19.理解する者
ウォーラー侯爵家には他にも継承権を持つ若者は幾人かいたが、当主教育の結果を見るに、早い段階で次期当主はセイブルか、ソフィアか、という二択へと落ち着いていた。
アシェルとしては、最初からセイブルだろうなと考えていたけれど。
それでも大人たちはギリギリまで、セイブルの抵抗を許した。
『ソフィア・ウォーラーは、当主になる以上の利があることをここに認めます』
次期当主選定委員会にて断言された日、ソフィアは会議室で泣いた。それもアシェルに飛びついてだ。
次期当主を決める場にアシェルが参加していることもまたおかしな話である。
そしてこれは同じ日。
『セイブル・ウォーラーは、当主になり研究することにこそ利があることをここに認めます』
セイブルは不満たらたらで、ソフィアとアシェルにいつまでも当主を代わろうと言っていた。
結局のところ、セイブルとソフィアが研究内容を選んだ幼い日に、次期当主はセイブルで決まっていたのだ。
ウォーラー侯爵家は、当主になってより良い環境で研究出来るものが、代々継いで来ているのである。
それなら幼い頃から当主向きとは思えない研究をはじめたらどうか?と、また余所の家の者たちは思うだろう。
しかしそれは不可能なのだ。
打算で選んだところで、夢中になれない。
心から興味を惹かれた対象だけが、夢中になって研究出来る。
それがウォーラー一族の特殊な習性だった。
ちなみにローワンは経済学の研究をしており、それで当主となっている。
そんなローワンは、当主の立場にある方が研究において都合のいいところが多々あることをもう何年も経験から理解してなお、早く当主を降りて研究だけに集中したいと口癖のように願っている。
だからセイブルが当主である自分に納得する日は来ないだろう、アシェルにもそれは分かった。
──セイブルがいてくれたおかげで、ソフィアが嫌な想いをせずに済んだのは本当だから。こうして手伝うくらいはしてもいいかな。たまにだけどね。
当主なんかになりたくないというセイブルやソフィアの気持ちも、今のアシェルは分かるから。
──兄たちも役目のない三男の俺が羨ましかったのかもしれないよね。
だからって暴力を受ける謂れはないし、家庭教師を取り上げられたことも納得していないアシェルだったけれど。
兄たちの気持ちが、当主教育を受けて、当主の仕事も手伝っている今ならば、少しは理解出来てしまうアシェルだった。
それは許しとはまた違うもの。
「そうだ、セイブル。王都に行ってきた話を聞きたいと思って来たんだよ。どうだったの?」
半分嘘だが、半分は本当だった。
セイブルをソフィアの件で問い詰めるためにここに来ていたアシェルは、ソフィアと共に聞ける話題にすり替え何食わぬ顔をして尋ねるのだった。
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