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ねぇ、それ、誰の話?  作者: 春風由実


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22.知らない土地


 時間は少し戻る。

 これは七年振りに王都に戻ってきたアシェルが、ウォーラー侯爵領を出る前の話だ。



 成人してなお、ローワンに頼ること。

 アシェルも最初はそこに抵抗感を持っていた。


 そんなアシェルに、ローワンは言ったのだ。



「確かにアシェルくんは成人したね。これからは大人に守られているだけではいけないだろう。だがね、権力はまた別だよ。成人していようとなかろうと、そこに使える権力があるなら、思う存分利用することだ」



 それでも申し訳なく思うアシェルに、ローワンはさらに言った。



「それにアシェルくんは、十分過ぎる働きをして我が領に貢献してきている。その恩に報いる機会が得られるのなら、当主としての私には喜ばしいことなのだよ」



 ──恩があるのは俺の方なのに。もっと頑張らないと。



 決意を固めるアシェルに、ローワンはなお諭した。



「それにね、アシェルくん。娘の夫になるんだから、もう私は義父だよね?義理の息子から頼られないのは寂しいなぁ」



 アシェルはこのとき泣きそうだった。

 ソフィアに結婚しようと言われたときとは、また別の感情で胸がいっぱいになったのだ。

 

 そしてアシェルは決意をさらに強くした。



 ──ローワン様にもっと喜んで頂けるように。頑張ろう。




 ウォーラー侯爵領にて動きがあったのは、アシェルがローワンとこの話をした五日後。


 予想していた通り、王家からの呼び出し状が、ソフィア、そしてアシェルにまで届けられた。

 内容は二人で書いた論文を是非ともアカデミーで講釈してくれというもの。


 アカデミーとは、貴族の子女が多く通う学舎だ。

 しかし貴族の子女にそこに通う義務はない。


 貴族にしか門を開いていないせいなのだろう。

 教える側も貴族であって、あらゆる忖度が働いて、教授陣が選定されていること。

 学生側にも純粋に学びを得ようと通う者は少なく、多くがアカデミーを修了したという箔を付ける目的を主として通っていること。

 中には貴族たちとの顔を広めるために、将来を見据え通う者もあること。


 そんな場所であることは、アシェルたちにも説明された。

 しかしアシェルがアカデミーについて最も理解を得たのは、ローワンから次のことを聞かされたときである。


 歴代のウォーラー一族の誰も、アカデミーからは熱烈に入学を要請されながら、通った者はない。

 これこそがアカデミーの価値を示すものとして、アシェルは受け取った。


 そこでアシェルはアカデミーへの興味を失ったのだが、まさにその場所に召喚される日が来てしまうとは。

 これについてはローワンも予想外だったようだ。


 そんな場所で、ソフィアとアシェルに何を話せと言うのだろう?

 傍聴人は学生に限るのか。

 アカデミーと関係のない王族や貴族たちも参加するのか。


 仔細の説明もなく。

 

 何らかの誘いはあるものと身構えていたソフィアとアシェルもこれには戸惑い、顔を見合わせては、揃って首を傾げてしまうのだった。



 まぁしかし王家からの召喚状ということで。

 一度くらいは行ってやってもいいと。

 不手際は直接詰めるとして。

 ついでにすべての用事を終えてしまいましょうと。



 七年振りに王都に戻ったアシェルは、まずこう思った。



 ──懐かしいところがない。



 



今日は『読書の日』だそうですね♡

素敵な名前のある日にも読んでくれてありがとうございます♡

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