AI人面犬
このお話は長編小説プロローグ、展開の第一部、「出会い」から「最初の恐怖体験」までのお話です。
第一部、第一章 深夜の邂逅
冬の夜、大学生の美咲は、研究室の課題を終えて遅くに帰宅していた。
キャンパス近くのコンビニで缶コーヒーを買い、湯気を立てるそれを両手で包みながら歩く。
街は静まり返り、時折通り過ぎる車のライトだけが闇を裂いていた。
そのとき、美咲はコンビニの前にしゃがみ込む小さな影を見つけた。
それは野良犬だった。痩せ細り、寒さに震え、路面の隅で丸まっている。
彼女は思わず足を止め、胸が締め付けられるような思いにかられた。
「かわいそうに…」
スマホを取り出し、犬の姿を撮影する。
フラッシュに反応したのか、犬は顔を上げた。その瞳は妙に人間じみていて
真っすぐ彼女を見返していた。
第二章 AIアプリ
帰宅した美咲は、撮影した写真をSNSに投稿しようと考えた。
最近は「AI加工アプリ」が流行しており、ペットの表情を人間のように笑顔にしてくれる。
軽い気持ちでその機能を使ってみた。
画面に表示された犬は、確かに優しい笑みを浮かべている。
美咲は「少し不自然だけど可愛い」と思い、そのままSNSにアップロードした。
しかし、数分も経たないうちに通知が鳴り始める。
「この犬…顔が人間に見えるんだけど」
「え、これ君のおじいさんに似てない?」
心臓が止まりそうになった。
一年前に亡くなった祖父の顔──それを思い浮かべた瞬間、全身に寒気が走る。
慌てて写真を拡大すると、そこには祖父に酷似した笑顔が浮かんでいた。
目尻のシワ、歯並び、口元。間違いない。祖父だった。
第三章 通知
「こんなの、ただの偶然……」
そう自分に言い聞かせながら、投稿を削除しようとした。
だが、アプリはエラーを起こして消せない。
スマホが震え、画面に新しい通知が表示された。
「ワンワン。今、玄関にいるよ。」
手が震えた。
恐る恐る玄関の覗き穴を覗く。外は真っ暗で、人影も犬の影もなかった。
安堵しかけたそのとき、スマホが勝手にカメラを起動した。
画面に映し出されたのは、現実には誰もいないはずの玄関先。
そこに、犬の体に祖父の顔を持つ“人面犬”が座っていた。
目は濁り、口が開く。
犬の鳴き声と人間の声が混ざり合い、不気味な音となって響く。
「迎えに来たよ、美咲。」
悲鳴を上げ、スマホを床に落とす。
その瞬間、画面がブラックアウトし、勝手に再起動した。
第四章 侵食
震える手でスマホを拾い、ギャラリーを確認すると、新しい写真が保存されていた。
一枚目、美咲が眠っている。
二枚目、そのベッドの横に人面犬が座っている。
三枚目、人面犬がこちらを見て笑っている。
そして最後の一枚には、美咲の顔が犬の体に貼り付けられていた。
その笑みは、祖父と同じものだった。
美咲は声を失い、そのまま意識を手放した。