第4話:君と並んで戦う理由
「守りたいのは、君の隣にいる自分だった。」
リオが“誰と戦いたいか”ではなく“誰と並びたいか”を選ぶ決断の章
《大試練祭・予選バトル 開催決定》
その告知が貼り出されてから、学院の空気は一気に熱を帯びた。
廊下ではペアの相談が飛び交い、訓練場では即席の連携練習が始まっている。
「今年は魔導科と剣技科の混合戦らしいぞ」
「召喚科と組めたら、後衛支援が安定するな」
「セラ=アルヴィナと組めたら優勝確定だろ……!」
そんな中、リオはひとり、掲示板の前で立ち尽くしていた。
(俺は……誰と組むべきなんだろう)
◇
「リオ!」
声をかけてきたのは、ミナだった。
制服の袖を軽くまくり、いつものように元気な笑顔を浮かべている。
「ねえ、ペア……もう決めた?」
「いや、まだ。どうしようか迷ってて」
「そっか……じゃあ、あたしと組まない?」
ミナは、少しだけ早口でそう言った。
その瞳には、期待と不安が入り混じっている。
「召喚科の訓練で、リオと組んだときすごくやりやすかったし……
あたし、リオの剣となら、ちゃんと戦えるって思ったんだ」
「……ありがとう、ミナ。そう言ってもらえるの、すごく嬉しい」
リオはそう答えながらも、心のどこかで引っかかっていた。
あのとき、自分の剣が“本当に”誰を守りたくて生まれたのか——
その答えを、まだ言葉にできずにいた。
◇
その日の午後、魔導科の演習室。
リオは、セラに呼び出されていた。
「あなたの魔法、少しだけ見せてほしいの」
そう言って、セラは魔力で氷の槍を作り出す。
それをリオに向けて放つと、彼は反射的に《ルミナブレード》を具現化し、受け止めた。
氷と光がぶつかり合い、空気が震える。
「……やっぱり、普通の魔法とは違うわね」
「そう、なのかな……俺にも、よくわからないけど」
「でも、確かに“意志”がある。あなたの魔法には」
セラはそう言って、リオを見つめた。
その瞳は、以前よりもずっと柔らかくなっていた。
「大試練祭、私と組む気はある?」
「えっ……」
「あなたの魔法、もっと見てみたいの。
それに……あなたとなら、勝てる気がする」
リオは言葉を失った。
セラの申し出は、まるで“選ばれた”ような気がして——
けれど同時に、ミナの笑顔が脳裏をよぎった。
(どうすればいい……?)
◇
その夜、リオは寮の屋上でひとり空を見上げていた。
星々が瞬き、セレスティアの浮遊島を照らしている。
「……俺は、誰を守りたいんだろう」
魔法が使えないと思っていた自分が、
今は“誰かと組む”ことを求められている。
それは嬉しくて、でも怖かった。
「リオ!!」
背後から声がした。振り返ると、そこにはミナがいた。
「……セラと、組むの?」
「……まだ、決めてない」
「そっか。……でも、あたし、負けないから」
ミナはそう言って、笑った。
その笑顔は、どこまでもまっすぐで、切なかった。
「ミナ……」
リオは、ゆっくりと口を開いた。
「俺の魔法が初めて出たとき、守りたかったのは——
たぶん、君だったんだと思う」
ミナの目が、驚きに見開かれる。
「だから、俺は君と組みたい。一緒に戦って、一緒に勝ちたい」
ミナは、しばらく黙っていた。
そして、ふわりと笑った。
「……うん。あたしも、そう思ってた」
◇
翌朝、学院の中庭。
ペア登録の締切が迫る中、リオとミナは並んで歩いていた。
「じゃあ、登録しに行こうか」
「うん!」
その背中を、遠くから見つめる視線があった。
セラ・アルヴィナ。
彼女は何も言わず、ただ静かにその姿を見送っていた。
(……選ばれなかった、か)
けれど、その胸の奥に灯った火は、まだ消えていなかった。
◇
こうして、リオとミナのペアが誕生した。
友情と想いが交差する中、
《大試練祭》の幕が、静かに上がろうとしていた。