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ねぇ、それ、誰の話?  作者: 春風由実


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18.賢者の集団


 ウォーラー一族は、多くが幼いうちに生涯の研究テーマを定める、賢者の集団である。


 ソフィアもこれは例外ではない。



 かつてアシェルをウォーラー侯爵領へと連れ帰った日、ソフィアは言った。



「おじいさんと出会う前はね、養蜂の研究を続けるつもりだったのよ」



 よちよち歩きの頃からじーっと花々を見ていることの多かったソフィアは、将来は花の研究家になるだろうと見込まれていた。

 しかし実際には、幼女の瞳は花々を飛び交う蜜蜂を追いかけていたのである。


 言葉をすらすら話し始める頃には、もうソフィアの研究ははじまっていた。


 蜜蜂がどこから来てどこへ戻るのか。

 蜜蜂は花の上に留まり何をしているか。

 蜜を得ていると知れば、蜜蜂がどうやって蜜を得る花を選んでいるか。そこに規則性はあるのか。

 

 そうやって次々湧く疑問をあらゆる手段でひとつひとつ解消していったソフィアは、ある日異国に養蜂という蜜蜂の集めた蜜を収集し頂戴する技法があることを知った。


 そこからのソフィアの動きは早かった。

 出来る限りの文献を取り寄せ、養蜂に必要な道具もかき集めて、時には領地の職人に作らせて。

 

 領内で養蜂を開始したときのソフィアは七歳。



 当然最初は上手くいかず失敗続きだ。


 けれどその数々の失敗が、ソフィアをより研究に夢中にさせた。


 珍しい花の苗を集めていたのはその研究の一環のこと。

 そこでトム爺と出会い、興味の方向性を変えることになったのである。


 ソフィアは養蜂を事業として誰かに預け、果樹の研究をはじめようとした。


 そこで待ったを掛けたのがアシェルだ。


 ソフィアの話を詳しく聞いたアシェルは、ここまでして研究をやめてしまうのは勿体ないと感じた。


 出会った当時、二人は11歳。

 養蜂は技術こそ確立されつつあったけれど、まだ潤沢に蜂蜜が採取出来る段階にはなかったし、技術として改良出来る部分も、研究出来る分野も、数多残した状況だった。



「どちらの研究も続けたらいいんじゃないかな?」



 アシェルの言葉に、ソフィアは驚き、そして喜んだ。



「アシェルも一緒に研究してくれる?」



 養蜂の研究はアシェルも参加するようになると、各段に早く成果が見られるようになった。


 一方で残念ながら、二人が熱心に育てている何本もの果樹は、まだ実を付けたことがない。

 昨年やっとあの子爵家の庭から運んだ二本の果樹に花が咲いて、トム爺も共にソフィアと三人で大喜びした日は、アシェルの記憶にも新しく刻まれている。


 けれど三人の期待を裏切り、花が枯れたあとの果樹は実を付けることなく冬を迎えてしまった。



 ──でも蜜蜂がいてくれるから。きっと今年こそ。



 蜜蜂の生態を詳しく観察してきた二人は、蜜蜂が多く飛び交う場所で育つ植物がよく実を付けることに気付いている。

 今はこの部分をより深く研究している段階だが、こうして二つの研究は繋がった。


 アシェルは思う。



 ──養蜂が領地の新しい産業に出来たから、セイブルに決まったんだよなぁ。本当にあのとき研究をやめないように言えて良かった。






読んでくれてありがとうございます♡

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