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第6話:セラ・アルヴィナ、氷と霧の連携

控室の片隅


セラは静かに魔力の流れを整えていた。

その隣で、リリィ・ノクターンが頬杖をついて、じっと彼女を見つめている。


「ねえ、セラ。やっと私と組んでくれたけど……」

「……何?」

「もしかして、リオくんがミナちゃんと組んじゃったから、仕方なく私?」


セラはぴたりと動きを止めた。

そして、ゆっくりとリリィを見た。


「……そんなわけないでしょう」


「ふふ、冗談だよ。でも、ずっと断られてたからさ。

“連携は効率重視”とか、“魔力の相性が悪い”とか、いろいろ理由つけて」


「……あなたの霧は、私の氷と相性がいい。

それに、あなたは無駄に踏み込みすぎない。だから、今回は選んだだけ」


「はいはい、合理的で結構です〜」


リリィは肩をすくめながらも、どこか嬉しそうだった。


「でも、ちゃんと勝ったら、次も組んでくれる?」

「……結果次第ね」

「よーし、じゃあ絶対勝とう。セラの“気まぐれ”を継続させるために!」


セラは小さくため息をついたが、その口元はわずかに緩んでいた。



試合開始の鐘が鳴る。

観客ざわめきが、次第に静まり返っていく。


「次の試合、魔導科首席——セラ・アルヴィナ、出陣です!」


その名が呼ばれた瞬間、空気が変わった。

まるで気温が数度下がったかのような、張り詰めた静寂。

セラとリリィは、並んで戦場へ歩み出る。

その足取りは静かで、しかし確かな自信に満ちていた。

対戦相手は、剣技科の突撃型と魔導科の炎属性使い。

攻撃力に特化した、前のめりな構成だ。


「いくぞ、首席様!」


剣士が一気に距離を詰めてくる。

リリィがすっと手をかざす。


「《ミストヴェール》」


白い霧が一瞬で戦場を包み込む。

視界が奪われ、敵の動きが鈍る。


「《氷結結界・展開》」


セラの魔法が重なる。

霧の中から氷の槍が突き出し、敵の足元を凍らせる。


「くっ……どこだ……!」


敵の剣士が焦り、無防備に動いた瞬間——


「《氷鎖》」


空中から降り注ぐ氷の鎖が、敵の武器を絡め取る。

その隙に、セラは指先を軽く振った。


「《氷華・散》」


氷の花弁が舞い、敵の足元に咲く。

次の瞬間、爆ぜるように凍結が広がり、剣士の動きが完全に止まった。


「後衛、詠唱中!」


リリィの声が飛ぶ。

セラはすぐに対応する。


「《氷盾・反射》」


氷の壁が立ち上がり、炎を受け止める。

反射された熱が魔導士に跳ね返る。


「きゃっ……!」


魔導士がよろめいた瞬間、リリィが再び手をかざす。


「《霧縛》」


霧が魔導士の足元に絡みつき、動きを封じる。

セラが静かに手をかざす。


「《氷結封印》」


氷の結晶が空中に浮かび、魔導士の足元に落ちる。

その瞬間、凍結の波が広がり、勝負が決まった。


「勝者、セラ=アルヴィナ&リリィ=ノクターン組!」


歓声が上がる。


セラは表情を変えず、静かに一礼した。

その隣で、リリィが小さく笑う。


「ふふ、やっぱりセラと組むと楽しいね。

霧の中で氷が舞うの、すごく綺麗だった」


「……あなたの霧があってこそよ。ありがとう、リリィ」


セラはそう言って、ふと空を見上げた。

霧が晴れ、光が差し込む。

セラの頬が、ほんの少しだけ紅潮しているのを、リリィは見逃さなかった。


◇試合後・控室


試合を終えたふたりは、控室に戻ってきていた。

セラは静かに水を飲み、リリィはベンチに寝転がっている。


「ふぅ〜、完封勝ちって気持ちいいね。

さすがセラ、氷の魔女は伊達じゃない」


「……あなたの霧がなければ、もっと時間がかかってたわ」

「お、素直に褒めてくれるなんて珍しい。これは明日、空から氷が降るかも」

「……それは、あなたのせいでしょ」


ふたりの間に、静かな笑いが生まれる。

そして、リリィがふと、セラの横顔を見て言った。


「ねえ、セラ。やっぱり……リオくんと組みたかった?」


その言葉に、セラは一瞬だけ目を伏せた。

けれど、すぐに視線を前に戻す。


「……彼は、ミナと組んで正解だった。あの剣は、彼女がいたからこそ安定していた」

「ふーん。じゃあ、ちょっとだけ寂しい?」

「……少しだけ、ね」


その答えに、リリィは目を丸くしたあと、にやりと笑った。


「わー、セラが素直になった! これは本当に氷が降るかも、だね」

「……うるさい」


そう言いながらも、セラの声にはどこか柔らかさがあった。

氷の魔女と霧の魔導士。

その距離は、少しずつ、けれど確かに近づいていた。

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