第5話:交差する剣と視線
「剣は交わり、視線はすれ違う。それでも、誰かの隣に立ちたいと思った。」
リオとミナの初陣
リオ&ミナ、初陣へ
《大試練祭・予選バトル》初日。
学院中が熱気に包まれる中、リオとミナは控室にいた。
「うわぁ……緊張してきたかも……!」
ミナが両手をぶんぶん振って、肩の力を抜こうとしている。
その隣で、リオは静かに深呼吸を繰り返していた。
「大丈夫。ミナとなら、きっと上手くいく」
「……ふふっ、そう言ってくれるとちょっと安心する」
ミナは笑って、リオの腕を軽く小突いた。
「昔のリオは、転んでばっかりだったのにね。
今じゃ剣を出して、魔獣を止めるんだもん。かっこよすぎ!」
「……あのときは、ただ夢中だっただけだよ。
でも、今はちゃんと戦いたい。君と一緒に」
ミナの頬が、ほんのり赤く染まった。
「……うん。あたしも、そう思ってる」
◇
試合開始の鐘が鳴る。
観客席からの歓声が、訓練場全体に響き渡る。
「第一試合、開始!」
対戦相手は、剣技科の突撃型と錬金科の後衛支援型。
前衛が一気に距離を詰め、後衛が罠や補助魔法で援護する、バランスの取れた構成だ。
「ルゥ、お願い!」
ミナが幻獣を召喚し、後方支援に回る。
リオは《ルミナブレード》を具現化し、前に出た。
「来るぞ!」
相手の剣士が突進してくる。
リオは剣を交え、受け流し、反撃の隙を探る。
だが、錬金科の後衛が放った煙幕が視界を遮る。
「くっ……!」
「リオ、左!起爆魔法陣!!」
ミナの声に反応し、リオはすんでのところで回避する。
すぐさま反撃に移るが、動きが噛み合わず、攻撃のタイミングがずれる。
(まずい……連携が取れてない)
焦りが胸を締めつける。
そのとき、ミナの声が飛んできた。
「リオ、あたしに合わせて! 次、右に誘導して!」
「……わかった!」
リオは敵の剣士を右へ誘導するように動き、
その瞬間、ミナの幻獣が敵の足元に魔法攻撃を展開した。
「今だよ、リオ!」
「《ルミナブレード・第二形態》!」
剣が光を帯び、刃が延びる。
一閃。敵の武器を弾き飛ばし、勝負が決まった。
「勝者、リオ=フェルナ&ミナ=クローディア組!」
歓声が上がる中、リオとミナは顔を見合わせて笑った。
「やったね、リオ!」
「うん……ありがとう、ミナ。君のおかげだよ」
「なにそれ、こっちこそ!リオも、すっごく頼もしかった!」
ぎこちないながらも、確かな連携。
それは、ふたりの絆の証だった。
◇
観客席の上段では、セラが静かにその戦いを見つめていた。
その視線の先には、光の剣と幻獣が交差する、ふたりの姿があった——
光の剣が閃き、幻獣が駆ける。
リオとミナの連携は、まだ粗削りだったが、確かに“噛み合って”いた。
(……あの剣、前よりも安定してる)
リオの《ルミナブレード》。
初めて見たときは、衝動と本能の産物のようだった。
けれど今は、意志と制御が宿っている。
そして、その剣を支えるように動くミナの幻獣。
彼女の支援は的確で、リオの動きに自然と寄り添っていた。
(私じゃ、あの剣は引き出せなかったのかもしれない)
そう思った瞬間、胸の奥が少しだけ痛んだ。
選ばれなかったことへの悔しさ。
それとも、リオが誰かと“並んで戦っている”姿への、言葉にできない感情。
けれど、セラは目を逸らさなかった。
…私が、あそこに居たなら。
あの剣の隣で、あの笑顔の中に、私もいたのだろうか
リオの剣が誰かを守るとき、
その“誰か”に、私はなれなかった
でも……それでも、私は——
彼女は立ち上がり、静かに観客席を後にする。
次の試合に向けて、準備を整えるために。
その背中には、迷いも、揺らぎもなかった。
ただ、凛とした意志だけが宿っていた。
セラ・アルヴィナ。
魔導科首席。氷の魔女と呼ばれる少女は、
静かに、しかし確かに、戦いへと歩みを進めていた。