25.人と人が似る理由
「なっ。そんなはずはなかろう!私はお前の父親だぞ!長く会わなかったんだ。お前から積もる話もあろう!」
アシェルはしばらく考える素振りをしてから、美しく首を傾げて見せた。
「たとえばどんなことでしょうか?」
「はっ!ふざけているのか?」
いいえと返したアシェルに、イーガン子爵は興奮が収まらなくなっていた。
それでもローワンの視線を感じて、一時は深く呼吸することで、自身を落ち着かせている。
「ふぅ、そうか。そうだったな。お前も年頃になったんだ。人前で素直に父親に甘えることは出来んか」
──この突飛な発想力は尊敬出来るところかもしれない。とても似たいとは思わないけれどね。
「よしよし、今日は一緒に邸に帰ろうではないか。邸では母親も待っているからな。息子たちも、お前に会う日を今か今かと楽しみに待っていたぞ。存分に甘えるといい」
「これも先ほども申しましたが。今回そちらの邸に寄るつもりはございません。母と兄たちですか?もう他人となりましたし、どうか今後は私のことはお気になさらず。お忘れいただくよう、子爵からお伝えいただければ幸いです」
「お前っ!先からふざけているな?」
必至に取り繕っていた無意味なものを、自ら壊して、どうこの場を収める気でいるのだろう。
セイブルなどがここに居たら、喜んで実験を始めていたに違いないが。
アシェルは影響を受けているとはいえ、同じ研究熱を持っているわけではないので。
あえて反応しなかった。
それはそれで、子爵の気に障ったようだ。
「許さん!もう許さんぞっ!父親に口答えをするとは何たることか!いいから黙って私の言う通りにしろっ!」
かつて見た母親の顔が今、目のまえの父親の表情に重なった。
以前読んだ本に記載されていた遠い国の言葉『鬼の形相』はやはりこれだと、アシェルは思った。
そして穏やかに冷静に、父親には関係ないことを考えはじめる。
──同じ時間を過ごすうち、夫婦も似てくることがあるとセイブルが言っていた。ソフィアと俺も似ていくのかな?
──それはいいなぁ。とてもいい。
今度こそ薄く笑みを浮かべたアシェルに、イーガン子爵は座った状態でダンっと足で叩いて床を鳴らした。
「お前っ!久しぶりに会った父親になんて態度をするんだ!爵位もない平民に落ちたくせにっ!どうして偉そうな顔をしていられる!こっちは子爵だ!平民ならば平民らしくひれ伏して話せ!だいたい平民になることなんか、私は許していないのだぞ!お前は顔しか取り柄がないのだから、その悪い頭で人生を考えようとするな!すべて私に任せておけばいいんだ!もっといい家を用意してやる!結婚したあとも貴族でいられるいい家だぞ!お前なんぞには勿体ない話なんだ!有難く思え!どうだ?自分の愚かさはもう分かったな?ならば帰るぞ!」
さてなんて答えようかなと、迷う時間もアシェルにはなかった。
「聞き捨てならない言葉を耳にしたのだが。私の気のせいだと思うかい、アシェルくん?」
──うわぁ、本気で怒らせちゃったよ。
声を掛けられ、ローワンのとびきりいい笑顔を見てしまったアシェルは、腕を擦りたくなる気持ちを必死に我慢した。
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