 ちなみにこの培った人心掌握の能力に関して断じてセイブルの影響は受けていないと、アシェルだけは思っている。



 ──さっきはこの国の未来を心配したけれど。この王がいいという人たちがいるのは分かる。うん、セイブルが王都に残りたかったと言うわけだよ。



 アシェルは眉を下げて分かりやすく困った顔を作ると、手を繋いでいない右手を胸に当て、王の同情を誘った。



「良くしていただいた方が誤解されているようで心が痛みます──ウォーラー家のどなたも、私に家族と会わぬよう伝えた方はございません。むしろ逆なのです」



「逆とな?」



「はい。いつでも帰って良いと言われておりましたし、その費用も心配しなくていいと、優しいお言葉まで掛けていただきました。そのうえで、私は一度も帰らなかったのでございます」



「ウォーラーに悪いと思い言えなかったのではないか?本当に帰りたいときはなかったか?」



「誰かに悪いと思ってのことではございません。すべては私の心が決めたことなのです。ウォーラー家の皆さまには、帰ろうとしない私を大変に心配していただきました。中には帰った方がいいとお声掛けくださる方々もいらっしゃいましたが、それでも私は帰りたくはなかったのです」



 イーガン子爵は拳を握り締め震えることしか出来ない。

 さすがに王に歯向かい自ら破滅する道は選べないらしい。



「そこまで帰りたくなかったとは。ふむ。ウォーラーよ、そなたもこれが真実と申すか?」






読んでくれてありがとうございます♡

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