14.夢が現実に変わった日
「そ、そうよね、アシェル。急に言われても困るわよね。やっぱり嫌かしら?もしも、もしも少しでもいいと思えたら……その、あのね、アシェル。聞いてくれるかしら?私はね──」
固まっているアシェル相手に、ソフィアは早口に捲し立てたが、これを止めたのがローワンだった。
「こらこらソフィア。同席するなら、アシェルくんの意見を聞くまで話さないようにと言っただろう?」
「だってお父さま。アシェルが決めてしまうのが怖かったんだもの。それに早く言わないと、アシェルが取られてしまうわ」
「まもなく成人するというのに、いつまでも困った子だ。アシェルくんを誰に取られると言うんだ?」
「誰にでもよ!伯父さまはいつもアシェルを助手にしたいと言っているわ。大叔母さまだってそうよ。何かとアシェルを呼び出して。セイブルはもっと危険だわ。当主権限でアシェルを奪うことだって出来るようになるのよ?そんなのは嫌!」
ローワンに怒った後、ソフィアははっと気付いてアシェルを見詰めた。
「あ、違うのよ?ねぇ、違うのよ、アシェル。アシェルとずっと一緒に研究したいからって結婚しましょうと言ったわけではないの。それはね、研究はしたいわ。アシェルと一緒にいつまでも研究はしていたいわよ?でもね、アシェルを利用するつもりはないの。私はただアシェルとずっと一緒にいたくて。それなら結婚するのが一番だと思ったから」
早口でまだ続けようとするソフィアに、やっと意識を今に戻したアシェルは笑った。
「ふふっ。大丈夫、分かっているよ、ソフィア。ありがとう」
ソフィアは照れたように、両手で頬を押さえた。
今度心を決めて真剣な目をしたのはアシェルだ。
けれど向かう視線の先は、ソフィアではない。
「ローワン様、俺はソフィアの相手として許されますか?」
「アシェルくんは、ウォーラー侯爵家をよく理解していると思っているよ。君の意思ならば、私はそれを歓迎する」
アシェルがすくっとソファーから立ち上がれば、ソフィアは酷く慌てた。
「ごめんなさい、アシェル。そんなに嫌だったかしら?あのね、もし良かったらよ、良かったらという話なの。だから嫌ならはっきりそう言ってくれていいわ。嫌なのは悲しいけれど。それでもアシェルの気持ちが一番大事なのよ?」
アシェルはゆっくりと首を振ると、ソファーの裏手に回りさらに移動して、ソファーの真横、ソフィアの隣の床に膝を折って腰を落とした。
そしてソファーの端に置かれていたソフィアの左手を取る。
「ウォーラー侯爵令嬢、ソフィア様」
急に呼び名を変えられて、ソフィアはますます焦った。
「怒ったの、アシェル?違うのよ、違うの」
「聞いてソフィア。俺からも言いたいから」
ソフィアは黙った。
真剣な顔で語り合ってきた時間はもう、考えられないくらいに積み重なっていたけれど。
こんな真剣な瞳、熱のある目を向けられたことはなかったから。
「ただの子爵家の三男の俺だけど。これからも必ず守ると誓います。どうか俺と結婚してくれますか?」
「アシェル!」
「驚いてすぐに返事が出来なくてごめんね。これからも一緒に研究しよう」
「えぇ、もちろんよ、アシェル!」
ソファーから飛び出すよう抱き着かれて、アシェルは慌てた。
しっかりと両腕でその身体を抱き留めながら、肩越しにそっと横目でローワンを見やる。
ローワンは笑っていた。
そこに怒りは感じ取れず、アシェルは安堵する。
「やれやれ。いつまでも困った子どもたちだ。真面目な話はあとにするかい?」
身体を離してくすくすと笑い合ったあと、二人はソファーに座り直すと順に言った。
「聞くわ、お父さま」
「失礼しました、ローワン様。話を聞かせてください」
これがアシェルの将来が確定した日──。
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