第3話:揺れる視線、交差する想い
「選ばれること、選びたいこと——その間で、心が揺れる。」
リオ・ミナ・セラ・カイン、それぞれの視線と感情が交差する
《ルミナブレード》の発現から数日が経った。
学院内では、あの事件の話題で持ちきりだった。
「魔法が使えないはずの特殊科の生徒が、魔力を剣に変えたらしい」
「しかも、あのセラ=アルヴィナを助けたって……マジ?」
「いやいや、そんなの作り話だろ。特殊科だぞ?」
噂は尾ひれをつけて広がっていく。
だが、リオ本人は——
「……ふっ!」
早朝の訓練場で、ひとり剣を振っていた。
右手に握られた光の刃、《ルミナブレード》。
魔力を“形”にするという、自分だけの魔法。
まだ不安定ではあるが、発動の感覚は少しずつ掴めていた。
「昨日より、少しだけ長く保てた……かな」
魔力の流れ、集中の仕方、イメージの鮮明さ。
それらがすべて噛み合ったとき、具現化は成功する。
まるで、自分の心がそのまま形になって現れるようだった。
「……やっぱり、剣が一番安定するな」
◇
「おはよう、リオ!」
振り返ると、ミナ・クローディアが手を振っていた。
肩には幻獣のルゥがちょこんと乗っている。
「また朝練? ほんと真面目だね〜」
「うん。まだまだ不安定だから、慣れておきたくて」
「そっか。でも、あの剣、すっごくかっこよかったよ!」
ミナは笑顔で言ったが、その瞳の奥に、ほんの少しだけ陰りがあった。
リオが“自分だけの魔法”を見つけたことは嬉しい。
でも、それでセラとの距離が縮まることに、気づいてしまったから。
「……ねえ、リオ。今度、あたしとも訓練しない?」
「え?」
「召喚科の訓練でペア組むんだけど、その、リオと組めたら心強いなって」
「……うん、いいよ。俺でよければ」
ミナの顔がぱっと明るくなった。
けれど、その笑顔はどこかぎこちなかった。
◇
一方その頃、学院の別の場所では——
「……あの“剣”、見たか?」
剣技科の訓練場で、カイン・ヴァルグレイヴが剣を振るっていた。
その動きは鋭く、正確で、そして苛立ちを孕んでいた。
「魔法が使えないはずの奴が、あんなものを……」
カインは、リオの《ルミナブレード》を思い返しながら呟く。
そして、セラがそれに興味を示したことも思い出していた。
「……あいつ、何者なんだ」
剣を振るうたびに、地面が震える。
その怒りは嫉妬か、警戒か、それとも——
◇
その日の午後、学院の講堂で特別講義が行われた。
テーマは「魔法の多様性と未知の系統について」。
講師は、学院の魔法理論担当の老魔導士だった。
「魔法とは、魔力を“形”にする技術である。
詠唱、魔法陣、触媒……それらはあくまで“手段”に過ぎん」
リオは、その言葉に思わず身を乗り出した。
「魔法の本質は“意志”と“想像”だ。
既存の体系に当てはまらぬ魔法が現れることも、決して珍しくはない」
その瞬間、セラの視線がリオに向けられた。
そして、ミナもまた、リオの横顔を鋥々と見つめていた。
──それぞれの想いが、静かに交差していく。
◇
講義のあと、学院の掲示板に新たな告知が貼り出された。
《大試練祭・予選バトル 開催決定》
年に一度の学院最大の行事。
実戦形式のペアバトルを通じて、実力と絆を試される試練。
「ペア、か……」
リオは掲示板を見つめながら、考え込む。
誰か組んでくれるだろうか。
そのとき、背後から声がした。
「お前と組む奴なんて、いるのか?」
振り返ると、そこにはカインが立っていた。
その瞳は剣よりも鋭く、冷たかった。
「魔法が使えない落ちこぼれが、ちょっと剣を出したくらいで調子に乗るなよ」
「……俺は、調子に乗ってなんか——」
「だったら証明してみろよ。お前の“魔法”とやらが、本物かどうか」
カインの言葉は挑発ではなく、宣戦布告だった。
リオは拳を握りしめた。
「……わかった。やってやるよ」
その言葉に、カインは薄く笑った。
「大試練祭、楽しみにしてるぜ。具現魔法使いさん」