26.攻撃予測
※※※今回も本文中に「耳が悪い」という表現を使っております。物語上の言葉で、現実にどなたも侮蔑する意図はございませんが、言葉に不快さを感じてしまう方はどうかブラウザをお閉じください。お手数おかけして申し訳ありません。※※※
<以下から物語の続きです>
アシェルは賢明に美しく澄ました顔を保って、ローワンの問いに答えた。
「えぇ、私もおかしな言葉を聴いたように思いましたが。気のせいだろうと思っていたところです」
アシェルに父親を擁護する気持ちは当然なく、ただアシェルはあまりに理解の出来ない発言をそうして流し去るつもりだっただけである。
──と言っても、気のせいでは終わりませんよね、ローワン様?
アシェルの予想通り、ローワンはぐっとその笑みを深めて、溌剌と言い放った。
「そうだよねぇ、アシェルくん。私の前で、わざわざ娘の夫を悪く言う者はいないだろう。しかし確かに聴いたような気もするなぁ。理解不能な数々の言葉も合わせてね。すると私の耳が悪いのだろうか。そう思うかね、イーガン子爵?」
イーガン子爵の顔からすーっと熱が引いて、身体はどこも悪くないと言っていたがとてもそうは見えなくなった。
「は、はいっ。すべて侯爵様の仰る通りにございます」
──実は本当に耳が悪いのかもしれない。それにずっとハンカチで顔を拭っていて最初から具合も悪そうだった。
アシェルは家族としてではなく、旅先で出会った見知らぬ急病人を介助するときの気持ちで、子爵を観ていた。
かつて社交界に参加していたとはいえ、下位貴族の集まりばかりに顔を出していたアシェルは、上位者からの声掛けに条件反射で全肯定し答えてしまう人間がいることを、まだ知らなかったのだ。
ローワンの笑みが明るく光った。
「そうか。私の耳は悪いのだね?」
「はい、すべて仰る通り……いえいえ、そんなことは。侯爵様のお耳は悪うございません」
「では子爵は私の娘を侮辱したことを認めるのだね?」
「は?いえいえ、そんな!私はご令嬢様については何も申しておりませんとも!」
「娘が選び大事にしている夫が侮辱されたのだよ?それは娘が侮辱されたことと同義であろう。さらには義父である私をも侮辱する行いだ。イーガン子爵は、余程私たちウォーラー侯爵家の者が気に入らないとみえる」
「なっ。違います。そんなつもりでは。私はただ、思い上がっている倅を分からせてやろうとしただけで。父親として倅に声を掛けていたのですよ?それで少し言葉がきつくなってはしまいましたが。今のはただの躾け、親としての教育でして。ご令嬢さまを侮辱するなどとてもとても。ましてや侯爵様を悪く申しますことなど。えぇ、そんなことはいたしませんとも」
──ローワン様はどこを攻めるだろう?
顔を拭いながら言い訳を並べる子爵を眺めつつ、アシェルは予測をはじめていた。
──発言の全部がおかしいからなぁ。すべてを正していくことはしないと思うんだよね。教えてあげる義理もないだろうし。うーん、あれかなぁ。平民らしくひれ伏せというあの言葉。貴族失格の発言だよね。
読んでくれてありがとうございます。
レモン彗星を見るぞと決めて空を眺める毎日ですが、まだ星一つ見えません。。。
何故こんなにも雲が……。




