24.観察対象
※※※本文中に「耳が悪い」という表現を使っております。物語上の言葉で、現実にどなたも侮蔑する意図はございませんが、言葉に不快さを感じてしまう方はどうかブラウザをお閉じください。お手数おかけして申し訳ありません。※※※
「は、はい。分かっておりますとも。ご報告ですね?承りましたとも」
ハンカチで顔を拭いながらへらへら笑う子爵に、ローワンは笑みを深めて言った。
「では何を左様に長々と話すことがあるのかね?私からの報告は終わったから、お引き取りいただいて構わないのだよ?」
「え?いえいえ。あの、もう少しお話を──倅の話ですし」
──凄いな。こういう人だったんだ。
アシェルは冷静に自分の父親である子爵を観察し、普通とは違う意味で感心していた。
そこにセイブルの影響が色濃くあったこと、それはアシェル自身もまだ気付いていないことである。
「そうか、子爵は耳が悪かったのだね。これは呼び出して申し訳なかった。特に次の予定はないが、この先何かあれば書面だけを送ることにしよう」
「いえいえ、私の耳はとても良い調子にございます。身体もどこも悪うございませんし、あと少しばかりお話を──」
「おや?そうなのかい?するとイーガン子爵は、私の話など理解する価値はないと。そう言っているのだね?」
「へ?いえいえいえ。そのようなこと、一言も申してございません!」
「そうかね?では早速お帰りいただこう」
「お、お待ちください。お待ちください。そうです、倅と!倅と話す時間を──」
イーガン子爵は怒りを隠せていない澱んだ瞳をしながら、縋るようにアシェルを見やった。
しかしアシェルは子爵の方を向いているのに目線も合わせない。
イーガン子爵の顔が赤らんでいく。
すかさずローワンから呆れた声が掛かった。
「それはもう彼が断ったね?やはり耳が悪いのではないか?急ぎ帰って医者に診ていただくとよろしいだろう」
「いえいえいえ、本当に私の耳の調子は絶好調ですから。ご心配には及びません。ですが──ほら、倅も侯爵様がご一緒されていては、話しにくいこともありましょう。実の父親にしか言えないこともありますよ。そうだろう、な?」
小さく息を吐いたアシェルは、その整った顔のおかげで微笑したように見えていた。
それでイーガン子爵の顔からは瞬く間に赤味が引いて、口角も嫌らしく上がっていたのだが。
「いいえ。先も申しましたが、こちらからイーガン子爵に話したいことはございません」
感情を読ませないアシェルの熱のない声に。
口角は瞬時に下がり、引いていた色が一挙に戻って、イーガン子爵の顔は真っ赤に染まった。
──顔に色が付きやすい性質って、遺伝するのかなぁ?
アシェルは観察を続けられるくらいとても冷静だった。
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