21.知らない家族
「父親の許しなく結婚というのはですね。いやいや、侯爵様のご意見に反対をするつもりはなくてですね。一般論といいますか。これは平民でさえ避ける行いだと聞いておりますし。当主の許可なく除籍ということもですね、これは確かに侯爵様がお認めになられたとあっては問題はございませんことですが。他家の貴族はどう申すかと、えぇ、私はなにひとつ反対ではございませんけれど──」
──こんなに話の通じない人だったかな?
記憶をいくら引っ張り出しても、父親という人間を昔からよく知らなかったことに、アシェルは思い至った。
──あの頃一番側にいた気がしたけれど。社交界参加の行き帰りの馬車で一緒にいただけだったか。
アシェルが子爵家で過ごしていた頃。
邸内でアシェルに最も構っていたのは次兄だ。
その次兄も鍛錬と称し、アシェルを痛めつけていただけだったので、長く会話をした記憶がない。
──あれ?俺って、誰のことも知らないのかも?
再会をはたしても、血の繋がる家族に対し何も感じないことを知って、安心しているのはアシェルだけ。
アシェルの前のソファーでは、ハンカチで顔を拭いながら、記憶の残像から急激に年老いて肥えた父親が必至に言葉を紡いでいた。
この男がはたして誰に何を言い訳しているのか。
アシェルには理解出来ない。
「ですからね。さすがに、さすがに、いくら侯爵様でありましても。あまりに横暴が過ぎるのではないかと。えぇ、それは私ではなく、他の方々がそのように仰いまして。その子はうちの倅ですし──」
ローワンに強く出ることは出来ないのだろう。
それはそうだ。子爵と侯爵。
誰よりも爵位を気にする父親が、高位貴族相手に反論することなど出来るわけがない。
それでも抵抗する理由があるのだろう。
ローワンが同席していれば、父親はすんなりと理解を示すものだと思っていたアシェルは、隣のローワンに心から申し訳なく思っていた。
そんなアシェルの気持ちを分かっているかのように。
ローワンはアシェルに視線を移して、にっこりと微笑んでいる。
──今はお任せしよう。権力をお借りします、ローワン様。
ちらちらとアシェルを見ては睨みつけている父親の気持ちを汲んでやることもなく。
アシェルは澄ました顔をして前を向いた。
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