17.並んで受けた当主教育
軽口を叩いていた三人は、いつの間にやら領地の事業について意見を出し合っていた。
何故こんなことが出来るかと言えば、全員が当主教育を受けているからだ。
アシェルまで何故?と他家の者なら誰もが疑問に思うところだろう。
実はアシェルにもそのつもりはなく、最初は気付いてもいなかった。
ソフィアが誘い、ローワンがこれに同意したおかげで、アシェルはセーブルやソフィアたちと同じ授業を受けることになったのである。
それが次代のための当主教育だったことをアシェルが知ったのは、ウォーラー侯爵領に来て三年目に入ってすぐのことだった。
驚いたのはアシェルだけ。
他の者たちの落ち着きように、まだ幼さを残したアシェルは、他家の当主教育を受けても問題にはならないと認識してしまった。
ところがそれは大間違い。
こんなことはウォーラー侯爵家でしか通用しない話だ。
だからと言って、他家のアシェルが、ウォーラー侯爵家の当主候補に数えられてきたわけではない。
今までのアシェルは、あくまでソフィアを通した客人の一人だった。
優秀な人材には惜しみなく教育を与える。
それがウォーラー家の共通認識だから、アシェルへの教育も許されてきただけである。
セイブルなどは養子になって継げばいいとアシェルに言っていたが、さすがにそれはウォーラー侯爵家であっても王家から認められることはないだろう。
なのにセイブルはまだ言うのだ。
「なぁ、やっぱりアシェルが当主で良かったと思わないか?」
「おかしなことを言わないでよ」
「そうよ、もう次の当主はセイブルで決まりなのよ」
王都で次期当主となる正式登録まで済ませてきたセイブルは、それでもなお当主の座を譲る道を諦め切れないようだ。
「狡いと思うんだよな。二つ並行して研究しているなんてさぁ」
「セイブルだって、いくつも研究しているよね?」
「一貫して人の心理だ。二人とは違うよ」
「俺たちの研究だって一貫して説明することは出来るよ」
「そうよ、研究内容は繋がっているんだから」
「二人とも最初はこうなる予定じゃなかったろう?でもおかげさまで『蜂に心理はあるか否か』、俺も気になるようになったからね。この研究をはじめれば、俺たちは平等になれるな?そうだ、三人で研究すればいい。当主の仕事も三等分。これで俺たちは完全に平等だな!」
「俺はいいかな。平等でなくていいし」
「私も嫌よ。研究したいならセイブルが一人でして」
セイブルが「二人は変わらなくていいねぇ」と喜んでいるあたり、別に目的を置いたいつもの彼なりの冗談だったようだ。
──それが狡いとは思わないけれど。セイブルの言う通りなんだよね。あのとき並行して研究しようと言えて良かったな。
ソフィアとアシェルが果樹の研究だけを進めていたら。
次の当主の決定はまだ先になっていただろうと、アシェルも思った。
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